5話目 何で俺たちを呼んだんだ
「えっと、リュウ君がなぜここに居るかと言うと、そうですねぇ、中隊長の私の護衛ですね、きっと。」
おばちゃんがとっさに何しに来たんだ扱いの俺を擁護した。
まぁ、ポチから衛兵に一気に昇格したぁぁ。
でも、最後の"きっと"がいまいち俺の立場が安定していないことを示しているようだ。
「護衛かぁ、人類軍の中核施設である教会本山で護衛が必要なほど危険なことなどないと思うが。」
とっ、おばちゃんの出まかせを真剣に考える司令官。
やっぱり、"きっと"が気になりますよね。
「一見その様に見えますが、先日の魔族の公家のご令嬢を捕虜としたのでそれを取り返すために魔族の工作兵が潜り込んだり、実際に捕獲した私を害しようとしているかもしれませんよね。」
だったら、俺の方が危ないよな。
雷属性魔法術士と思われているしな。
何だが首の後ろに粟が立ってきたぞ。
"リュウ君はだまって、私をしっかりと抱きかかえて守ればいいのよ。"
「なるほどな。
例の大物を捕獲したことは、連敗にあえいでいた第27師団の久々の大きな戦果だったな。
魔族側からすると大きな失点と言える。
その失点を取り返すために人類軍の中枢に乗り込んで一工作企むか・・・・・・
まぁ、ないとは言えんな。」
ちょっとぉ、ボス。
それって、参謀本部の大幹部が軍の中枢施設の警備がザルと言ってるのと同じだよね。
"でも、イリーナのような特殊な隠蔽魔法を持つ魔族兵に侵入されたら、警戒の厳しい人類軍の中枢施設と言えども確実に探知できるとは限らないわよ。"
そうだな、常時雷属性魔法を施設全域に発動しておくわけにはいかないし。
"そんな対策をしたら誰も施設に入れず、軍の中核施設とは言えなくなねわね。
ただのゴーストタウンとなっちゃうから。"
そういう意味では、第27師団の将兵たちには悪いけど、彼らが右往左往しているうちにイリーナをとっ捉まえられてよかったな。
魔族軍が勝ち続けて調子に乗ってここに潜入でもされたりしたら、目の前の司令官の首がチョンされるまでその存在に気付かないぞ。
そう言えば、その捕まったイリーナは逃げ出していないよな。
その特殊な隠蔽魔法を使われたら人類軍の監視は行き届かなくなっちゃうんだろ。
"それは大丈夫みたいよ。
具体的には教えてもらっていないけど特殊な監視用魔道具が張り巡らされているらしいのよ。
他に教会本山勤務の雷属性魔法術士が、もちろんエリカちゃんを含めてだけど、必要な魔法を監視要員の肉壁ちゃんに転写しているとも聞いたわよ。
それにどこにあの3人がいるかはほとんど知られていないみたいなの。
その監視員の肉壁ちゃんにエリカちゃんが雷属性魔法を転写するのもわざわざ私たちの官舎に出向いてきているようだし。"
うちの旅団で一番関係していそうな弩S腐女帝様も知らないのか。
"まぁ、そんな手間をかけているからイリーナが逃げ出したり、逃げ出しそうだから首チョンするってことはないんじゃないの。"
首チョンなんてされたら生きたまま捕まえてきた俺たちとしても後味が悪いよな。
"確かにね。
だまして捕まえるのに苦労したもんね。"
俺とおばちゃんがイリーナたちについて念話している間、考え込んでいた司令官が軽く一息吐いてから口を開いた。
「まぁ、良いでしょう。
リュウ君も一緒に聞いてもらおうか。
中隊長と相談してその話が決まったら、リュウ君たち旅団員にもその内容を直ぐに報告してもらうつもりだったのでね。
護衛としてではなく、旅団員としてこれから話すことを一緒に聞いていてほしいと思う。」
今日おばちゃんだけを呼んだのは次の作戦の指示じゃなくて、次の作戦について相談するためだったんだな。
しっかし、俺なんかに相談して大丈夫なんか。
"取り敢えず司令官の前では例の第2スキルは発動させないでね。
難しい話だったら私の言葉に合わせてうなずいているだけで良いから。
訓練をさぼらせて護衛として連れてきた手前、寝ないでね。
第2スキル発動禁止、いいわねポチ。"
うぁぁ、それってかなりレベルの高いミッションだな。
イリーナたちを捕まえた時よりも難しいんじゃないのか。
"・・・・・・・・ポチィィィ。"
「司令官、それでわたし、私たちに相談というのは何でしょうか。」
「君たち第104独立旅団の活躍で人類軍で問題になっていた第27師団の戦線の後退は止まり、逆に魔族軍を押し返している。
独立旅団司令部としても、現在、第101と第102独立旅団の合わせて1個師団を第27師団の加勢に派遣しているので、早々に元の戦線に戻るものと考えているんだが。」
独立旅団が第27師団に加勢しているのか。
他の独立旅団と一緒に戦ったことは無いが噂では相当な実力らしい。
「第27師団の戦線以外では人類軍と魔族軍は膠着状態であり、加えて人類軍も近々に大きな作戦は計画されていないし、第103独立旅団や他の方面軍からの報告によると魔族軍でもそのような動きはみられていないようだ。」
俺たちが第27師団に対峙している魔族軍の勢いを止めたことで、魔族軍全体の勢いまで止めてしまったと言うのか。
"もともと厭戦気味だったからね。
どちらの軍も決定打が無くて、膠着状態。
むしろイリーナの偵察部隊による活躍で昨年の第17師団と今年の第27師団が連戦連敗していたのが特殊だったのよ。"
「人類軍と敵対している魔族軍とは元の膠着状態になりつつある。
軍としては第27師団の反撃を期に、全軍で一気に魔族軍を攻めようというつもりは今のところないんだよ。」
「司令官、ということは以前の膠着状態を良しとするのが軍の考えと理解して良いんでしようか。」
「昨年の第17師団、今年の第27師団の連敗は意外と人類軍に負の影響を与えているんだよ。
漸く元の膠着状態に戻せたんだ。
ここで勢いに乗って無理をして魔族軍を攻めて勝てれば良いが、一つでも大負けすると戦線全体が後退してしまうことを軍としては懸念しているんだよ。」
おばちゃんは首をかしげてから、司令官に問うた。
「司令官、戦勝ムードに乗って一気に攻めるのではなく、現状維持に努めるという消極策を取るということでしょうか。」
司令官はおばちゃんの質問を聞くとひと呼吸置くように、椅子に座り直してから口を開いた。
「まぁ、傍から見ると消極策になってしまうかな。
実際は膠着状態を利用して、力を蓄える、新戦力を鍛えて近い将来に来るであろう大侵攻作戦に備えると考えてほしいのだがね。」
「大侵攻作戦ですか? 」
「まだ、具体的な作戦内容は決まってはいないがな。
今回の大物捕虜から得られる情報も加味して、作戦を立案することになるだろうね。」
なるほど傷を癒して、そして、力を蓄える。
雌伏の時と言うことか。
"じゃぁ、何で力を蓄えるために訓練に行こうとしている私たちを呼び出したんだろうね。"
そこは聞いてみればいいんじゃないか。
「司令官、軍の意向はわかりました。
でっ、失礼ですが私をここに呼び出した要件とはどういうものでしょうか。
先ほどの話からは特に次の作戦はなく、訓練に励めというように思いましたが。」
おばちゃんの厳しい言葉に司令官は少し苦笑いをしてから答えた。
「訓練と言えば訓練になるかな。」
「特殊な訓練ということでしょうか。
その訓練の概要をお聞きしてもよろしいですか。」
司令官は真剣な目を俺たちに向けてきた。
「第104独立旅団はエルフ領に行き、エルフ軍と合同で獣人軍と戦ってきてほしい。」
えっ、エルフ領に行って戦うのぉ。
ここまでの成果
魔力回復: 35% + 15%(ボーナス♡) + 10%(ボーナス♥)
次にスキルを発動するまでのクールタイム: 20時間00分
(今度はエルフ領に行くのか。)
(うううっ、まずいわ。
エルフ族♀って、凄い美人ぞろいなんでしょ。
あの風神、雷神のように。
それにエン君は連れていけないわね。
絶対トラブルを起こすもんね、弩スケベ関係で。(おばちゃんターン))
(えぇぇっ、弩阿呆君と弩スケベ君を一緒にできないのぉ。(腐女帝様ターン))
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
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