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31話目 最前線の向こう側 撃てぇぇぇぇぇ

私とじい、副官を残して我が部隊は黒い霧で覆われて、急ぎこの場を離れて行った。

幾人もこちらを振り返り心配そうな顔を向けて来ていた。

彼らには申し訳ないが、漆黒の霧から黒い霧に切り替わることで人類軍の偵察部隊からこの場を去って行った我が部隊が目視で確認できるようになる。

それも比較的大きな黒い霧が、突如、何もない人類軍の後方領域に現れたことでその目がすべて彼らに向くことになるだろう。

所謂、ここで奴とやり合う私たちの囮として彼らを使うことになってしまうのだ。


本来なら、部下を囮に使うようなことはやりたくはない。

危険な囮役であれば私が引き受ける。

そして、敵を殲滅した功績は部下に。

それが一軍を預かる公家の指揮官としての矜持だ。

それがなければ領民が進んでこんないつ果てるともない不毛な戦いに兵として志願することはないだろう。


しかし、今日はあえて囮となってもらうつもりだ。

そう、彼らの安全のためにも。


私と奴の戦いに付き合わせるじいと副官には申し訳ないが、これから私たちは人類の切り札でもある雷属性魔法術士の奴と対決する。

奴もそれを待ち望んでいるようだし。

魔族は雷属性魔法術士と相対した時に有効な攻撃と防御の手段がない。

基本的には蛇に睨まれた蛙状態なのだ。

今回のように、その戦闘を何度もシミュレートして用意万端で相対さないない限りは。

例え、用意万端だとしても有利に戦えるわけではない。

4分6分が精一杯で魔族が不利な事には何ら変わりはない。


昨年の奴との戦闘時のように、私が危機に陥ったときに部隊の皆が盾となって、私を逃すために敵の目を引き付けて皆が全滅することを選ぶようなことはしたくない。

もちろんあの時とは違って、用意万端な今回は勝つ自信はあるが、絶対大丈だとは言い切れない。

我が中隊のメンバーは、私かちょっとでもピンチになったら我が身を捨ててでも、私を守ろうとしてくれるだろう。

そんな皆を私と奴の対決の近くに居てもらっては困るのだ。

二度も仲間たちを犠牲にすることなど耐えられない。


皆には囮となってもらって奴以外の人類軍の気を引き付けるという危険な役割を引き受けてもらえば、奴と私が思いっきり戦え、そして、因縁の戦いに勝利できるはずだということで今回の囮作戦を納得してもらっている。


私は漆黒の霧から黒い霧が完全に切り離されたことを確認してから、私の因縁の戦いにこれからの巻き込まれることになる二人に向き直った。


「皆、行ったようだな。

これで大きな気掛かりが無くなった。

思いっきり戦える。

それでは私たちも向かうとするか、奴の下に。」


私は今直ぐにでも奴の足を剣で切り飛ばしたいという逸る気持ちを押さえて、極めて冷静を装って二人に話しかけた。

しかし、既に体は奴の方向を向いて、足は奴の下に歩き出そうとしている。


「お嬢、落ち着け。

まるで恋人が玄関で待っているようなはしゃぎっぷりだぞ。

このまま突撃してしまいそうだな。

作戦では初撃は儂がもらうことになっているが、本当にそれで良いんだな。」


既に歩き出した私は背中越しに聞こえるじいの問いにつぶやく様に答える。


「奴に恋い焦がれる恋人みたいだと。

何を言っている。

奴の首を早く狩りたい、死神の気分なんだけど。

仕方ないじゃない。

私がまずは奴にぶちこみたいけど、確実に奴を足止めするには私では力不足だから、じいに任せることにする。」

「なぁに、一発だけだ。

その後はお嬢が好きにすれば良い。

儂はこの初撃一発に去年の戦闘で逝った息子やかつて部下たちの無念を込めさせてもらう。」


じいの話を背中で聞いて、私は何とも言えない気持ちになった。

去年の戦闘で彼らが逝ってしまった原因を作ったのは私だ。

私が迂闊だったばっかりに、大切な仲間を失ってしまった。

私はじいの今の言葉が心に突き刺さり、そのまま顔が歪むのを感じた。

背中を向けているので、そんな醜悪な顔をこれから一緒に戦ってくれる2人に見られずに済んだのは幸いだ。


絶対に奴を狩る。

去年の雪辱を果たすため、いや、私をかばって逝ってしまった仲間たちの鎮魂のために。


少し歩くと副官が指先で私の肩を軽く突いてきた。

私が立ち止まり振り向くと、声を潜めて話し始めた。


「奴がいました。

相変わらず、手を派手に動かし、喚きながらうろうろしていますが。

副隊長は奴の姿をここから捉えることが出来ますか。」

「ああ、あの人類の若造のことか。

こんな戦場のど真ん中で単身で何を喚いているのやら。

まるで盛りの付いたサルだな。

まぁ、直ぐに静かにさせてやるが。」


じいは一撃で決着を付けようとしているのか。

それはまずいな。

一発で楽にしてやったら奴が喜ぶだけだ。


「じい、一発で殺って、楽に死なせてはだめよ。

あいつのおかけで逝ってしまった仲間の数だけ苦しんでからでないと。」

「わかった、わかった。

作戦通りにすればいいんだろ。

もうやってしまっても良いんじゃないか。

儂だったらここからでも問題なくやれるぞ。

間抜けの仲間がやって来ると面倒だしな。」


じいはそう言うが、奴の仲間がやって来ても何ら問題はない。

この面子で脅威になるのは雷属性魔法術士の奴だけだ。

奴の動きを止めてしまえば後はどうにでもなる。

奴の魔法以外は、漆黒の霧の使い手の私や黒い霧の使い手の副官が居れば、我々に発動することはない。

接近戦ならば人類の兵が何人来ようと、それに後れを取るような鍛え方はしていない。


「では、そろそろ打ち込むみますぞ。」

「じいが奴に初撃を打ち込むと同時に、私と副官はこれを広範囲にばらまくぞ。

じいも初撃がうまくいったら、こっちをばら撒くのを手伝ってくれ。」


私は背負ってきた袋を開いて、中身を副官に見せながら指示を出した。


「出来るだけ広範囲に、出来るだけ数多くのこれをバラ撒いておけばいいんですよね。」

「そうだ、頼んだぞ。」


私はその袋から特殊な矢を一本引き抜くと手に持っている弩につがえた。

副官も自分が背負ってきた矢を自分の弩につがえた。

風魔法術士がいれば魔法で作り出した風に乗せて一度に多数の矢をばら撒けるのに。

魔族に風魔法を期待するのは間違っているが、矢を一本一本打ち込むのは骨が折れて、始める前からうんざりするな。


そう思っているとじいが二回りも大きい弓にこれも二回りも太い矢をつがえ終わっていた。


「お嬢、用意は出来たぞ。

戦闘開始の、昨年の無念を晴らす指示を。」


だから、じいが殺ってはだめだって。

それは私の役目。

この私の小さい矢で針のむしろにして、じいの炎属性魔法でじりじりと身を焼き、助けに来た仲間を副官が黒い霧で翻弄し、仲間が絶望しながら死んで逝くのをその目に焼き付けなさい。

そして、最後に私の、この私の闇属性魔法で練ったとっておきの毒矢で身を焦がしながら逝かせてやる。


そのような光景がふと頭に浮かんだ私はきっと、戦闘前だというのに清々しい顔をしているに違いない。


「それでは奴に攻撃開始。撃てぇぇぇぇ。」


私は叫んだ。


ここまでの成果

魔力回復: 20% + 20%(ボーナス♡) + 20%(ボーナス♥)

次にスキルを発動するまでのクールタイム: 20時間00分

(エンが雷属性魔法術士? )

(イリーナっておちゃめなんだからぁ。(おばちゃんターン))

(恋に焦がれると相手が天使に見えてくるってやつね。

弩阿呆君、うかうかしていると本当にイリーナに弩スケベ君を持っていかれるわよ。(腐女帝様ターン))


活動報告に次回のタイトルを記載しています。

お話に興味がある方はお読みくださいね。


感想や評価、ブックマークをいただけると励みになります。

よろしくお願い致します。


本作品は前作「聖戦士のため息」シリーズのパラレルワールドの位置付けとしています。

本「聖戦士のめまい」とともに「聖戦士のため息」シリーズも合わせてお楽しみいただけたら幸いです。


"聖戦士のため息シリーズ "

シュウとエリナ、イリーナ、輪廻の会合に集いし面々が活躍するサーガをお楽しみください。


・本編 : 聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます

・別伝1 : 死神さんが死を迎えるとき

・別伝2 : 優しさの陽だまり

・別伝3 : 陽だまりからの贈り物 優しさの陽だまりから

・外伝 : アラナの細腕繁盛記 越後屋の守銭奴教繁盛記

・別伝4 : 炎の誓い


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