竜魔王誕生 6
「お前達の一族。竜王族を滅ぼしたのは、覇王と他の竜族だけではない。竜王族の殲滅には、この世界に存在するほとんどの魔族が関わっておる。………このわしも、な」
「っ!?な、なんだ、と?」
リザードマンの王から語られた話に、青年竜は黄金の目を見開いた。
驚愕を隠せない、と言っているように。
その顔を見てリザードマンの王は、実に楽しげに、高らかに笑った。
「ギャギャギャ!ギャーギャギャギャギャ!そ、その顔!傑作だなぁ!まさか自分を助けた者が、心底信頼していた者が、復讐する相手の一人とは思わんかったろう?この間抜けめ!」
ズイッと魔法陣に顔を近づけて、青年竜を小馬鹿にしたように告げるリザードマンの王。
後ろに控えた元部下達も、その事実に驚いているが、王が連れて来た者達は王と同じようにニヤニヤと笑っている。
青年竜は痛みに顔をしかめながらも、ただ告げられた真実に驚く事しか出来ない。
そんな青年竜へ王は続けて言った。
「お前達、竜王族はこの世界最強の種族。わしら魔王とて竜王族には叶わんかった。しかしな…100年前、覇王がこの世界に現れた。そして多くの魔族に、自分の味方になるよう誘っていたのだ。『自分は女王に代わり世界の新たな王になる。だから自分の傘下につけ』とな。だからわしら当時の魔王は、覇王に条件を出した」
100年前。
『なに?竜王族を滅ぼすのに手を貸せ、だと?』
『そうだ。わしら魔王より更に上の王と認められたいなら、力を示してもらいたい。この世界最強の種族を滅ぼす為に、な』
『竜王族は戦いを好まず、集落を作り一族だけで安寧に暮らしていると聞いたが?』
『最強の力があるのは事実。問題なのは自分達を殺せる力を持ったその存在がいるという事。同じ竜族が恐れているように、わしら魔族も、守られている人間とて奴等を恐れておる。竜王族はこの世界に生きる全ての者にとって、目の上のコブよ』
『なるほどな。…いいだろう。了解した』
『ほう?やけにアッサリ条件を呑むではないか』
『数日前、竜族にも話をつけに行った。奴等も同じ事を望んでいたからな。竜族と魔族…何より俺の力なら、竜王族を滅ぼすくらい簡単だ。竜王族を滅ぼす時は竜族とお前達にも力を与えてやる。これで交渉成立。部下や竜族にも伝え、近いうちに行動を起こそう。連絡を待て』
「そして覇王がわしら魔王と会った10日後、竜王族の集落は攻撃を受けたのだ!おめおめと醜く生き残ったバカ一人残してな!ギャギャギャギャ!」
「き、貴様等ぁあああ!!」
「ギャギャギャ!!声が出なくなるまで叫び続けるがいい!そのままいけば、直ぐにお前は力を失う!立つ事も出来ぬ程に!
「こ、殺して、やる!殺してやる、ぞ!貴様等!全員っ!」
「ギャギャギャ!死ぬのは貴様だ!全ての力を失い倒れた時、わしが直々に殺してやる!わしの為に命を使うのだろう?そうしてもらおうではないか!お前は!お前達一族は!この世界全てに否定された種族!滅びるだけの哀れな種族だったのだ!むしろ100年も生かしてもらったこと!わしに感謝して死んでいけ!」
王が、そしてリザードマン達は、この哀れな種族の生き残りを嘲笑う。
王の言葉に、リザードマン達の態度に青年竜の中の怒りは抑えきれぬ程に湧き上がる。
そして彼は…自分の力全てを振り絞った。
「ぐ、ぐぅう!ぅうぉおおおおおお!!」
「なんだ?何をしている?」
いきなり痛みとは違う雄叫びを上げた青年竜に、王は不思議そうに問いかけた。
しかし直ぐに青年竜が何をしようとしているか気づき、更に笑った。
「ギャギャギャ!無駄だ!言っただろう?この魔法陣は竜王族を捕え、力を吸い取る為のものだとな!そんな無駄な足掻き!死ぬのが早まるだけだ!」
「がぁああぁぁぁああぁっ!!」
王の挑発に青年竜が大きく叫んだその時…。
ピシッ!
魔法陣が描かれた床にヒビが入る。
「な!?ま、魔法陣が!?き、貴様!」
「ぐぁあああぁぁぁあぁ!!」
青年竜は雄叫びを上げながら、本来の姿…竜の姿に変身していく。
腕…足と彼が徐々に竜となる度に、床のヒビは増え、大きくなっていった。
「ま、まさか!こやつ…こやつの力は!?魔法陣よりも!ソレを作った古の王とそのシュヴァリエ…かつての族長よりも強いというのか!?」
「ぐぉおおおおお!!ぐあぁぁぁあああぁ!!」
青年竜は王を睨むと、そこに向けて竜の咆哮【ドラゴンブレス】を放つ。
それは魔法陣に阻まれ、王には届かない。
だが…それが決定打となり、魔法陣は硝子が割れるような音を立てて消滅した。
辺りは魔法陣が壊れた余波か、はたまた竜の咆哮【ドラゴンブレス】の余波か、爆煙に包まれリザードマン達は口元や顔を手で覆う。
煙が収まり、恐る恐る目を開けると…
そこには…完全に竜の姿に戻った…竜王族がいた。
「ひ、ひぃいいいい!ま、魔法陣を破りおった!?お、お前達!わしを助け」
竜王族に恐れおののくリザードマンの王が、部下達に命令しようとするが、その言葉の最中…ドゴッ!と鈍い音が石造りの部屋に響いた。
それは竜王族が尻尾で、リザードマン達を壁に押し付けた音。
その場にいた10匹近いリザードマン達は、グチャグチャに潰れ尻尾には紫の血がこびり付く。
ピチャン…と血が滴る音で、呆然としていた王や他のリザードマン達は我に返った。
「ひ、ひぃ!ひぃぃい!た、助けてくれ!わしが悪かった!命だけは!頼む!助けてくれ!」
命乞いをする王。
我先に逃げようとする部下のリザードマン達。
だが、先程の尻尾の攻撃で壁が崩れ、入口が塞がれていた。
竜ならともかく、リザードマン達にその量の石を簡単に退かす事は出来ない。
それでも必死に退かそうとする者もいれば、王の隣に行き竜王族に土下座する者もいる。
ここにいるリザードマン達は、必死に自分の命を守ろうとする。
生きようとしている。
そんな彼等を見て、青年竜は黄金の瞳を細め冷ややかに言い切った。
「俺の一族の命乞いを…貴様等は聞いたか?」
「た、頼む!助けてくれるなら!なんでもする!わしは昔!お前を助けた!だからわしも助けてくれ!ふ、復讐するなら!あの時参加した他の魔王を教える!復讐の手伝いをしてやろう!な!それなら理由は無くなるだろう!?だから助けてくれ!」
なんとも情けない命乞いに、今度は青年竜が下卑た笑みを王に向けた。
「俺がお前を殺す理由はもう一つある。お前の笑い方は…昔から気に食わなかった。…吐き気がする程に」
竜王族はそう吐き捨てると、至近距離で竜の咆哮【ドラゴンブレス】を王に向けて放った。
そして…この場にいたリザードマン達をも皆殺しにした。
それだけでは足らず…この遺跡を出て彼等の根城だった山に戻り、残りのリザードマンも全て殺した。