竜魔王誕生 4
それから月日は………100年ほど流れる。
100年と云う歳月の中、この世界では女王の交代も行われた。
異世界から来た少女である当時の姫は、同じく異世界から来た者…覇王との激しい闘いに勝利した事で新たな女王となり、この世界を治める事となった。
後に、この姫と覇王の戦いは『100日戦争』と呼ばれる。
世界を滅ぼそうと魔族を煽っていた覇王が倒され、世界は以前のような平和を取り戻しつつあった。
歴史が動いている間、リザードマンに保護されたあの少年竜は…立派な、そして美しい青年竜へと成長していた。
青年竜を保護したリザードマンの根城の山…ギオード山。
その山中にある巨大な洞窟に、リザードマン達のアジトがあった。
青年竜は移動しやすいよう人型に姿を変え、胸を張って洞窟内を大手を振って歩く。
周りのリザードマン達はそんな青年竜の姿を見ると、慌てて彼に対して頭を下げる。
この100年で、青年竜はリザードマンの王に深く気に入られ、特攻隊長としての役割を与えられていた。
青年竜は玉座のある広間へ着くと、そこに座る王に対して跪き、頭を下げる。
「王!只今戻りました!」
「おぉ!戻ったか!で、首尾はどうだ?」
「はっ!王のお望み通り、ティノン山のバジリスクは皆殺しにして参りました!」
「ギャギャギャっ!よくやった!これで目障りな蛇共はいなくなり、我等の領土も広がるというもの!お前にも苦労をかけたな!」
「苦労などと…あんな石化させるだけが取り柄の蛇。千匹かかろうと私の敵ではありません。それに奴等は、恐れ多くもロードが傘下に加えて下さるという恩情や、領土提供までも断った。私は奴等に当然の報いを与えたまで」
王に労いの言葉をかけられ、青年竜は頭を上げると王に微笑みを向けた。
「流石は竜王族!この世界最強の種族だ!お前が仲間でわしらも鼻が高い!」
「私は王に命を救われました。その恩に報いることの出来る役職まで頂き、王には感謝の意が絶えません。王に救われたこの命。王の為に使い、捧げます」
再び頭を深く下げる青年竜。
彼はこのリザードマンの王に、心からの忠誠を誓っているのがわかる。
リザードマンの王もソレは充分理解していた。
そうなるように…仕向けたのだから。
「…お前は本当によく働いてくれるな。次の任務まで暫し休め」
「恐れながら王。休みが必要な程、私は弱くありません。それに私には戦いが必要。幾度も戦い、強くなり、ロードのお力に…そして我が一族を滅ぼした者達を全て殺せるように。私はまだ強くならねば」
「ギャギャギャ!そう言うな!お前の強さは知っている!それでも労いたい親心よ。わかってくれるな?」
「…ロードがそう仰るのなら…。慈悲深いロードに感謝致します。ですが、ご命令があれば直ぐに馳せ参じますので」
青年竜は立ち上がると、王に対して深く頭を下げ、この広間を出て行く。
ロードの役に立てた、と胸を張り笑顔を浮かべて。
残された王は「ふむ…」とその背を見送る。
青年竜の姿が完璧に見えなくなると、控えていた側近に声を掛けた。
「………あやつをどう思う?」
「は。強く忠誠心厚い、とても優れた隊長と思います。その隊長を……王、本当によろしいのですか?」
側近は意味深な目を王へと向けて訊ねる。
そんな側近の方を振り向くと王はニヤリと笑みを浮かべた。
「よい。お前も感じておろう?奴の強さ…恐ろしさを」
「…そうですな。彼は恐ろしいほどに強い。出陣の際は一応部下を連れて行きますが…部下の出番などまるで無く、一人で敵を瞬殺してしまうと。今回も千匹を超えるバジリスクを一人で皆殺しにした。しかし彼は…王に心からの忠誠を誓っております。無礼を承知でもう一度お聞きしますが…本当によろしいのですか?」
「お前も聞いたろう。奴を生かしておるのは、わしへの忠誠心だけではない。竜王族を滅ぼした者達への復讐心。…それが奴の心を占めている一番の感情。そして生きる理由なのだ」
王は玉座の手すりに頬杖をつくと、ため息まで吐いた。
視線をは青年竜が去った方へ戻すと、王の表情は先程とまるで違う。
青年竜に向けていた笑顔は既にない。
「この100年で奴は最強の兵士となった。わしがそうなる事を望み、そうなるように仕向け、育ててきたからだ。だが…奴は強くなり過ぎた。同胞は奴を恐れている。このわしでさえ、な」
「竜王族とは、敵に回せば恐ろしい存在です。ですが今まで通り真実を隠し、飼い慣らせばよいのでは?王とて、あの力を失うのは惜しいのでしょう?」
「………確かにな。だがもし奴が真実を…竜王族が滅んだ理由を知れば…奴は迷わず、わしを殺す」
リザードマンの王は自分の言葉に冷や汗をかく。
その言葉の意味を知る側近も、顔を歪めた。
王は不安をかき消すように、わざとらしく大声を出して笑う。
「ギャギャギャ!わしはとんでもない過ちを侵してしまったかもしれん。あの力欲しさに拾い、育て、この100年隠してきた。奴も自分の一族を滅ぼしたのは覇王と他の竜族共だと思い込んでおる!…奴が真実を知った時では遅い。あの力を失うのは実に惜しいが…わしや同胞の命の方が遥かに惜しいというもの」
「では……予定通り、計画は実行なさるのですね?」
確認するように告げる側近の言葉に、王はニヤリと笑みを返す。
「あぁ。奴がわしに刃向かった時の保険として取っておいた切札。アレを使い…」
王は一度言葉を区切ると、ズイッと側近へと顔を近づけた。
そして更に笑みを深めると楽しげに言葉を紡ぐ。
「奴を殺す」
王は既に決めていた。
かつて自分が命を救い、育ててきた最強の竜。
自分を王と仰ぎ慕い、深い信頼と忠誠を寄せている竜王族の青年を殺す、と。
「三日後に決行する。同胞には密かに伝えよ。奴にだけは決してバレるな」
「王の仰せのままに」