⑦
能天気に草むらを走り回る明が小石につまずいて転んだ。小さな体はそのままコロコロと転がって川の中に落っこちてしまった。反射的にオレは駆け出していた。川に飛び込むと水中で必死に明の手を探る。
しかし、その手を掴んだ瞬間安堵と疲労でオレは力尽きてしまった。
光のない闇の中を漂う。ごぼごぼと喉の奥から空気の泡が抜けていき、口と鼻の中に水が流れ込んでくる。流れ込んだ水はオレの体を頭から指先まで満たしていき、重くなった体はさらに下へと沈んでいった。息ができない。俺の体から出ていた空気の泡がみるみると小さくなっていく。
つい最近見た景色。目の前で死という闇の世界に沈んでいく家族を、オレは助けてあげられなかった。アンパンマンみたいに強くなってみんなを守りたい、みんなを元気にしてあげたい。幼い頃から信じて疑わなかったおれの信条をその事実が否定した。記憶の鱗片が完全に繋がり3ヶ月前の記憶が鮮明に蘇る。
いっそのこと自分もあの闇の中に引きずり込んで欲しかった。生きる理由を失ったオレにこの先続く何十年という月日は長すぎる。何もかも忘れて闇の世界に閉じこもりたいと思った。大切な記憶も何もかも閉じ込めてしまえば、もう失うことに怯えることもないのだから。
視界がかすんでいく。
そのまま川の底も突き破って落っこちて行ってしまいそうだ。