19話目 今度こそマジだ、マジやられる
俺の身が自分で発動した転写ファイヤーボールの密集状態で焼かれる寸前に、俺はそれを相手に全弾、叩き込んだ。
相手はエンのウォーターニードルであれば魔法防御系の転写魔法でも耐えられると思ったのか、肉壁ちゃんたちが単騎で散開し、狂暴な幼女とお淑やかな大男さんの魔法防御の裏側から攻撃しようとしていた。
もしかしたら、俺たちの中隊を包囲したうえで、その勝利を圧倒的なものにするために袋叩きにするつもりだったのかもしれない。
そんな相手に俺はそれぞれの肉壁ちゃんに数個のファイヤーボール・レベル6を叩き込んだ。
扱いに慣れたファイヤーボールであれば俺はある程度その到達コースを変化させることができる。
よって、俺が相手に叩きこんだファイヤーボールは正面からだけでなく、側面や頭上、そして、背面から相手の肉壁ちゃんに襲い掛かった。
ファイヤーボール・レベル6は直径が俺の身長ぐらいある巨大なものだ。
それを数個多方面から打ち込まれたものを完璧に防御するには、魔法防御レベル・7以上で可能になる全身をすっぽり覆うような魔法防御壁を張り巡らさねばならない。
幼年魔法術士育成学校の防御系魔法が得意な生徒ではだいたいレベル3程度である。
これを転写してもらった肉壁ちゃんが魔法発動時に防御系魔法のレベルを上げたとしてもレベル5に上げれられるかどうかである。
また、幼年魔法学校の3年生で最も防御魔法に長けた生徒は、確か、アースシールド・レベル4である。
そのアースシールド・レベル4を転写してもらっても、肉壁ちゃんたちはアースシールド・レベル6に上げるのが精いっぱいだ。
俺だったらレベル7か、魔法術士との相性が合えばレベル8まで行くかもしれないがな。
今戦っている相手の魔法術士は風と炎と思われるので、アースシールド・レベル4の転写はないものと考えられる。
よって、相手の肉壁ちゃんの魔法防御はレベル3~5と思われる。
このレベルの魔法防御では、正面からの魔法攻撃であれば単騎でも十分に防御できるかもしれないが、多方面からの同時魔法攻撃には対応できるわけがなかった。
案の定、相手の肉壁ちゃんの服が燃え始めていた。
あっ、やり過ぎたか。
相手の指揮を執っていた魔法術士からは降伏の合図が打ち上げられ、慌てて、風の魔法術士が突風を使って、風圧で肉壁ちゃんの消火に当たっていた。
後方の、俺たちの陣からも水が飛んで行き、俺が放ったファイヤーボールで熱せられた肉壁ちゃんたちを冷やしていた。
そして、その水を放った水魔法術士で治癒魔法が使えるよっちゃんが慌てて、相手の一番近い肉壁ちゃんに駆け寄っていくところだった。
治療するのであろう。
指揮官の言うことを聞かずに突撃した火力バカ共は後廻しだ。
俺のファイヤーボールを食らった奴らの方が重傷だしな。
本来なら俺に治癒魔法を転写すればより強い治癒魔法となるはずだが、俺はまだ転写治癒魔法を使うことができない。
治癒魔法を使うには人体の構造を十分に理解しないと、とんでもないことになってしまう。
例えば、やけどを治療するとして、やけどで変質した組織を正常に戻すか、取り除いてから傷口を塞がないと変質した組織が体に残ってしまう。
最悪、その部分から隣の正常な組織が侵され、より大きなけがになってしまうのだ。
肉壁ちゃんたちは人体の構造については教会本山の肉壁の穴に進級したから学ぶそうだ。
一方、魔法術士は演習時にその場でけが人を治療する必要があるために、幼年魔法学校の1年生から人体の構造について学び始めるとのことだった。
まっ、ということで、俺はよっちゃんに水を出すという生活魔法を転写してもらって、発動時に増幅して放水魔法にして、今回の演習で使った炎系の魔法により燃えている森や平地の部分を一人で消火して回ることになった。
元気な肉壁ちゃんみんなでやれば良いのだが、ここにいる水魔法術士はがよっちゃんだけだし、彼女の魔力はけが人への治癒魔法を優先させなければならない。
そのため、消火のために使う水生成魔法を転写する相手を最小限にする必要があった。
そういうことで、魔力が高く、森が燃えている主犯である俺に消火の指示がおばちゃんから下された結果なのだ。
そのおばちゃんは火力バカ共の下に駆け寄り、そのやけどの程度を確認していた。
やけどの程度が軽いとわかると、どこから出したのか辞書でバシバシ火力バカ共の頭を叩き始めた。
どうも、命令に従わなかったことを責めて、体に反省させているらしい。
ちょっとう、一応はけが人なんだから治癒魔法を掛けてもらうまで待ってやってよ。
その後は辞書じゃなく、心の友の鉄パイプでバシバシ叩いても良いから。
治ってからの方が遠慮なくぶっ叩けるぞ。
"教室に帰ったら、当然、そうするわよ。"
じゃぁ、ケガしている今は労わるってやんなよ。
相手の肉壁ちゃんを半減させたのはその火力バカ共の功績なのは確かなんだからな。
"でも、こいつらもやられたからね。それで相殺。
ということで、命令違反は功績で帳消しにできないから、教育しないといけないのよ。
阿呆は後で言ってもわからないから、この場で体に覚えさす必要があるの。
お前らのご主人様は誰かって。
ご主人様の指示に従ない阿呆はどうなるかってね。"
なんとなく言っていることは筋が通っ入るような気がするけど、一応、中隊のメンバーなんだしあまり痛いことはしないで上げてください。
何か見ているのが忍びなくて。
"見ているのが忍びない? "
だって、ほらぁ、我儘のおばちゃんのヒスにさらされているように見えて。
"そこじゃない。見ているというところが間違っていると言っているの。"
どういうこと。
"お前はここで鉄パイプで教育だぁ。散々、演習の邪魔をしたでしょ。
さっ、早く消火を終わらせて、ここに正座しなさい。
弩阿呆は口で言い聞かせてもどうせ理解できないから、私の命令に従わないポチがどうなるか、体に教えてかげるからね。"
ひぇぇぇぇ、これは鉄パイプの乱れ打ちをする気だ。
もう、それっておばちゃんの趣味でしょ。
弩Sのおばちゃん。
若いピチピチの男の子を囲って、散々に打ち付ける。
変態おばちゃん。
"お前、演習場から生きて出られると思うなよ。
さっ、消火は良いからすぐにここに来い。"
ひぇぇぇぇ、おばちゃんがご乱心だぁ。
"来ないなら私が行くわ。そこで待ってろよ。"
来ないでぇぇぇ、弩Sの変態おばちゃん、来ないでぇぇぇ。
鉄パイプを右手に持ちゆらゆら体を揺らしながら、のそのそ近づいて来る、弩Sの変態さん。
俺は蛇ににらまれた何とか状態で、この場から動くことができなかった。
そうだ。
こっ、こっ、こういう場面ではお淑やかな大男さんがそっと盾を持ってきて貸してくれるんだぁ。
俺は一縷の望みを託して、後ろにいるはずのお淑やかな大男さんの姿を探した。
いたぁぁぁぁぁ、ぁぁぁぁ?
狂暴な幼女を背負って、しいちゃんと学校の方に帰るところだったぁぁぁ。
俺のピンチに気づいていない。
俺は全身の力を込めて、お淑やかな大男さんを呼び止めようと叫ぶ・・・・・・
。
叫べなかった。
既に鉄パイプの君が俺の前に到着していたのだ。
はやぁ、飛んできたのか。
"無駄よ。
先に帰ってと私が伝えたから。
誰も私たちに気付いていないわ。
他の皆も治療で忙しいようだし。
私たち二人っきりなの。
うふふふふふっ。
そう。あなたにこいつを存分に味わってほしくて。
二人っきりになったの。
さぁ、存分に召し上がれ。
食堂のから揚げよりおいしいわよ。"
とっ、例のブツをゆらぁっと持ち上げたのであった。
マジだぁぁぁぁぁぁ。
ここまでの成果
魔力回復: 3%
次にスキルを発動するまでのクールタイム: 44時間32分
(おぉぉぉぉっ、俺のピンチにスキルが復活だぁぁぁ。
今更、意味なす(おばちゃん談))
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
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