18話目 連隊長はじゃんけんで
おばちゃん、やる気が出てきたみたいだな。
"話が出来る管理職が出てきたからね。"
でも、実際に一緒に戦うのはもう一人のまだまだ残念系の疑惑が拭えていない連隊長だよな。
"その点はこれから今後の作戦について話をすれば師団長のように出来る系なのかやっぱり残念系なのかがわかると思うわよ。
まぁ、私は師団長が心配で連隊長に付いて来た段階で残念系雑用主任決定だと思うけどね。"
なるほどそう言うことか。
ボスの師団長が何でわざわざ出てきたのかと思ったよ。
俺たちと連携するのは第2連隊だから師団長まで出てくる必要ないもんな。
その残念系(擬)連隊長がいやらしい笑顔を張り付けて口を開いた。
「人類領とは違いエルフ領は大陸南部にありますからね。
この暑さにはびっくりしたのではないですか。
まぁ、日陰に入ればある程度は快適になるはずなので、そのうち慣れると思いますよ。
暑い中で立ち話もなんですから、これから宿舎にご案内します。
荷物を置いて、一休みしたら早速に作戦会議を開きたいと思っていますが今がよろしいですかね。」
あぁ、この無駄にフレンドリーな言葉遣いと張り付けたような笑顔。
いるいるよ、まるで小者隊長の元ボス、女衒の元締め大隊長とそっくりだよな。
"女衒の元締め大隊長レベルならまだ指揮官として期待できるけど、その元部下の小者隊長並みの能力しかなかったら目も当てられないわよ。
もうエルフ第2師団第2連隊の将兵は階級に関係なく全員が上半身裸に裸足で竹槍持ってニャンコ軍団に突撃決定よね、雄叫びをあげながら。"
連隊長についてそんな感想をおばちゃんと念話していると出来る系上司の師団長が話掛けてきた。
「それでは人類軍第104独立旅団の皆さん、悪いが私はここで失礼させてもらう。
後のことは第2連隊長と話を詰めてほしい。
第2連隊を除く我が第2師団は君たちが魔族部隊の戦力を無能化してくれることを前提に、反撃の準備をさせてもらうつもりだ。
第104独立旅団と第2連隊の混成軍の作戦が決まったら報告してくれ。
それではよろしく頼む。」
そう言い残すと師団長は彼女の幕僚らしき部下と共に、踵を返して俺たちが出てきた例の便所小屋、いや失礼(仮)だったか、転移魔法陣様様が鎮座している施設に入って行った。
えっ、行っちゃうの。
残念系(擬)連隊長を一人残して。
まさか残念系(擬)連隊のお世話を俺たちに全部丸投げにするつもりなのか。
連隊長は師団長一行を見送った後に俺たちの方を向いて口を開いた。
「まぁ、まずは宿舎に案内しますよ。
こちらです。
ついて来て下さい。
余所見していると迷子になりますからね。
しっかりと前を見てついて来て下さいね。」
そういうと便所小屋、いえいえ、転移魔法陣施設から離れて歩き始めた。
俺たちはその後を追うように慌てて荷物を持ち上げて、隊長のおばちゃんを先頭に付いて行った。
迷子だって。
余所見しないでついて来いだって
幼稚園の先生かこいつは。
"迷子にならないようにお互いに手を繋げっていってくれれば、真っ先にリュウ君と堂々と手をつなげたのに。
気が利かないわね、まったく。
その辺が残念系と言われる所以よね。
こちらの思惑をちゃんと汲み取れないなんてさ。"
思惑って・・・・、おばちゃん、エルフ領に来てまで欲望が駄々洩れしているんですけど。
"おっほん。
ところで、師団長は幕僚を連れてきたけど。
連隊長は部下を誰も連れてきていないのかな。"
幾らなんでも不用心だよな、獣人族のスパイが紛れ込んでいるかもしれないのに。
一応は連隊長なんだし、副官か護衛の兵がいないなんて変だよな。
"まぁ、護衛する価値すらないってないってことじゃないの。"
えっ、そうなの。
連隊長なんだよね。
人類軍で言えば、師団長クラスの高級軍人だよね。
"きっと、連隊長以下はエルフ兵が皆でじゃんけんで決めたのよ。"
一番勝ったのか。
"逆よ。一番負けたから罰ゲームで連隊長をやらされているの。
どうせ給料は皆と同じなのに、責任だけを負わされるし、師団長と部下の板挟み。
その上で獣人軍の隠密から命を狙われやすいっていうんだから、一番損な損な役回りなのよ、エルフ軍の連隊長って、きっと。"
じゃぁ、一番良い階級ってのは何だ。
"それは当然2等兵よ。一番ペイペイの。
給料はおんなじだし、責任はないし。"
でも、裸単騎竹槍特攻を命じられたら、真っ先に行かないといけないんだよな。
"敵前で曲がって逃亡すればいいのよ。
2等兵だし。
あっ、逃げた程度にしか思われないわよ。
そして、戦いが終わるまでそのまま密林の中に隠れていて、戦闘終了後にこっそりと隊列の後ろに交じって最前線基地にご帰還。
そして、
「あぁ、今日の戦いもしんどかったぁ。」2等兵
「なんだよぉ、お前は敵の前から急に森の中に突撃して、隠れていただけじゃねぇか。」1等兵
「でへへへへ、バレたかぁ。」2等兵
「こいつうぅぅぅぅ。」1等兵
と軽く1等兵に小突かれて、後は仲良く風呂と飯っていうところじゃないの。"
そっかぁ。2等兵だから敵前逃亡でもお咎めなしか。
"それに敵前逃亡じゃなくて、大事な森を護衛していましたって言い訳が通るのよねぇ。"
えっ、そうなのか。
"エルフ族は森と共に生きる種族。
獣人族、敵から大事な森を守っていましたという言い訳が立派に罷り通るところなのよ、怖ろしいことに。"
そっかあ、そうするとやっぱり2等兵が一番気楽で、連隊長が貧乏くじ。
"そうそう。
連隊長に大切なのはストレスに負けない、お気楽な性格なのよ。"
なるほどな。
だからこんなヘラヘラしたノリの軽いおじさんが連隊長なんだ。
逆にここではこんなんじゃないと連隊長が務まんないんだ。
"そうそう。漸く連隊長のこのお気楽ぶりに納得いったわね。"
俺とおばちゃんは今にもスキップしそうな楽し気に前を進む残念系(擬)お気楽(真)連隊長について解析を進めながら、後に続いたのだった。
大きな便所小屋がいくつも立っている中を進むこと数分。
連隊長はいま通り過ぎてきた同じような便所小屋のある一つの前で立ち止まって、こちらを向いた。
「こちらの施設が男性用で、女性はこちらを使ってください。」
「えっと、こちらはトイレですよね。
でっ、俺たちの宿舎は何処ですか。」
俺の問いかけに連隊長に張り付いた笑顔は一瞬で剥がれ落ち、驚愕に打ち振る震えるような顔に変化した。
「じっ、人類軍ではこの宿舎はトイレ並みだと言うのですか。」
そんなトイレですかと確認しただけなのに声を震わせて驚いている残念系(もう真だ)連隊長におばちゃんは首を傾げて答えた。
「あぁ、人類軍の最前線基地の兵舎ではトイレは石壁、まぁ、場所によっては土壁ですよ。」
おばちゃんの何当たり前のことを聞いているのという軽い答えに、なぜか残念系連隊長はさらに声を震わせた。
「ちょっ、ちょっと確認させてもらうばってん、このような葉っぱの壁の建物は人類軍では何の施設に使われているんだすか。」
もう、口調が半端なく変だ。
おばちゃんも何でトイレの建物の話でそんなに動揺しているんだと言わんばかりにさらに首を傾げる角度が大きくなった。
「そんなのは決まってんだろ、こんな粗末な小屋に人間様が入る分けねえだろうが。
田舎の肥溜めだ。」
まぁ、それはある意味トイレの親戚とも言えるな、凶暴幼女よ。
「肥溜めって・・・・・・」
「なんだおっさん。肥溜めも知らねぇのか。
都会人ぶりやがって。
肥溜めと言うのだはなぁ・・・・・・」
肥溜めを説明しようとする凶報幼女を遮るように残念系連隊長が絶叫し、頭を深く下げてきた。
「すいませんでしたぁぁぁぁぁ。
大事な人類軍の援軍御一行様様を肥溜めにご滞在いただこうとして。
直ぐに石作りの宿舎の建設に取り掛かります。
少々お待ちください。
今、土魔法術士を師団のベースキャンプより転移させますんで。
それまではこちらの肥溜め・・・・、じゃなくて、いやぁぁぁ、肥溜めしか周りにないじゃないかこの最前線基地は。
どうすんべか。」
一人で騒いでがっくりとするクレト君。
"これで真残念系じゃんけんで決めた連隊長で確定だよね。"
やっぱりそうなったかぁ。
ここまでの成果
魔力回復: 15% + 25%(ボーナス♡) + 20%(ボーナス♥)
次にスキルを発動するまでのクールタイム: 18時間58分
(また、残念系隊長のお世話をすることになんのか。)
(まぁ、これも第104独立旅団の宿命というものなのよ。(おばちゃんターン))
(小者隊長のようにこのままこいつも旅団に入り込むのかしら。
良かったわね、弩阿呆君、お世話できる残念男が増えて♥ (腐女帝様ターン))
(だから、残念系は小者隊長だけでお腹いっぱいだって何度言ったら・・・・・)
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
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