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怠け者勇者はもう一度、世界を救う。  作者: 宵月渚
第一章『怠け者勇者と白猫の少女』
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第0話『伝説の勇者』

「前衛部隊は中衛部隊と交代! 後衛部隊は引き続き、魔術を放てっ!」


 砂塵舞う広大な砂漠。口を開けば確実に砂を含むことになる。しかし、それでも男は指示を出さなければいけない。兵士の数はおよそ千人。一国の兵士を集めたとしても明らかに足りない人数だ。複数の国の兵士が集まっているに違いない。それだけの人数を集めて彼らは何と戦っているのか。

 兵士たちが見ている先には全長百メートルはある大蛇が大きな壁のように行く手を塞いでいる。この大蛇のせいで砂漠を自由に行き来することができず、複数の国が話し合って討伐することを決めたのである。


「隊長! 兵士の半数以上が負傷、そのうち二割が重症です! あの魔物が尻尾をたった一振りしただけでこうなってしまっては、全滅するのも時間の問題です!」


 連絡班の兵士がこの兵士をまとめている隊長に報告する。隊長の冷や汗が止まらない。国が危険視している魔物だから、それ相応の対策はしてきたが、想像を遥かに超える強さだったのだ。


「くっ……あれが、砂漠の王『ノンスタンダード=デザートスネーク』か……。これだけの兵を揃えても圧倒的な強さだ。あれが、化け物というやつか……」


 隊長は後方から戦う兵士たちを見る。前衛、中衛部隊は敵の攻撃を防ぎ、隙あらば武器で反撃する役割だ。だが、あの大蛇のすさまじい攻撃に真っ向から耐えようとする者はいない。避けられるだけでも奇跡なのだ。つまり、前衛、中衛部隊はあの大蛇の囮ということだ。

 当然、彼らを捨て駒にするなどとは考えていない。前衛が耐えているうちに、トップクラスの実力を誇る魔術師が集まった後衛部隊が魔術による攻撃で大蛇を仕留めるのだ。しかし、どれだけ強力な魔術を放っても大蛇の鱗を貫通することはできていない。こちらは大蛇に一撃も与えることはできず、倒れる兵士が増えていくばかりだ。


「――皆に伝えてくれ、全員、後退せよと」


「隊長……? それはいったい、どういう……?」


 隊長は腰にかけた剣を取って呪文を唱える。


「『強化魔術(ストレングスマジック)(アーム)』『強化魔術(ストレングスマジック)(レッグ)』、さあ、行くぞ! 大蛇の魔物っ!」


 隊長の両腕両足が、白い靄に包まれる。

 姿勢を低くし、隊長は大蛇の下へ一直線に飛び込む。大蛇の下まで二百メートル以上、それをたった一度の踏み込みだけで隊長は進んだ。


「あれが、隊長の『強化魔術(ストレングスマジック)』……。あそこまで自分の身体能力を強化できる魔術を唱える人なんてそうそういないぞ……。さすが、複数の国の兵士をまとめる隊長だっ……!」


 連絡班の兵士は隊長の動きを見て感心する。

 隊長はその強化された脚力で高く跳躍し、落下の勢いを利用して蛇の頭目掛けて長剣を突き立てようとする。


「――さあ、貴様の鱗と国一番の鍛冶屋に鍛えてもらったこの剣、どちらが強いか勝負だっ!」


 剣は鱗を貫通せず、傷をつけただけだった。大蛇は頭を振り回し、隊長は踏ん張ることができずに遠くに飛ばされる。ここは砂漠、多少の高さから落ちても砂がクッションになって衝撃は吸収されるが、これに関してはそうはいかない。全長百メートルの蛇の頭から勢いよく落とされたら、ひとたまりもないだろう。


「くっ……腕には多少の自信があったのだが……もはや、これまでか……」


 そう思ったときだった。

 突然、吹いた風が落下する隊長の体を支えたのだ。衝撃は最小限にまで抑えられ、隊長は無傷で帰ってくることができた。

 これは、自然現象などではない。魔術だ。後方部隊にいる兵士の魔術だろうか。いや、急速に落下している対象に合わせて的確に位置を指定するなど、高位の魔術師であっても困難な技術だ。ならば、いったい、誰が。

 答えはすぐにわかった。


「……あれ? なんか、思ったより鱗柔らかくないか……?」


 一突きだった。

 突如、空から降ってきた少年の剣の一撃であれだけ苦戦していた大蛇が力尽きた。


 連絡班の兵士が隊長の下へ駆けつける。


「隊長……! 無事でしたか! しかし、あの少年は……?」


「間違いない、彼は伝説の……!」


 あれだけ暴れていた大蛇が動きを止め、砂の上に横になって倒れる。少年は大蛇の頭から飛び降りる。

 隊長は急いで少年の下へ走っていく。


「助けていただいて感謝します、伝説の勇者様っ!」


 左目を包帯で隠し、安価なナイフ一本の攻撃も防げなさそうな青い服を着て、赤マントを身に着けている。この砂漠には縁のない色、深海のような青い色の髪をした少年が振り返る。


「――お礼なんていいよ。ボクは当たり前のことをしただけだから」

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