31話目 作戦始動 決戦の地
「漸く着いたわね。作戦開始15分前かぁ。
間に合って良かった。
もう、草ぐらい刈り取っておきなさいよ。
歩き難いったら、ありゃしないっ、もう。」
原野の真ん中で仁王立ちして、時々腰まである下草を蹴とばしながらおばちゃんが悪態をついている。
俺たち第2中隊は途中の中継地に第3中隊を残して、攻撃を開始するための最終ポイントにたどり着いた。
訓練場じゃないんだから、草なんて刈られてないよな。
"わかっているわよ、そんな事。
まぁ、リュウ君が迷子にならないように手をつなげて歩けたから、延びた下草もまんざらじゃないけどね。"
えっ、俺が迷子にならないように手を繋いだ訳じゃないよね。
俺を人目のないところに連行して、日の明るいうちから"今晩"を強要するためだよね。
"ふっ。
洞窟や落とし穴、大きな木のムロを探して歩いていたら、なぜか攻撃開始地点に来てしまったのよ。"
えっ、ここを目指して急いでいたんじゃないのか、おばちゃんは。
"まぁ、いいじゃないの。
とっとと野暮用を片付けて、落とし穴や洞窟を探しに行くわよ。"
野暮用って、目標の捕捉と殲滅が目的じゃないのか。
"ついでよ、ついで。
リュウ君と「今晩」を過ごす極楽の地を探すついでよ、こんなこと。"
初めての実戦をついでにやっちゃうっていうのか。
流石が肝が据わっているな。
世間の荒波というものを鼻息一つで、自分の我儘で押し返せるおばちゃんしか言えないセリフだ。
魔族もとんでもない魔物(意訳: おばゴン)を敵に回してしまったようだ。
「土壁の皆は防御態勢を固めてくれる。
リンダちゃんは土壁の構築。中隊を囲むように高さは150cmぐらいで良いわ。
肉壁ちゃんたちは魔法及び物理防御壁を土壁の外側に構築して。
スナイパーさんは周りの警戒ね。
具体的なところは土壁のリーダに任せるわ。」
おばちゃんの指示に頷く、土壁の面々。
座敷童帝も移動が終わって、お淑やかな大男さんの背中から下りてきた。
その背中にべぇ~ってするのはよしなさい、凶暴幼女。
こんな時にそんな対応しかできないとは、おしめが取れていないことが知れるぞ。
「火力バカ共は取り敢えず待機ね。」
「「「「「えぇぇぇっ、俺たちを突撃させてくれぇぇぇ。」」」」」
待機と聞いて、一斉にブ~イングする火力バカ共。
大体どこへ突撃するというんだ。
「うるさいわねぇ、まったく、こいつらときたら、いつもいつも。
シュリちゃん、例のヤツをやっちゃって。
大事なシーンを回想して、今メモに起こしているんだから。
大人しくしてて。」
腐女帝様の言葉に「うっす」と一言返して、リードを力いっぱい引っ張り上げる魔牛乳帝様。
容赦ないっすねぇ。
「「「「「ぐぇぇぇぇぇぇぇぇっ。」」」」」
この世の者が出すとは思えない声というか、悲鳴を上げる火力バカども。
「おめぇらっ、うっさいぞ、黙ってろ。」
容赦ないっすねぇ。
あんなことされたら思わず、ウシ蛙が牛車に引かれた時のような声が出ちゃうよな。
まぁ、火力バカ共が全員、白目を剥いて大人しくなったから結果的には良しとしますか。
「エリカちゃんはリュウ君に、スタン・レベル4と雷属性魔法フィールドの転写を準備して。」
腐女帝様は原野に腰を落として、例のメモ帳を開いて膝に乗せてそこに目を落としていた。
しかし、おばちゃんの指示はしっかり聞いていたようで、声を挙げる代わりに鉛筆を持った右手をだらしなく上げて了解の意思表示を現した。
まぁ、魔法を転写するだけだからな、腐女帝様は。
今のところ特に攻撃開始に向けて準備をする必要はないということですね。
「ボルバーナちゃんとペーター君はリュウ君がこの土壁から体を出して転写魔法を発動するときに敵の攻撃を受けないように、それぞれ物理防御と魔法防御のスキルの発動を準備して。
それとエリカちゃん、ペーター君にアイスシールド・レベル4を、ボルバーナちゃんにエアシールド・レベル5を転写しておいてくれる。
2人はリュウ君の守りと同時に、土壁チームと共同してこの陣地の防衛もお願いね。」
腐女帝様はチラッと二人の方を見るとお淑やかな大男さんの大盾にアイスシールドを、凶暴幼女の杖にはエアシールドを転写した。
そして、自分の役割はもう終わったとばかりにまた膝の上のノートに視線を戻して、今度は真剣な表情から打って変わってにへにへ笑っていた。
超不気味です。
まさか、ネタが完成したのか。
俺が登場しないことを切に祈ってます。
お淑やかな大男さんはおばちゃんの指示に一つ小さくうなずくと、腐女帝様の前にその自慢の大盾を差し出すように掲げて魔法を転写してもらっていた。
「しょうがねぇなぁ。
弩阿呆を護ってやるのは気が進まないが、こんなボンクラでもケガをするとジェンカちゃんが悲しむからな、まぁ、ジェンカちゃんのために守ってやっかぁ。」
とお淑やかな大男さんの背中に乗ったまま悪態を一つ付くと、同じように腐女帝様の前に身長をはるかに超える長さの杖を差し出してきた。
杖だけ成長してんじゃねぇのか。
栄養を杖に吸い取られていないか、凶暴幼女。
その時、腐女帝様の前に差し出していた杖をぐるっと回して、俺の後頭部にめがけてフルスイング。
ばっこ~んっ。
俺の後頭部にジャストヒット。
目から火花が。
「てめぇ、リュウ、またまたまた、余計なことを考えてたんだろぉがぁ。」
"リュウ君とボルバーナちゃんの心が繋がっているのがくやしぃぃぃぃぃぃ。"
とっ、いつもの一コマに。
「リュウ君は攻撃の指示があるまで休んでいて。干し肉でもしゃぶってて。」
"何なら私の○○をしゃぶってもいいんだけど。
リンダちゃんに頼んで土壁に個室を増設してもらうから恥ずかしくはないわよ。"
個室に入った瞬間に昼前から"今晩"に時間が進んでしまいそうなので遠慮しておきます。
"もぅ、ボルバーナちゃんにちょっかい出す暇があるなら、オオカミに変身して私を押し倒して。野生に還って。"
だいたい俺にちょっかいを掛けてくるのはいつも凶暴幼女の方じゃないか。
俺は幼女を愛でる趣味はない。
"まさか、ボルバーナちゃんはお淑やかな大男さんをリンダちゃんに譲ってリュウ君に鞍替え?! "
俺は幼女に、特に凶暴種には興味が全くない。
"それを聞いて安心したわよ。
リュウ君は私のような可憐な美少女が良いのよね。"
枯れた美魔女?
"リュウ君のいけずう。
そんな意地悪言うと私の○○をしゃぶらせてあげないわよ♡。"
それって、"今晩"を回避ってこと?
"「今晩」は別。今ここで別室を作って・・・・というところをおあずけにするの。"
できれば今晩もおあずけでおね。
「クリスの姉御は第2中隊の現地到達と攻撃準備完了の報告を各中隊、大隊本部、第17師団本部にお願いします。
それとグローリアさんは各部隊の動きと作戦全体の進行状況を地図上で確認してください。」
「連絡したわよ。」
そう言うと姉御はおばちゃんに頷いた。
「こちらもこれまで教えてもらった状況から、第17師団と魔族本隊の布陣、学生教育大隊の配置を地図上に再現したよ。」
というと、グロいギャルさんは地面に置いた地図に色のついた石を並べて、おばちゃんの方を見た。
「さっ、もう直ぐ作戦開始の時間よ。
とっとと、目標を殲滅して、今晩は祝杯を挙げましょう。」
そう言うとおばちゃんは俺の方に妖艶な視線を向けて、口についていたよだれを手で拭っていた。
あぁぁぁ、おばちゃんの今日の獲物って魔族の例の偵察隊だよね。
"目標は刺身のつま、メインデッシュは当然リュウ君よ、じゅるり♡。"
と妖艶な眼差しから、鷹の鋭い目に変わったおばちゃんが視線だけで獲物の俺を仕留めようとしていた。
その時、俺たちの後ろの方からか細い声が聞こえて来た。
「えっと、それで俺は何をすればいいんだ? 」
あっ、小者隊長。
ついて来てたんだ。
ここまでの成果
魔力回復: 21% + 24%(ボーナス♡)
次にスキルを発動するまでのクールタイム: 22時間2分
(小者隊長、居たんだ。
てっきり、作戦開始と同時に竹槍一本で魔族軍に裸単騎特攻してたんだと思ってたよ。)
(こいつにも指示を出さなきゃダメなのぉ。めんどくさい。(おばちゃんターン))
(陣地の草刈りでもお願いすれば。)
(あっ、スコップで岩と土を積んで別室を作ってもらって置けば良いわよねぇ。
戦闘が終わったらリュウ君とそのまま♡、ねっ。(おばちゃんターン))
うぁぁぁぁ、小者隊長のせいで今晩が完全復活したぁぁぁ。
大ダメージでスキルdown。
おばちゃんは思い通りに歯車が回り始めて、ボーナスが大幅UP。
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。
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