22話目 いざ初陣へ 黒い霧
現在、朝の05:30。
人類領でも北方に位置する第27師団が支配する領域は漸く日が上り、あたりに光をまき散らし始めていた。
春とは言えども日の出直後の北部地域の朝はかなり冷える。
上った日の光で暖まり始めた地面からは湯気が立ち始めていた。
独立旅団の新人肉壁ちゃんたちは全員がソンバトの肉壁の穴に入学したことからわかるように、みんなこの付近の出身だ。
これが第1軍団が差配している南方地域の出身者であれば、もしかしたら真冬に近いと感じてしまうかもしれない。
俺たち旅団は朝の04:00に起床し、05:00に第27師団の最前線基地を出発。
師団の偵察部隊を装いながら最前線基地の後方3kmを目指して行軍中だ。
06:00には第27師団本体が正面に布陣している魔族軍に攻撃を仕掛けることになっている。
それまでに俺たちは目的地にたどり着いて、旅団本来の作戦、標的の殲滅作戦に備えなければならない。
第27師団からの我々への補助としては、一緒に作戦に参加する再編2個大隊の派遣の他に、さらに2個中隊の偵察部隊を派遣してもらうことを要請した。
これまで第27師団が魔族軍を攻撃するときには、2~3個中隊を例の魔族偵察部隊を警戒のために索敵部隊として後方に派遣していたことから、今回もそれに倣うことにしたためだ。
第27師団が魔族軍をいつものように攻撃するつもりだとと相手に見せてやることで、標的の魔族偵察部隊を師団後方、俺たちの近くにおびき寄せる作戦だ。
これに釣られて標的がのこのこ出てくれば良し。
まぁ、出て来ても斥候職が実際にはその姿を捉えられるかはわからないけどな、これまでだと。
そこでだ。
第27師団が魔族軍を攻撃した後にその後方で標的が活動しない場合、もしくは標的が活動しても旅団や招集した再編2個大隊がその姿を捉え切れない場合に、そうここでエンの出番となる。
エンによるイリーナを新婚旅行(意訳: 終わりのない地獄巡り)へのお誘い作戦が発動することになる。
エンは既に俺たちとは離れて、第27師団本体の後方2kmの所に潜んでいる。
旅団の斥候職のゾンビさんとマスクマンさんも別々の所に潜んで、標的捕捉の準備を始めている。
旅団には斥候職が3人しかいない。
通常は2人一組、時には3人一組で活動する斥候職であるが、俺たち旅団の斥候職は一人で索敵活動を行っている。
これは索敵や監視の結果を本隊に持ち帰る連絡担当者が不要なため、索敵がで斥候職一人だけで可能となるのだ。
旅団がこのような少人数で十分な索敵が行えるのは、そう、おばちゃんのスキルの念話のおかけだ。
これにより本隊との連絡が瞬時に行えるため、索敵者一人で斥候が出来てしまう。
旅団は中隊規模にも関わらず、それによって出来た余力で専任の指揮班を配置することが出来ている。
それに姉御もこちらの要件を一方的に話すだけではあるが、念話のスキルが使える。
中隊規模ながらこのようにして指揮班が別途編成されているため、よりクールな作戦指揮がとれることは学生時代の実地訓練や実戦訓練で証明済みだ。
加えて、本隊へいちいち報告に戻る必要のない斥候を放てるため、俺たちはより広範囲な活動が可能だ。
その活動範囲は1個大隊にも勝ることになる。
今回、旅団と他の2個大隊で3角形を形成するように作戦地域を取り囲んでいる。
3角形の頂点の一つが中隊規模であるにもかかわらず、その活動範囲は残りの大隊に引けを取らない。
むしろ、俺たちだけでも作戦範囲の索敵をすべてカバーしきれているのかもしれない。
斥候職の活動範囲が部隊本隊の作戦行動範囲の最大となる。
索敵しきれない範囲で戦闘を行うことは通常はあり得ない。
師団の後方3kmに俺たちの独立旅団が陣取るのは、その範囲であれば十分な索敵により標的を捉え戦闘に突入し、殲滅することが可能だと戦力分析の結果から得られた答えなのだ。
そして、05:50に俺たちは旅団陣地を構える予定場所に到達した。
通常、敵を待ち受ける場合には土属性魔法で簡易陣地を構築するが、今回はそうしなかった。
既に我々を捕捉したであろう標的の魔族偵察隊に俺たち旅団をこれまでと同じ第27師団の後方偵察部隊で、立ち止まったのはここで索敵と休憩を取るためと思わせるために、魔法術士様様と指揮班を真ん中に居れ、他の肉壁ちゃんたちでそれを囲って警戒態勢に入った。
後、数分で第27師団の攻撃が始まる。
防御担当の肉壁ちゃんたちだけでなく攻撃担当の肉壁ちゃんたちにも防御系の魔法はこの陣地まで行軍する道すがら既に転写済みだ。
攻撃魔法の転写の方は、腐女帝様が俺にスタンと雷属性魔法フィールドを転写している以外は、戦況に応じて指揮班からどの魔法を誰に転写するかが指示されることになっている。
もう直ぐ、戦闘が始まるだろう。
朝靄がほとんど消失するころ、遠くで衝撃音が聞こえてきた。
いよいよ、始まったか。
師団の攻撃の初弾は、魔族、特に標的に戦闘が始まったことを知らせるため、炎と土属性魔法を重ね掛けした、灼熱の隕石落とし、メテオを発動させたのだ。
この魔法は土属性魔法で地面にある小さな石や岩を空中持ち上げて、それを材料として大きな岩を再生成し、出来上がった大きな岩を炎属性魔法で焼き付け、最後に目標に落とすことで成り立つ。
岩が大きいほど、高い温度で岩を焼くほど、より高いところから落とすほど、威力が想像もできないほど上がるのだが。
如何せん、この魔法は魔力をバカ食いする。
展開した一個大隊の敵を殲滅させる規模のメテオを発動するためには、おそらく、大隊規模の肉壁ちゃんの魔力をすべて捧げる必要があるだろうということだ。
さらに悪いことには小さな岩を高く持ち上げて大きな岩に再構築し、炎で焼いて落とすということで、魔法発動までのステップが多く、また、それぞれのステップが終了するまでにある程度の時間が必要ということだ。
高く持ち上がった岩を炎属性魔法術士が焼く間に、その高度を維持するのには土属性魔法術士も相当な魔力を消費するだろうし。
まぁ、大きな岩が出来上がった段階で、そのまま落とすかメテオが発動することはほぼ確定なので、やられる方は物理防御魔法の展開や避難することが簡単にできてしまう。
要するに見た目は派手だが、使いどころが難しいってやつだ。
しかし、こんな強い魔法を使えるんだぞっと、敵にアピールするためにはうってつけの魔法である。
また、今回のように戦闘が始まったということを敵と味方に、特に第27師団の後方に潜んでいるかもしれない標的へ知らせるには適した魔法である。
事実、今回発動することになっている人ひとり分の大きさのメテオでも最前線で戦闘が開始されたことが後方に展開している俺たちからも十分に認識することが出来ている。
派手な戦闘開始の合図に続いて、一つ一つは小さいとは思うが、まとまって大きくなった戦闘音が聞こえてきた。
初めに突撃する部隊の雄叫びと魔法を発動した攻撃音だろうか。
魔族の防御シールドに攻撃魔法が当たった音だろうか。
音のする方を見ると、黒い煙が立ち込め始めていた。
煙の間からは赤く光る物も見えた。
先制攻撃はうまくいったのだろう。
しかし、その黒い煙はやがて黒い霧のようなものに取って代わられようとしていた。
通常、魔族は人類軍に4属性魔法を使わせないため、或いは、魔法発動がキャセルするように闇属性魔法の黒い霧を発動させる。
黒い霧がどのようにして4属性魔法発動を阻害するかは良くはわかっていないが、魔力の流れを狂わすことで魔法として発現できないようにしているのできないかと考えられている。
この黒い霧の中では、人類軍の放った魔法は発動しないかごく弱い魔法になってしまう。
一方、魔族兵の放つ闇属性魔法は言うに及ばす、炎属性魔法の発動にも何ら影響を与えないという人類軍にとっては致命的な事実がある。
これは黒い霧が単に魔力の流れを狂わしているのできなく、人類の発動する魔法の原理のような根本的な部分を狂わしているためだと言う専門家もいる。
まぁ、肉壁ちゃんのスキルはなぜか発動するけどな。
でも、俺のスキルが発動しても転写魔法が発動しないんじゃぁ・・・・・・・
あっ、そこ、クソスキルって言わないようにな。
とにかく、黒い霧の魔法が発動しているところでは人類兵は肉壁ちゃんの防御スキルで守られるからまだ良いとしても、肉壁ちゃんスキルで攻撃的なものはほとんど持ち合わせていない。
よって、黒い霧の中では肉壁ちゃんが槍を掲げて突撃するぐらいしか攻撃方法が無くなってしまうのだ。
ここまでの成果
魔力回復: 10% + 15%(ボーナス♡) + 40%(ボーナス♥)
次にスキルを発動するまでのクールタイム: 21時間06分
(黒い霧、やべぇなぁ。)
(黒い霧が出る前にとっとと魔族軍を殲滅できればいいんだけどね。(おばちゃんターン))
(弩阿呆君と弩スケベ君が竹やりを掲げて特攻すれば黒い霧なんて関係ないのよ。
ちなみに魔法シールドも効かないから、裸特攻でね♥。
ついでに服もいらないわよね。どうせ逝っちゃうんだし。(腐女帝様ターン))
(何で服まで脱いで特攻する必要があるんだ。)
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
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