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26話目 最前線の向こう側 秘かに燃える心

私は副官が師団司令部に報告に行って戻ってくるのを一人で待っている。

私の平時の身分からしたら多くの家臣が面前に控えていても何ら不思議ではない。

しかし、ここでは一中隊長として表向きは扱われているから、副官が出掛けてしまったら私は一人になってしまう。

まぁ、中隊長に副官なんぞが付いている時点で、とんでもない厚遇なのだが。


師団の最前線基地内の奥で私の身が危うくなるとすれば、それは他の公家の暗殺者だろう。

他の公家から私の身を守るという意味では、我がチェプト家とその縁者、それらの家人と領民だけで構成されたこの師団と寝起きを共にすることが最も信頼できる安全な場所となる。

身内で構成された一軍によそ者が混じることは難しいのだ。

まぁ、縁者から裏切者が出ることは珍しくはないが、ほとんどの場合にはそう言う輩は私に手を出す前に師団からいつの間にか消えてしまう。

ここは戦場のど真ん中ではあるが、本質的な敵である人類軍の姿は容易に捉えられるので、公家の集まる帝都の雑踏の中、笑顔を見せながら平気で毒やナイフを突きつけてくるような輩の中に居るよりはるかに安全である。


それに戦争には何の役にも立たない公家同士の足の引っ張り合い、腹の探り合いを帝都で繰り広げるよりは、スパッと戦場に出て魔族の将来のために人類軍と戦っていた方が性に合っている。

まぁ、そう言う足の引っ張り合いが苦手というわけではないけど。


副官の帰りを待っている短い間につらつらとこの身を戦場に置くことになった言い訳を思い出していた。

ある意味、政治の場のかび臭さが嫌になり、帝都のことは母親や祖父母に投げ打って父親がいる戦場に逃げ出してきたというのが本当のところなのだ。

そうだった、去年の今頃までは。


今、私がここに居るのは奴に生きていることを後悔させるため。

本当はあのまま、あの戦場ですぐにでも奴をヤル機会を待ちたかったのだが。


今私が立っている戦場をもともと担当していた公家が帝都での政争に敗れて、その軍事力の源となる領地の多くを政敵に奪われてしまった。

その勝った政敵は転がり込んだ新な領土に自分の弟を入封し、新たな分家を創設した。

領土の多くは敗者からそのまま引き継いだが、軍隊はその数を3/4まで減らしてしまっていた。

そこで本家の方が低下した分家の軍事力を補うこになったが、本家と分家の両軍が離れていては十分なフォローが出来ないことと、それよりも引き継いだ軍隊が裏切り、まぁ、人類軍に寝返ることはありえないが、サボタージュ等の行為が横行し、兵数の減少以上に軍事力が低下することが懸念された。

そのため、分家と本家で担当する作戦地域を隣り合わせることで互いにフォローし易くすることや両軍を混成部隊に再編することで分家軍のサボタージュ等の不正行為を監視することを目論んだということだ。

この担当地域の変更を魔族軍の総司令部に奏上し、軍の最高指揮官である皇帝がこの事案を決裁したのだ。


この本家の隣で戦っていたのが我がチェプト家である。

その本家と我が家は同盟とまではいかないが、友好的な関係、政争でその本家に秘かに味方したぐらいには仲が良かった。

そこで、その本家からの奏上前に事前に当家に相談があり、没落した公家の作戦地域にチェプト家が代わりに入ることを当主であるお父様が快諾したのだ。

了承するに当たって、私は詳しくは聞いていないが、その本家との間でいくつかの密約といくつかの村々の支配権の譲渡を約束されたはずだ。

と言うことで、我がチェプト家の率いる一軍は戦地をこの地域に変更することになり、期日を選んで移動してきたのだ。


その分家軍と我が軍が戦地を交換した後に、その本家と分家の連合軍が奴らと戦ったという報告は上がっていない。

私の部隊が去年食らった人類の秘法である雷属性魔法のスタン、これまでになく強力で広範囲なスタン攻撃が人類軍から発動されたという報告も上がってきていない。


奴はもう既に別の戦場で逝ってしまったのか。


いや、何か別の理由で奴が戦場に現れていないだけだ。

奴は昨年より強力な打撃を我が魔族軍に与えるべく、今も人類軍の中で力を蓄えているはずだ。

より強力な敵となって、より倒しがいのある奴となって私の前に現れるはずだ。


奴と戦うために私は去年の戦いで崩壊した子飼いの精鋭部隊の再建に奔走することとなった。

その中で没落した例の公家の浪人兵、新たな分家の軍に編入されること良しとしない気概のある者も幾人か抱えることも出来た。

そして、数か月後、もともとの最精鋭部隊までとはいかないが、そこそこ奴と戦える部隊を編制することが叶ったのだ。


私は新たな部隊を得て、直ぐにでも奴を地獄に送り込んだやりたかった。

しかし、あれ以来、戦場に奴が現れることはなくなってしまった。

そこで、私は去年と同じことをこの新たな戦場で始めることにした。

いつか奴が現れることを期待して。


父親の指揮する師団本隊も私の作戦に、ほとんど去年と同じ戦い方だが、非常に協力的だ。

人類軍に攻めさせて我が軍はそれを完璧に受け止め、戦線を維持しつつ、ゆっくりと後退する。

敵の猛攻が緩んだ後に最前線を突破し、敵軍の後ろに回り込んだ私たちの中隊が炎属性魔法で敵を狙撃し、黒い霧や炎属性魔法の範囲魔法で敵の動揺を誘う。

調子に乗って攻め立てていた敵は隙だらけで、戦列が伸び切った敵は互いに連携を取った行動がとれなくなる。

そのため、始め人類軍は集中と連動によって火の出るような攻撃を繰り返し優勢であったのに、あっという間に形勢が逆転し、組織的に反撃に出た魔族軍に個別抵抗を試みる人類兵はほどなく飲み込まれ壊滅、或いはすべてを放り投げて撤退するしかなくなる。

我が軍は優勢に転じても逃げ去る敵を何処までも追いかけるのではなく、戦列がバラバラになる前に追撃を止め、そこで新たな戦線を形成するために戦列を整え直す。

人類軍より魔族軍の方が良く兵を制御できていて、意思統一された作戦行動が取り易い。

魔族軍が人類軍よりも部隊としての連携が優れている一番の要因は軍を編成する兵の背景にあると考えられる。

人類軍が基本的には様々な場所で育ったいろいろな背景を持った兵を集めて部隊を形成しているのに対して、魔族軍は公家と縁者、それらの家人、そしてその領民から編成されているために部隊としての意思統一と連携が取り易いのだ。

同郷の者たち、顔見知りの者たちが一緒に戦っているのだ。


だだし、この魔族軍の部隊編成方式には一つ大きな欠点があり、大敗するとその公家の領民の内で働き盛りの者が一気に減ってしまい、軍の再編はまだしも領地の経営そのものに影響が出てしまうのだ。

逆に言うと大勝した時には戦った者たちだけでなく領民までその戦勝に大いに盛り上がり、大勝ムードの中で領地は繁栄の道を進むことができるのだが。


去年もそうだが、一戦で大勝を求めるのではなくて小さな勝利を重ねつつ、人類軍を精神的にじわじわと追い詰めていく作戦を我が師団は得意としている。

精神的に追い詰めて行けば、人類軍の切り札である奴が出で来ざる得なくなるだろう。

もう、目の前の敵はそろそろ限界なのではないか。

奴がのこのこ出てくる日もそう遠くはないはず。

出てきたらたっぷりと味合わせてやる。

地獄に行く以上の苦しみを。


ここまでの成果

魔力回復: 20% + 20%(ボーナス♡) + 20%(ボーナス♥)

次にスキルを発動するまでのクールタイム: 20時間00分

(地獄に行く以上の苦しみってなんだ。)

(やっぱり御子息様とスパット生き別れになる事じゃないの。(おばちゃんターン))

(あっ、そうなったとしても弩阿呆君の弩スケベ君への愛に変わりはないよね。

むしろ、かわいそうとなってもっと燃えちゃうかも♥。(腐女帝様ターン))


個人的な都合(仕事量が増えた)で、今後の更新を当面は3の倍数の日に

変更させていただきます。


活動報告に次回のタイトルを記載しています。

お話に興味がある方はお読みくださいね。


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よろしくお願い致します。


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