12話目 第104独立旅団の実態 若さの代償
"まぁ、小者隊長は平時には雑用係長、戦地では指揮小隊の雑用係で良いわね。"
戦地では"長"が取れて一般兵になっちゃうのか、おばちゃん。
"戦場での小者隊長はどうせ去年のように本隊で気絶しているか、両足を両腕で抱えて震えているかでしょ。
役に立たないやつに「長」何て大そうなものは要らないわいよ。"
姉御の話じゃ、この一箇月間での第104独立旅団の設立準備でもサボりが多くて全く使えなかったと言っていたな。
小者隊長は平時でも役に立たないので"長"は要らなくねぇか。
"でも、リュウ君。
平時も「長」を実情に合わせて取っちゃうと、小者"隊長"と呼べずにただの小者ってなっちゃうよ。
いくら使えないとわかっていてもさすがに古参兵を新兵が小者って呼ぶのもね。"
それなら"小者"隊長と呼ぶのもどうかと思うけど。
まぁ、理由はわかった。
影響のない平時だったら"長"を付けて呼んであげても体制に影響はないってことだな。
小者隊長の第104独立旅団内での立場についておばちゃんと議論していると、独立旅団司令官が微笑みながらもう一度俺たちを見回してから口を開いた。
「他に質問がなければ第104独立旅団の結成式を終了します。
参謀総長、御出席いただきありがとうございました。
それでは参謀総長がご退席される。
全員、敬礼。
真剣な顔に変わった司令官の敬礼の号令に反射的に俺たちは参謀総長へ敬礼の姿勢をとった。
参謀総長はそれを見てかるくうなずくと返礼を行い、直ぐに秘書官が開けたドアを通って退出した。
「直れ。
さてと、君たちはまずは学校の寮から官舎に引っ越しですね。
官舎はここから離れた場所にありますが、各方面軍のそれよりも近いですから安心してください。
風魔法術士のエリカさんとクリスティーナさんがいますので午前中には終わりますよね。
引っ越しの後は午後に早速、ミーティングがあります。
私は同席しませんので、今後の詳細についてはクリスティーナ副隊長から説明をお願いします。
第104独立旅団の今後の予定としては、7日後に第9軍団のベースキャンプに行って第27師団が布陣している最前線での任務についてもらいます。
任務の内容についてはついてはこれも今日のミーティングで詳細を確認して下さい。
そして、3日後の午後一に作戦案と部隊編成案を独立旅団司令部に提出、5日後までに最終案の裁可を取ってください。
1週間後には準備を終えて戦地に行ってもらいます。
ここでのこれ以上の質問は受け付けません。
それではクリスティーナさん、新兵たちを宿舎に案内して午前中に引っ越しを終えてください。
それでは解散。」
っと、笑顔のまま独立旅団司令官は略式敬礼をして、とっとと退出してしまった。
司令官が退出した後は他の独立旅団指揮も「これからよろしくな」と砕けた言葉と一緒に略式敬礼をすると同じようにさっと退出してしまった。
会議室に残されたのは第104独立旅団のメンバーと入り口付近に控えた秘書官の女性。
その秘書官も一礼すると扉を閉めて出て行ってしまった。
しばしの沈黙の後、漸く旅団指揮官のおばちゃんが口を開いた。
まぁ、立場上、おばちゃんが話をしないと始まらないよな。
「えっとぉ、クリスの姉御、マスクマンさん、グロさん、他の皆さんお久しぶりです。」
ゾンビさんと小者隊長はその他の扱いだ。
「そして、お淑やかな大男さんチーム、土壁チーム、火力バカ共も改めてよろしくお願いします。
司令官の話から察すると方面軍に配属されるよりもはるかに厄介な任務を与えられそうな部署に配属されてしまいました。
ですが、先ほどの独立旅団司令官の話にもありましたが、任務をしっかりとこなして必ず無事に帰って来ましょう。
それではクリスの姉御、副隊長、以後の指示をお願いします。」
姉御はおばちゃんの言葉にふっと目元を緩めた後、直ぐに姿勢を正して口を開いた。
「ジェンカ隊長、皆さん、よろしくお願いします。
それでは官舎に案内します。
ここから歩いて10分ぐらいです。
部屋の準備は既にできています。
あとは私物を寮から運び込むだけです。
私物を運び込んだ後の12時までは荷物整理の時間に充てても構いませんが、12時より官舎での食事、13時よりミーテイングを始めますのでそのつもりで行動をお願いします。
官舎は第104独立旅団専用で一階が食堂やミーティングルーム、事務所などがあり、2階が男性の部屋、3階が女性の部屋となっています。
なお、2階と3階は繋がっていませんので女性隊員はご安心を。」
「「ちっ。」」
二つの舌打ちが聞こえた。
エンとおばちゃんだ。
"これじゃリュウ君を夜這いに行けないじゃないのぉ。
せっかく学生寮の縛りがなくなったと思ったのに。
しょうがない、官舎の裏に洞穴を掘ってそこにリュウ君を毎晩連れ込めばいいか。
それとも指揮官権限で私とリュウ君は同部屋。
んっ、それが良いんじゃねぇ♡。"
「なお、任務以外は指揮官と言えども新兵ですから我儘は許されませんよ。」
姉御、おばちゃんの念話をハッキングできるのか。
姉御は念話の魔法が使えるけど、確か相手に自分の意思を一方的に伝えるものだったはず。
相手の意思を読み取るものではなかったのに。
もしかして、去年おばちゃんと行動を共にして新たな魔法かスキルに目覚めたか。
「ちなみに、私の念話は相手に私の意思を伝えるだけで相手の意思を読み取ることはできませんから。」
"絶対にリュウ君の意思を読んでいるわよね。
ちょっとう、まずいじゃない。
リュウ君に近づけないようにしないと。"
おばちゃん、どういうこと。
"リュウ君と念話して良いのは私だけなの。
これは正妻だけの特権なの、わかったかな、ポチ君。"
・・・・・いつの間に正妻の座に・・・・・
あっ、ということは、愛人がいてもいいのか。
"近所のタマ(意訳: 教会本山の地域猫の総称だ)なら許可してあげよう。"
・・・・・・・
「それではみんな私に付いてきて、官舎に案内するわ。
あっ、モーリツたち古狸は引っ越しを手伝ってあげて。」
その言葉にマスクマンさんたちは笑顔でうなずいた。
小者隊長だけは不満そうにしているが。
あんたは雑用係長なんだから率先して手伝ってよ。
「あっ、姉御、手伝うのは良いんだけど。
私まで古狸ってのはどうかなぁ。
化けられるほど年食ってないし。
それにこのピチピチの肌はまだまだ化粧でごまかす必要なんてないし。」
それを聞いた姉御の背後から黒いワカメが上るのが見て取れた。
「グロちゃん、わかったわ。
その若さを口ではなくて体で示して。
あんたの魔道具に風魔法の浮力を転写してあげるから新兵の引っ越しはすべて一人でやって。
尚、午後のミーティングに遅れたら命令違反とみなし、副隊長権限の簡易懲罰として20%減俸3箇月を命ずるわよ、良いわね。」
「げぇぇぇ、18人分の引っ越しを午前中でやるのぉ。
それって絶対に無理だから。
それにその簡易懲罰ってのはなんなのよ、聞いたことがないんだけど。」
「ぐちぐちいう前に動いたら。
だって、私に自慢するほど若いんでしょ。
口だけでなくて行動で見せてもらわないとね。
20%減俸3箇月、意外ときついわよ。
まぁ、若いから化粧品代なんて掛からないから懐が寂しくなることなんてないわよね。」
「あぁ確かに化粧品代はかからないけどフェレブとのデート代がぁ。
こいつ門前町のカフェのケーキの味を覚えて、何気に大食いすんのよね。」
デートと聞いた姉御の黒ワカメが火炎のごとく燃え盛るように見えたのは気のせいか。
「ぐちぐちと言ってないで早くいくぅぅぅ。
減俸20%から30%へ変更。
若いんだからデートは公園の水道のガブ飲みで十分だぁ。」
「ひえぇぇぇぇ。
もう、早くしないと間に合わない。
フェレブも手伝って。
さぁ、火力バカ共、寮に行くわよ。
まずはお前たちの引っ越しからだぁぁぁぁ。」
というと、グロイギャルさんはゾンビさんの手を引っ張り、もう一方の手で魔牛乳帝様からカラーリードを分捕ると会議室を疾風のごとく出て行ってしまった。
おぉっ、さすが若いと自称するだけのことはある。
さぁ、俺たちも引っ越しを済ませちゃいますか。
ぐずぐずして姉御に初任給を減俸されちゃぁたまんねぇからな。
んっ、グロイギャルさんは浮遊の魔法を転写してもらわずに出て行ったけど、リヤカーで引っ越しを手伝うのか。
ここまでの成果
魔力回復: 15% + 20%(ボーナス♡) + 30%(ボーナス♥)
次にスキルを発動するまでのクールタイム: 18時間33分
(腐女帝様、浮遊の魔法の転写よろしく。)
(良いわよ。
グロさんたちを見習って、弩阿呆君も弩スケベ君と仲良く手を繋いで引っ越しをしてね♥。
そして、そのまま官舎の新しいベッドでもつれあう二人♥。
でへへへへへへっ、3階の窓からロープを垂らして覗かんといかんなぁ。(腐女帝様ターン))。
(さぁ、どうやって夜這いを掛けてやろうかしら。3階の床をぶち抜くか(おばちゃんターン))
(おばちゃん、そんな軍の施設を破壊したらいきなり減俸処分で目標の特別報奨金ゲットどころじゃないぞ。)
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。
感想や評価、ブックマークをいただけると励みになります。
よろしくお願い致します。