15話目 おばばは理不尽
「やっぱり、みっちゃんはちゃんとレベル3のアースシールドを発動しているんじゃない。
ということは、教官の言う通り、リュウ君が転写された魔法の魔力を奪っているから、この程度の土壁しかできないっていうことよね。
これではっきりしたわ。
リュウ君、お前がすべて悪い。
教官、リュウ君への罰として、魔族の陣地に転写魔法なしの裸単騎特攻を提案します。キリッ」
「ジェンカはどうしてもリュウ奴を裸にしたいみたいだな。
そういうのは休日に隣町のいかがわしい宿でやれ。
止やせんぞ。
戦場に出たら、戻ってこれる保証はないんだ。
今のうちから好きなことは存分にやっとけ。
あぁっ、趣味に夢中になりすぎて、寮の門限には遅れんなよ。
あとはそうだな、リュウの体に刻み込まれた鞭の痕は水か土魔法術士に直してもらっておけよ。
噂になると面倒だぞ、リュウ。
ただし、エレンには頼むな。
私もやりたいとか言って、いかがわしい宿に逆戻り。
お前たちの外泊願いが事後で提出され、その処理に担任の俺が煩わされる。
そんなことで残業はかんべんな。」
それを聞いたおばちゃんが真っ赤になって、固まってしまった。
「ねぇ、おばちゃん。町のいかがわしい宿ってどんなところ?
そこで何をするの?
鞭の痕がどうして俺の体に着いちゃうの? 」
「おまえ、マジ、逝け。
私が引導を渡してやる。
首を差し出せ。」
「皆さん、私のせいで争わないでください。」
みっちゃんが叫んだ。
その目の縁には涙を溜めて濡れていたが、目の芯には毅然とした光をたたえていた。
「みっちゃん、君のせいじゃないよ。
すべてはエンに匹敵するスケベなおばちゃんがいけないんだ。」
そう俺が言い終わるか終わらないか、俺が腹筋の力を抜いた瞬間を狙って、俺の腹に鉄パイプの乱れ飛んだ。
マジ、逝っちゃう。
わかった、わかったから。
そんなに俺の裸が堪能したいんなら、ここで今すぐ脱ぐから、鉄パイプの乱舞は止めれぇぇぇ。
"逝けやぁぁぁぁぁぁ。"
「あぁぁっ、ジェンカ先輩、もうやめてください。
土壁が小さいのはリュウ先輩のせいじゃないんです。
私のせいなんです。」
「こいつが鉄パイプを食らっているのはみっちゃんのせいじゃないの、こいつがド阿保で、エロいのがいけないの。
それを直すにはこうするしかないの。
それでもド阿保が治らなかったら、人生最後の川を渡らせてしまうのが人類のためなの。
わかって。」
「でもでも、やっぱり私のせいなんです。」
その時、副業が厳つい自由業の強面の方が再び動いた。
「リュウ君が鉄パイプをジェンカさんからありがたく頂いているのは君のせいってどういうことですか。
もう一度理由を話してもらえますか。」
「先輩が作った土壁が小さいのは私のせいなんです。
リュウ先輩に魔法防御系の魔法を転写する依頼をいただいた時にはっきり教官に言いましたよね。
私はアースシールド"ミニ"・レベル3に漸く到達したばっかりですって。」
そう気丈に答えたみっちゃんの目元にはすでに涙はなかった。
漸く理由を説明できた達成感にも似たすがすがしい表情だ。
それとは対照的に俺たちの表情が凍り付いた。
鉄パイプで乱舞していた便所掃除のおばちゃんもあまりにトイレが汚くて茫然としたときと同じように固まった。
「「「「「ミニィィィィィィィィィ。」」」」」
「はい、アースシールドミニです。
だから、先輩が転写魔法で増強したこっちの土壁がアースシールドミニ・レベル5、こっちの後で作ったのがアースシールドミニ・レベル6の土壁です。
私もリュウ先輩もさぼってたわけじゃないんです。」
そう言うとニコっとみんなの方を見て微笑んだ。
あっ、マジに俺の真の女神様だ。
「ということで、俺もみっちゃんもちゃんと仕事をしていたのに、鉄パイプを食らわせたり、墓標に名前を刻んだ方々、俺に対する今の心境を一言。」
掃除のおばちゃんと狂暴種の幼女は固まった。
あれは水属性魔法の上位魔法である氷属性魔法氷結・レベル4(マイナス40℃)を食らった時の表情だな。
数秒の沈黙
あっ、なぜか掃除のおばちゃんの表情が緩んだ。
汚い便所をピカピカにした達成感にも似た、義務から解放された表情だ。
「おっほん、そもそも教官がみっちゃんに魔法防御系の魔法の転写を依頼した時にアースシールドのミニであることをきちんと把握していれば、こんな騒ぎにはならなかったと思いまぁ~す。」
おぉっ、問題の核心をついて、己の所業を胡麻化すつもりだ。
「そうだぞうだ。俺もそう思うぜ。
エンがスケベでなかったら、あいつを木に吊るす必要もなく、墓標にも名前を刻む必要がなかったんだ。
悪いのは"ミニ"というところを聞き逃した教官だ、俺は何も悪くねぇ。」
狂暴な幼女がおばちゃんのすり替えに便乗だぁ。
えっ、でもエンのスケベと土壁を俺の墓標にしてしまった件は関係ないよな。
そうだよな。
まぁ、鉄パイプの件よりも俺に対するダメージは大したことないから、ここは"大人"の対応としてその点を突っ込むのは止めよう。
相手は自称15歳の胸がつるんっとペタッンコな幼稚園児の狂暴幼女だし。
「それで、みっちゃんに転写魔法を依頼した教官はどなたなんですか。」
おぉっ、自分に穂先が向かないように攻める攻める、さすがおばちゃんだ。
ジェンカは間違いなくおばちゃんスキルがMAXのレベル10だ。
口じゃぁ、絶対に勝てないぞ。
その言葉を聞いた義足の教官が真っ青になって、腰が訓練場の外に向かって今にも逃亡しそうになっている。
「申し訳ない、この二人で頼みに行ったのだけれど、ミニの部分を聞き逃していたようだ。
みっちゃんとリュウ君、そして、みんな、大きな騒ぎになって申し訳ない。」
「わりぃ、聞き逃しちまった。
さって、時間もだいぶ食っちまったし、そろそろ訓練を始めっか。」
「すいません。"わりぃ"の一言で終わりですか。
それではあまりにサボりを疑われたリュウ君がかわいそうです。
もうちょっときちんと謝罪してください。」
おぉ、攻めるねぇ、おばちゃん。
騒ぎが大きくなったのはおばちゃんが鉄パイプをぶんぶん振り回したためだと思うぞ。
そこを突っ込まれたくないから教官を攻めるという大胆なおばちゃんの作戦だよ。
誰か掃除のおばちゃんに突っ込もうよ。
"うっさいわよ、便所草がぁ。
踏みつぶすわよ。バンバンって。"
「ジェンカさん。そう、我々を攻めないで。
謝罪はしたんだし。」
あぁこれって、意訳: これ以上俺たちを嗅ぎまわると隣町の花街に年季奉公に出すぞ。ということだよな、何せ教官は副業で強面の厳つい自由業を営んでいるわけだし。
手っ取り早くもめ事を片付けに入ることになるぞ。
まぁ、おばちゃんは男の裸を見るのが趣味のようだからその方が良いか。
本業が花街で年季奉公、副業で肉壁の穴の生徒という流れだな。
"誰が男の裸を見るのが趣味だってぇ。
もう、わかった。
さすがに花街に売られちゃまずいから、この辺までにしておくわ。"
えっと、どうやったらそのこれぐらいにしておいてやるという上から目線になれんの。
それに俺への謝罪が・・・・・・
鉄パイプを握りしめるおばちゃんの拳が光ったような気がするから、俺もこの辺でやめといてやるよ。
"どういうことかなぁ、私に対する上から目線。
鉄パイプの教育が足りなかったようねぇ。
さっ、その体でお勉強してもらいましょうか。
鉄パイプの後だとわからないぐらい全身くまなくね。"
うぁぁぁぁぁ、ごめんなさい、ごめんなさい。
もう二度と、便所掃除のおばちゃんなんて上から目線で言いません。
これからは掃除のおばばと呼ばせていただきます。
がぁぁぁぁ、なんで俺がおばばに謝っているんだぁ。
その後、訓練でアースシールドミニ・レベル6を12枚組み合わせて、みんなの魔法を受け切りました。
漏れてきた炎で負ったやけどの治療をお願いします、エレン教官。
治療中はその胸の中で泣いてもいいですか。
窒息しても本望です。
ここまでの成果
魔力回復: 1%
次にスキルを発動するまでのクールタイム: 49時間51分
(おばばの理不尽さに負けて魔力回復率が後退してしまいました。)
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。
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