47話目 最前線の向こう側にある荒野の弩真ん中にて、いざ初陣へ 三交点 その11
俺とおばちゃんでどちらが彼女さん♂と彼氏さん♂の体をまさぐる・・・・・、あっ、きっと言い方が悪いんだよな。
どちらが武器を取り上げるか譲り合っていると、あぁぁ、とっととおばちゃんがまさぐればよかったのにぃ。
目を離した隙に彼女さん♂が剣を取り上げて、エンの喉元に突き付けているではないか。
「人類兵のゴミがぁ。
人質を取って優位に立ったつもりだろうが、そうはいかないぞ。
この仲間をブスっとされたくなければアーラの喉元からその汚いナイフを外せ。」
そう言って、剣を少しだけ押した。
その少しの動きでエンの喉元が少し切れたようで、剣の先がちょっとだけ赤く染まっていた。
しまったぁ。
油断したぁ。
エンが人質に取られた。
"もうっ、あの弩スケベは何をやっているの。
イリーナ♂を人質に取った時点ではってでも逃げればいいのに。
何をぼへぇぇぇぇと私たちと彼女さん♂とのやり取りを眺めていたの。
まさか、エン君が今度はイリーナ♂から彼女さん♂に心変わりしたの。"
いゃ、それはないだろう。
何せさっきまで三角関係を清算するために、どちらがここで眠るイリーナ♂とお付き合いするかを決める戦いをしていたんだろ。
"わからないわよ。
♂のくせにあんなに綺麗な顔をしているんだもの、彼女さん♂。
エン君が争っているうちに心変わりしても不思議じゃないわよ。
まぁ、憎さ余って可愛さ100倍というところじゃない。"
えっ、エンの奴が今度は彼女さん♂とお付き合いしたいと思っているの。
じゃぁ、今の状態、彼女さん♂に剣で傷付けられているのはむしろ愛情表現と受け取っているの。
恋人同士のある種のいけないプレイってあつかいなのか?
"まぁ、そうなるわよね。
幸いにイリーナ♂もこのように気絶したままだし。
今だったら、二股掛けてもばれないし。
後は彼氏さん♂を亡き者にすればエン君としては大満足な結果ってことになるわね。"
そっかぁ。そうだったのかぁ。
彼女さん♂は俺たちが動かないことにいら立ったのか、エンの喉元に突き付けた剣にさらに力を込めたように見えた。
「どうした、生ゴミ。
早くアーラに突き付けたそのナイフを退けないか。
この汚物に剣が刺さっても良いのか。」
「あぁっ、別に良いよ。
なっ、おばちゃん。」
「そうねぇ。本人もそれを望んでいるんじゃないの。
どうなのエン君としては。」
おばちゃんが彼女さん♂の奥を覗くようにエンに問いかけた。
「マイ・ハニー(意訳: イリーナにはぶぶぶーと聞こえている)の手に掛かって逝くのならそれもまた良し。
我が人生に悔いなし♡。」
エンの目に強い意志、命を懸けてでもこの恋を成就させるという怨念に似た執念が感じられた。
イリーナ♂から完全に彼女さん♂に乗り換えたな。
外見的には確かに彼女さん♂の方が、何か凛とした上品さあっていいかもしれないなぁ。
しかし、命のやり取りをする敵として、また、恋敵として会ったばかりの彼女さん♂にイリーナ♂から乗り換えるとはな。
俺たちが駆け付ける前に囮として相まみえていたエンにいったい何があったというんだ。
"確かに彼女さんが♀だったとか、彼女さん♂は実は人類と魔族のハーフだったとか言うならわかるんだけどね、イリーナ♂から突然乗り換えたのは。
さらに彼女さん♂にはイリーナ♂と彼氏さん♂という恋のライバルがいるのにね。
恋のライバルが多いほど燃えるタイプなのかな、エン君は。
いずれにせよ、エン君の意志を尊重しますか。
旅団の作戦としては、イリーナとその取り巻きを眼前に引っ張り出してもらえば良いんだったしね。
エン君のお相手♥がイリーナ♂でも彼女さん♂でもたいして変わりはないわね。
両方とも私たちの殲滅対象なんだから。"
ちっょと待って、おばちゃん。
そうするとイリーナ♂を盾にして、動きの取れない彼女さん♂を拘束すれば良いのか。
"彼氏さん♂の存在が鍵になるわね。
イリーナ♂を盾にして彼女さん♂を人質に取ると今度は彼氏さん♂も動けなくなる。
エン君は古女房のイリーナ♂はまだしも、彼氏さん♂はいらないだろうからスタンで痺れさせて、後で小者隊長にでもブスっとやってもらおうか。
例え敵でも抵抗できない者をいたぶるのはリュウ君もいやでしょ。
そう言う姑息なことは小者隊長の得意分野だから。"
おばちゃん、わかった、その線で行こう。
俺とおばちゃんは次の作戦行動に出る前に、それを確認するためにお互いを見て頷き合った。
そして、おばちゃんが一歩前に出て彼女さん♂に言い放った。
「本人が彼女さん♂の手に掛かって逝けるのならヨシと言ってますが。
人質を取って同等の立場になったたつもりでしょうけど、何の意味もなかったわね。
この子の喉と胸を真っ赤に染めたくなかったら、剣を捨てて両手を頭の後ろに回して。
そっちの彼氏さんもよ。」
「くっ、アーラさえ人質に取られていなければ。
こんな奴らに遅れは取らないものを。」
彼女さん♂は悔しそうな顔を見せた後に、俺たちの方を憎しみに満ちた目で見据えて、やがて剣を手放した。
「お嬢、儂とアーラのことは良い。
この汚物を盾にここから逃げてくれ。」
ケガが思ったよりもひどいのか息を切らして彼氏さん♂が彼女さん♂に脱出を促した。
「あっ、一つ言い忘れたけど。」
「なんだというんだ。」
おばちゃんの言葉に彼女さん♂が反応した。
「そこのエン君、弩スケベな汚物の人質の価値なんて100バートの硬貨よりも軽いから。
人類領じゃぁ、賞味期限ぎりぎりでハーフプライスに値引きされたアンパンぐらいの価値しかないから。」
「「えっ、」」
「まぁ、幼馴染の俺が言うのもなんだが、魔族の皆さん人質としての価値を付けてくれてありがとう。
エンも消費期限切れの廃棄アンパンから漸く人類兵としての価値にしてもらったんだな。
良かった、エン。
持つべきものは魔族の恋人と恋のライバルだな。」
「「えっ。」」
俺の話を聞いたおばちゃんが何やら腕を組んで、感慨深げに頷きながら言った。
「これが噂の2階級特進ってやつね。」
「あっ、おばちゃん。
一応、エンはまだ生きてますから。」
「もう直ぐ逝っちゃうんでしょ。
でないと人質なんていう崇高な地位に就けないから。」
「退職金の前借的なことなのか。」
「概ねその理解で良いかと思うよ、リュウ君。」
俺たちのやり取りに唖然としながらもさすがは彼氏さんだ。
エンの方を一瞥して、ぽつりとつぶやいた。
「人質としての価値すらないのか。
人類軍でも貴様は汚物扱いなのか。」
そのつぶやきに今度は彼女さん♂がハッとした表情をして、何か必死に訴えてきた。
「いやいや、こいつは生ゴミ、いや、君の幼馴染で同じ部隊の仲間、同じ釜の飯を食った仲なんだろ。
そんなに簡単に諦めても良いのか。」
「でも、本人もそれで良いと言ってるし、新たな愛する君と一緒に逝けるのならもうこの世に何も思い残すことは無いんじゃないのかなぁ。
我が人生に悔いなし。
だよなぁ、エン。」
「リュウ、その通りだ。
俺はマイ・ハニーと一緒に逝けるのならもうこの世に思い残すことはない。
ただぁ・・・・・・・・」
これ以上、何が欲しいというんだ、エンは。
彼女さん♂と一緒に逝ければ大満足なんじゃないのか。
"きっと、彼氏さん♂のことよ。
彼だけは自分の手で何とかしたい、彼女さん♂を自分の手でつかみ取ったという事実が欲しいのよ。
まったく、この期に及んで何を贅沢なことを考えているのかしら。
そっちのことは小者隊長にでも任せて、とっとと逝っちゃえばいいのに。
私は忙しいんだから。
この痴話げんかをとっとと片付けて、リュウ君との新婚生活の準備をするという崇高な使命が控えているんだからね。"
あっ、いやぁ、おばちゃん、ちょっと待って。
悔いをこの世に残して逝っちゃうとゾンビになるから。
既に旅団に一人いるのに、これ以上はこの世の者でないものが増えるのは世間体が悪いから。
とにかく、エンの望みを聞いてみようよ、ねっ、ねっ。
"ちっ、全く汚物のくせに、とことん私とリュウ君の邪魔をしおってからに。
まぁ、良いわ。
私は旦那様を立てる可愛いお嫁さん(意訳: 結婚の約束も済ませたし、もう直ぐだぁ)だもの。
一応は旦那様の幼馴染に当たるエン君のこの世で最後の望みを聞いてみてあげてもいいわよ。"
俺は首を伸ばして、エンに問いかけた。
「気持ちをこの世に残したまま逝って、ゾンビになられると困るから。
既にうちの旅団のゾンビ枠はいっぱいだから、聞いてやる。
お前のこの世での心残りとはなんだぁぁぁぁ、エン。」
ここまでの成果
魔力回復: 10% + 40%(ボーナス♡) + 10%(ボーナス♥)
次にスキルを発動するまでのクールタイム: 23時間22分
(エンのこの世での未練って・・・・・・、旅団の女風呂を心行くまで覗くことかぁ。)
(あぁぁぁぁ、そんな奴は直ぐ逝ってよし。旅団のゾンビ枠を2に増やすから良い。(おばちゃんターン))
(リュウ君と抱き合いながら一緒に逝きたいんじゃないの♥。(腐女帝様ターン))
(そこは俺じゃなくて彼女さん♂と言ってください。腐女帝様はそれでもご満足なはずですよね。)
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
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