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30話目 最前線の向こう側 ついに見つけた

"イリーナ、お前の骨の髄まで俺がかわいがってやるぜえ。"


はぁ?


人類軍の間抜けな新兵が私をかわいがるだと。


私が間抜けが放った言葉を聞いて呆けていると意味深な顔をしたじいがつぶやく様に言った。


「"かわいがる"というのは愛でるのか、或いは真逆のぼこぼこにするのか。

どっちなんだ。」

「あ゛っ、私が間抜けに何で愛でられたり、ボコられなければならないのだ。」


じいのつぶやきに思わず大声で反論した私に、じいや副官、周りにいた3人の中隊本部員、そして、第1と3小隊メンバーが完全に動きを止めて、私の方を目を見開らきながら注視してきた。

私は愛でるというじいの言葉と思わず大声が出てしまったことに顔が赤くなるのが分かった。


「お嬢様、声が大きいです。

ここは敵のど真ん中で作戦行動中である事をお忘れなく。

それに先ほどもありましたように、間抜けの叫ぶ"イリーナ"という人物がお嬢様のことを指しているとはとても考えられませんが。

あの間抜けとの接点などないのでしょ。

やはり名前が同じ他の者を指しているものと思いますが。」


固まった状況から抜け出た副官が再び私の側に来て耳元でささやいた。

うっ、じいの言葉で完全に冷静さを失ってしまっていた。


「皆、すまん。

もう大丈夫だから。

それぞれの任務に戻ってくれ。」


私は努めて冷静さを装い、漆黒の霧から声が漏れ出ないくらいの大きさで皆に謝罪と指示を出した。

皆は、おそらくはまだ何事かとは思っているかもしれないが、私の指示に従ってそれぞれの任務に戻っていた。

じいも私を動揺させてしまった責任を少しは感じているようで、何事もなかったかのように別の指示を求めてきた。


「お嬢、そろそろ攻撃してる第2、4小隊と第1、3小隊を交換させますか。」


私は頷くことでその問い合わせに許可を与えた。

じいに向かって声を出すと何か噛んでしまいそうで、頷くだけにしたのだ。

しかし、私にこんな思いをさせるとはゆるせんな。

間抜けのくせに。

まぁ、そんな間抜けの意味のない行動で、大きな戦いの帰趨が決まったことはこれまでの歴史の中で一度や二度ではあるまい。

やはり、間抜けだと放置しないで自分の目で一度は確認した方が良いか、近距離にいる敵だしな。

後々後悔しないためにも。


私は後ろで控えていた副官に声を掛ける。


「副官、私の名前を叫んでいる間抜けを一度、自分の目で確認したい。

間抜けがいる方に案内してくれるか。」


副官は少しびっくりしたようだが。


「お嬢様が、自ら・・・・・。

わかりました、憂いは晴らしておくべきかと私も思います。」


別に憂いてはいないのだが。

間抜けの話に何で私が憂いなど覚える必要があるのだ。

ただ、間抜けの口から私の名が出てくることが許せないという幼稚な考えが頭をよぎったのかもしれないが。


「副官行くぞ、丁度攻撃部隊の交代が行われて、部隊が移動を止めている。

とにかく、皆を漆黒の霧で覆ったままで行けるところまで出るぞ。」


そう言って、副官に案内を促した。

間抜けの所に案内を頼むなど副官に命ずるのは申し訳ないのだが。

やはり見てみたいという心の衝動が抑えきれない。

私と副官は小隊の交代に気を使っているじいたち中隊本部員にそのままここで任務を続ける様に手で合図を送ってから、この場を離れた。


間抜けの周囲には先ほど副官が黒い霧を張ったので、それを目指せば実際は一人でいけないこともないのだが。

護衛も兼ねて副官には案内をしてもらう。


味方に張った漆黒の霧が消えないという条件下ではそれほど先に進むことはできない。

40mほど前進したところで停止せざる負えない。

ここから見えるだろか、その間抜け面が。

私は副官に間抜けのいる方向を示してもらう前に黒い霧の方に目を向けた。


いた。


あいつが間抜けか。

確かになぜか万歳をして、後ろを向いて何か叫んでする。


「イリーナ、お前の骨の髄まで俺がかわいがってやるぜえ。

いるんだろ。

わかってんだぞ。

早く俺に顔をみせろぉぉ。

たっぷりとかわいがってやるよぉぉぉぉぉぉ。」


間抜けが。

何をぬかす。

お前こそこちらを向いて顔を見せろ。

私が闇属性魔法でその間抜けた言葉が出てくる口に毒でも放り込んでやる。


そんなことを思っていると、そいつはついにこちらの方を振り向いた。


「あ゛っ」ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ。


私は人生で一番の大声を出しそうになるのを何とか両手で口を押えて堪えることに成功した。

この状況で一言漏れたのはしょうがないだろう。


そう、間抜けは奴だった。

奴だ。

奴だ。

奴だ。

いつに見つけたぞ。


何がかわいがってやるうぅぅぅぅだ。

それはこっちのセリフだ。

だっぷりと生きていることを後悔するほどに、早く死神に引き渡してほしいと懇願するほどにかわいがってやるからな。

覚悟しろ。


私は逸る気持ちを落ち着けるために、慌てて奴の前に出て行ってせっかく見つけた奴に逃げらないようにするために静かに息を吸った。


私は口に人差し指を当てつつ、側にいる副官の袖を掴み、静かにゆっくりと後退を促すためにそっと引っ張った。

そして、交代が終了して再度最前線にいる敵の後方を攻撃している我が中隊の本部のところまで後退して来た。


「お嬢、例の間抜けがどうかしたのか。」


じいは私の表情から何か異変を感じたのか、私にその様に問いかけてきた。

私は内心の興奮を表に出さないように静かに答えることにした。


「今、間抜けを確認した来た。

奴だった。

これから作戦を変更する。」


移動しながらの敵本隊後方への攻撃を一端中止させ、新たな作戦を開始するためにじいとその仲間3人、そして副官の中隊本部員を私の周りに集めた。


「近くに奴、人類の切り札である雷属性魔法術士がいる。

今のところ近くには奴の仲間はいない。

そうだな、副官。」


副官は私の問いかけに頷くことで合意を示した。


「今日の作戦を変更し、奴を狩ることを目標とする。

新しい作戦はこれまで確認し合ってきた通りだ。

指示を出すぞ。

第1~4小隊はそのまま最前線の敵後方に攻撃を継続しつつ、急ぎ、敵左翼後方より離脱し師団本隊と合流せよ。

私の漆黒の霧から黒い霧に防御が変るので、敵に発見されるかもしれん。

攻撃よりもこの戦場から無事に離脱することを心掛けよ。

指揮は貴様に任す。

あっ、背負ってきた例の物はすべて於いていけ。

さっ、作戦を開始せよ。」


私はじいの仲間の一人に指揮を任せる旨の命を出す。

じいとその仲間たちは頷くと、作戦を変更してこの日のために用意してきた特別な作戦を実行する旨を伝えるハンドサインを各小隊指揮官に送っていた。


「悪いがじいとアーラは付き合ってもらうぞ。」

「お嬢、儂は別に構わんが、本当にやるのか。」

「じい、何度も話し合って決めたことだ。

今更変えることはない。」


そうじいに投げるような口調で返答して、じいの仲間たちがここまで背負ってきた例の荷物の一つを拾い上げた。

じいと副官も既にあきらめという覚悟が出来たのかそれ以上は口を開くこともなく、やはり、置いてある例の荷物をそれぞれ拾い上げていた。


「皆が黒い霧を発生し、移動を始めたら我々も行くぞ。」


私の傍らに立っているじいとアーラに命じるように言って、皆が新たな作戦を実行するのを静かに待った。


ここまでの成果

魔力回復: 20% + 20%(ボーナス♡) + 20%(ボーナス♥)

次にスキルを発動するまでのクールタイム: 20時間00分

(じいさんの仲間たちは何を背負ってきたんだ。)

(わざわざそこまで背負って移動してきたんだから、お弁当じゃないの。

遠出をするときの必需品よね。(おばちゃんターン))

(違うわよ。魔族軍の購買で売れ残ったうっすい本を人類軍に売りつけるのよ、これから。

う~ん、どこの世界も返品処理はつらいのよねぇ。(腐女帝様ターン))


活動報告に次回のタイトルを記載しています。

お話に興味がある方はお読みくださいね。


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