ちんぽ博物館
ある男の日常は、理不尽に破壊される。
「だからうちはちんぽ博物館じゃありませんって!」ガチャン
これで何度目だろう。今日だけで朝から33度も問い合わせの電話がかかってきている。数日前に引っ越してきてからずっとこれである。寝不足だしキレそうである。そんなときにピンポーンと軽快なチャイムが鳴り響く。
「すみませーん。ここにちんぽ博物館を建てるということで、この家を取り壊してくださいという連絡が入ったのですが……」
「頼んでないわ!!!!!!いい加減にしろーーーーーー!!!!!!!!!!!」ドアガチャーン
* * *
さすがにおかしいと思った私は法テラスに相談することにした。が、追い出されて精神科を紹介されてしまった。これでは私の頭がおかしいみたいではないか!つらく悲しく情けなく歩いていると
「ぐあっ!」ガツーン
前方不注意で掘っ立て小屋にぶつかってしまった。昨日まではこんな小屋はなかったはずだが……。そう考えていると奇怪な輩が小屋から出てきた。全身黒ずくめで目が見えないほど深くフードを被っている。
「お前には霊が取り付いているね。それも悪霊が!何か日常生活に支障が出ているのではないか?」
なんと断言されてしまった。この人になら……この人になら話してもいいかもしれない……!
「実は……うちがちんぽ博物館だという言説が広まっていまして……」
* * *
「おお……見えてきたぞよ……」
私はここ数日間のことをすべて話、私に憑いているという悪霊のことを調べてもらった。
「お前に憑いている悪霊は、江戸時代、合戦で亡くなった落ち武者だ!この武将は、前々からちんぽ博物館を建てたい、ちんぽ博物館を建てたいと思っていたにもかかわらず、その本意を成し遂げられないまま、それはそれは残酷な死に方をしたそうじゃ」
「まさか武将の幽霊の仕業だったなんて……」
私は背筋に氷を入れられたような怖気を覚えた。そういえばここ数日、なんだか体が重いと思っていた。引っ越しに伴うストレスが引き起こす心身症だと思っていたが、幽霊の仕業だと決まればやるべきことも決まった。
* * *
私は家の前にニンニクを吊るし、ヒイラギの枝を突き刺し、魔法陣を描き、オナモミを植え、鏡を置き、塩を置き、お札を貼り、念仏を体に書き(ただし耳に書くのは忘れた)、かみつくを覚え、体を鍛え、チェーンソーを買い幽霊を撃退するように努めた。しかし、一向に効果は出なかった。それどころか、幽霊は激怒して巨大化し、ビルを破壊し始めた。口からはあらゆるものを一瞬で凍らせる凍結光線を発射するとともに人間を狂わせる超音波を発し、空をマッハ50のスピードで飛び、全身から硫酸を噴射した。もう終わりかと思われたそのとき、自衛隊が到着した!
* * *
自衛隊は全滅した。荒ぶる炎の舌に舐められて、東京はとろける東京になってしまった。空は炎の朱に、地は人の朱に染まり斜陽が世界をさらに深く深く輝かしい朱にしていた。こんな悲惨な光景だというのに、私の思っていたことは
「美しい……」
世界が美しかった。滅びゆく者こそ美しい、と言ったのは確かアルプスの少女ハイジのおじいちゃんだっただろうか……。
赤い世界の中、私の肩を叩いたものがいる。振り向くと、それはあの小屋の奇怪な輩であった。
「もはやこの世界を救えるのは君だけだ。この戦闘機に乗り込み、あの武将の口に飛び込んで自爆するのだ」
迷うことはなかった。しかし、私のいない世界でこの世がどんな風になるのか――それだけが気がかりだった。あと、自宅が取り壊されてちんぽ博物館になったらやだなあとも思った。
「安心したまえ。君ごときがいなくなっても世界に全く影響はない」ニッ
それを聞いて安心した。もはやなにも思い残すことはない。でも自宅がちんぽ博物館になってほしくはない。私は戦闘機に乗り込み、武将怪獣に向けて飛び立った。その背後では、小屋の奇怪な輩が敬礼をしていた。その頬を伝うものは、なぜか涙であった。
* * *
こうして世界は平穏を取り戻した。しかし、この世界の平穏は、一人の男の行動によるものだということを忘れてはならない。
自宅はちんぽ博物館に改装された。