46話目 最前線の向こう側にある荒野の弩真ん中にて、いざ初陣へ 三交点 その10
おばちゃん、やばいよ。
逆上した彼女さん♂が恋のライバルのエンをやっちゃおうとしているよ。
"まぁ、痴話げんかの果ての刃傷沙汰。
ありがちよねぇ。物騒な世の中になったものよね。
まぁ、運良くここは戦場だし。
敵(意訳: 目の前にたまたまいた人類兵)をやっちゃいましたぁ、褒めて下さい、で済むしね。"
そう思うとエンがやられるのは自然のような気がしてきた。
"それじゃ、私たちもボーナス査定と金一封のために、エン君共々まとめてやっちゃう? 敵に遭遇して戦って殲滅しましたぁ。
エン君は戦う前に敵にやられてましたぁ。
で、問題ないよね。
てか、予定通り? "
じゃなくて、もうエンを救う方法はないのか。
"いろいろ策はあるけど、エン君を助けると後でまたいろいろと面倒なことに巻き込まれそうだよ。
このままこいつらを喧嘩別れにさせるとこの戦場にいる限り毎回こんな痴話げんかにつき合わされるんだよ。
私たちの旅団は標的の魔族偵察隊を殲滅するまでこの戦場につめてなきゃなんないし。"
えっと、イリーナ♂とその仲間、彼女さん♂やその彼氏さん♂を叩くのがそもそも俺たち独立第104旅団の目的だったんだよな。
まぁ、そのついでに囮役のエンを可能なら救い出す。
何の問題もないと思うけど。
"あぁぁぁっ、そうだった。
余りのこの憎愛劇の複雑さと醜さに本来の目的を忘れそうになったわよ。
さすが私の旦那様、良く気が付いたわね、褒めてあげるね。
もちろんご褒美はもちろん、わ・た・し。
今晩を楽しみにしていてね♡。"
俺たちの"今晩"バトルも終結には程遠かったかったぁ・・・・・、じゃなくて、エンがピンチだぞ。
何とか救う方法はないのか。
そして、俺たちの任務も成功裏に終らす方法がないのか、おばちゃん。
"しょうがないわねぇ。
仕事をしますか。
あっ、この作戦がうまくいったら、「今晩」の他にもご褒美をちょうだいね♡。"
それは後で考えるとして。
「あっ。」
もう、エンに彼女さん♂の剣が突き刺さりそうなんですがぁぁぁぁぁ。
おばちゃん、早くエン救出の、彼女さん♂撃退の作戦を発動してやってくれぇ。
"わかったわ。
では、リュウ君、私の言う通りにするのよ。
手に持ったナイフをここで気を失っているイリーナ♂の首に突き付けて。"
えっ、あぁぁ、わかった。
俺はおばちゃんの指示通り、イリーナ♂の首元に手に持ったままだったサンダーシールドを転写した魔道具のナイフを突きつけた。
うぁぁ、この白く細い首筋。
♂のものだとわかっていても何か引き込まれそうだ。
"リュウ君、見かけに騙されちゃダメ。
それの虜になるってことはお隠れ様のうっすい本の世界の住人になるということなのよ。
もう二度とお天道様の下では顔を上げて歩けないってことなのよ。
駄菓子屋店主から「おねぇ様」のお店のバーテンダーに転職なんだよ。"
おばちゃんの一言、恫喝で俺は我に返った。
♂の首に見取れている場合じゃない。
危なかったぁ。
こんな紛らわしい危険ブツ・劇ブツは一気にぶすっとやって、亡きモノにしていいんだよな。
"ちょっとまって、リュウ君。
危険ブツ・劇ブツを早く処理したいのは私もやまやまだけど、そのままぶすっとやっちゃったらここぞとばかりにエン君も彼女さん♂にブスっとやられちゃうから少し待って。"
えぇぇっ、そうなのか。
それはまずいな。
相打ちじゃなくて、エンを助けて彼女さん♂を亡き者にしないとな。
そんな念話の後におばちゃんは俺とイリーナ♂を指差しながら、彼女さん♂の方に叫んだ。
「これを見なさい。
エン君をそのまま汚物処理しちゃうなら、私たちもあなたの大事な思い人のイリーナ♂、私とリュウ君にとっての危険ブツ・劇ブツを処理するからね。」
おばちゃんの叫びに振り向いた彼女さん♂。
顔が青ざめて、エンに突撃するのを止めてしまった。
「卑怯だぞ、生ゴミとその彼女。
気を失っている者を人質にとるなんて。」
はっ?
倒れているエンをやっちゃおうというあんたに言われたくないよな。
それにひとを何度もゴミ扱いして。
あんたも危険ブツ・劇ブツのくせに。
俺の思いを確認しようとしておばちゃんの方を見た。
なぜかおばちゃんは両手で真っ赤になったポッペを挟み込んで、腰をくねくねしていた。
戦場でゆでられたタコか。
"でへへへへへっ、リュウ君の彼女だって♡。"
おぉぉぉい。
互いに人質をブスっとやっちゃおうとしている緊張した場面で、おばちゃんが即反応したのはそこかいな。
"さすが恋する乙女、あっ、向こうは心が乙女だけど。
見る目が違うわね。"
いやぁぁぁ、まぁ、もうそこはいいか。
おばちゃんに"乙女、乙女♂? "と突っ込んだら余計に話がややこしくなるか。
でっ、この後はどうすんだ、おばちゃん。
すごい形相で睨まれているんだけど、彼女さん♂に。
見つめられるとなぜか異様に寒気がすんですけど。
隣で同じように俺を睨んでいるゴツイ彼氏さん♂の方がまだ心が休まるんだけど。
"ゴツイ♂で心が休まるなんて・・・・・、リュウ君、まさか、うっすい本の住人に・・・・・"
だ・か・ら・ぁぁぁぁぁぁ。
ドンだけあちらの世界から離れようと俺がしているかおばちゃんは知ってるよな。
"リュウ君、だ・か・ら・ぁぁぁぁぁぁぁ、「今晩」を私と毎晩して回り、特にお隠れ様が誤解しないようにしたらと何回言ったら・・・・・"
おばちゃんと不毛な"今晩"バトルに突入しようとした刹那、彼女さん♂が怖い顔で睨みながら剣を置き捨てて一歩前に出てきた。
うあぁぁぁぁぁ、女性の形をしていてもいざとなったら流石に素が出るんだ。
こえぇぇぇぇ。
くっ、食われるぅぅぅ。
"あっ、それもNGワードじゃないの、リュウ君。
♂に食われるリュウ君。"
おばちゃんはいったいどっちの味方なんだぁ。
俺の嫁なのか、弩S腐女帝様の下僕なのか。"
"リュウ君、今何と言った。
俺の嫁って言ったよねっ、ねっ、ねっ。
嫁って♡。"
あっ、いゃ、そのぉぉぉぉ。
"そうなのよぉ、ポチにもやっと理解できたようね。
わ・た・しがポチの嫁だって。"
ポチの嫁って、ポチの嫁で良いのかおばちゃんは。
"ポチの嫁で、大いに結構。
生ゴミの嫁でも、彼女でもど~んとこいやぁ♡。
呼び方はどうでも良いの。
リュウ君のお嫁さんになれるのなら。"
くねくねしていたおばちゃんが、いきなり胸を叩いてどうだという態度に激変。
その態度、真のおばちゃん化してしまったぞ。
それも武器を持った敵と相対していながらだぁ。
おばちゃん、ほんとここに何しに来たんだか。
"でへへへへへへっ。
さぁ、とっととエン君の三角関係を清算して、旅団基地に帰るわよ。
式の準備とか、夫婦官舎の申し込みとか、いろいろ忙しいんだから。
夫婦茶碗も探さなきゃね。"
それは置いといて、ずっとしばらく置いといて、これからどうすんだ。
このイリーナの喉元に突き付けたナイフはどうすんだ。
この先どうなる(意訳: もちろん旅団基地に帰ってからの事)か不安で俺はぐっとナイフを握った。
「とっ、取り敢えず落ち着こうな、生ゴミ、じゃない、人類兵君。」
おっ、彼女さん♂さん、何か下手に出てきたんだけど。
そんな可愛くして媚を売ろうとしても騙されないんだからな。
俺は弩S腐女帝様をニヤリとさせるようなことは金輪際しないと固く心に誓ったんだ。
でっ、俺は何をすればいいんだ、おばちゃん。
"イリーナ♂を人質に取ったのは正解ね。
向こうが譲歩するような形に持ち込めたわ。
大事な人(意訳: イリーナ♂)を人質に取られるか、まぁ出来れば助けて、ダメだったらごめんねぐらいの人(意訳: エン君)を人質に取られるかで立場が大きく左右されるってことね。"
エン、良かったな。
助けてもダメでもいいような役柄で。
でっ、どうするんだ。
「彼女さんとそこの彼氏さん、この人をずぶりとされたくなかったら手を挙げて後ろを向いて。」
"さぁ、ポチ。
あいつらが無抵抗な姿勢を示したら、武器を取り上げて。"
えぇぇぇ、またかぁ。
だからいやだって、さっきから言ってるだろ。
ここまでの成果
魔力回復: 1% + 49%(ボーナス♡) + 10%(ボーナス♥)
次にスキルを発動するまでのクールタイム: 29時間3分
(だ・か・らぁぁぁぁぁ、♂の体をまさぐるのはあれほどいやだって言っているのに。
それにイリーナ♂からナイフを外したら・・・・・ブル。
彼女さんと♂と彼氏さん♂に襲われちゃうじゃないか。
それこそ腐女帝様が鼻血を拭き出して、拍手喝采だぞ。)
(私だって、ポチ以外の♂の体をなでなでするのはちょっとぉ。
嫁がそんなことするのは許せないでしょ、ダーリン♡。(おばちゃんターン))
(この弩阿呆がぁ。つべこべ言わずにとっとと彼女さん♂と彼氏さん♂の体をくまなくまさぐって武器を取り上げてよね・・・・・、ブッフォー。(腐女帝様ターン))
腐女帝様が鼻から血潮を噴いた。
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
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