33話目 作戦終了 ってなわけはなく、どうなってんだ戦況は
「エンには後から話をするよ。」
俺の言葉を聞いて、奴はにやっ♥としやがった。
女の子大好きな弩スケベのエンが、男が耳元に近づくなんて我慢できるはずはないけどな。
まぁ、普通に話をするよ。
というか昨日と同じように、夕食もほどほどに宿泊施設の女子風呂に覗きへ行って袋叩きに遇った上に、凶暴幼女に宿泊施設(もちろん男子の)の屋根に吊るされるんだから、おちついて話なんてできる気がしないんだが。
屋根に向かって叫ぶなんて真似もしたくないし。
「じゃぁ、約束したからね。
忘れないでよ。
おっほん。
では、ジェンカちゃんがなぜ雷属性フィールドを発動したくないか、その理由についてだったわよね。
そもそもスタンであれば生物が、神経束を持つものは特に有効、マヒするだけなんだけど。
雷属性フィールドはその発動範囲に縦横無尽に雷が走る、つまり、所かまわずに雷が落ちいてくる状態な訳よ。
ここまでは良いわね。
学校の訓練場での演習でも何度か転写雷属性魔法フィールドを発動させたことがあるわよね。」
「あぁ、確かに。
あの時は訓練場が焼け野原に、穴凹だらけ、焦げた臭いが一面に漂っていたよな。」
「でしょ。
だから、雷属性魔法フィールドを発動すると遠くからでも雷属性の、人類の切り札の魔法術士がいることが丸わかりになるのよ。
こんな局地戦でエースを引っ張り出してきたなんてことを魔族が知ったら、人類軍の余裕のなさが丸わかり、一気に力づくで人類軍を壊滅に追い込もうという機運が魔族軍に芽生えるかもしれないというわけなのよ。
士気の高い軍はその実力以上の働きをするのは用兵上の常識よ。
この後にせっかく目標を殲滅したとしても、魔族軍の士気を下げるどころか逆に上げちゃう懸念があるわけよ。
だから、ジェンカちゃんは雷属性魔法フィールドを発動したくないのよ。
わかったかな、弩阿呆君。
あっ、エン君の耳元で囁くように今のことを説明するのを忘れないでね。」
んっ、おばちゃんが今回は腐女帝様のことはバレても良いよと言ってたよな。
まぁ、バレずに済むならもちろんその方が良いけど。
"雷属性フィールドの中は焼け野原になるから、その中に目標や魔族が居た場合に黒焦げになるのよね。
できればスタンで麻痺させて目標がどんな奴らか見てみたいじゃない。
それに、敵ながら目標はかなり優秀な偵察隊、工作隊だわ。
その能力の一端でも知れれば、今は第17師団はかなり押されているけど、今後の戦いは有利に進められて戦線を元に戻す、いえ、逆に魔族領に押し入ることも出来るんじゃないかなと思って。
まぁ、その上でエリカちゃんとリュウ君の能力を隠せるなら、それはそれで良いんじゃないの。"
敵の情報を取りつつ、味方の情報は明かさないか。
さすが、おばちゃん腐女帝様の一歩前を行っている感じだな。
"ありがとう。「今晩♡」はまがい物の「今晩♥」になんて負けないのよ。"
俺にとって♥でも、♡でも見たくない今晩だな。
"なにぃぃぃぃぃ、ぽちぃぃぃぃ、私との「今晩♡」はいらないだとぉぉぉ、怒。"
えっと、それでエンたちは今放ったスタンの効果についてなんか言っていたのか。
スタンで何も得られなかったら、しょうがないから雷属性フィールドを発動してこの辺一帯を焼け野原にしても今日の勝利をもぎ取るんだよね。
"そうよ、今日の勝利なくして、うまい「今晩♡」はなし。
と言うことで、リュウ君、今晩は一緒にとことんまで楽しもうね。"
へっ?
「たった今、エン君から索敵の情報が入ったわ。
9時30分の方角、距離1800mに魔族の部隊を発見。
スタンの効果により、20人ほどの魔族が動けなくなっているとのことよ。
遂に捉えたわよ、目標を。」
"やったわ、これって今晩♡にGOoooooooよねっ。"
「さっ、スタン効果が切れない内に捕獲に向かいましょう。」
"とっとと捕まえて、出来るだけ長い今晩♡に突入しなきゃね。じゅるり。"
えっ、何やってんの目標は。
そんなに簡単に捕まって。
これでおばちゃんに今日の戦果のご褒美とか言われて強引に"今晩♡"になだれ込まれちゃうじゃないか。
"じゅるり、年貢の納め時ね。じゅるり♡。"
うぁぁぁぁ。
とっ、"目標"を捉え、今回の実戦訓練の目標を達成したのに、その幕切れが予期せぬことになりそうなんですが。
"私は初めから予期していたから。
ちゃんと勝負パンツを用意してきたわよ。"
まずい、まずいぞう。
そうだ、きっと今晩も女衒の元締め大隊長とエレン教官におばちゃんが呼び出されて、今日の作戦経緯について根掘り葉掘り聞かれている内にまた夜中になるはずだ。
うんっ、きっとそうだ。
神は俺をまだ見捨て切っていないはずだ。
"二人とも嬉々として今日の戦果を、まるで自分がもぎ取って来たかのように軍司令部に今晩直ちに報告に行くんじゃない。
私たちからの詳し報告は明日になるはずよ。"
がぁぁぁっ、所詮は女衒の元締め大隊長かぁ。
太鼓持ちの小者隊長を昇進させるような奴だったことを忘れてたぁ。
神と対極にいる奴だったぁ。
その時、後から思えば、この時に神が降臨したのかもしれない。
神に見捨てられてうなだれる俺の耳に左側から爆発音が聞こえてきた。
「まさか目標の別部隊が反撃してきたとか。
まだまだ、終わっちゃいなかったんだ。」
おばちゃんは俺との今晩を想像して緩んだでへへへへぇっ顔から、あっという間にキリリッとした精悍な表情に変わっていた。
「防衛担当者は敵の攻撃に備えて。
目標を監視していた斥候班に現状を確認するから。
残りはそのまま敵襲に備えつつ待機して。」
そう言うとおばちゃんは真剣な表情のまま黙ってしまった。
「どうしたんだ一体。
目標を捕らえたんじゃねぇのか。
弩阿呆、ちゃんと指示通りの距離にスタンを発動させたんだろうな。
昼が近いから腹減ったとか言って、魔力の注入をさぼったんじゃねぇよな。」
魔力の減り方から言って指示通りにスタンを発動したと思うんだが。
スタン範囲外に居た別動隊の奴らが仲間がマヒしているのを発見して、あわてて助けに来たんじゃないのか。
そして、その向こうに俺たちの姿を捉えたから、牽制を目的とした攻撃を仕掛けてきたんだろうか。
突然の爆発音を聞いて中隊の皆は勝利の余韻から、俺だけはなぜか敗北感が漂っていたが、一転して混乱した状況に陥ったことに戸惑った表情を浮かべていた。
小者隊長と火力バカ共だけはこんな爆発音にもめげずによだれを垂らして気絶したまま、さぼったまんまだったけど。
目標をスタンで絡めとったという情報に沸いた直後の爆発音、そして、再度の戦闘体勢維持。
スタン発動の準備をしている時の高揚感とはかけ離れた、これからどうなってしまうんだろうという焦燥にも似た悲壮感が中隊の中に漂い始めた。
暢気によだれを垂らしたまま気絶している小者隊長が羨ましい。
ちょっと殺気が湧いたぞ。
あぁっ、俺も小者隊長相手に殺気が湧くなんて大人げないな。
やはり心のどこかで現状を把握しきれない焦りがあるのか。
ここにきて漸く俺も一寸先が見えない戦場に出ているんだという怖れを感じ始めていた時に、斥候隊と念話をしていたおばちゃんが漸く口を開いた。
おばちゃん、早く教えてくれ。
何がどうなっているんだ、陣地の外では。
ここまでの成果
魔力回復: 13% + 24%(ボーナス♡) + 0%(ボーナス♥)
次にスキルを発動するまでのクールタイム: 24時間49分
(おばちゃん、さっきの爆発音は何だったんだ。)
(わかっているくせに♥。(腐女帝様ターン))
(わかるかぁぁぁぁぁぁ、怒)
不安でスキルダウン。
そして、腐女帝様のボーナス♥が一瞬で無くなった。
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
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