竜魔王誕生 2
始まりは……ある竜族に起こった悲劇。
それは普段と何一つ変わらぬ…静かな夜に起こった。
穏やかに暮らしていたその竜族の集落は、突如………大軍の襲撃を受ける。
敵の数は数万にわたり、上空と大地から集落を取り囲んだ。
集落は、凄まじく強力な攻撃魔法を受け、瞬く間に炎に包まれた。
それがたった一人による攻撃とは…被害を受けた竜達は知る由もない。
怪我を負い逃げ惑う竜達は、集落に侵入した何人もの敵…魔獣や魔族達に囲まれ、惨殺される。
炎の中には大小…様々な大きさの黒い竜の亡骸が横たわっていた。
まだ生きている竜も何体かいたが…今はまだ生きている…それだけのこと。
降伏した竜や泣き叫ぶ子供の竜も、無抵抗なまま何本もの刃物を突き刺され殺された。
炎から飛び出そうとした竜は、上空に浮かぶ敵から攻撃を受け、屍となって炎の中に戻される。
やっとのことで集落から出られた竜も、外で待ち構えていた無数の軍隊に攻撃を受け絶命する。
逃げ道など与えない、容赦ない敵の包囲網。
しかし…その包囲網を奇跡的にかいくぐり、生き残った竜がいた。
敵に見つからぬよう姿を竜から人間に変えた彼は、力の限り走り続け、集落を見渡せる高台まで逃げ延びた。
「はぁっ…はぁっ………っ!!?」
そして彼は…一族に起こった惨劇を目の当たりにする。
「………ぁ……あぁ……どうして…こんなことにっ!?」
眼下に広がるのは、火の海。
そこに沈む焼け落ちた建物に、数え切れぬ程の同族の亡骸。
「………父上……母上…………みんな…」
生き残った幼い竜は、金色の瞳からポロポロと絶え間な(ま)く涙を流す。
泣きながら視線を、集落やその周りへと向けた。
集落を囲む森…その中に潜む敵の姿までは見えないが、木々の隙間から同族の血で染まった刃物が映る。
上空へと目を向けると…信じられなかった……信じたくなかった敵の姿。
それは巨体に翼を持つ……本来の自分と大差ない姿。
自分と同じ種族が数え切れない程、空を飛んでいる。
その姿を映し、金色の瞳は揺れた。
「…どうして……同じ竜族が…俺達を?」
突きつけられた現実に…ただただ困惑する。
そして彼の目が捕らえたのは、竜だけではなかった。
空を飛ぶ数多の竜の中に…一人浮かぶ、黒い短髪の人型。
それは……竜族でも魔族でもない……人間の男だった。
髪と同じ漆黒のマントが攻撃による余波の風に揺れている。
彼がスッ…と眼下の集落を指さすと、それを合図に上空にいた竜達は一斉に口から光線を放った。
竜族にしか使えぬ…強力な攻撃魔法、竜の咆哮【ドラゴンブレス】。
千頭以上いる竜のドラゴンブレスを一斉に受け、集落は大爆発を起こす。
爆発の衝撃に飛ばされぬよう、少年は必死に足を踏ん張り、目を閉じたまま顔を両腕で庇った。
風圧が収まり目を開けると…集落のあった場所は跡形もなく燃やし尽くされていた。
そこには亡骸も建物も無い。
ただただ…巨大で円形な黒焦げのみ。
少年の家族も、一族も…もはや骨すら残らず全て塵と化した。
「っ!!どうしてだっ!?父上も兄上も…俺達は皆!他の竜族を!人間を!お前達を守って来たのにっ!」
泣き叫ぶ少年竜。
その慟哭は誰の耳にも届かない。
一人を除いて。
上空を睨みつける少年に対して、あの人間の男はゆっくりと少年の方へ顔を向けた。
「っ!!?」
男は真っ直ぐ少年竜を見つめている。
その人間は確実に少年竜の存在に気づき、また少年の方も自分の存在がバレた事に気づく。
命の危機を再度感じた少年は、一目散に後方にある森の中へと駆け出した。
「覇王様?いかがされました」
「今………いや。なんでもない」
一匹の老竜に話しかけられた人間の男…いや、覇王は少年竜の存在を告げようとし…結局は口にする事をやめた。
不思議がる老竜だったが、それには構わず覇王は告げる。
「後は竜族に任せ俺は引き上げる。下の魔族達にも伝えなおけ」
「覇王様。御協力、深く感謝致します」
「俺は部下である魔族を連れてきただけだ。最初の攻撃以外何もしていない」
「その攻撃があったからこそ、奴等の殆どが死に絶え、生き残った者も虫の息ばかりでした。覇王様、愚かな同族を滅ぼす為に力を貸して下さったこと。…竜族はこの御恩、決して忘れませぬ」
「そうか」
深く頭を下げ感謝を告げる老竜だったが、覇王は短くそれだけ答える。
覇王は少年竜が去った方をチラリと見るとマントを翻し、一瞬で消えてしまった。
老竜は覇王が消えたのを感じると、その場にいた全竜族に告げた。
「集落は落ちた!しかし生き残りがいるやもしれん!周辺をくまなく捜索せよ!」
その言葉を受け、竜族は一斉に飛び去った。
万が一にも、生き残りなど残さない為に。
その夜…全ての竜族の頂点に立ち、古の王のシュヴァリエでもあった【竜王族】は滅んだ。
一体の少年竜を残して。
「っ、生き残ってやる!必ず!生き残ってやるっ!!」