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美少女吸血鬼と行く異世界の旅~日の下を歩けるってアリですか!?~

 この世には、俺達人間が想像すらしないような事が沢山ある。

 さっきまで近くに居た子どもが突然行方不明になる。

 重量計算もしっかりとされていた足組が崩れ、落ちてきた鉄骨の下敷きになる。

 絶対に不可能だと思っていた高嶺の花に告白して成功する。

 など、それは人によって変わるだろう。

 そして、今まさに目の前では舌なめずりをして金髪の美少女が、大勢の鎧姿の男たちを相手に大暴れしていた。

 ちぎっては投げ、血を飲んで狂喜乱舞するさまはどう見ても人外だ。

 ただ相手も、この世の人とは思えない火の玉や水の玉を生み出して投げつけている。


 ――な、なんで……、なんでこんな事になったんだ?――


 俺がそんな意味不明の状況に追い込まれたのは、今から数時間前の事だった。

 今日から夏休みという日に、俺はいつもの様に友人たちと休みの間の計画について話し合っていた。


「なぁ、血波田。お前は夏休みいつ空いてるよ?」

「俺か? 俺は盆以外なら空いてるかな? 親父たちが爺さんの所行くって言ってたから」

「あぁ、確かに盆は俺も空いてないや。お前は?」


 本当に何気ない会話だった。これから来る楽しい夏休みを目の前に浮かれている。そんな高校1年の夏休みだ。

 それから俺達は、夏祭りには行くかとか、夏に公開予定の映画はどうするかだのと話し合っていると、不意に一人の友人が肝試しを提案してきた。

 俺達は、そいつが何を言い出したのかと訝しみながらも聞いた。

 なぜ俺達が訝しんだかと言うと、この街は比較的都会で廃工場も、廃病院も無いのだ。そんな俺達の反応を見て、言い出した奴は少し小馬鹿にした様な笑みを浮かべながら話し始めた。


「なんだぁ? お前らまだ知らねぇの? 洋館の幽霊騒ぎ」

「洋館の幽霊騒ぎ? どんな話だ?」

「ん~? 知りたいの? どうしようかな~」


 そいつの何とも言えない反応にイラっとした俺達は、「じゃ、いい」といって帰ろうとすると、慌てて話し始めた。


「あ、ちょ、待ってくれよ。話すから。話すから待ってくれよ~」

「最初からそうしろっての。で、どんな話なんだ?」

「あぁ、実はな……」


 そう言ってそいつが話し始めた話は、よくある幽霊話だった。

 数年前から誰も居なくなり不動産屋が管理するだけの洋館に夜な夜な人影が現れるという。その人影が現れ始めてから、周辺では行方不明事件も多発しており、洋館の幽霊が人を誘い入れているのではないかというものだ。

 正直俺はあまり怖いのが得意な方ではない。

 だが、俺以外の面々はかなり乗り気で、既に引き下がる事ができる状態では無さそうだ。

 ただ、ここでビビりと下に見られるのも正直癪なので、俺も行く事に賛成した。

 そしてその日の夜、俺達は例の洋館の前に立っていた。間を置いては流れてしまうからと言われたが、俺はそっちの方が良かった。

 洋館は、少し郊外にあり辺りは閑散として、街灯も少なく薄暗い。その為、洋館からは異様な雰囲気を感じる。

 俺は、その雰囲気にのまれて悪寒と共に生唾を飲み込んだ。そんな俺の様子など気にすることなく、提案してきた友人が声をかける。


「さて、全員そろった事だし、順番決めようぜ!」


 そう言って提案してきたのはなんのへんてつもないくじ引きだ。


「お、俺から行くぞ」


 そう言って、俺から順番に右回りに5人くじを引いた。

 もちろんまだ誰も見ていない。


「よし、せいので開けて見せろよ……、せいの!」


 開いた瞬間。俺の目の前が一瞬グニャリと歪んだような気がした。

 いや恐らく歪んだだろう。なぜなら、俺が手にしている紙には「1」の数字が見えているからだ。


「よし! 血波田が一番な! えっと後は……」


 お、俺が一番。あんな場所に一番に行くのか……。何も無ければ良いのだけど……。

 それからはすぐにルールの再確認と、もしもの時の対処法を確認した。


「管理人さんの場合は、そいつだけが怒られて、後は逃げる。もし変な奴が居たら大声で助けを求めろ。残っている奴が通報と助けに入るからな」

「何かあった時の事を考えるってリアルに怖いよな……」

「ハハハ、まぁそう言うなよ。これも雰囲気出しだ」


 そう言う雰囲気出しとか要らないからな。という俺の思いは誰にも伝わる事無く、俺は入り口の近くまで移動した。

 ちなみに門は既に開いており通過できた。そして、入り口に手をかけると鍵が開いていたのですぐに忍び込めた。


「不用心だな……」


 俺がそんな事をボヤキながら扉を開けて中に入ると、雨戸の殆どが閉まっている事もあって真っ暗だった。そんな中を手に懐中電灯を持って階段を探して彷徨う。

 中は、意外というかなんというか、あまり汚れている様には見えない。懐中電灯の少ない灯のせいでそう見えているだけかもしれないが、荒れた廃屋の様な雰囲気は無かった。


「……だ、誰も居ませんよね?」


 誰に行ったわけでも無いそんな言葉が口から洩れるが、もちろん返事など無い。

 いや、あってたまるか!

 そんな事を自分の中でツッコミながらも歩き回ると、やっとの事で階段を見つけた。木製の階段からは一歩踏みだす度に軋む音が響き渡り、俺の心を意味もなく慌てさせる。

 そんなこんなで、俺が二階に辿り着くとそこには無数の扉と先の方に窓が見えた。


「……部屋、なんか多いような? ってかこの洋館、奥に広い?」


 自分がいつの間にか、かなり奥まで足を踏み入れている事に今更ながらに恐怖していると、一つの部屋の扉が軋みながら開いた。まるで俺を誘っているようだ。


「……だ、誰か居るのですか?」


 もちろん返事など無い。

 たまたま風で開いたのだろうか? それとも何者かが潜み、俺が近づくのを待っているのだろうか? どっちにしても、進まなければ分からない。

 俺は恐る恐る足を進めると、人の気配は全くしなかった。

 ただ、扉の開いた部屋に足を踏み入れると、そこには細いマネキンの様な物が無数に転がっていた。


「ひっ!? 人!?」


 俺は、かすれるような声で叫ぶと同時に周囲を見渡した。

 俺は、先ほどから奥歯に力を入れようにもガチガチと歯が鳴ってしまう。歯を鳴らしながら部屋の奥の方を見ると、そこには二つの真っ赤な眼光と、白い歯が月明かりに照らされて浮かび上がるように見えた。


「ひ、あ、あが……」


 驚いて後ずさると、足がもつれたのか、腰が抜けたのかその場にへたり込んでしまう。

 ――あぁ、父さん母さん。助け――

 目を瞑ってそう願うと、同時にあり得ない腹の音が響いた。

 そう、俺もよく知っている腹の音だが、その音量があり得ない大きさだった。


「え? は、腹の音?」


 俺が半信半疑でそう呟くと、視線の先の美少女が少しうつむきながらお腹を押さえていた。


「腹が減ってるのか?」


 彼女は、俺の問いかけに黙って頷いてきた。


「……チョコでよかったらあるぞ?」


 俺のその一言に彼女の表情が一瞬にして花が咲いたように華やいだ。

 綺麗な鼻筋、赤い瞳、そして白く美しい歯には立派な犬歯。

 そして月明かりに体全体が照らされると、そのスタイルの良さも相まって、俺は思わずドキッとさせられてしまった。


「……くれるのか? 妾にそのチョコを」

「あ、あぁ。俺を見逃してくれるなら……」


 俺の一言に、彼女はチョコと俺を見比べながら渋い顔をしていた。

 あ、そこ悩むんだ。

 俺がそんな事を考えていると、彼女は両手を合わせて俺にお願いをしてきた。


「そのチョコも欲しいけど血も少し分けて! 少しだけで良いから!」

「……少しって言って全部飲む気じゃ?」

「……だ、ダイジョウブ。……多分」

「ちょ! なんで急に片言!? しかも最後に多分って言わなかった!?」


 俺がツッコミを入れると、彼女は少し照れながら頬をかいて少し考えてから口を開いた。


「じ、実は、お釈迦様と約束しちゃって……」

「お釈迦様って実在するの!?」

「う、うむ。一応天界に居られる。でだ、その約束というのが、人を襲って血を吸ってはならんというものでな。これを違えれば異界へと飛ばすと言われての……」

「……それでも空腹に耐えかねて、お願いしていると?」


 俺がそういうと、彼女は少し躊躇いながらも頷いた。


「……それ血を吸うだけでもダメとかって事はないよな?」

「そ、それは大丈夫! じゃと……思う……」


 なんだろう、この目の前の吸血鬼。

 俺のイメージと全然違う気がする。


「……はぁ、少し質問しても良いか?」

「う、うむ。よいぞ。それに答えたら血をくれるのか?」


 俺は最後の方の言葉は無視して話を続けた。


「まず一つ目、この辺で人が消えたとかっていう噂があるけど、お前が犯人か?」

「そ、そんなことは一切ないぞ! ただでさえお釈迦様の目があるのじゃ! 人を襲えばどんな目に合うか」

「お釈迦様容赦ねぇのな」

「うぅ、人外には3度も良い顔してくれぬのじゃ」


 彼女はそう言って俯く。

 その姿が何となくかわいかったのもあり、俺はつい口をついて言ってしまった。


「……飲むか?」

「血だぁぁぁぁぁぁ!」


 俺がそういうと、彼女は嬉々としてガラスの破片を手に持って、いきなり俺の手の平を切り付けた。

 その瞬間、一瞬光ったかと思うと何者かの声が響いた。


「喝! 約定を破りよったな! 別次元へと行って出直してこい!」


 その声と同時に、俺の手を持っていた金髪の少女は何かに吸い込まれ始める。

 俺は必死に彼女の手を振り払おうとしたが、そのまま引きずり込まれるのだった。

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