36話目 作戦終了 このまま終われないおばちゃん 後編
「おばちゃん、それでエンの奴はどんな情報を伝えてきたんだ。」
「情報というか、女性魔族兵の口の動きに合わせて、自分の欲望にまみれた妄想をグダグダ言っている感じなんだけどね。」
「確かに、人類も魔族も同じ言語を話すし、口から声が出る点では同じだからね。
口の動きを見ていれば、その場の状況と合わせて、何と言っているかある程度は予想が付くということね。」
「人類、魔族、エルフ族、獣人族はその見た目は違っているけども、二本足の歩行で体の大きさも骨格もそんなに大きくはかわらないらしいからな。
元は一つの種族だったとも考えている学者もいるくれぇだ。
注意深く観察していれば、口の動きで何を言っているかは斥候職であれば大よその見当位はつくってもんかな。」
腐女帝様と凶暴幼女はエンが観察していた逃げた女魔族兵が何を言っているかをある程度はわかると考えているんだ。
「それで、エンは何て言ってきたんだ、おばちゃん。」
おばちゃんは腰に両手をあてて、少し首を傾げている。
明らかにエンの伝えてきた情報に疑問を持っているんだろうな。
それでも俺の再度の要請に応えるように、エンが何を伝えてきたか話し始めた。
「エン君の観察では次のような会話が体が麻痺して口だけが動く男魔族兵と逃げた女魔族兵の間で交わされたと言っているわ。
ただし、エン君が伝えた来たまんまだと訳が分からないので、さらに私なりの解釈を加えたものを伝えるわね、それで良いわよね。
もう、その女魔族兵がエン君に近々に夜這いを仕掛けてくるとか、添い遂げるまで追い続けるとか訳の分からないことが混じっているんだもの。」
そう言って、おばちゃんは一つ大きなため息をついた。
「二人の魔族の会話というのは次のようなものらしいわ。
"お嬢様、お逃げ下さい。
我々は迂闊つにも新たな強力な敵の攻撃をまともに受けて、体を全く動かすことも魔法を発動することも叶いません。
このままでは直ぐに敵に見つかって、捕獲、或いは有無を言わさず殲滅されるでしょう。
せめて自由の利くお嬢様だけでもお逃げ下さい。
麻痺して硬直した我々に敵も気を取られて、影に隠れて逃げるお嬢様への追手は来ないでしょう。
さっ早く。"
"でも、私に、私の我儘で連れ出したお前たちを盾にして、私だけ逃げるわけにはいかない。
魔法に依る麻痺なので直ぐに解けるかもしれないじゃないか。
それまでは何とか私が敵を引き付けようと思う。
"何を言っているのですか。
私たちはいざという時にあなたの盾になるための存在。
今がその時です。
我々の使命を果たさせてください。
そして、お嬢様の役割はこの危機を脱出し、軍の本隊に無事に合流することです。
さっ早く。"
"それでも私だけが・・・・・。"
"なんとわからない方だ。
では、上官として命じます。
イリーナ小隊長は、今すぐここを脱出。
事の成り行きを第6軍司令部に情報として持ち帰れ。
そして、第6軍旗下の部隊の防御を固めるとともに、作戦の方針の変換を上層部に進言しなさい。
それではイリーナ小隊長、直ぐに出立しなさい。"
"くっ、・・・・・・・・わかった。"
そう言って、その女魔族兵は、話の流れからするとイリーナ小隊長かしら、上官に目礼すると踵を返して走り去ろうとしたようなの。
そして、その時、エン君とそのイリーナの視線が合ったような気がすると感じたって。」
「それって、1500m以上離れているにもかかわらず、お互いの存在を認識したって言う事なのかな、おばちゃん。」
「そういうことになるわね。」
「相手もエース格の優秀な偵察部隊の隊長だもんな。
もしかしたら、俺たちの中隊、いや、大隊の動きなんて初めから見えていたのかもな。」
「そして、いつもの通りの人類軍の動きだと高を括って油断していたら、リュウ君の雷属性魔法のスタン攻撃を食らってしまったと言うことかもね。」
おばちゃんは腐女帝様の方を向いて一つ、大きくうなずいた。
「エン君とイリーナは視線を交わしただけじゃないのよ。」
「おばちゃん、それって、エンとその女魔族兵が、1800mの距離でにらみ合った他に何かあったと言うことか。」
「エン君はにらみ合ったんじゃなくて、お互いに熱く見つめ合ったと言ってたけどね。
この辺から良く理解できないのよね、エン君の話は。
その二人の視線が絡んだ時に、イリーナ中隊長が口でつぶやいたみたいなの。」
「まぁ、当然、良い言葉じゃねぇんだろ、ジャンカ。」
「そうね。
まぁ、エン君は凄い美人と深い関係になったって、すごく喜んでいたけどね。」
「深い関係? 凄く喜ぶ?って、どんな言葉をその女魔族兵は言ったんだ、おばちゃん。」
「イリーナはカッと目を見開いて、言葉を投げ付けたようよ。
エン君が言うには愛の告白だって言ってたけど。
"貴様だけは許さん。
逆恨みかもしれんが、貴様だけは許さん。
貴様を亡き者にしないと、私の身を案じて私に付いて来た者たちをむざむざ戦場の塵にしてしまう。
私の慢心が起こしたことかもしれないが、それでもみんなの命の代償を貴様に払ってもらう。
首を洗って待っていろ。
早く殺してくれと懇願するほど、じっくりと殺ってやる。"
そう言うとイリーナは今度こそ踵を返して走り去り、いつの間にかエン君の視界から消えたらしいわ。
そして、その直後に残った麻痺した目標たちは自爆した様なの。
イリーナの言葉からすると、麻痺した魔族兵たちが自爆することはわかっていた感じね。」
おばちゃんの話で、対決した魔族部隊の凄まじい最期を感じ取った俺たちは再び戦場に心を沈めるように口を閉じてしまった。
「えっと、ちなみに今のはどこが愛の告白なんだ。
地獄の果てまでも追いかけて、生まれた来たことを後悔するほどいたぶってから殺ってやるという宣戦布告だよな。」
おばちゃんはまたまた一つ、大きくため息をついた。
「今のはエン君の話をきいて、私なりの解釈で変換したものなのよ。」
「ジャンカちゃん、ちなみにエンの弩スケベ野郎は何て言ってきたんだ。
まぁ、だいたいわかる気はすんけどよぉ。」
おばちゃんは座敷童帝様との場所取り合戦を一時休戦している凶暴幼女の方を向いて答えた。
「聞きたいの?
まぁ、一応、聞いた話をそのまま伝えるね。
"貴方様は逃さないわよ。
私の一方的な思いかもしれないけど、貴方様は私だけのもの。
貴方様を私のものにしないと、私の身を案じて私に付いて来た者たちをむざむざ無駄足にしてしまうわ。
私の暴走した恋心が起こしたことかもしれないけど、それでもみんなが命を張ってまでかなえてくれようとしたこの恋を貴方様に受け止めてもらうわよ。
体を洗って待っていてね。
早く抱かせてくれと懇願するほど、じっくりと魅了してやるからね。"
てな感じの話だったわ。」
「そんな訳の分からないエンの妄想を良くあそこまで筋の通った話に変換できたわね。
流石はジェンカちゃんだわ。
今度、年末に向けて執筆中の私の原稿の校正をお願いできないかなぁ。」
それいいかも。
おばちゃんが腐女帝様のうっすい本用の原稿を校正してくれたら、俺とエンの腐った絡みじゃなくて、少なくても男の子と女の子の淡い恋の話にしてくれるよな。
"まかせて、リュウ君。
エン君へのイリーナ隊長の復讐物語と、リュウ君が我慢できなくて私を押し倒して毎晩「今晩」する純愛物語に分けて仕上げてみせましょう。"
ここまでの成果
魔力回復: 15% + 17%(ボーナス♡) + 4%(ボーナス♥)
次にスキルを発動するまでのクールタイム: 22時間28分
(おばちゃん、押し倒して今晩するのが純愛物語なのか。)
(いいの、ポチの純愛なんてそんなものよ。下半身が先に暴走するものなのよね♡。(おばちゃんターン))
(うぁぁぁ、あたしの傑作がぁぁぁぁ。
盛りの付いたわんこの話になってるぅ。 (腐女帝様ターン))
まぁ、エンとの腐った絡みより、盛りの付いたわんこの方が良いよな。
うっすい本回避で、スキルが大幅UP。
おばちゃんは今晩に校正出来てボーナス♡プチUP。
腐女帝様はうっすい本が見る影もなく校正されてボーナス♥大幅ダウン
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。
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