⑥
日が暮れてきたので河原を通りながら家に帰ることにした。空を見上げると地平線の向こうに沈みそうになっている太陽が最後の力を振り絞って空を朱色に染め上げていた。明の手を引いてゆっくりと小さな砂利道を進んでいく。オレはあとどのくらいここにいるのだろうか。オレの帰る道はどこにあるのだろうか。足の下で、踏みつけられた砂利が微かに音を立てる。
取り止めもない平穏な時が流れている。不思議と、この河原だけはずっと感じていた違和感がない。道路と草むらの境目に小さな花が置いてあった。オレは引き込まれるようにしてなんとなくその花に足を向けた。
この場所、三ヶ月前に自動車の衝突事故があった場所だ。花が新しいところを見ると未だに遺族は悲しみから抜け出せず、頻繁に訪れているのだろう。自然と涙が溢れた。意図していないのに次々と湧き上がる涙はオレの頬を伝って首筋まで濡らしていく。その涙がオレの記憶の断片を繋げ始めた。人間は脆くて儚い。大切な思い出もかけがえのない人も、小さな事故に一瞬で奪われてしまう。大切な人を守りたい、笑顔にしてあげたいというささやかな願いだって思い出と一緒に吹き飛ばされてしまう。
「悲しいの?」
明は涙を流すオレを不思議そうに見て、ちぎったアンパンをちょこんとお花の横に置いた。そのまま川の方に無邪気に走って行く後ろ姿をオレはしばらく眺めていた。明は真っ直ぐだ。やり方に問題はあるが自分の大切なもののために躊躇なく行動する。なんだかんだいって彼の周りの人は笑ってるし、オレだってコイツに振り回されるのが案外楽しいのかもしれない。
しかし、純粋すぎるからこそ危ういと思うのだ。彼はまだ、ある日目の前で大切なものを失う絶望を知らない。みんなを守りたい、みんなを元気にしたい。お前に生きる活力を与えてくれるその目標を失ったとき、明、お前はどうするんだ。オレの心の奥底から掴みどころのない不安がむらむらと湧き上がってくる。