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最強魔王は異世界革命をはじめたい~真っ赤な共産主義でもいいですか~

「実に面白い魔王が生まれたね」


 それは完全なる闇の中だった。

 魔力だけが満ちた空間で、俺は覚醒した。


「……ここは、どこだ?」


「天地と生死の狭間の空間だよ――【紅の魔王】君」


 声の主は少女のようで、闇の果てから奇妙に響いてくるようだった。

 すぐ近くのようでいて、遠くからのようでもある。


 答えた少女は何者かわからなかったが、【紅の魔王】という言葉はしっくりきた。

 心の奥底にすっと嵌る感覚だ。


「不思議とその呼び方は合っているように感じる、ありがとう。それで、姿がちっとも見えないあんたは誰だ?」


「私は神だ。人間の基準でいえば、あまり善良ではない神様かな?」


 おどけたように声の主は語る。

 この答えもなぜだか反論できない力があった。威厳というか、少なくても一笑に付すことはできない何かがある。


「私の仕事は漂う魔力と残留思念をミックスして、魔王という力ある存在を生み出すことだ。そうすることで世界に変化を促すんだけどね。どういった存在が生まれるかは運任せなんだけれど、君は自分の存在意義がわかるかい?」


 突然、問われる。神様の言っていることは、なんとなくわかる。

 そして自分の欲求――存在意義。


「共産革命を成し遂げるんだ。資本主義の豚を絶滅させ、階級社会を抹消する。理想社会を建設する」


「あはは! 面白い、実に面白いよ!」


「そうか? 俺は真面目なんだが」


「ごめんね、そんなことを考えた魔王なんて、これまでにいなかったからさ。興味深いよ――君が何を巻き起こすのか」


「当然、革命闘争を開始する」


 ふたたび神は笑い出した。


「ああ、これから向かう世界で共産革命なんて、普通の魂なら到底不可能だろう。でも、魔王の力があれば不可能ではないかもしれない! 道のりは遠かろうとも」


 そうだ。俺は徹底的に戦う。

 資本主義と階級を消し去ってやる。


 どんな世界でも通貨があるのは当たり前なのだ。金貨とか銀貨とか。

 ああ、なんで金があるのか。

 ……なくなればいい、そんなモノ。


 そして、階級。弱い奴は強い奴に従うのが当然だとか、なんとか。

 王様とか貴族とかも実にありふれている。ああ、なんで階級なんてあるのか。

 ……なくなればいい、そんなモノ。


「そう、俺は最後の王になる。俺以外の王は消えてなくなる――そして革命成就の際には、俺も王の座を降りる。だからその日まで、あえて俺は【紅の魔王】を受け入れよう」


「いずれ捨てるために名乗るんだね。本当に変わってるなぁ……」


 それは認めざるを得ない。

 共産革命を起こそうとするなんて、間違いなく狂人の道だろう。

 だが、俺はすでに覚悟している。


 やってやる。本当に資本主義を抹殺してやろう。

 中央銀行を爆破して、紙幣でキャンプファイアーするのだ。



「ま、やってみればいいさ。君は世界を変化させる為に生まれたんだから。力はある。意志もある。後は運があれば、光明も見えてくるだろう」


 闇に一筋の光が差してくる。

 頭の中にとめどもなく、知識が流れ込んでくる。

 これから向かう世界の基本的な知識と知恵。そして――魔法の知識。


 神との対話も終わりに近づいている。


「これで私がやることは終わりだね。これから変化させる世界へと向かってもらうわけだけど、なにか希望はある?」


「……俺を赤ん坊からスタートさせることはできるか?」


「できるけど、なぜ? 大人の姿から始めることもできるのに。わざわざ子どもからやり直す意味は?」


 俺は力強く答えた。


「革命は絶対的に成功する。俺がこだわるべきはむしろ過程だ。俺は一歩一歩、その世界の人間であったかのように革命を前進させたいんだ」


「実に変なこだわりだねぇ……ま、わかったよ」


「ありがとう、革命が成功したら君の銅像を世界中に建てよう。共産主義の女神像だ!」


「……それは全然嬉しくないかなぁ」



 ♢



 それから俺の意識は遠ざかった。

【紅の魔王】としての意識を持ちながら、俺は転生したのだ。


 そんな俺は今、赤ん坊だった。

 きょろきょろと観察した結果から言うと、文明レベルはそこそこある。


 新聞もあるようだし記事に汽車らしき写真もあった。

 つまり憎むべき資本主義が、その牙を剥き始めたころだ。


 俺が生まれたのは――どうやらかなりの上級貴族家らしい。

 辺境伯とか言っていた気がする。


 まぁ、その辺りにはあまり興味ない。

 どうせ俺の共産革命で階級社会は消滅するのだ。


 両親は忙しいらしく顔はあまり見せない。

 俺の世話をしてくれるのは、主に姉とメイドたちだった。


「あ、カイが笑った~」


 5歳になる姉に抱えられて、頬をつんつんされる。

 ああ、そうだ――今の俺はカイ・ウェストという名前だ。

 姉の名前はアンナだったか。黒髪で利発そう女子だ。


「ミルク~、えいっ!」


 アンナが手をかざすと、棚の上のミルク瓶がふよふよと俺の方に飛んでくる。

 ……なるほど、とても不思議な光景だ。

 知識として様々なことは知っているが、見るのは初めてだものな。


「まぁ、お上手です! アンナ様には風魔法の才能がありますね!」


 側にいるメイドは驚く様子もなく拍手している。

 ふむ、やはりこれが魔法か。


 アンナが手をかざした時に、見えない力のうねりのようなモノを感じた。

 あれがいわゆる魔力なんだろうな。


 たしかに、俺の身体の中にも――同じようなうねりを感じる。


 まずはこの魔力を使いこなすことだ。

 資本主義を叩き潰すにも力なしには不可能だ。

 革命遂行には理想だけではなく、実力がなければならない。


 この世界にはこの世界のルールがある。この場合は魔力か。

 まずはそのルールを身に付けてやる。


 魔法という存在を見せてくれたアンナには感謝だ。

 革命を成し遂げたら、名誉革命戦士の称号を与えよう。


 そんなことを考えていた俺に、ミルク瓶が押し付けられる。


「……ばぶっ」


 本当に赤ん坊なので仕方ないが……。

 お腹も減ってきたので、おとなしく飲むしかない。

 ……ばぶー。


「いっぱい飲んでねっ」


 しばらくは甘んじてお世話されるしかない。やれやれだ。

 ばぶぶ~。



 その日の夜遅く。

 1人になった俺はアンナの魔法を再現しようと試みた。


 アンナはただ手をかざしただけで瓶を引き寄せた。

 俺の知識でも魔法の発動に詠唱や杖は必須ではないが、あった方がいい。


 でも5歳のアンナでも魔法が発動できたのだ。

 今の俺にもどのくらいの魔法が使えるのか。


「あうあうあー……」


 さすがに赤ん坊が魔法を使えるかの知識はない。

 まあ、俺のように自我を持っている方がありえないのだから仕方ないが。

 とりあえず試してみるしかないだろう。


 暗い部屋の中、俺は熊のねいぐるみに狙いを定める。

 共産主義と熊は切っても切り離せない。


 たしか……こんな感じだったかな?

 小さな手を伸ばして、魔力のうねりを解放する。


「あうっ!」


 熊のぬいぐるみがふわっと浮かんだ。

 やった! 1回で成功させたぞ。

 そのまま糸をたぐるように引き寄せ、キャッチする。


「……むふっ」


 よしよし、幸先いいぞ。ちゃんと俺にも才能がある。

 さすが魔王だ。神様にも感謝しよう。

 革命が成功したら、世界中に女神像を1万体つくろう。


 さて、今度は元の場所に戻してみようか。

 逆に、逆に……空中を押すように魔力を操る。ゆっくりと熊のぬいぐるみを動かしていく。


 ……あっさりできた。熊のぬいぐるみが元の場所に戻った。

 というより、引き寄せるより簡単だな。


 でもこれでやれることが広がった。

 俺のいるベビールームには、親の本棚がある。


 これで気づかれずに、本を引き寄せて戻せるようになる。

 あるいは俺自身を移動させることもできる。


 時間はたっぷりある……ある程度の知識はあるが、知識はあればあるほどいい。それに最近のニュースを知るには学び続けるしかない。


 革命闘争はすでに始まっている。

 どこからどんな風に活動するのか――ふふふ、計画を立てなければな。

 同志も必要だ。部下でも仲間でもなく、同志だ。


 そうだな……まずは手近なところでアンナに共産主義の素晴らしさを宣伝しよう。

 火炎瓶を投げる必要性を、世界を真っ赤に染め上げる意義を説くのだ。

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