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竜魔王~弐の姫外伝~  作者: 月哉
二人の婚約
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19


二人はその後、(そろ)って馬車に乗り邸へと戻った。


そしてエリカが早目の夕食と湯浴みを済ませ、部屋に戻り寝る支度(したく)を整えた後、彼女の部屋の扉がノックされる。


エリカがノックした人物に声を掛ける前、扉の向こう側から彼女のよく知る声が響いた。


「エリカ。まだ起きているか?」


「お父様?はい」


「そうか。なら少し…話がある。入ってもいいかな?」


勿論(もちろん)ですわ。今、開けますのでお待ち下さい」


エリカは寝巻きの上にカーディガンを羽織(はお)ると、扉を開ける。


するとそこには、父ヴィクターだけではなく、何故かキースの姿まであった。


キースはエリカに深く頭を下げるが、ヴィクターはそんなキースを促しエリカの…娘の部屋へと入りソファへ腰掛けた。


「エリカ。話とは明日の事だ。お前もかけなさい」


「はい。ですがキースは?」


「キースにも関わりのある話だ。だから連れて来た」


「………分かりましたわ。ではお茶を」


「いい。話が終われば直ぐに出るからな。かけなさい」


ヴィクターはそんな時間すら勿体無いと言いたげに、エリカをソファへ促す。


エリカは少し困惑しながらも、父の正面へと腰を下ろした。


キースは使用人という立場の為、ソファには座らずヴィクターの後ろに立っている。


「さて。明日お前は陛下の勅命で、絆様と姫様と共に魔族討伐へ行くが……その討伐に、このキースも同行する事になった」


「キースが?何故?」


父の発言に首を傾げるエリカだったが、キースは驚いた様子もなく、ヴィクターも話を続ける。


「キースはお前達の護衛だ。次期第二妃となる娘が、次期王と次期王妃様と共に討伐に向かうのならば、我が邸からも護衛の者を何名か同行させたいと思ってな。無論、陛下や宰相閣下、将軍にも許可は得ている」


「………まぁ。そうでしたの」


ヴィクターの言葉に相槌(あいづち)を打つエリカだったが、父が『第二妃』という言葉を発した時のみ、その瞳には憎悪(ぞうお)の炎が宿った。


エリカは第二妃など……納得していない。


自分が第二妃となり、代わりに成海が絆の王妃になるなど……納得出来る訳がない。


この一瞬のエリカの瞳の変化を……ヴィクターもキースも見逃さなかった。


「キースを隊長に、我が邸の護衛達も共に向かう。お前の事はその者達が守る。故にお前は……絆様の傍を決して離れず、絆様を補佐する事だけに集中するのだ」


「………はい。お父様」


ヴィクターの言葉に返事はしつつも、エリカは父に疑問を持った。


この邸からキースを含め数名の護衛を出すのは驚いたが……疑問を抱いたのはそこではなく、父がわざわざこんな事を言う意味が分からない。


絆の補佐をするのも、彼の傍を離れないのも当然の事だからだ。


父に言われるまでもない。


だが、エリカの父ヴィクターは、真剣な眼差しで娘を見つめた。


「よいなエリカ。決して絆様、そして……キースの傍を離れるな。何があろうとも、だ」


「………お父様?」


「よいな?」


「………はい」


エリカに念押しするヴィクターに、エリカもまた小さく頷く。


そんなエリカを見てヴィクターはやっと微笑むと、エリカへ手を伸ばし彼女の髪を優しく撫でた。


「……お父…様?」


「エリカ。可愛い私の娘。安心しなさい。お前の幸せは……この父が約束する。私が必ず…お前を幸せにしてやる」


微笑むヴィクターだったが……この笑顔が何故か(いびつ)に見え、エリカは父に不安を抱く。


「では、エリカもそろそろ休まなくてはな。私達は失礼するとしよう。おやすみエリカ」


「は、はい。おやすみなさいませ、お父様」


ヴィクターとキースが部屋を出る際、二人を見送るエリカだったが、一言も話さなかったキースへ声を掛けるのも忘れない。


「キース。明日はよろしくね。おやすみなさい」


「はい、お嬢様。おやすみなさいませ」


エリカに深く頭を下げると、キースはヴィクターと共にエリカの部屋を出て行った。


二人がその後向かったのはヴィクターの私室。


ヴィクターは部屋に入り、乱暴にソファへ腰かけるとキースへ声を掛ける。


「キースよ。見たか?エリカの……あの激しい憎悪に満ちた目を」


「はい、旦那様。エリカお嬢様にあのような顔をさせているのは……姫様なのですね?」


ヴィクターに答えながらも、キースは昼間のエリカの表情、そして先程のあの目を思い出す。


キースが知るエリカは、誰よりも美しく、優しく、賢く、慈愛に満ちた、非の打ち所のない令嬢。


だからこそ…エリカがあのような顔をしたのが信じられなかった。


しかしそれと同時に確信もした。


エリカにあのような顔をさせる……元凶に。


「そうだ。エリカは王位継承者である絆様を慕い、絆様もまたエリカを気に入って下さった。陛下もだ。だからエリカは、王妃という未来を約束されるはずだった。しかし……二人目である姫様が現れた事で、その未来は消されようとしている。……かわいそうな…エリカ」


「エリカお嬢様が………王妃に…」


そう呟いた時、キースの胸はズキリと痛む。


キースは幼い頃から、エリカと共に育ち、彼女を深く慕っていた。


当然、このエリカへ抱いた感情が自分のような者には許されぬ事も、エリカとの身分違いも理解している。


だからキースは、エリカと結ばれたいなど高望みはしない。


王族の娘であるエリカは、自分ではなく相応(ふさわ)しい身分の者と結ばれるべきだ、と。


この想いは生涯胸に秘め、キースはヴィクターとエリカに誠心誠意、そして命を懸け仕えると誓いを立てた。


「キースよ。エリカの幸せは、第二妃ではなく王妃となる事だ。そして聡明(そうめい)で美しいエリカが王妃の座に着くことは、私達だけでなく、この世界にも大きな利となる。皆の幸せにも繋がるのだ」


「はい。私も同じ考えです、旦那様。王妃にはエリカお嬢様こそ相応しい、と。何より……エリカお嬢様にあのような顔をさせる姫様を…私は許せません」


キースは幼い頃から常にエリカと一瞬だった。


だから憎悪(ぞうお)嫉妬(しっと)に満ち、(みにく)(ゆが)んだエリカの顔に……深い悲しみを確かに感じていた。


大切なエリカを悲しませる者、苦しめる者は……誰だろうと許さない。


「うむ。お前なら分かってくれると信じていた。だからこそ、お前に託すのだ。エリカの為、皆の幸せの為に」


ヴィクターは自分の野心はあえて口にせず、憂いた表情を浮かべる。


まるで今から言う言葉を正当化するように……本意ではなく、苦渋の決断だというように。


「お前には……このような汚い仕事を任せたくは無かった。しかし……お前以上に信頼出来る人間もいない。あの邪魔な存在を……なんとしても消さねばならぬ」


ヴィクターはキースを見据え、昼間に伝えた命令を再びキースへ下す。




「全ては皆の幸せの為、エリカの為。明日の魔族討伐の際に………姫様を殺せ」



「はい。旦那様とエリカお嬢様の為……そのご命令、必ず成し遂げてみせます。…必ず」



ヴィクターの言葉に、キースもまた力強く頷いた。

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