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怠け者勇者はもう一度、世界を救う。  作者: 宵月渚
第一章『怠け者勇者と白猫の少女』
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第3話『運命の書』

「あの、助けていただいてありがとうございます。勇者様」


 先ほどまで悪魔が飛んでいた場所を見ている勇者に少女が話しかける。


「……まだそんな風に呼ぶ人がいたなんてな」


「……え?」


「いや、なんでもない。別に助けたつもりはない。ボクはただ悪魔を追いかけただけだ」


 勇者は少女に背を向ける。そんな勇者を見て少女はクスリと笑う。


「……ふふっ、優しいのですね、勇者様は」


「……優しくなんかない。じゃあ、ボクはもう帰るから。君も迷子にならないうちに帰りなよ」


「あ、あの、待ってください!」


 表情一つ変えず立ち去ろうとする勇者の腕を少女が両手で掴む。


「なに?」


「実は、お願いがあって……」


 そんなことだろうとは思っていた。わざわざこの人がいない森に来る者の要件などわかりきっている。どうせ大した用事ではないのだろう。用件だけ聞いて返そうと、そう思っていた。


「どうか、もう一度、魔王を倒してくださいっ!」


 少女は両腕を掴んだまま、勇者の目を見ていた。

 一瞬、ふわっとしたような感覚。の目を見ているとどこか遠く彼方に飛ばされるように感じた。


「……断る」


「なっ、なんでですかっ!」


「ボクはもう、人のために戦うのはやめたんだ」


 そう言って家へと歩き出す。

 冷たいっていうのはなしだ。ボクは事実を言っただけ。これだけ言っておけば、誰もボクには近寄っては来ないはずだ。




「……なんで、ついてくる」


 結局、家の前までこの少女は追いかけてきた。

 どうやら少女は怒っているようで頬を膨らませている。


「むぅ……私の話を聞いてください! 魔王が……」


「だから、やめたって言ってるだろ……。ボクの話も聞いて――」


 今度の訪問者もしつこいな。

 また、追い返そうとしたが、彼女の顔を見ると不意にいつぞやかの記憶が浮かんできた。




「――こら、レイズ。女の子には優しくしないとダメでしょ!」


 いつのことだっただろうか。

 金髪の少女にそんなことを言われたのを思い出した。




「……まあいいか。家に入って、詳しい話はそこで聞くよ」


「本当ですか! ありがとうございます!」


 まだまだボクも甘いな。まだあのときのことが忘れられない、か。

 でも、話を聞くだけだ。聞いたらすぐに追い返すか。

 家の中に誰かを入れるのは初めてだ。この二年間、ずっと一人で暮らしていたから。あいにく、椅子は一つしかないので仕方なくベッドの上に座ってもらう。ベッドと椅子、テーブルの位置はそこまで遠くもないから椅子の向きを変えたら対談できる程度には、近くもなく遠くもない一対一の距離が保てる。


「さて、いろいろ聞きたいことがあるんだが、まず、どうやって魔王が復活すると知った?」


 彼女は、魔王が復活したからもう一度、倒してほしいと、そう言ったのだ。いくら、ここが山奥だからといっても魔王が復活したくらいの大きな情報なら何かしらの異変や情報が伝わってくるはずだ。どうせ、彼女と同じように魔王を倒してほしいと、ここを訪ねても来るはずだ。


「その理由を説明するには、この本を見てもらうのが一番早いと思います」


 少女からぶかぶかの白コートの中から一冊の本を取り出す。

 分厚い辞書のような本で、表紙は暗い赤色、そして白い魔方陣が描かれている。

 レイズは手に取ってその本を見てみる。あまりに分厚いので、重そうにも見えるが、ずっしりと感じる重さはなかった。どうやら、物量を減量する魔術が込められているようだ。なるほど、これなら、コートの中に収納できるということか。本を開いて中を見てみるが、驚くことに全てのページが白紙だった。どのページを見ても文字が書いてあるページは見当たらなかった。全て、白一色だ。


「……なに、この本は……? 全部、白紙なんだけど……」


「えっ、白紙……ですか? 私が見たときは文字が書いてあったんですけど。ちょっと見せてください」


 いったい何を言っているんだ。どこを見ても白紙なのに文字が書いてあった……?

 その幼さでもう記憶力が低下したのかと思ったが、どうやらそうではなかったようだ。


「ほら、見てください。やっぱり文字が書いてあるじゃないですか」


「……確かに、文字、か……」


 少女は文字の書いてあるページを見せる。確かに見せてもらったページは何十行にわたってびっしりと文字が書かれていた。書かれているのだが。


「これ、なんて書かれてるんだ……?」


 様々な種族固有の言語を習得してきたつもりだが、この本に書かれている文字はその習得してきたどの言語にも当てはまらなかった。こんな言語、見たことがない。


「えーっとですね……『魔王の封印が解かれた。伝説の十五人が集いしとき、二度目の崩壊は阻止されるだろう』って書かれています」


「なるほど、予言書の類か。……いや、その赤い本、しかも、その高度な予言能力は……まさか、『|運命の書(スクルドグリモワール)《スクルドグリモワール》』か!」


 昔、どこかで伝承について記された本を読んでいたときに書かれていたのを思い出した。


「さすがは勇者様です。そうです。これで、どうやって魔王復活を知ったかはわかってもらえたと思います」


「まあ、確かにその本を見せられたら信じるしかないだろうな。未来に起こる出来事を予言する伝説の本。そして、予言できるのはその本に認められた者だけ」


 つまり彼女はその本に選ばれたというわけ、誰でも知っている当たり前のことを説明したつもりだったのだが。彼女の様子がおかしい。


「えっ……これって、私じゃないと使えないんですか……?」


「……えっ。その本のこと、知らないのか?」


「し、知ってますよ! バカにしないでください! 運命の書(スクルドグリモワール)は、強力な予言書なんです!」


「……うん。それで……?」


「え、えっと、それで……そ、それだけですっ!」


 嘘だと信じたかった。


「嘘だろ。そんなの、三歳児でも知っていることだぞ……。いったい、どんな山奥に住んでいたんだ……? いや、それとも外に出たこととか、本も読んだこともなかったのか……?」


「うっ、あ、ありますよ! あ、ありま、す……」


 少女は顔を赤らめて、頬を膨らませている。

 子ども扱いしないでと目で訴えられたような気がした。


「まあ、いいか。それで、この本、どこで手に入れたんだ? 未だ、誰もこの本を見たことないって言われているくらいの伝説の本なんだ。深海に沈む古代の遺跡か? それとも、太古の種族に代々受け継がれていたり、とかか?」


「え、いや、その……」


 それほど見つけられていない伝説の本なんだ。さぞかし、発見困難な場所、環境で手に入れたことだろう。


「家の、物置を漁っていたら……」


「……え?」


「家の、物置の隅に、落ちていました……」


「い、家の……物置の……隅……?」


 もう一度、この少女の持っている辞書のような赤い本を見る。この、伝説と言われている予言書、運命の書(スクルドグリモワール)が家の物置に。確かに発見困難といえば、発見困難なのか……?


「え、えええええっ!」


 それは、人生で一番に等しいくらい驚いたことだった。

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