13話目 こっ、これは予想外だぁ
幼年魔法学校の校舎の方から一人の少女が広い訓練場に降りてきて、そして、てけてけ駆けてきた。
んっ、きっとあれが俺の新しい女神様、みっちゃんだよな。
てけてけ、てけてけ、てけてけ・・・・・、なかなか俺たちのところまでたどり着かない。
でも、少女が急いでこちらにたどり着こうと必死になっていることは良く伝わってきた。
てけてけ、てけてけ、てけてけ・・・・・どてっ。
あっ、お約束のようにこけた。
こけ方がまたかわいい。
大丈夫か、どこかすりむいていないか?
少女はすぐに立ち上がって、転んで制服に着いた土を掃ってから、こちらの方を見て恥じらっている。
小学校から幼年魔法学校に上がって、一か月だもんな。
体力的にも魔法術士としてはまだまだ鍛錬する必要があるよな。
そんな魔法術士としてはまだまだ未熟な可憐な少女を、これが俺たちが守るべき者、俺たちを使役する者だと肉壁ちゃんたちが励ますような目で見ていると、少女は自分の拳を頭に当てて、首を傾げて、テヘッと舌を出した。
でたぁぁぁ、これだぁ、これが真の女神様だあ。
俺の心の闇をすべて取りはらい、ついでに狂暴なおばちゃんも滅して、温かい笑顔という希望の光で満たしてくれる。
君こそ、俺の女神だぁ。
鉄パイプを振り回す便所掃除のおばちゃんを一時でも女神様と超勘違いした俺を許してください。
マジでごめんなさい。
ここですべてを懺悔して、どんな罰でも受けますので、許してください。
取りあえず、似非女神の掃除のおばちゃんをロッカーに封印して贖罪させてください。
俺の隣で空気がピシッと割れたのを俺の敏感なほっぺたが感じ取った。
やばいと思った瞬間に、有刺鉄線巻きの鉄パイプが再び俺の腹に食い込んだ。
「えぇと、今日は物理耐性向上の訓練ではないと何度言ったら・・・・・・」
あの副業が厳つい自由業の強面の教官が絶句した。
さすが、掃除のおばちゃんだ。
この世の最強種はやっぱり"おばちゃん"という生物だったか。
その時、エンの首に繋げたロープを持ったやんちゃな幼女がみっちゃと同じようなポーズで"テヘッ"と言いやがった。
はい、ロープの先が子犬だったらよかったのに、そうしたら君も天使の仲間だったのに。
ロープに繋がったのが肉壁の穴の最強のスケベじゃな。
全く似合わん。
スケベな犬を使役するただの狂暴な幼女にしか見えん。
残念だったな。
すべて、エンが悪い。〆て良いぞ。
とっ、腹に食い込んだ鉄パイプに意識を刈り取られそうになりながら、残念な目でやんちゃな幼女を一瞥した。
肉壁ちゃん側ではそんな殺伐としたやり取りが続く間に、漸く、てけてけが終わって、みっちゃんらしき少女が教官の隣に到着した。
「今日の演習の手伝いをしてくれるみっちゃんだ。
幼年魔法学校の入学に際して行われる適性検査で優秀な成績を収めた才女だ。
上級生のようにとはいかないだろうが、今日の演習の手伝いとしては十分な能力を持っていると確信はしている。」
「彼女の魔法レベルとリュウ君の転写魔法の力を加味して、攻撃魔法をファイヤーボール・レベル6に設定しています。
攻撃魔法も防御魔法もぎりぎりのせめぎ合いとなるはずですから、相手を侮って訓練でケガなとしないようにお願いします。
回復役のエレオノーラ教官も今日は不在ですので。
それではみっちゃん、先輩にご挨拶を。」
みっちゃんは一歩前に出て、ちょこんと頭を下げた。
身長はおばちゃんと同じぐらいだが、あっ、むっ、胸が・・・・・・ぼよ~んだ。
近頃の中学一年生は発育がええのぉ。
"胸がどうしたってぇ。
私だって、まだまだこれから発育するのよ。
爆乳になってから後悔するが良いわ。"
いえいえ。
おばちゃんだってなかなかのものですよ。
隣のやんちゃな幼女に比べれば、ねっ。
"あまりうれしくない比較だわね。
まっ、あんまりおっきくても邪魔だしね。"
定番の言い訳ですな。
再び何かかが割れそうな音が聞こえようとした、その時に、首にロープを巻かれたエンがみっちゃんとやんちゃな幼女の胸に視線を往復させ、最後に幼女の顔を見て、プッと静かに吹いた。
エン、お前はこの状況をわかってんのかぁ。
お前の首に巻かれたロープは狂暴種の幼女が握ってんだぞ。
エンの密かなスケベな行動に気付いた狂暴種の幼女は顔を真っ赤にして、でも、無言のままロープを引っ張り、訓練場の外を目掛けて後方に歩き出した。
その行く先には大きな木が一本。
まさか、あそこに吊るす気じゃぁ。
「スケベに天誅を!! 」
静かに荒れ狂うやんちゃな幼女が呟くのをすれ違いざまに俺ははっきりと聞くことができた。
「遅れて申し訳ありません。
今日は皆さんの訓練のお手伝いに来ました。」
あっ、みっちゃんの挨拶が始まった。
かわいいなぁ。声も姿も。
某箇所だけは立派過ぎる大人だけど。
スケベがいなくなって神聖な雰囲気が戻ってきた。
女神様ぁぁぁぁぁ、ようこそおいでくださいましたぁぁぁ。
俺の頭からはエンと狂暴な幼女のことなどすっかり抜け落ちていた。
「それではぼちぼち訓練を始めるとするか。」
義足の教官もエンとやんちゃなの幼女の事など忘却されたようだ。
「みっちゃん、ここに有刺鉄線がまかれた鉄パイプをお腹に食い込ませているのが、今日、君がアースシールドを転写するリュウ君です。」
そう副業が強面の厳つい自由業の教官様が俺を女神様に紹介した。
この教官様も、エンとやんちゃなの幼女の事など忘却の彼方にしてしまったようだ。
俺は腹に食い込んだ鉄パイプを訓練場の彼方に放り投げ、キリリとした表情で挨拶をすることにした。
「俺がリュウです。
今日は俺なんかのために、転写魔法をわざわざ御掛くださるためにおいでくださり、まことにありがとうございます。
誠心誠意、務めさせていただきます。」
「先輩、後輩の私にそのような敬う言葉を使わなくても良いですよ。
普通に話してくださいね。ニコ、ニコ 汗
それに私のアースシールドは・・・・・・・・」
あぁっ、これこそ真の女神様だ。
肉壁の穴に積もりに積もった淀んだ空気、エンのイカ臭さ、おばちゃんが吐き出すババ臭さ、幼女の乳臭さが一気に澄み切った高原のようなさわやかな空気に代わっていくことを俺は肌で感じた。
あぁっ、このまま浄化されてしまいそうだぁ。
"お前、このまま消滅しろ、腐ったゾンビがぁ。"
「あっ、ごめん。
アースシールドの後の言葉が聞こえていてなかったよ。
ほんとにごめんね。
もう一度、話してくれるかなぁ。」
ああっ、このままずっと真の女神様とお話をしていたい。
今日の訓練は女神様との心の交流ということで良いよね。
魔法術士(まだまだ仮)と肉壁ちゃん(紙様かも)の信頼関係を高める訓練だぁ。
「その魔法レベルが3までしか上がってなくて、ごめんなさい。
先輩が転写した私の魔法のレベルを上げてくれるそうですが、それでもファイヤーボールレベル6を防ぎ切れるか心配なんです。」
「レベル3なら十分だよ。
俺が転写魔法としてレベル6まで上げられるから。
ファイヤーボール・レベル6は防御魔法レベル5で二人なら十分に守れるから。
あっ、もちろん、万が一、絶対にないとは断言できるけど、ちょっとだけ炎が漏れるといけないから、みっちゃんは俺に魔法を転写した後は教官の後ろに控えていてね。」
「はいっ、わかりました、先輩。
一緒にかんばりましょうね。ニコ、ニコ」
ああっ、このままこのさわやかな高原に永住したい。
「リュウ、一度みっちゃんに防御魔法を転写してもらって、発動してみろ。
問題なければ訓練を始めるぞ。」
空気読めよ、担任。
俺は今、女神様とさわやかな高原に二人きっりで永住していたんだぞ。
「それでは転写しますね。どこに転写しますか。」
女神様は満面の笑みをたたえたまま、俺に問うた。
「あっ、じゃあ、このショートソードにお願いしてもいいかなぁ。」
俺は腰に下げていたショートソードを引き抜いて刃先を下げたまま、みっちゃんの前に差し出した。
「これですね、行きますよ。
えいっ。」
みっちゃんは女神の微笑みから真剣な表情になり、小さな気合と共に魔法を転写してきた。
それに伴って、俺のショートソードが仄かに光を帯びた。
「先輩、それでは転写魔法を試してください。ニコ」
「おおっ、任せろ。」
レベルを2だけ上げるように俺はシュートソードに魔力を加えた。
そして、気合一発、転写魔法を発動した。
「えっ。」
"えっ。これってどういうこと? "
ここまでの成果
魔力回復: 2%
次にスキルを発動するまでのクールタイム: 47時間08分
(予想外の展開になり、スキルが後退しちゃったよ。汗 )
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
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