16話目 まさに肉壁作戦
おばばが暴走した"ミニ"事件から2箇月が経過した。
肉壁の穴に収監されて3箇月が過ぎたことになる。
俺の年季はいつ明けんだぁ。
まぁ、腹一杯に飯が食えるだけで幸せだけどな。
これまでは肉壁ちゃんの基本である体力づくり、剣技等の物理攻撃、転写魔法の発動の練習、チームとしての連携の訓練等々を教室でのシミュレーションや訓練場での演習で学んできた。
今日はこれまでの訓練の成果を試すために野外で演習を行うことになっているのだ。
今までは演習といえば平坦で見通しも良い訓練場で、単一チーム同士での模擬戦(意訳: 小隊での殴り合い)や2~3チームでの対抗戦(意訳: 中隊でのボコり合い)と、まぁ、力のぶつけ合いのような、子供のケンカのようなものだった。
しかし今日は、野外で中隊規模同士の対抗戦が行われることになっている。
肉壁の穴の野外演習は実際の戦いに即して、森や川、岩場、沼地などが点在した場所で行われる。
当然、目の前に相手、仮想の敵が見えるはずもなく、相手を探すところから始めなければならない。
かなり実践的な演習となるとの話だった。
ちなみに山岳や雪原で行われる演習もあるが、それは来年度以降に、無事にここソンバトの肉壁の穴の年季が明けて、教会本山にある肉壁の穴の本校に改めて年季奉公に入ってから(意訳: 更なる借金漬け)実施される予定だとさ。
俺たち"お淑やかな大男さん"チームは同じクラスの"火力がすべて、防御って何? それ美味しいの"チームと組むことになった。
もちろん、どのチーム同士が組むかは副業が厳つい自由業の強面の教官のお心ひとつで、"こいつらと一緒に突撃して相手のタマを取ってこい"という命令を俺たちはただ実行するだけだ。
俺たちお淑やかな大男さんチームは水属性魔法術士(仮)のよっちゃんを中心に、凶暴な幼女とお淑やかな大男さんの凸凹防御専任の肉壁ちゃん×2、スケベな斥候職×1、掃除のおばちゃん兼作戦参謀兼小隊指揮官×1、そして、肉壁の穴の最高の火力(自称)である俺1の構成になっている。
それに対して、一緒に組んでいる火力バカチームは飼い主である炎属性魔法術士のしいちゃん×1、火力を使い終わったらただの肉壁、紙様になる奴×5という、チームのネーミングそのままの痛い構成になっている。
先日、この火力バカその1に、えっ、名前はだってぇ、筋脳の奴の名前なんていちいち覚えてらんねぇからな、俺はそんな暇じゃない。
火力バカその1になんで攻撃職ばかり並べるんだと聞いたら、何で防御が必要なんだ、初めに火力で敵を殲滅してしまえばいいじゃん。
とっ、何でそんなことをわざわざ言うんだと言わんばかりに呆れられてしまったぞ。
まぁ、そうだけどね。一気に相手を蹴散らしちゃえば良いんよな。
そうすれば防御なんて必要ないんだよな。
でもなぁ、演習の度に巨〇エレン教官に治癒魔法を掛けてもらいに真っ先に保健室に担ぎ込まれるのは、わざとか。
まさか、●乳エレナ教官を拝みたいばっかりにわざと防御をしないのか。
その事を火力バカその3に聞いて見た。
あっ、その2は既に俺の方にサムズアップをしている時点で聞く必要を認めなかった。
「火力は男のロマンだ、ついでに肉壁や紙様はそんな男の成れの果てだ。」
とっ、本物の肉壁になりたいだなんて、俺には理解しがたい事を口から吐いてたなぁ。
まぁ、チーム内でもいろいろな思惑があるらしいことを垣間見た気がした。
火力バカその4と5はどう思っているのだろう。
俺とエンだったら間違いなく火力バカその2に賛同するぜ。
何せ、うちのチームはよっちゃんはまだしも、掃除のおばちゃん、ましてや凶暴な幼女にその辺のことを期待することが全くできないからな。
前面が凹凸のない真っ直ぐな肉壁だからな。
あっ、それじゃぁ俺も火力バカ共と一緒に突撃すっか、肉壁ばんざ~ぃって。
そうして、〇●エレン教官の下へ。
「精一杯頑張りましたが一歩及ばず、肉壁が破壊されましたぁ。
悔しいです、宥めて下さい」って。
そうしたら、エリン教官はその胸に俺を抱えて、「よしよし、次は頑張るのよ」って、言ってくれるはずだ。
"いちいちド阿保共を宥めるほど教官も暇じゃないと思うの。
そういう輩の面倒事は指揮官である私がなくしてあげなきゃね。
肉壁として突撃する前に、今から私が優しくお前らド阿保共をこの鉄パイプできれいにミンチにしてあげるね。
二度とそんなスケベなことが出来ないようにね。"
げっ、掃除のおばちゃんに俺の密やかな午後の楽しみが奪われようとしてないか、この展開は。
訓練が始まる前から、味方同士で壮絶なバトルを繰り広げつつも、指定された演習のスタート地点に引き摺られて来た、掃除のおばちゃんに。
今日は森を挟んで仮想の敵と戦う訓練だ、とっ、おばちゃんがさっき言っていた。
"ちょっと、リュウ君。
今日の午前中の講義でこの演習について教官から説明があったでしょ。
聞いてなかったの。"
俺は義足の教官のことは信じてねぇ。
だから奴の言葉は耳に入らん。
"じぁ、副業が隣町のいかがわしい憩いの施設への紹介業の強面の教官は? "
そんなのは言うまでもないじゃないか。
あの教官のお言葉には全て「はい、喜んで」と答えるんだぞ。
しかし、俺がちょっと講義で朝食後の惰眠貪っている間に、厳つい自由業が隣町のいかがわし憩いの施設への紹介業に業態変化したんだ。
時代の流れの速さを感じるぜ。
掃除のおばちゃんが俺たちの前に出て、突然演説を始めた。
便所掃除の極意でも授けるつもりなのか。
"弩阿呆、今日の作戦について説明すんのよ。"
あっ、ついにおばちゃんが天下取りに乗り出したか。
我儘なおばちゃんの降臨、肉壁の穴に暗黒時代の到来だな。
「午前中の講義で今日の演習の課題について説明がありました。
この演習は相手を倒すことではなくて、チーム同士の連携を図りながら、相手より優位な状況を作り出し、相手に魔法、或いは物理攻撃を与えることに有ります。
良いですね、そこの弩阿呆7人組。」
7人って誰だ。
よっちゃんとしいちゃん、それと俺を除いて、残り9人中7人が弩阿呆なのか。
エンと火力バカ5人組だろ。
残り一人は掃除のおばちゃんかぁ。
てか、自分で自分を弩阿呆と言っているよ。ぷっ。
"弩阿呆の筆頭がお前だよ、リュウ君。
自覚がない阿呆だから怒阿保なんだよ。"
そんなに褒めても夕飯のおかずは分けてやんないからな。
今日は大好きな唐揚げなんだから。一人三個なんだからな。
"怒弩阿呆に思わずいつもの様に反応した私がバカだった。"
自覚があるんだ、弩阿呆の。
やっぱり俺が言った通りで良いだよな。
そう考えた途端に、先端がとがった鉄パイプが俺の頭を目がけて飛んで来た。
ちょっとう、おばちゃん、何すんだよ。
投げるなら先が尖ってない奴にしてくれよ。
それが俺の頭に刺さって血が噴き出してたら巨●エレン教官の胸に俺の顔を埋めることを嫌がられるじゃないか。
そう言う気遣いができないから我儘なおばちゃんになっちゃうんじゃないの。
"リュウ君がこの演習で万が一に生き残ったら、ミンチね。
止めを"刺す"なんて生ぬるかったわ。
お前だけ夕飯がから揚げじゃなくてハンバーグ。
食べられたらだけどね。"
「もう、弩阿呆7人組に何も期待するものはありません。
君たちには今から作戦を授けます。
弩阿呆でもわかる簡単なものだから心配しないで。
まず、スケベなエンが索敵に向かいます。
敵を発見したら私に念話。
念話した後は腰の剣を掲げて、敵のど真ん中に突撃して、注意を引きなさい。
次にしいちゃんは残った弩阿呆7-1人組にファイヤーアローとファイヤーシールドを転写。6人分で多いけどよろしくね。
弩阿呆7-1人組は私の示す方向、敵に向かって突撃。
敵を出来るだけ殲滅しなさい。」
「「「「「おおっ、魔法を纏っての突撃こそ火力命の俺たちチームが生きるってもんだな。」」」」」火力バカ5人組
「俺は魔力が高いから良いけど、こいつら魔力が切れたらどうすんの、おばちゃん。」
「魔力が切れた後は、地面に落ちている棒切れでも振り回していればいいんじゃない。
魔力切れの肉壁ちゃんなんてまさに肉壁以外に何ができるというの。」
「「「「「「おおっ、流石だ、指揮官。俺たちの最も力が出せる戦い方だ。
というか、それ以外できねぇ。」」」」」
結局、こいつら肉壁でチーンの運命だったか。
"リュウ君も転写魔法を最大限に上げて突撃してもらうから、時間の差があっても結局は魔力切れで、みんな一緒に肉壁ね。"
ええぇぇぇ、俺も真の肉壁、敵の魔法を受け放題の肉壁一直線コースなのぉ。
ここまでの成果
魔力回復: 4%
次にスキルを発動するまでのクールタイム: 43時間57分
(2箇月でスキルが成長しました。)
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。
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本作品は前作「聖戦士のため息」シリーズのパラレルワールドの位置付けとしています。
本「聖戦士のめまい」とともに「聖戦士のため息」シリーズも合わせてお楽しみいただけたら幸いです。
"聖戦士のため息シリーズ "
シュウとエリナ、イリーナ、輪廻の会合に集いし面々が活躍するサーガをお楽しみください。
・本編 : 聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます
・別伝1 : 死神さんが死を迎えるとき
・別伝2 : 優しさの陽だまり
・別伝3 : 陽だまりからの贈り物 優しさの陽だまりから
・外伝 : アラナの細腕繁盛記 越後屋の守銭奴教繁盛記
・別伝4 : 炎の誓い