52話目 最前線の向こう側にある荒野の弩真ん中にて、いざ初陣へ 三交点 その16
最後通告を受け取った彼氏さんは片膝を着いたまま苦悶の表情とも、生涯の天敵を睨みつけるとも取れる歪んだ表情を浮かべた。
「会合した段階で直ぐにこの汚物を打ち取って置けば。
こいつの言い分など聞かずにだらだらとここに居座り続けなければ。」
「こんなことにはならなかったと言うことかしら。
でも、それを今悔やんでも仕方ないわ。
貴方が言うべきことは彼女さん♂のように捕虜になるかこのまま一人で逃走するかを私たちに告げること。
あと1分で決めて下さい。
私たちも後でぐずぐずとあなたの決断を待っていたばかりに・・・・・・なとどいう羽目に陥りたくないですから。」
おばちゃんの催促に彼氏さんの苦悩の表情がさらに濃くなった。
「なかなか決断できない様だからもう一つ情報を上げるわよ。
我々の仲間から風属性魔法で現在の戦況が届けられたわ。
ここで別れたあなたの部隊の仲間は魔族軍の本体と合流したようよ。
しかし、お仲間は人類軍本体の後方の攪乱には失敗したようね。
人類軍と魔族軍本隊同士の戦闘は人類軍が優勢。
敗退した魔族軍の一部が撤退を開始したとのこと。
逃げるなら早くしないと本当にまずいわよ。
ケガをしているあなたが撤退する魔族軍を追って合流するんだから。
私たちは見逃しても、他の人類軍に発見されたら良いカモとなるわね。」
おばちゃんの追加情報を聞いた彼氏さんは大きくひとつ息を吐いて、何かを決心するような顔つきになり、そして、口を開いた。
「儂は君たち人類軍に投降する。」
そう言い終えた彼氏さんの目は強い意志を感じたが、その肩はやや落ちて何かとても疲れたように見えた。
「わかったわ。
貴方も捕虜として扱います。
まずは背負っている背嚢を遠くに放り投げてもらえますか。」
雷属性魔法を緩和する避雷針が入っていると思われる背嚢を彼氏さんはゆっくりと降ろし、そして、不意を突く攻撃などするつもりがないことを示すかのように両手をこちらに一度向けてからもう一度背嚢を持ち、ゆっくりと左右に振って背嚢を右側に放り投げた。
そして、腰にさしてある剣やブーツにさしてあるナイフ等の武器を次々と体からゆっくりと外すとそれらを足で蹴って遠ざけた。
そして、頭に両手を乗せるとゆっくりと一回りした。
彼氏さんはすぐ手に取れる武器がないことを俺たちに確認させたかったようだ。。
何か捕虜になるのが手慣れている感じだな、彼氏さんは。
こちらが指示する前にホイホイ武器を外し始めちゃったよ。
"リュウ君、油断しないで。
まだ、何をするかわからないわよ。
捕虜になるというのは口先だけで彼女さんの奪回と逃亡をあきらめていないかも。
人質を取っていると言っても、今私たちはたった2人なんだから。
ベテラン魔族兵の彼氏さんからしたら油断した私たちなんてどうにでもできると思っているかもよ。
リュウ君、彼氏さんが一番大事に思っている彼女さん♂の喉元に剣を突き付けて於いたままにして。"
わかったよ、おばちゃん。
でっ、厄介ごとを引き起さないように彼氏さんにも彼女さんと同じようにスタンを掛けて麻痺させるか。
"できれば体は動かないけど、口だけは動くように出来ないかなぁ。
姉御たちが来るまでに少し尋問をして於きたいの。
イリーナ♂はまだしも、捕虜を呼ぶときに彼氏さん、彼女さん♂じゃちょっと変でしょ。"
手と足がしびれてうまく動かせない程度に弱くスタンを掛けろと言うことか。
まぁ、魔力を絞ればできるかもしれないけど。
うまくいかなかったら、その時は追加でちょっと強めにスタンを掛けて完全にマヒさせるけど良いか。
あまり実験的な事をやり過ぎると捕虜の虐待とみられるからな。
"良いわよ。
ちょっとやってみて。
あっ、まずは彼氏さんの許可を取らなきゃね。"
「捕虜なので拘束させてもらうけど構わないですよね。
まずは雷属性魔法のスタンを軽くかけてしばらく手足を動かせなくします。
その後、この場ですこし尋問させてもらいますけど良いですよね。」
おばちゃんは彼氏さんに問うた。
「捕虜を拘束するのは当然だ。
但し、尋問に答えるかは質問の内容に依るな。」
「わかりました。
それで構いません。
リュウ君、取り敢えず彼氏さんにスタン"弱"を発動してみて。」
俺は彼女さん♂に突き付けた剣を持つ別の手でブーツにさしてあるスタンが転写されたナイフを取り上げた。
刃先を彼氏さんの足元に向けて、少しだけ魔力を流した。
ビリッ。
「ぐっ。」
彼氏さんが軽く喘ぐ。
スタンが彼氏さんに発動したみたいだ。
痺れた手足で体を支えられなくなった彼氏さんはゆっくりと体を地面に倒したのだった。
「彼氏さん、口はきけますか。
体は動かなくても口はきける程度に魔力を絞ったつもりですけど。」
うっ、やばい強すぎたか。
完全にマヒしてしまったのか。
"それならそれでも良いわよ。
最前線基地に連行してから、後でじっくりと聞けば良いんだから。"
じゃぁ、最初から強くスタンを掛ければいいんじゃねぇ。
と思っていると、以外にも彼氏さんの声が聞こえてきた。
「スタンを食らったのは初めてで、ちょっとその感覚に戸惑っただけだ。
大丈夫だ。口はきける。」
"さすが私のリュウ君。
絶妙な魔力捌きね。"
いやぁ、それほどでも。
"でも一応は警戒して。
スタンに掛かったフリをして、隙あらば逆襲の機会を狙っているかもしれないから。
彼女さん♂へ突き付けている剣は降ろさないで。"
そうするよ。
俺は剣もナイフも構えたままでいることにした。
「もう直ぐ我々の仲間がここに来ます。
水属性魔法術士が来ますので捕虜の皆さんのゲガは直します。
しかし、スタン、麻痺の状態異常までは回復するつもりはないのであしからず。」
「儂はこのままで構わんがお嬢の方は地面に倒れたままでなく、それなりに楽な格好をさせてくれないか。」
「ごめんなさい、それはできないわ。
仲間が来て、きちんと拘束できた段階でその辺のことは考慮します。
しばらくはこのままで監視を続けさせてください。」
「スタンで痺れて動けないと思うが。
まぁ、狸寝入りしているかもという懸念はわかる。
武器を取り上げるのにそっちの少年兵にお嬢の体をまさぐられるのは嫌だしな。」
エンを気絶させておいて正解だな。
あいつだったら嬉々として今頃武器を取り上げるふりをいろいろやらかしていそうだ。
「私たちの仲間が来るまで、少し質問させてください。
答えたくなければそう言ってください。」
おばちゃんが彼氏さんの尋問を始める様だ。
「では、まず、名前を答えて下さい。
イリーナさん♂はまだしも彼氏さんだの、彼女さん♂だのと呼ぶのは誰のことだかわかり難いので。
もちろん、本名でなくても構いません。
ただ、捕虜交換の機会があったときにどういった方が捕虜になっているか正確に分かった方が良いと思います。
あなた方が魔族軍にとって重要な人物であれば、われわれ人類軍も大物の捕虜や多数の捕虜と交換してもらえることになりますし。」
彼氏さんは少し悩んでいるようだ。
ただ名前を言うだけなのに少し沈黙があった。
「儂の名はアドリアンだ。
初めに気絶して岩にもたれかかっているがアーラ。
そして、儂がさっきからお嬢と呼んでいるのが、先ほどスタンを掛けられてそこの少年兵に剣を突き付けられているのがイリーナ様だ。」
「「えええぇぇぇぇ、こっちがイリーナなのぉぉぉぉぉぉぉ。」」
戦場の荒野とは思えない驚きの絶叫がこだました。
ここまでの成果
魔力回復: 25% + 30%(ボーナス♡) + 5%(ボーナス♥)
次にスキルを発動するまでのクールタイム: 14時間39分
(まさか彼女さん♂がイリーナ♂だったとは。)
(どこで勘違いしたのかしらねぇ。(おばちゃんターン))
(名前は何だっていいのよ。問題は本当に♂かどうか。
弩阿呆君、下半身をまさぐって"ゾウさん"を飼っているかどうか確かめて♥(腐女帝様ターン))
(ついていなかった時よりも付いていた時の方が後々怖いんですけど。)
(サッ、早くぅぅぅぅ。じっくりとまさぐりなさい♥。(腐女帝様ターン))
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
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