表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の使いは戦わない  作者: 柚月 ゆめる
2章 変化する日常 【『アレクシス』捜索編】
13/110

ノブルの長

 エリィとニーナは手分けして、兵器らしいものを探していく。

 姿かたちもスケールもわからない代物だからこそ、お互いに確認を取り合いながらの捜索となった。


 やがてそれらしいものも見つからないまま、差し込んでいた西日が消え、蔵の中が一気に闇を取り込んでいく。

「このままじゃ、ろくに探せないわ……」

 ふぅと息をつき額の汗をぬぐったニーナが、ランプのようなものを探す。しかしそれらしいものがあっても火の元が無い。当然この短時間で蔵の中身全てを確認出来た訳はないが、この場所にはまだまだ期待が持てそうだとニーナは感じていた。


「……ねえ、一度出直した方が」

「ニーナ!」


 姿の見えないエリィの声が聞こえ、ニーナは言葉を止める。確認を終えた物を次々と放り投げ新たな山を作っていたエリィの姿は、その山の奥にあるはずだ。


「武器みてーなの見つけた!」


 ガシャンガシャンと音を立てながら、エリィが山の上から顔を出す。その手に掲げられていたのは、人がギリギリ抱き上げられる程の巨大なガトリング砲だった。今までに発見した剣や拳銃とは異なり、どこか古めかしく実用性もない。

「確認してくれよ!」


 膨れ上がった期待に胸の高鳴りを覚えながら、ニーナはその山に手をかける。その時、指先から感じた違和感にその手を引いた。

「? どうした?」

 困惑した様子で見上げてくるニーナに首を傾げ、エリィは自身の足元を見遣る。


「登るのが怖いのかよ、そしたら俺がそっちに――」

 一歩、エリィが踏み出した瞬間。

「待って、この足場……!」


「おああぁぁぁッ?!」


 絶妙なバランスを保っていたらしいその調度品の山が、エリィの体重に耐え切れず雪崩を起こす。

「きゃ……!」

 鼓膜をたたき割るような騒音と、エリィの叫び声。巻き上がる埃に思わず目を閉じ、ニーナは両腕で顔を覆う。


 やがて騒音が収まると、崩れた調度品で床は見えなくなっていた。

 困惑のままにその様子を見つめたニーナが、思い出したように目を丸くする。


「ちょ、ちょっと、あなた……!」

 調度品の間から、一本腕が伸びている。ニーナは慌てて駆け寄ると、周囲の品々をどかしながらその手を掴んで引き上げた。


「ってェ~~~~」

 涙目で顔を出したエリィが無傷であることに安堵し、ニーナはため息を吐く。


「ありがとうな、助かった……って、あの武器埋まっちまった!」

 両足を引き上げながらエリィが声を上げる。ニーナはそんなエリィの傍で小さく首を振った。


「良いのよ。あれはきっと違うわ。ただの使えない武器よ。……そんな気がするわ」

「そうか?」

 服についた埃を払い落しながら、エリィはそんなニーナの横顔を見る。

「今日はもう戻りましょう。ここ、このままでいいのかしら……」

 足元に散乱したものを見下ろし、ニーナがため息を吐いたその時。


「誰かいるのか!」


「!」

 扉の向こう側から、そんな声が聞こえた。

「あ――ブッ」

「下がってて」


 立ち上がったエリィの顔面を覆う様に手を当て、ニーナは彼を後退させる。物音を絶てないように数歩扉へと近づきながら、腰に下げた剣に手を添えた。


 あまりにも緊張感のないエリィに毒気を抜かれ、今の状況を忘れかけていた自分に舌打ちを漏らす。これほどの物音がすれば、外から気づかれずにいるなど不可能に決まっているはずだ。


 元より自分の身は自分で守るつもりだったが、昼間の時点で彼に頼ることは諦めている。跳ね上がる心拍を押さえつけるようにどうにか息を殺し、暗闇の先で徐々に開いて行く扉を睨みつけた。


「侵入者か――」

「ッ!」

 外の光が入り込んだ瞬間、ニーナは地面を蹴り剣の柄を握る手に力を込めた。


「――待てってば!」


 駆け出そうとしたニーナの腕を掴み彼女を止めたのはエリィだった。突然のことに驚きを隠せないニーナの先で、扉は完全に開き一人の男が顔を出す。

「あなた、何を……!」

 エリィの背の先に立つ男と、目が合った。


 完全にバレてしまった。

 想定外の出来事に思考がまとまらず、ニーナはただエリィの姿を見つめていた。


 しかしそんな彼女の動揺など気にも留めないように、エリィはすっと彼女の前に立つ。顔を出した中年の男がエリィの姿を睨みつけた。

「お前たちは……」

「…………」

 緊迫したニーナがごくりと息を飲む。最悪は自分一人でも逃げられるようにと、視線を動かし策を巡らせた。

 しかし。


「エリィ?」


 静かに二人の姿を凝視していた男が、ぽつりとその名を呼ぶ。エリィが困ったように後頭部を掻いた。

「おう……、久しぶり、おっちゃん」


「お前かあ! なんだ驚いた!」

 急展開に目を丸くしたニーナを置いて、エリィが近寄って来た男に苦笑を浮かべる。


「また勝手に入って来たのか? ったく、どんな魔法をつかってるんだかなあ。っておいおい、今日はあの嬢ちゃんと一緒じゃねーのかよ」

 豪快に笑う男の視線にびくりと体を震わせながらも、ニーナはその男が危険な存在ではないことにだんだんと気付いて行く。


「まあ派手に遊んだな! お前ももう餓鬼じゃねーんだから、いい加減俺に一言挨拶くらいしてから遊べよ!」

「いってェ! ……いや、すまんおっちゃん、あはは」

 思い切り肩を叩かれ思わず声を上げたエリィだったが、その視線はどこか泳いでいる。


「よし、そうと知ったら早速夕飯の準備をしてやろう!」

「え、いや俺たちは」

「なんだなんだ遠慮するな餓鬼のくせに! そこの嬢ちゃんもだ!」

「えっ?」

 空気に徹しようと黙り込んでいたニーナが声を漏らす。

「さあ、早く来いよ! 今夜は肉にしてやろう!」

 さっさと二人に背を向けて蔵を出ていった男から、視線をエリィへと移す。エリィの表情はどこか晴れない。


「……あの人が、ノブルの長?」

 今度こそ、すっかり毒気を抜かれてしまったニーナが、剣の柄から手を離しエリィに問いかける。


「いい人そうじゃない。最初に一言伝えておいても良かったんじゃ」

「良い人なんだよ、おっちゃんは。……でもなあ」

 歯切れの悪い回答に眉を寄せるニーナだったが、蔵の外から男の急かす声が聞こえると、エリィと共にその後を追った。

 夕食を頂いた後に、再度光を借りて蔵の中の捜索を再開しよう。もしくはそれとなく、兵器らしいものを持っていないか問いかけてみようと。


 しかしその後すぐに、ニーナはエリィの苦笑いの理由を知ることになる。


  * * *


「…………」

 げんなりとした表情をフードの下に隠しながらニーナが帰りの道を歩いたのは、それから五時間以上は経過した頃だった。


「俺がおっちゃんと顔合わせないようにした理由がわかっただろ」

 その隣を同じように疲れた表情で歩くエリィの言葉に、ニーナは小さく頷いた。

「おっちゃんは良い人だけど、とにかく話好きなんだよ。最初に挨拶なんてしてたら、蔵にすら行けなかったぜ」


 ぞっとしない話だ、とニーナは小さく震えた。

 とはいえ、その会話の中で何も得られなかったわけではない。あの倉庫は既に物置に他ならず、観賞用としては十分な価値があれども実用性のあるものは一つも置いてはいないと男……ノブルの長は語っていた。また兵器らしいものに関しても、そのようなものは持ち合わせていないという話だ。


 隠蔽している可能性は零ではないだろうが、その様子を見る限り信ぴょう性は高いだろうとニーナは感じていた。


 俯き加減に歩くニーナを横目で見て、エリィは両手を頭の後ろに回す。

「そんな顔すんなって! 今日は収穫無しだったけど、まだまだ捜索は始まったばっかなんだからな」


 当然彼女もエリィに頼ると決めた時から、一日二日で『アレクシス』を発見できるなどとは思っていない。とはいえ、いざこうして一つの手がかりも無ければ、彼女の気分が晴れないのは至極当然のことだろう。


 エリィはうーんと唸りながら、ズボンのポケットから何かを取り出し確認する。


「明日は森の方に行ってみようぜ。ニーナと会った教会の奥とか!」

 ニーナの顔を覗き見るように首を動かしたエリィへ、ニーナはようやく顔を上げ、眉をハの字に曲げたままで小さく頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ