先延ばしでお願いします
私は駅を歩いている。後ろには大きな鎌を持った死神。今朝からずっとストーカーされている。
誰も突っ込まないところをみると、彼の姿は他の人には見えてないらしい。じゃあ何で私には見えるのか。
それは、今日私が彼のお世話になるから。
ホームに特急列車が入ってくる。私は急いで足を踏み出そうとする。
だが、あと少しのところで、動けない。
満員電車に揺られ、高校に着く。でもそのまま屋上に行った。金網越しに下を覗き込む。これで苦しい日々から逃げられると思った。
「脇役で一生を終えるつもりか?」
突然、死神は尋ねた。まさか話かけられるとは思っていなかったので、慌てて振り向いた。黒いマントに骸骨の顔。間近で見るとかなり怖い。
「たとえどんなに目立たなくとも、人生という舞台の主役はお前しかいない。ハッピーエンドにするのかバッドエンドにするのか、全てはお前次第なのだ。それをたった数十年で終わらせるのは、もったいなくないのか?」
彼の声は低く恐ろしい。でも、何故かとても心配されているように感じた。
私の魂を取りに来たくせに、変なの。
だけど気にかけてもらえて嬉しかった。誰も私の気持ちに気付いてないと思ってたから。
教室に戻ると、仲良しグループの三人が寄って来る。
そして私本人の前で、いじりという名の悪口が始まった。毎朝恒例だ。
みんな酷いこと言って本当に楽しそう。私もへらへら笑って平気なふりしてた。でも。でも、本当は。
「ごめん。ずっと言えなかったけど、そういうの、すごく傷付く」
言ってからすぐ、私は仲良しグループの輪から抜けた。もう、あそこにはいられないだろう。でも辛くはない。不思議と清々しい気分だ。
いじられキャラは、もう演じないことにした。吸えない空気なら読まなくていい。心が痛いのをもう無視しない。
ストーカーの死神が教えてくれた。
私は、主役なのだから。生き方も終わり方も自分で決めるんだ。
「ねぇ、死神さん。死ぬの、先延ばしにしていい?」
尋ねて振り向いた時、彼はもうどこにも居なかった。
感想、ポイント評価、ありがとうございます!
死神目線のサイドストーリー【七十年後の待ち合わせ】も投稿しました。
良ければそちらもご覧ください!