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残り二話!ここまで読んでくださった方、ありがとうございます!!感謝してもしきれません。不器用ながらも目標に向かってもがく2人をどうぞ最後まで見守ってください m(◞‿◟)m
ーいやだ。おれは光のある世界にいたい。光でみんなを照らしたい。力強い声が聞こえた。
一筋の光が暗黒を割ってオレの左腕に絡みつく。光の筋は小さな手の輪郭に収束していき、形作られた小さな手はさらに強くオレの腕を掴む。オレの体はその手に引き戻される。オレはこの手の温もりを知っている。道を見失ったオレの手を間違いなく引き続けた手。
ーきっちゃんがいつまでもこんな真っ暗闇に閉じこもってるから迎えに来ちゃった!
オレは商店街で感じていた違和感に気づく。明と出会ったこの場所以外は7年前・まだオレが夢見る少年だった頃に戻っていたのだ。オレは思い出す。初めて自分の夢を打ち明けた授業参観、初めてステージに立った商店街のアンパンマンショー。彼はオレを思い出すが詰まったところに連れて行き、失ってしまったものをもう一度手の届くところに持ってきてくれた。本来オレがいるべきところを教えてくれた。
ーその顔が涙で濡れてしまっても、その顔が絶望で染まってしまっても、また新しい自分になればいい。アンパンマンだってたまには負ける。それでも、顔を変えたら嘘みたいに復活してきて、またみんなに元気をくれるからかっこいいんだ。
そうだ、幼いころのオレがアンパンマンに憧れたのは強かったからだけじゃない。瀕死になったアンパンマンが顔を交換してピンチを乗り越える姿を見たとき痺れるような快感を感じたんだ。その手は光を増していき、右目に掴んだ明の顔を照らし出した。
ーだからお願い。おれをこんな暗闇に閉じ込めないで。
オレがこのまま沈んでしまったら明まで一緒に闇に飲み込まれてしまうのだ。あの事故の日からオレは変わってしまった。かつて太陽のようにみんなを照らし出した少年の笑顔は真っ黒な闇で塗りつぶされた。いつまでも、事故現場とかつて家族と暮らした家に亡くした家族の形跡を探し続けた。
『でも…』
オレの脳裏に脳天気にアンパン被って走り回るおれの姿がよぎる。オレは右手を握りしめる。左手の主はもう解っていた。明るい未来を奪われたくなかった少年が未来の自分であるオレを助けに来てくれたのだ。
オレは光に包まれたその手を握ると力任せに体を持ち上げた。