④
「その格好でか?」
「当たり前だよ。オレのアンパンみんなに食べさせてあげて、みんなを笑顔にしてあげるの。」
正直そんな目立つ服装の人と街で歩くのは恥ずかしい。でも、断ったところでしつこくだだをこねるんだろうな。
オレは靴を履くと鍵とスマホだけ持って外に出た。商店街は人で賑わっていた。自称アンパンマンがはぐれないように見張ってないとな。
ぼんやりと街を歩いた。瞳に映り込む街全体がまるでパノラマ写真を見ているようで居心地の悪さが募っていく。なんかいつもよりも建物や看板が新しく見える。意識を遠ざけようとしても一度気づいてしまった違和感はどんどん増幅していく。
しばらく歩いてオレはもう一つの違和感に気がつく。こちらはその正体がすぐにわかった。
明がいない。見失った!どこだどこだどこだ。問題を起こす前に見つけ出さないと。
探そうとしてもタイムセールの人だかりでうまく前が見えない。視界が奪われた中はっきり聞こえるのは遠くでやってるアンパンマンショーの音声だけだった。
まさかと思って観客席を探しにいったが明の姿は見当たらない。あいつだってもう10才だ。こんなショーはさすがに見ないよな。
『ハーヒフーへホー』
『ひどいわ、バイキンマン。騙したのね。』
『騙される方が悪いのだー』
『えーん、痛いよー。誰か助けてー。』
『やめるんだ、バイキンマン。僕はアンパンマン。この町のみんなをピンチから守る』
アンパンマンの登場に沸き上がる歓声。
「ちょっとまったー、バイキンマン。アンパンマンはこのおれだー」
⁈会場から遠ざかっていたオレの足が止まった。恐る恐る振り返る。そこには朝から目にうるさかった手作りアンパン野郎がいた。
『違う、信じたくれバイキンマン。僕が本当のアンパンマンだ。』
「違うおれだよ」
『やめるんだ、二人とも。オレ様のために喧嘩をするな。』
何この少女漫画の三角関係的な展開。オレこの展開アンパンマンで見ると思ってなかったよ。
「疑うのならオレのカオを食べ給え!」
なんで敵にアンパンあげるんだ。
差し出されたアンパンを見て固まるバイキンマン。朝から剥き出しで人込みを歩き回ったせいでアンパンはもうすでに薄汚れていた。
こんなの食べたら腹壊すよ、というバイキンマンの心の叫びが聞こえてくる。
関わりたくないけどためないと被害が拡大してしまいそうだ。オレは覚悟を決めてステージの方に進んでいき、ステージ横のスタッフさんにアホを回収するので少し舞台に上がらせてくださいと声をかける。
突然現れたオレに会場はどよめいた。