16話目 戦わずして勝った ♡
俺たちは転移魔法陣を使ってエルフ軍総司令部からエルフ軍第2師団ベースキャンプを経由して、さらに、エルフ軍第2師団の最前線基地に転移してきた。
転移魔法陣は最前線にある基地への兵の輸送、兵站確保、最新情報入手等を迅速に行うための最も重要な施設である。
その為に転移魔法陣は通常は最も強固な建物の中に設置され、そして、厳重な警備が行われている。
敵の侵攻を食い止められず最前線基地を放棄撤退するに当たっては、転移魔法陣を用いて兵員と物資、重要書類の転移を後方のベースキャンプまで行うことになるが、それは転移魔法陣が敵に奪取される恐れが出てくる前に終了させなければならない。
転移魔法陣を敵に奪われることは後方のベーキャンプまで敵が一気に侵攻することが可能になることを意味する。
これは転移魔法陣を用いた転移の原理が人類、エル族、魔族、獣人族でほぼ同一なためである。
敵に最前線基地の転移魔法陣を奪われた場合には特に障害なく敵はベースキャンプに転移することが可能となる。
そして、最前線基地の転移魔法陣が敵に奪われたかどうかは、実際に敵がベースキャンプに転移してくるまでは判断できない。
味方がベースキャンプから転移して最前線基地の様子を伺うことでも確認はできるが、敵に奪取されていた場合には偵察に出た者は確実に捕らわれるので、それでは撤退してきた意味がないであろう。
そういう訳で、最前線基地の転移魔法陣を敵に奪われることは、一つの局地戦に敗れ戦線を後退させるという以上に、ベースキャンプに直接攻め込まれその地域全体の支配権が敵に奪われることにつながる。
最悪はそのまま軍の総司令部まで転移可能になり、軍全体が崩壊する危機に見舞われるという決定的な敗北を意味している。
その為に最前線基地の放棄撤退に当たっては、多くの兵員をベースキャンプに安全に転移させると共に転移魔法陣を如何に安全に後方に移動させるかを最前線の軍指揮官は考えねばならない。
尚、転移魔法陣、とある文様を特殊な布に織り込んで出来ているが、これの移動・移設に当たっては手で持って馬に括り付けたり、馬車などに積んで運ばなければならない。
このような兵の手で直接運搬しなければならない転移魔法陣の移動時間を確保するために、殿としてある程度の兵員が転移魔法陣の移動後も最前線基地に残されることになる。
以下、余談となるが。
一般的に兵員の10%が行動不能になると敗戦、20%になると大敗北とされている。
撤退戦に置いてはその殿の死亡率は人類軍では30%と言われている。
うまく逃げられれば良いが、生き残ったとしても敵の捕虜となることが多いため、殿役割を果たしてから無事に新たに設けられた最前線基地への帰還率は30%程度だと言われている。
つまり、殿の捕虜になる確率は40%とされている。
最前線での作戦活動を支える最重要施設である転移魔法陣は、先ほども述べたが、強固な施設の中に厳重な監視の下に設置しされている・・・・・
しかし、エルフ軍第2師団の最前線基地の転移魔法陣を出た俺の目の前に入ってきた光景はと言うととだなぁ。
"あぁ、木の骨組みで大きな葉っぱの屋根と壁からなる小屋に無造作に敷いてあるわね、転移魔法陣様様が。
農作業につかうゴザと勘違いしちゃうよね。"
そう俺たちが転移してきたエルフ軍第2師団の最前線基地の転移魔法陣はキャンプ場(意訳: ここでは軍の施設を意味するのではなく、一般人が野外生活を体験する施設)の簡易便所のような小屋に設置されていた。
おばちゃんの言うゴザをめくるとその下には手ごろな穴が。
所謂、ぼっとんだぁぁぁぁ。
"一応、エルフ軍にも土属性魔法術士がいるから最重要施設くらいはちゃんとした石造りの建物を用意すればいいのにね。
そんなに大きい建物にする必要はないから、人類の土魔法術士だったら一人で、しかも20分ぐらいでこさえちゃうはずよ。"
それとも、いちいち強固な施設を立てていられないぐらいズルズル、ズルズルと戦線を後退させられているか。
或いは、重要な施設だとニャンコ軍団に悟らせないように簡易便所(仮)のような小屋にあえて設置しているか。
"一番ありそうなのは施設を建設するのがめんどくさいから、転移魔法陣が雨に濡れなければいいんじゃねぇ、という手抜き。"
でも、ベースキャンプの転移魔法陣は木でできていたけど立派な建物の中に祭られていたよな。
"じゃあぁ、リュウ君の言うように建物を作っていられないほどズルズル、ズルズルと後退したからってことかしらね。"
そう、ここに転移してきて、転移魔法陣があまりに粗末な扱いを受けていることにびっくりしたのだ。
俺たちはその小屋から移動をすることを忘れて、転移魔法陣の施設(意訳: 野外の簡易便所)を呆然と眺めているところだ。
俺たちが呆然と便所(仮)小屋を眺めていると後ろから声がかかった。
「あっ、君たちが人類軍から派遣されてきた第104独立旅団の方たちかな。」
その声に俺は後ろを振り返った。
あぁ、年のころは人類年齢で30歳ぐらい、背が高く耳がやや尖ったイケメンおじさんがエルフ軍の軍服(もちろん半袖)を着て立っていた。
その後ろには、エンが涎を垂らして懐きそうな背の高い美女エルフが。
こちらは人類齢25歳ぐらいの美しいお姉さん。
ちなみにお姉さんエルフも半袖の割とぴっちりとした軍服を着ていたが、御子息様野放し隊(意訳: 火力バカ共とエンだな、俺は一応その数には入っていないはず)の誰しもが前かがみになっていないところから大方のスタイルは想像できるだろう。
"よし、私の完勝だぜぇ。
ぐっわははははっ。"
おばちゃんのエルフお姉さんに対する高笑いからもわかるよな。
ちなみに口には出すなよ、おばちゃん。
国際問題になるからな。
"それぐらいの良識はありますよぉぉぉ。
ぐっわははははっ。"
そう念話で送ってきつつ、おばちゃんは満面の笑顔で問いかけてきたイケメンおじさんに答えた。
「はい、我々は人類軍からエルフ軍第2師団に派遣されてきた人類軍第104独立旅団のものです。
私は実戦部隊の指揮官のジャンカと申します。」
"あっ、勘違いしないでね、リュウ君。
私の顔が緩んでいるのはエルフ親父に対してじゃなく、残念な制服エルフおばちゃんに対してだからね。
私が真の笑顔を向ける男の子はリュウ君だけよ。"
いや、おばちゃん。
俺に向ける笑い顔は獲物を追い詰めた雌豹にしか見えないんだけど。
"さぁ、「今晩」、どこから食べてやろうか、ポチ。"
いや今晩はできないから。
こんなよそ様の最前線基地で今晩なんて無理だから。
"大丈夫、大丈夫。
これだけ草木がりっぱに生えていれば目隠し、隠れ放題になるって。
基地から一歩出れば今晩し放題じゃねぇ。
ぐははははっ。"
おばちゃん、さっきから高笑いが止まらないな。
絶対に声には出さないようにな。
一方、エルフおじさんはおばちゃんの笑顔に気を良くしたのか先ほどよりも弾んだ声で答えてきた。
「私はエルフ軍第2師団第2連隊長のクレトだ。よろしくな。
そして、後ろにおわすのが俺の上司、カロリーナ第2師団長だ。」
ここまでの成果
魔力回復: オールリセット 20% + 20%(ボーナス♡) + 20%(ボーナス♥)
次にスキルを発動するまでのクールタイム: 18時間0分
(ふふふふっ、勝ったぁ。(おばちゃんターン))
(戦う前から勝利宣言か、おばちゃん。)
(エン君が美女に反応しないなんて。
良かったわね、リュウ君♥。(腐女帝様ターン))
(何が良かったんだぁ。)
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
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