竜魔王誕生 5
三日後。
青年竜はリザードマンの王の命令で部隊を引き連れ、海中深くを泳いでいた。
彼等の目的地は海中に隠された、ある遺跡。
青年竜とリザードマンの部隊は遺跡を見つけると、そのまま入口と思われる門のような部分から入る。
少し泳げば、直ぐに石造りの回廊があり、海水から上がった青年竜は天井や壁を見上げ、不思議そうに呟いた。
「このような場所があったとは…遺跡というより神殿だな。しかし…本当に敵がいるのか?敵どころか…生き物の気配も感じない。お前達、王から何か聞いていないか?」
「は!我等も存じません!しかし…王は確かに『我等に歯向かう者達が海底に潜んでいる』と。場所はここで間違いありません!」
「確かに…身を隠すには絶好の場だが…とりあえず奥へ進むか」
不思議に感じても、王の命令ならば遂行するのみ。
そう自分に言い聞かせ、青年竜は先に進む。
長い回廊を歩き、階段を上り、彼等はある広間に辿り着いた。
そこは円形の部屋であり、天井は今までの回廊よりもかなり高い。
あるのは奥に大きな椅子が一つ。
他に置いてある物は何も無い。
そして椅子の後ろの壁には、巨大な竜のレリーフが彫られていた。
(何だこの場所は?あの椅子…まるで玉座のような?それにあの竜は……っ!?)
青年竜は巨大なレリーフを見つめて気づいた。
それはただの竜ではない、と。
体躯の割に大きな翼、そして人間にはわかりづらいが…その顔立ちや体の特徴は自分と同じ。
「アレは…あの竜は……竜王族?…何故…竜王族の?」
青年竜は驚きつつも自然とその足は椅子へ…レリーフの方へと動いていく。
もっと近くで見たい…そう思い足を進めた青年竜だったが……それこそが、リザードマン達の、彼を殺そうと目論む王の狙いだった。
青年竜が広間の中心に来たその瞬間……青年の足元から赤い光が放たれた。
その光は線上となり、青年竜を囲むように床を駆け巡る。
「っ!?なんだ!?」
驚いてその場から離れようとした青年竜だったが、光の方が早かった。
その光は円を描くと、天井まで筒のように伸びて青年竜を閉じ込める。
また床にある円の内側は、古代文字や色々な図形を映し出していた。
「魔法陣!?うぁあああっ!!」
青年竜がその光の正体に気づいた直後、体に電流のようなモノが走った。
ビリビリとした痺れと痛みに顔を歪める青年竜。
その上、何故か先程から上手く力が入らない。
まるで体から抜けているように。
いきなりの事態に部下達も慌てるが、誰一人として助け出そうと動く事はしない。
心配そうに声をかけたり、どうするかとその場で騒ぐだけ。
何故なら、この場にいるリザードマン全員よりも強い青年竜が苦しむ魔法陣など、自分達ではどうしようもないと思っているから。
そして自分達の命が何より大切だからだ。
「ぐっ、うぅ、うぁああ!お、お前達!こ、この、魔法陣、を、攻撃、しろっ、!」
「た、隊長!」
「し、しかし、隊長が太刀打ち出来ないのに…我々では」
「く、くそっ!早くしろ!ぐぅっ、この、トカゲ共!っ!?」
何もしない部下達に苛立った青年竜が怒鳴る。
その直後、彼の目は部下達…その後ろに釘付けになった。
そこには彼が慕い、忠誠を誓い、この場に来るよう命じた張本人…リザードマンの王がいたからだ。
それも青年竜の部隊よりも優秀で強い、王直属の精鋭軍を率いて。
「ギャギャギャギャ!それがお前の本心か!助けてやった我等をトカゲ呼ばわりとは。この恩知らずめが。やはり貴様なぞ、その場で苦しむのが似合いだなぁ!」
「ろ、王!?ぐっ、こ、これは、どういう、事ですかぁっ!?」
「ギャギャギャ!大分苦しそうだなぁ!そうであろう!その魔法陣は竜王族にのみ反応する!竜王族の動きを封じ!苦しめ!その力を吸い取る為のものだ!」
「な、なんだ、とっ!?な、何故、何故俺に、こんな!」
青年竜の悲痛な叫びに、リザードマンの王は嘲笑うように答えた。
「何故?それはお前が強過ぎるからだ。竜王族であるその力、その強さは脅威。味方だと油断しているわしらを、お前が裏切る前に殺す。それだけの事」
「お、俺は!あ、貴方に、王に、忠誠を、誓った!この心を、命を、捧げるとっ!裏切る、など、しない!」
「ギャギャギャ!そうだな!今のままならお前は裏切らん。だが…お前がわしを殺す理由もあるからなぁ。殺される前に殺す。簡単な理由だろう」
「なに、を、言って、ぐ、ぐぅぅう!うあぁあ!!」
王と話しながらも、魔法陣は発動し続ける。
何がなんだかわからない青年竜。
彼は再び助けを乞おうと部下達を見る。
この事態は部下達も知らなかったらしく、部下達は先程以上にザワザワと騒いだ。
そんな同胞にも王は言葉をかける。
「お前達の隊長だ。助けたいなら好きにしろ。だが…そこから一歩でも動いた者は殺す。命が推しければ動くな」
「で、ですが王…た、隊長が…」
青年竜を助けるべきか、王に従うべきか迷っている一人のリザードマン。
そんな彼の肩に王は手を置き、優しく声をかけた。
「よく考えるのだ。我が同胞よ。自分の命と、自分達を『トカゲ』と下等に呼ぶあやつ。どちらが大切だ?わしとて同胞を殺したくなどない。奴にはここで死んでもらう。これはお前達の為でもあるのだ。わしの想い、わかってくれるな?」
王の慈悲深い声に、迷い、騒いでいた青年竜の部下達の心は一つになった。
自分達の隊長を見捨てる、と。
「…そ、そうだ。王の言う通りだ!何が隊長だ!あんな奴、死んで当然だ!」
「そうだ!俺達を『トカゲ』呼ばわりしやがって!」
「前から気に入らなかったんだ!何が隊長だ!俺達の仲間でもねぇクセに!」
「さっさと死んじまえ!」
青年竜の部下達は隊長に、いや、隊長だった青年竜に罵声を浴びせる。
ついには『死ね!』と口を揃えて叫び出した。
「お、お前達、まで」
「ギャギャギャギャギャ!そういう事だ!さっさとその魔法陣の中で果てるがいい!」
「ろ、王ぉおおおお!!」
「何が王か。貴様の王になった覚えなどない。おぉ!そうだ!冥土の土産に、慈悲深いわしが教えてやろう!」
リザードマンの王は魔法陣まで近づくと、苦しむ青年竜に向かって下卑た笑みを向けた。