表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の使いは戦わない  作者: 柚月 ゆめる
2章 変化する日常 【『アレクシス』捜索編】
12/110

捜索開始!

「こんなところに……?」

 翌日。ゲルダと別れたエリィはどこか釈然としない様子のニーナを連れ、ノブルにある立ち入り禁止の看板が立った民家を訪れていた。


「まあ、まずは近場でこのあたりから探してみようぜ。ここ、俺が物心ついた頃からずっとこんな状態なんだよ。昔はよくゲルダと二人で、肝試ししに来たっけなあ」

「それなら、この場所に『アレクシス』があるかどうかも、あなたは知っているんじゃないの?」

「うっ……?! まあ、諸事情があってだな……当時は一番奥まで行けなかったというか、どうしようもねー障害があったというか……。と、とにかく! さっさと調べるぞ!」


 まさか毎回途中で怖くなって、民家の最奥まで進めたことが無いとは言えない。首を傾げたニーナに気付かないふりをして、エリィはさっさと古びた扉を開けた。

 ゲルダと訪れた時とは異なり、今は昼間だ。意気揚々とエリィが民家へ足を踏み入れるが、思いのほか薄暗い室内に早々と彼の足が止まる。

「どうしたの?」

 エリィの後ろから顔を出し室内を見たニーナに、びくりと体を揺らしながらエリィは笑う。

「な、なんでもねー! よぉぉぉし、さっさと探すぞ!」


 無理やりに大股で進んで行くエリィの姿を、ニーナが不思議そうに見つめる。埃被った室内を念入りに調べながら、ニーナは彼の後を追った。

 入ってすぐのリビングルームを過ぎ、奥の扉を開く。短い廊下とそこからつながるいくつかの部屋を一つ一つ確かめるが、それらしい影はなかった。

「なあ、その『アレクシス』ってのは、どのくらいのデカさかもわかんねーの?」

「ごめんなさい、本当にわからないの。……でも世界を破壊するだけの兵器だもの。きっと見ればわかるはず……だって、思っているけれど」

「そういうもんかね」


 今にも壊れそうな階段を登り、二階の廊下にたどり着く。


「……暗いわね」

「やっぱそう思うか?!」

 突然上がった大声に目を丸くしたニーナを見て、エリィは慌てて口を閉ざす。


「いや、そうだよな。暗いから怖いよなあ、怖いに決まってるぜ。こんな今にもなんか出そうな……いや、なんでもねぇぞ!」

 こんなに暗く怖く感じるのは、先入観からだろうかと不安になっていたエリィだ。恐ろしいと感じているのは自分だけではないのだと、心の底でほっと息をついた。

 ニーナは一言も「怖い」と言ってはいないのだが。


「……? なんだかよくわからないけれど、進んでもらってもいいかしら。ここは狭いから、あなたが進んでくれないと私も進めないわ」

「えっ? あ、そうだよな、うん。よし行こう!」

 一階よりも更に暗さが増したその廊下を、エリィは生唾を飲み込みながら一歩一歩踏み出していく。ゲルダの記録更新だ、と心の中で呟いたその時。


「ぶベあアァっ?!」


 突然顔面に感じた感覚に、素っ頓狂な声を上げた。

「何?!」

 顔を突然何者かに捕まれたのだろうか、それにしては随分と冷ややかな感覚だ――。そんな考えを起こして、エリィは更にパニックに陥っていく。


 反射的に腰の剣に手を添えて一歩後退したニーナが、暗闇に目を凝らす。

「なッ、ななな!」

 顔に両手を当てバタバタと足を動かすエリィの前には、特に何の影もない。

「あなた……」

「ギャッ!」

 動揺のあまり両目を瞑ったエリィの肩に手を置き、ニーナが彼を振り返らせた。

「やめ……ッ!」


「――落ち着いて。ただのクモの巣よ」


 そんな落ち着き払った声に、エリィの動きが止まった。

「……へ?」


 薄く目を開けると、呆れた顔のニーナがエリィの頭の上に掛かった蜘蛛の巣を、その手で払っている様子が見えた。


「確かにこんなに頑丈な蜘蛛の巣、初めて見たけれど。アルケイデアには居ない種なのかしら……」

 ニーナはエリィの顔面から払い落とした蜘蛛の巣を拾い、両手でぐいぐいと引っ張っている。状況を飲み込んだエリィはカッと頬を赤くしながら、誤魔化す様に乾いた笑い声をあげた。

「……あなたはここで待っていて。残りの部屋は私が確認してくるわ」

 興味を失ったように蜘蛛の巣を床へ置くと、ニーナは狭い廊下の壁を伝う様にエリィの横を通り抜け、二部屋あった部屋の中を手際よく調べ上げていく。

 廊下に残されたエリィは最早なにかを言う体力もなく、ただ、その場でニーナの帰りを待ったのだった。


 * * *


「よっし、次はここな!」


 結局目ぼしいなにかを見つけることは無く、ただの廃墟であったその場所を後にした二人は次なる目的地へ到着していた。

 天井のすぐ傍に作られた小さな窓から、一本の西日が差し込んでいる。舞う埃に口元を抑え、ニーナは静かに連れてこられた蔵の中心で周囲を見回した。


「鍵、開いててラッキーだったなあ」

 木製のタンスから上等な調度品までが、無造作に周囲に転がっている。その保存状態から一見我楽多の山のようだが、なるほど確かに文化財として貴重な代物も多くあるようだ。


「ここは……?」

「ノブルの長の蔵だよ」

「長の?」

「そ。あのおっちゃんはなぁ、所謂コレクターで有名なんだよ。珍しいモンは全部手に入れたがるんだ。もしかしたら『アレクシス』だって、そのコレクションの一つにあるかもしれねーからな!」


 それはどうだろうかと唸ったニーナだったが、確かに最初から「そんな訳はない」と言い切るのは違うかもしれない。自分はこちらの国には一切詳しくはないのだと自身に言い聞かせる。

「ってことは、ここはその長の私有地……?」

 確かにここに来るまでの間、なぜか外壁を超え、人々の視線を避けながら進んでいた。最初は自分の姿を人から隠すためなのかと思っていたが、もしかしたらこれは不法侵入に当たるのではないだろうか。

「ま、バレなきゃ大丈夫だろ」

 鼻歌交じりに奥へと進むエリィの背を、ニーナがどこか呆れ顔で見つめた。一度ため息を吐き、なるべく静かに行動しようと息を飲む。

 まずは半開きのまま放置していた扉を閉めようと振り返る。


「よし! 早速探すぞ……ってぶァ?!」


 意気揚々と文化財の山に進んだエリィが、奇怪な形状の壷に足をかけ転倒した。

 エリィの体が倒れる音、壷が倒れる音、反射で伸ばしたエリィの手が周囲の山を崩す音が巨大な蔵の中を反響する。


「いてェ~~~~!」


「あなた、静かにして……!」

 慌てて蔵の扉を閉めたニーナが声を上げる。

 額を腫らしたエリィが涙目で立ち上がり、足元の壷を忌々しく睨みつけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ