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野良犬と、王子。悪人と、正義のヒーロー。

作者: 濁った目
掲載日:2020/08/22

なあ。俺はどこで間違ったんだ?

雨が強くなってきた。この曇天は、あと数日は晴れないだろう。

鉄パイプは切れた。左足は擦りむいて、右腕には切り傷だ。けれど、目の前のあいつは、油断して笑ったりしていない。これだけ優位な状況でさえも、いや、だからこそ、命を奪うという立場にたったからこそ、あんな真剣な目をしてるんだと思う。

「そう哀れむような目で見ないでくれよ。」

「…。」

王子は喋らない。虚勢に付き合ってもくれないか。

…大丈夫だ。チャンスはある。俺のバケモノはまだ復活できる。

「そろそろ起きろ。」

そう呼びかけると、二つに裂けた黒い影が、ずちずちと繋がっていき、這いずる様に起き上がる。

「本当に不死身なんだな。」

王子が嫌そうに言い放つ。

「どうだかな。次こそ本当に殺せるかもだぜ?」

「茶番は終わりだ。本体たるお前を殺す。」

「待ってくれよ。お前の剣は、悪人しか切れないんだろ?だとしたら、俺は切れないかもだぜ?だから、戦闘はもうやめにして…」

「何人殺した。」

「…。」

「何人殺した!!」

「…10から先は覚えてねえよ。」

「お前は自分の親を殺した。お前はこの街の市民を殺した。お前は自分の級友を殺した。そして、この剣はお前の腕に傷を入れた。これでもまだ、善人だと言うつもりか?」

…、それは

「ヴアァアアァァア!!」

ザンッ

また、バケモノが切り捨てられた。また勝手に飛びかかりやがった。最初は手こずっていた王子も、もう一手間でバケモノを殺せるほど慣れてきてる。また復活するにせよ、時間がかかる。それまで、どう時間を

「もう終わりだ。」

王子がこっちに走ってくる。駄目だ。袋小路だ。逃げ道がない。鉄パイプはもう役に立たない。どうする。どうする。どうす

ザシュッ

右腕が、熱い。切られたのか。ああ、次は心臓を一突きか。


まだだ。


とっさに足払いをする。体勢を崩し、王子が膝をつく。手をつくため振り下ろした剣は、俺の左手の親指を奪っていく。今しかない右腕で思い切り相手の首をー、ああ、右腕、ないんだった。

ズバッ

身体の左側が熱い。まずい、次の攻撃を避けなければ。


あれ、なんで追撃してこない?


あれ、身体に力が入らない。ぐらりと、仰向けに倒れる。ああ、左の身体が切られてら。

「終わりだ。野良犬。」

雨が身体に当たる感覚が消えていく。哀れむ視線が俺を刺す。

曇天が霞んでいく。



何で俺、ここでこんなことやってんだ?生きるため?ずっと、死にたいと思ってたじゃないか。

なあ、俺は悪人だったのか?

子供の頃から、ずっと味方がいなかった。

家に帰れば、何故生まれたんだと殴られた。

食料を盗めば、犯罪者と蔑まれた。

学校では、俺とあいつが虐められた。


だから。


虐待してきた、親を殺した。

食料にするため、人を殺した。

あいつを自殺を考えさせるまで追い詰めた、級友たちを、殺した。

なあマリー。俺はお前のために殺した。

けれど、血塗れの俺を見たとき、お前は確かに怯えてたよな。


なあ。俺は、…悪人なのか?


いや。


これが、答えか。


「今、楽にしてやる。」

霞む視界のなか、王子が剣を振りかぶる。そして、その、剣を、

「…待って下さい。」

グレーのパーカーが目に写る。涙声の少女は、野良犬を庇うように立つ。

あの頃と同じ、臆病だけど、優しい声。

「野良犬さんは、悪人なんかじゃありません…!」

やっぱりお前にはパーカーが似合うよ。この前着ていたワンピースも良かったけどな。でもな、この雨でびしょ濡れになっちまう。だから早く帰ってくれよ。

なんでこんなとこに来た。馬鹿野郎。



ずっと、そう言って欲しかったんだよ。

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