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オオカミの選定

 風が空を誘った


 王神を喰いに行こうと




 風が森を誘った


 王城を喰いに行こうと




 その昔、かの国でバーナムの森が動いたように


 茨の森が王の亡骸と共に城を飲み込んだ




 きれいはきたない


 きたないはきれい


 次の王神はだーれだ




 その晩、そうして確かにひとつの王国に終わりが訪れた




 ****************




「う~ん、幸せー!!!」




 甘いものってなんでこんなにも幸せなのか。


 身悶えしながら、ひと口またひと口とサクラコは目の前のパフェを口に運ぶ。


 バニラビーンズのしっかりと香るカスタードに、さっぱりとしたシャーベット。ヨーグルトムースに生クリームと真っ赤な宝石のようなイチゴ様。




『美味しいものには人生を変える力があるのよ』




 今は亡き祖母がそう語っていたのはいつの日だったか。


 サクラコはその言葉に間違いはないと確信していた。




 ――だってほら、こんなにも幸せになれる。




 仕事での失敗も人間関係のモヤモヤも全部まとめて吹き飛ばす驚異的なパワー。すべてが浄化されなくなってく。


 月末、仕事帰りのちょっとした贅沢。お気に入りの隠れ家的喫茶店でパフェを思いっきり頬張りひと月の疲れを洗い流す。


 サクラコにとって、それはまさに至福の時間だった。




 だが、そんな幸福な時間も永遠には続かない。


 ついに最後のひと口へとたどり着いてしまった。


 名残おしいが、仕方がないとパフェグラスにスプーンを向けたその時だった。






 グワワンッ






 世界が揺れた。照明あかりも消えた。


 体感震度はおよそ3ぐらい。


 地震大国日本に住む身としては、そんなに慌てるような揺れでもない。ただ、停電には少しドキドキする。そんな程度。




 それから再び照明がつくまで、10秒もかからなかったように思う。




「お客様、大丈夫でしたか?」




 声をかけてくれた店員さんに軽く会釈をしてパフェへと向き直る。






 ――あれ?イチゴもうひと粒残ってたんだっけ?




 停電前にはなかった(気がする)ひと粒のイチゴに首を傾げつつ、サクラコは最後のひと口を頬張るのだった。






 ****************




 異変は、翌朝訪れた。


 朝起きて、顔を洗おうと洗面台に向かい鏡を見たサクラコはソレに気が付いた。




 ――なにこれ?




 左目の色素が異常に薄くなっている。昨日まではたしかに濃茶というか黒というかそのあたりの一般的な日本人の目の色をしていたはずだ。


 なのに、なぜ鏡にうつる自らの左目は金色に見えるのか。オッドアイ、憧れのオッドアイなの?密かにテンションが上がるがそれどころではない異常事態なのはわかっている。




 鏡の中の自分と見つめあうこと数分、サクラコはその場から動けずにいた。


 だんだんと頭が朦朧としてくる。




 ピキリ




 鏡に一筋の亀裂が走った。




「危ない!!」




 突然腕を引かれ、後ろへと倒れこんだのと鏡が粉々に砕け散ったのはほぼ同時だった。




「よかった。怪我はない?」




 朦朧としたままサクラコは声の主へと視線を向ける。そこに居たのはやたらとタッパのある凛々しい女性。ポニーテールにした黒髪が美しく、プロポーションも抜群。向けられた笑顔についつい胸が高鳴り思わずお姉様と読んでしまいたくなる。




「だ…大丈夫です。ありがとうございます」


 


 本来ならば、不法侵入で警察を呼ぶべきなのかもしれない。その容姿のせいか、それとも身を案じてくれたせいかサクラコは警戒心を持つことができなかった。




 そんなサクラコの心のうちを知ってか知らずか、お姉様は話を続ける。




「ごめんなさい、ほんとうなら昨日のうちに迎えにくる予定だったのだけれど。オオカミ候補の数が思ったより多くてね。全員を探し出すのに少し時間がかかってしまったのよ。私はジュリア。オオカミ候補の案内人よ。あぁ、オオカミっていうのはね…」




  ところが、サクラコの耳にはジュリアの話がいっこうに入ってこない。


 右から入って左へ受け流されていく。




「というわけで、いくわよ!」




 そのまま、結局何が起こっているのか。どこにいくのか。ジュリアが一体何者なのかわからないままサクラコはジュリアに連行されるのだった。




 ****************






「さぁ、着いたわよ」




 ジャージャージャーン♩ジャジャジャーン♩




 目の前には崖。日本海の荒波。


 火サスのテーマが聞こえて来そうな断崖絶壁。その上にそびえ立つ石造りの塔。




「ここ…ですか?」


「そうよ。ここが、私たちの目的地。オオカミ候補生のための試練の塔。」




 ジュリアがようやく、サクラコの様子がおかしいということに気がついたのは、サクラコの家を出た直後のことだった。慌てて、懐からブレスレットを取り出しサクラコの腕につける。


 そうして腕輪の効力で自らの金色の目に魅了され恍惚状態にあったサクラコの状態異常を強制的に解除したのだ。


 だって、初対面なのだもの。随分とボーッとした子だなぁとは思ったのよ?まさか、魅了状態だとは思わないじゃない!


 とはジュリアによる後日談。




 そんなこんなで、黒塗りのリムジンに乗せられたサクラコはおおよそ、二時間ほどかけて移動する中ジュリアから改めて説明を受けるのだった。




 そうしてたどり着いたのがこちらの塔。


 オオカミ候補生候補だけが入ることのできる試練の塔。この塔の頂上までたどり着くことでようやく正式にオオカミ候補生となるのだという。そしてその過程で自らの瞳の制御方法も覚えるというのだ。






 塔を見上げ、サクラコは先ほど移動中にきいたジュリアの話を反芻する。


 現代日本ではない別の国。その国を統べる王が亡くなったのだという。その国の王は世襲制ではなく、国を渡って。時には世界を渡ってばら撒かれたオオカミの石を体内へと同化させたものがその候補生として集められ、複数の試練を通して王の座を奪い合うのだという。




 そして、サクラコもそのオオカミの石を同化させたオオカミ候補生の一人なのだとジュリアは語った。金色に輝く左目がその証なのだという。その左目が持つ力は、魅了、支配、テレパシーと実に様々。ただ、その力を自由に使えるようになるにはそれなりの修練が必要なのだ。


 そしてそうでもしないと自らの力が制御できず先ほどのサクラコのような状態になりかねない。場合によっては、もっと酷い事になっていた可能性すらあるのだ。


 だから、オオカミを目指すかどうかは別として塔の試練だけは受けた方がいいとジュリアに説得され、サクラコはそれを受け入れた。




「ここから先はわたし一人なんですよね?」


「そうよ。頑張って行ってらっしゃい。ここで待っててあげるから」






 サクラコはゆっくりと塔へと歩みを進める。




『美味しいものには世界を変える力があるのよ』


 祖母の言葉が蘇る。全くもってその通りだ。


 おそらく、昨日食べたあのイチゴがオオカミの石をとやらだったのだろう。




 サクラコのに日常はあの時を境に変わった。


 オオカミを目指すかどうかはまだ決めてはないけれどまずは塔の試練に挑むのだ。




 ****************




 風が空を誘った


 王神を喰いに行こうと




 風が森を誘った


 王城を喰いに行こうと




 その昔、かの国でバーナムの森が動いたように


 茨の森が王の亡骸と共に城を飲み込んだ




 きれいはきたない


 きたないはきれい






 金色の目の候補生


 オオカミ候補は全部で十六




 つぎのおうさまだーれだ?

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