竜魔王誕生 7
「…もう夜か」
青年竜は人間の体に翼を出したままの姿で、積み上げられたリザードマンの遺体の上に腰掛けていた。
空を見上げれば、美しく輝く月と星々。
「あの時も……夜だった。俺が全てを失った……あの時も…」
彼は膝に顔を埋めて呟く。
「全てを奪われて……それに加担した奴等を殺したのに………なんだ……この虚無感は…」
この山のリザードマンは皆殺しにした。
最初はこの山を終えたら、別の魔族や魔王を殺しに行こうかと思っていた。
だというのに…そんな気になれない。
「復讐とは……こんなに虚しいのか?」
復讐すれば満たされると思っていた彼の心は、何も満たされてない。
あるのは、ただ虚しさだけ。
「…世界でも滅ぼせば…この心は満たされるのか?…………無理だ。…いかな竜王族とて……俺だけじゃそんな事…出来やしない」
いくら強くても、一匹の竜。
覇王のように特殊な力がある訳でもない自分には、到底無理なこと。
ふと、あのリザードマンの王が言っていた言葉を思い出す。
「世界に…否定された?…俺が…生きてるのは……間違い。…この世界の誰も……望んでない。………そうか」
青年は自嘲気味に苦笑を浮かべると、翼を大きく開き羽ばたく。
「もういい。俺はもう……何も望まない。…仲間も……復讐も……幸福も…。……俺はただ……生きるだけ。………それだけだ」
そして彼は飛び立った。
このまま誰も知らぬ所で、一人で生きていこうと。
しかしそんな彼の望みは叶えられなかった。
あのリザードマンの王とその同胞を全て殺した竜の噂は、瞬く間に魔王達の間に知れ渡る。
そして他の竜族や、世界の女王の耳にも届いた。
魔王達は彼を殺そうとする者、仲間に引き込もうとする者が、何人も彼の前に現れた。
彼はそれを面倒と思いながらも、心の中に燻る僅かな復讐心の元、それらを殺した。
時には竜族や、女王の使いとして人間が彼を訊ねることもあった。
しかし竜族と人間は彼が一番許せない存在。
自分の前に現れただけでも、彼は竜族と人間を殺した。
それでも……自分から他の種族に関わる事はしなかった。
誰かと、何かと関わり……裏切られることを…傷つくことを恐れたから。
数多の魔王を殺した事で、彼は魔王の一人として世界に認知された。
同じ竜でも、魔王でも殺す……恐ろしい存在として。
数年後には…最強の魔王『竜魔王』と呼ばれ、世界中にその名は広まった。
彼自身はその肩書きに何の興味も無かった。
むしろコレで誰も近づかない事を願い、彼は一人で生き続けた。
そして月日は…更に100年ほど流れる。
覇王と激しい戦いを繰り広げた当時の女王は、歴史の中でも特に在位期間が短く、力が失われるのも早かった。
そんな時……一人の少年が、この世界に召喚された。