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25話目 最前線の向こう側 揺れる心

汗と埃の臭いが染みついた天幕の中、私は敵が放った物理系魔法の着弾音に一つため息をついた。

また、血の臭いを嗅ぐことになるのか。

幾ら最前線とはいえ、この天幕まで敵に侵入されたことなどかつてない。

だから、出入りする兵たちの汗の臭いはするかもしれないが、血の臭いなどするはずもない。

それにこの天幕は私専用に張られたものであり、戦いで傷ついた将兵の救護施設ではないから血の匂いなどとはまして縁遠いのだ。


今日も戦場で血の臭いを嗅ぐことになるか。


敵から我が陣に届く攻撃音とこれから戦場に赴くことにため息をついていると天幕の外から声が聞こえた。


「お嬢、いえ、中隊長、入ってもよろしいですかな。」

「じいか、構わん、入れ。」


私の入室許可の返答に反応した、先ほどの攻撃音で私の後ろで2人分の戦闘準備をしていた副官が立ち上がり、前に進み出て天幕を少しまくり上げた。

まくり上げた天幕の先には堂々とした体格の、しかし、頭は既にすべて銀髪化した老兵が立っていた。


「じい、どうした。」

「中隊の出撃準備は既に整っていますぞ。」


私はじいの言葉に頷いた。


「そうか、やはり来たな。」

「はい。昨日の偵察結果、敵軍基地の動きがすこし慌ただしかったので、今日攻めてくるのではないかと思い皆に準備をさせておいて正解でしたな。」

「して、敵の動きはどうか。」

「相変わらずの力押しですな。

物理的な破壊力を持つ魔法をこれでもかと無駄に打ち込んでいます。

もう、10分もすれば敵兵が突撃してきましょうか。」


私は腕を組んでつぶやく様に言った。


「相変わらずの正面攻撃か。

では、今日もあいつは出てこないかもな。」

「まぁ、昨年とはかなり離れた別の戦場ですからな。

お嬢の宿敵が今対峙している敵の部隊に入っていることはありますまい。

儂にはその方が一安心ですが。

宿敵がそこにいるとわかったらお嬢は魔物化したイノシシのごとくただ真っ直ぐに奴の居場所を目がけて突っ込んで行くでしょうからな、敵味方の状況如何に関わらず。」

「私はじいの言うようなイノシシ武者ではないぞ。

なぁ、副官。」


私は直ぐにでも戦場に向かうに足りる準備をし終えた副官の方を振り向いて、同意を求めた。


「お嬢様は奴を目の前にして冷静に、秘かに流れる風のごとく狙撃する自信はおありですか。」


副官のアーラが何か冷めた、悟ったような口調で訪ねてきた。


「お嬢様は奴の生涯を一発で秘かに閉じてやることが出来ますか。」


出来るわけがない。

アーラの言葉に思わず手を強く握ってしまった。

表情も公家の直系に連なる女性とは思えないほど厳しい、修羅のような表情になっていることを自覚出来た。


「公家の姫君のお顔ではありませんな。

どんな謀略も笑みと共に流し去るあの賢く冷静なお嬢の態度とは思えませんぞ。

そのように冷静さを欠いた状態で部隊を率いたのでは、また、昨年のように・・・・」


じいの今の言葉に私はさらに厳しい、きっと、阿修羅のような顔になって行くのが分かった。


「失礼しました。

失言でした。

あのことは我々の調査不足が原因。

お嬢の指揮に何の問題もありませんでした。」


去年の惨敗を自分たちのせいだと言うじいの顔が少し引きつったのを私は見逃さない。

私の補佐と軍人としての指導をしてくれていた彼の息子とその部下たちは自らを犠牲にすることで何とか私を無事に自軍へ帰還させてくれたのだ。


「いや、敗戦の責はすべて指揮官の私に帰する。

誰かのせいにするつもりはない。

どんな功績を建てようとも、あの敗戦からは一生逃れることはできないし、そのつもりもない。

昨年、一命を私にくれて逝ってしまった皆の為にもこの身を労りつつ、賢く振舞い、敵を混乱の渦に沈めてみせよう。」


私はどうしようもない心の大波、去年の痛い犠牲を思うとどうしようもなくざわめく心を何とか沈めようとするために、出来るだけ冷静に言葉を発しようとしていた。


「よろしいでしょう。

それでしたら御敵が今日現れたとしても、飛び出すことなく秘かに一撃で仕留めるような指示を願います。

決して御手で仕留めようとは考えないでほしいものですな。

何時も言っていますが、人類軍に我々の姿を捉えられたら我々の敗け。

秘かに人類軍を混乱に陥れ、敵全軍を撤退させられたら我々の勝ち。」

「わかっている。」


軍に入って、いえ、私が戦場に出る前から教えられてきたこと。

それを一度だけ破ってしまった。

その結果が我がチェプト公家の最精鋭部隊の多くを一時で失うこととなった。


「それでは出ると言うことでよろしいですか、修羅たちの住まう場に。」

「我々に、いや、私に選ぶことなどできない。

敵に挑まれたら徹底的に叩き潰す。

それが公家の直系に生まれた私が戦場に出る意味だ。

戦場で、そして、あの場所でもがきながらも生き残らねば我が家は他の公家に飲み込まれるだけだ。」


「お嬢様、用意が整いました。」


副官のアーラが指揮官の印である軍刀とコートを差し出した。


「ありがとう、アーラ。」


私はそれらを受け取り身に着けて、一度息をゆっくりと吸ってから目の前にいるじいとアーラに静かに言う。


「06:40に我が遊撃中隊は我が師団の左翼後方に集合。

そこで今日の指示を出す。

皆に伝えてくれ、じい。」

「了解した。

06:40に我が遊撃中隊を師団の左翼後方に集合させよう。

それでは失礼します。」


そう言って、じいは敬礼の姿勢を取った。

私の返礼を確認すると、踵を返して天幕から急ぎ出て行った。

私が軍刀の重みを改めてかみしめていると副官のアーラが私の方に歩み寄って静かに語りかけてきた。


「中隊長、私も師団司令部に行って戦況を確認してきます。

何時もの人類軍のイノシシ攻撃だったら良いのですが。

昨日の人類軍の様子はこれまでと違っているような気がするのです。」


副官の言葉に私も同意するようにうなずいた。


「攻撃が近いというのは面前の敵が準備とか人員の移動等でざわざわしてくるので分かるが、それでも何とかその動きを隠そうとしてするものだが。

昨日は隠そうというそぶりはなくて、攻撃準備中だと言わんばかりのあからさまな様子だったな。

近々攻撃することを我々に知っていてほしいような感じだった。」

「敵に新たな策が生まれたのかもしれませんね。

我が魔族軍を罠にはめるような。」


あの時のように我々を罠にはめるか。

罠か。

もしかすると奴らが出てくるか。


そう思うと去年の敗戦の苦々しさと、今度は我々が完勝して見せようという高揚感、まったく正反対の思いが私の心に渦巻くのを感じていた。


副官が情報収集のために天幕から出て行こうとするのを呼び止めるように私は言葉を掛けた。


「副官、奴が出てくる予感がする。

情報取集の後にお父様、いえ、師団司令官にこの懸念を伝えてほしい。

そして、いつものように私たちの部隊も敵の後方に出撃することも。」


アーラは大きくうなずいた。


「わかりました、師団司令部にお嬢様の今の言を伝えます。

それでは失礼します。」


そう言うとアーラは私を残して天幕を出て行った。


遂に今日、奴に遇えるのか。

遇えるのか。

私に奴に遇うことが出来るのか。


やはり、奴に会って地獄の果てに放り込んでやりたいという気持ちと、会ってまた昨年のように地獄の苦しみを味わってしまうのではないかという二つの相反する気持ちに私は揺れ動いていた。

ここ最近の戦いではこのような気持ちになることはなかった。

絶対に奴に地獄を、地獄の灼熱の池すら生ぬるいと思うような苦しみを与えたいとずっと思って戦ってきた。


私がこんな焦りというか負の思いに囚われるとは。

やはり、人類軍の中に奴が紛れ込んだと言うことか。

私はアーラが戻って来るまで言いようのない、今まで感じたことのない焦りのようなもの中にどっぷりとつかっていた。


ここまでの成果

魔力回復: 20% + 20%(ボーナス♡) + 20%(ボーナス♥) ここで全リセットだぁ

次にスキルを発動するまでのクールタイム: 20時間00分

(ついに出てきたな。)

(出てきたわね。金一封が♡。(おばちゃんターン))

(リュウ君の恋のライバル登場で良いんだよね♥。(腐女帝様ターン))

(君たち、自分の欲でしか物事を見れないのか。)

(当然よぉぉぉぉ。(♡と♥のターン))


個人的な都合(仕事量が増えた)で、今後の更新を当面は3の倍数の日に

変更させていただきます。


活動報告に次回のタイトルを記載しています。

お話に興味がある方はお読みくださいね。


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よろしくお願い致します。


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