27話目 作戦始動 なんでそっちの作戦も着実に進んじゃってんのぉぉぉ
小者隊長の作戦を聞いて、先ほどの作戦会議に出席していた教育第2中隊以外のほとんどの者は何をしたいのかわからないと言わんばかりに、口を開けて唖然としていた。
ただ、教育第2中隊の中で、なんとゾンビさんだけはちょっとだけブルッとしているように見えた。
聖水という言葉に反応したのか。
まぁ、もし彼にも勢い余って聖水が掛かったら、消滅の危機にあるからな。
会議がしばらく沈黙に支配されたところで、漸く小玉スイカ教官が動いた。
「えっとぉ、ジェンカちゃん、良いかなぁ。
モーリツ小隊長の言葉を疑うわけではないけど、余りに斜め上を逝くような作戦案なので。
本当に教育第2中隊での話し合い、作戦立案は教会の司祭様を呼んで聖水をばら撒くっていう感じだったのかしら。」
あっ、自信満々に回答した小者隊長の顔が高揚したほんのりした赤から生気のない青に変わって、鋭く輝いた眼はキョドったものに大きく変化した。
この沈黙は自分の発表した作戦案に皆があまりにも感動したために言葉が出ないとでも思っていたのか。
誰もが呆れて言葉が出なくなっているとは想像だにしなかったのか。
"さすが小者隊長、お約束のギョドリが出たわね。
さぁ、もっとキョドリなさい。"
おばちゃんがそう念話というか思いを俺に伝えた後にエレン教官のご指名に従って立ち上がった。
「モーリツ隊長がどのような思いからそのような作戦を立案したかはわかりませんが、私たち教育第2中隊の作戦とは全く関係ありません。」
クリスの姉御が大きくうなずき、それを見た小者隊長の顔が死体の様にどんどん青くなっていくのが見て取れた。
おばちゃんの発言を聞いた女衒の元締め大隊長の目が吊り上がって、厳しく冷たい目を小者隊長に投げた後に口を開いた。
「ジェンカさん、モーリツ隊長の聖水をばら撒くという作戦ではないと言うことですか。
良かったら、どのような作戦を立案したか聞かせてもらえないでしょうか。」
おばちゃんを見る大隊長の目は元のいやらしさをにじませたにこやかなものに変わっていた。
あっ、これで小者隊長の本作戦で役割は教育第2中隊から離れて、竹槍一本で魔族軍の本体に突撃することに決まったな。
小者隊長から特攻隊長に昇格だ。部下はゾンビ先輩一人か。
最後の花道を作ってやるなんて以外と良い奴なのかもしれないな、女衒の元締め大隊長は。
"厄介払いをしたくてもこの程度の能力じゃオークションに出すことも出来ないし、手っ取り早く魔族との戦闘開始の合図として、雄叫びを上げさせながら裸単騎特攻させればと思ったんじゃないの。"
そうかぁ、それに万が一、絶対ないとは思うけど、魔族軍のところまでたどり着けたら小者隊長が一番槍として後世に名を残すことも可能だしね。
そこまで考えた上で厄介払いするなんて、流石は女衒の元締めってだけあるよな。
「我々の立てた作戦は次のようなものです。
この作戦はたった一回きりしか使えませんので、この場にいる者以外に伝わらないようにお願いします、大隊長。」
おばちゃんの言葉に女衒の元締め大隊長は小首を傾げた。
「ここに居る者以外、特に魔族軍本体を攻撃する師団本隊に作戦を伝えないとうまく連携が取れないことが懸念されますが、その点は如何ですか。」
「その点は罠を仕掛けるので不用意に後方に戻ってこないように第17師団本体にお伝えしていただければ問題ないと思います。
どういう罠を仕掛けるかについてはここにいる学生教育大隊の皆さん以外は知る必要はないと思います。
罠が発動したらどんな罠が仕掛けられているのが遠くからでもどうせ見て取れると思いますし。」
おばちゃんの言葉に女衒の元締め大隊長は頷いた。
「わかりました。
師団の司令部には罠が発動するから不用意に後方に移動しないでください、移動の必要性が出たら左右に動くようにと伝えます。
他に何か師団に対する要望はありますか。」
「えっと、まずはその罠についてお話します。
それから師団本体にさらに伝えることがないか、議論してもらえばいいんじゃないでしょうか。」
「わかりました。
ジェンカさん、その罠の説明をお願いします。」
おばちゃんは一つ咳払いをした後に、今日の午後一の作戦会議で決まった、そう、目標がこの世の者である場合の罠についての話を始めた。
第17師団がいつものように目の前の魔族軍本隊を攻撃し、後方に目標が現れるのを待つこと。
これまでの経験から目標が出てくるであろう頃合いと場所に、腐女帝様の雷属性魔法のスタンを広範囲に発動し、追加で、雷属性の魔法フィールドを設置することを話した。
おばちゃんの作戦を最後までじっと聞いたいた女衒の元締め大隊長は小者特攻隊長へ蔑んだ様な視線を投げてから小さなため息をついた。
そして、今度はまた例の笑顔を作り直して、おばちゃんの方に向き直した。
「ジェンカさん、ありがとうございます。
司祭様だの聖水だのと変な作戦だと思っていました。
今の話で明日の作戦内容を理解しました。」
そう言うともう一度、小者特攻隊長に鋭い視線を投げてから話を続けた。
あっ、小者特攻隊長が椅子の上で土下座している。
やるなら椅子じゃなくて床でしなよ。
それに今更謝るのはもう遅いと思うよ、明日は竹槍一本で裸単騎特攻なんだから。
もう、開き直って、ふてぶてしくも堂々としていたらいいのに。
"開き直りができないから小者って言われてんでしょ。"
「いくつか聞いておきたいことがあるので質問をさせて下さい。
まずは、第17師団が魔族軍本隊を攻撃して、その目標が後方に現れる場所や時間の予測は出来ているんですか。
それがまだなら今回の作戦は少し延期すべきかと思いますが。
延期するなら今すぐに師団本部に連絡が必要ですね。
確かにこの罠は1回使ったら敵に警戒されて、次は罠にかからないでしょうから。
まぁ、考えようによっては、罠がある事がばれたとしてもその罠を警戒した目標が容易に第17師団の後方をかく乱できなくなって、目標の活動をこれまでよりかなり縮小できるということも期待できますけどね。
できれば、目標にこの罠が認証される前に、一回で叩き潰しておきたいところですが。」
そっかぁ、この罠がばれたとしても目標は第17師団の後方に容易に近づけなくなるので、後方をかく乱するのが難しくなるのかぁ。
"それでもいつか襲われるというリスクは残るわよ。
やっぱり、明日は一発で目標を殲滅しておきたいわよね。"
その時、前方の方で手を挙げて発言を求める者がいた。
あっ、マスクマンさんだ。
「君は確か第2中隊第2小隊所属になったんだったね。
発言があるならどうぞ。」
「教育第2中隊ではマスクマンと呼ばれることになりました。
まぁ、それは良いとして、先ほどの大隊長の質問に回答します。
第17師団の後方での活動状況の解析は済んでいます。」
「そうか。もうすんでいたのか。」
女衒の元締め大隊長は少し目元をほころばせながら頷いた。
教育第2小隊の全員が無能者でない事にほっとしたんだろうか。
"あっ、小者特攻隊長もつられて誇らしげにしているわよ。
自分は全く役に立ってないのにね。"
部下の功績をすべて横取りですか。
まぁ、それも今日までのことだけどな。
小者隊長の後の小隊長はマスクマンさんかクリスの姉御かな。
"ゾンビさんだったら、笑うしかないよね。"
さすがそれはないだろ。
ゾンビが女衒の元締めに上納金や袖の下を納めているところなんて想像できないでしょ。
「例の目標の第17師団後方での活動パターンはここでは話せませんが、明日、作戦開始前にジェンカさんに伝え、その上で主戦の教育大隊第2中隊に具体的な作戦指示出してもらう予定です。」
「わかった、そうしてくれるか。
主力である教育第2中隊の作戦行動はジェンカさんに任せるとして。
次に教育第1、3中隊、および教育大隊本部の作戦行動について詰めていきたいと思います。
基本的に教育第2中隊の支援を行うことになりますが・・・・・・」
外が真っ暗になるまで作戦会議は続いた。
明日はいよいよ実践訓練だ。
これ以上に被害を拡大させないためにも明日で目標を仕留めないとな。
"そのためには「今晩は」十分に鋭気を養うことが大事よね。
もう、リュウ君はエッチなんだからぁ♡。"
鋭気を養うためにも"今晩は飯食って、歯を磨いて、風呂入って、布団を抱きしめて寝る"ことにしますね。
"もうっ、リュウ君のいけずぅ。"
ここまでの成果
魔力回復: 14+31%
次にスキルを発動するまでのクールタイム: 23時間41分
(さぁ、作戦会議も終わったぞ。今日は飯食って、風呂に入って、とっとと寝なきゃぁな。)
(そうそう、それが大事よね。(おばちゃんターン))
(えっ、それで良いんだ。)
(もちのろんよ。今日はお夕飯をたっぷり食べて、お風呂に入って、とっとと私を食べちゃうんだよね。それも一晩掛けてじっくりと♡。(おばちゃんターン))
(夜中の間食は体に悪いんだぞ、その上、徹夜なんて。
と言うことでとっとと寝ますね。)
(できるならね、じゅるり♡。(おばちゃんターン))
"今晩"に確実に突き進んでいる予感がするんだけど、俺。
(なんだ、既に覚悟が出来ているんじゃないの、じゅるり♡)
と言うことでスキルdown。
おばちゃんは予定通りに進んでいるのでボーナスUP。
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。
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本作品は前作「聖戦士のため息」シリーズのパラレルワールドの位置付けとしています。
本「聖戦士のめまい」とともに「聖戦士のため息」シリーズも合わせてお楽しみいただけたら幸いです。
"聖戦士のため息シリーズ "
シュウとエリナ、イリーナ、輪廻の会合に集いし面々が活躍するサーガをお楽しみください。
・本編 : 聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます
・別伝1 : 死神さんが死を迎えるとき
・別伝2 : 優しさの陽だまり
・別伝3 : 陽だまりからの贈り物 優しさの陽だまりから
・外伝 : アラナの細腕繁盛記 越後屋の守銭奴教繁盛記
・別伝4 : 炎の誓い