表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/22

魔将軍とクリスマス

以前掲載していた短編の再掲載になります。

一部文章を書き直しています。全体の内容に変化はありません


「もうすぐ年末ですね…」


皆様こんにちは!カデリーナ=ロワストです。


秋祭りが終わって少し寒くなってきましたね!ここカステカートは日本に似たような四季があります。一の季が春、という呼び方でして今は四の季ですね、そして…この時期、結構雪が降るのです…


長い長ーい転生人生で一度、雪深い国に生まれたことがありました…あの時代は本当辛かった。エアコンがない時だったし、暖かな下着も無かったですしね。あぁ…揉めば温かくなるアレ欲しいですね。


まあ今は魔法がありますし、雪対策はそこそこ自分では対処できますが、やはりユタカンテ商会としては冬対策グッズを販売したいところですね!特に今年は冷えには敏感です。


「ただいま戻りました!」


「おかえりなさい、カデちゃん。外寒かったでしょ?」


私はサーモンピンク色のポンチョをコート掛けにかけて、声のした居間を覗きました。ラブリーソファーに腰かけてヴェル君のお母様、オリアナ様がニッコリと微笑んで座っておられました。よしよし…ひざ掛けはしておられますね。


「お義母様、只今戻りました!雪が降りそうでしたよ~」


そうです、うふふ…オリアナ様とずっとお呼びしていたのですが


「お義母様って呼んでみて~」


とオリアナ様に言われたので呼ばせて頂いてます、照れますね。


そしてオリアナお義母様のお腹をジッと診てしまいます。フフ…今日も元気ですね!


そう、オリアナお義母様のお腹には…な、なんと赤ちゃんがいるのです!


もうビックリです。いつの間に仕込んだんだ?ポカリ様?おっと失礼…下品でございましたね。仮にも元王女殿下ですのに…お腹の赤ちゃんは案の定と言いますか、ものすごい魔力持ちでしてオリアナ様の魔力循環を阻害するほどの勢いです。


どうやらヴェル君をお生みになった後、ずっと体調を崩されていたのは、こういう状態になっていたからのようなのです。ポカリ様めぇ~種づけだけしておいてぇ~おっと失礼…


しかし今回は大丈夫ですよ!何故なら私が付いておりますしね。自分で言うのもなんですが、治療術士のエキスパートですからね。お任せ下さいですっ!


「夕食は体が温まるものにしますね」


レイゾウハコをパコンと開けて鳥肉、リリンを取り出した時にある事に気が付きました。手羽先…十二月…


「クリスマス…」


そうでしたー!うっかりしてましたー!自分一人の時はクリスマスを飛び越えて、おせち料理を作ることに、心血を注ぎまくっていたので…いけませんよ、これはっ…ウチにはスイーツ男子がいるじゃありませんかっ!


イチゴがたっぷりのホールケーキを…ん?あっ!?


ああっ……生クリームが無い……


いえ確かに牛乳はあります。ただ生クリームを作る時間とケーキに必要な量を確保する時間がない。


「仕方ない…」


生クリームを使わないでクリスマス色を出しましょう!よしっ!私はクリスマス用のクッキーのデザインを紙に書き出しました。


「カデちゃん…これ生き物か?」


「四足の動物、トナカイと言います…」


「……そうか」


私の絵心は壊滅的にダメダメなのを、すっかり忘れていましたよ。


自分ではトナカイを描いたつもりでしたが、魔獣も真っ青なキャーッ!な生き物になってしまいました。動物クッキー類はやめましょう…折角のクリスマスクッキーが呪いクッキーになってしまいます。


とんでもない物体を見せて、精神的ダメージを与えてしまったこの方は、ヴェルヘイム=デッケルハイン様です。


うふっ!私の恋人兼未来の旦那様です。とりあえず婚姻のご了承はヴェル君側のご両親は大賛成でした。擽ったいけど嬉しいですね…


しかし問題はうちの家族です。頭カチカチな方達じゃないから大丈夫だとは思いますが…魔将軍がーとか、ガンドレアがーとか言われて反対されたらどうしましょうか?まあ、どうもしませんけどね〜しっかり自立したおひとり様ですよ。気持ちはスッキリはしませんが婚姻してしまえば無問題です。怖いものは、老いと病気だけですよ!


さて、うちのヴェル君は今日はお休みの日ですが…今はカステカート王国軍の近衛騎士団に所属しています。来年、一の季では新しく新設される第三騎士団の副官に就任予定です。


「姫様おかえりなさいませ、タクハイハコにお届けものが来ていますよ?今の所、動作に問題はなさそうですね」


あら、なんでしょうね?


タクハイハコ試作品も使い始めて今日で三日目、順調な滑り出しです。


私はルラッテさんにお礼を言って、キッチンに向いました。タクハイハコは年が変わってから売り出す予定の新商品です。バルミング主任の努力が実ってやっと商品化になりました。


「おおっ来てますね」


私はタクハイハコの蓋の上の魔石を触りました。赤の点滅が消えてから蓋を開けました。おっ入ってる入ってる!何か布に包まれた平らな物体が鎮座していらっしゃいます。手紙も一緒に入ってますね、ガサガサ…


『カデリーナ、手紙とドーナツ届いたよ。

このタクハイハコ素晴らしいね。

ドーナツもアツアツだったよ。

母上がレモンパイと

カラメルプリンが食べたいんだって。

料理長に作ってもらえばいいのに

絶対カデリーナのがいいんだって 今度頼むね

                

               アルクリーダ


カデ、体は無理はしていないかい?

たまにはこちらに帰って来なさい。

とりあえず一度連れて来なさい。


               レミオリーダ』


お兄さま達…思わず笑みが零れます。

おや、まだ手紙に続きが…お父様だわ!


『カデリーナ

今日、ナジャガルの新国王が

こちらに表敬訪問に来られた。

リヴィオリーナ、カデリーナ、マディアリーナ、

三人の姫に弟が大変な心痛を与え

申し訳なかったととても真摯に

謝罪されておられた。

姫達は割と呑気な性質なので

気になさるな…と伝えておいた。

              ガウントリーダ』


コラッ‼お父様、呑気とはなんだっ!ん…追記がありますね、何々?


『ナジャガルのシテルンで取れたプーラという海洋生物です。焼いても煮ても美味しいですよ…と一緒に来られた皇子殿下に献上された食品だが、きっとカデリーナが好きな物じゃないかと思って入れておいた』


海洋生物…ま、まさかぁぁぁ!?急いでタクハイハコの中の平たい物体の布を取りました。そこにはすでに三枚おろしにされている大ぶりな…


「し、し、白身のお魚だぁ!」


マジで~うっそ!!お魚よっこの辺りじゃまず見かけないわっ!


そうだ!急げーー!


早速、お魚をムニエルに調理してタクハイハコに入れてシュテイントハラルの実家(王宮)に送りました。


すぐに空のお皿が返されて皿の上にペロンとメモ紙が乗っていました。


『ルフゥランテと二人で全部食べてしまった。美味だ』


おいっ!一応6切れ入れたろうが!二人占めかいっ大人げない国王陛下と妃殿下だな!


しかしこのタクハイハコ…高齢のお一人住まいの方の家に設置してもいいですね。お食事を差し入れ出来ますし…あら、ちょっと宅配お弁当サービスの仕事が出来そうじゃありませんか?お金儲けの匂いがプンプンしますよ!


いけない……また我を忘れてしまいました。私はルラッテさんを呼んでプーラのお魚を見せ、気味悪がるルラッテさんに少し焼いてプーラを食べて味を見てもらい、予想通り大喜びされてました。


そうだろう~そうだろう~!


夕食はプーラのクリーム煮と根野菜のサラダ、モロンの葉野菜巻きを作り夕食にお出ししました。デザートはドーナツです。


するとヴェル君が驚き発言をしました。


「あれ?これプーラじゃないか…この辺でも売ってるのか?」


なんだって?ヴェル君知っているのかい?


「ガンドレアの海沿いのバーリーは魚料理が多いよ、良く食べた。地元の人はホルン…だったかな?の魚を生で食べてたな…黒っぽいソースかけてた…」


イヤぁぁぁぁ!刺身よーーーそれっ!黒っぽいソースって醤油じゃないのぉぉっ!?


「ちょっとヴェル君、早急にそのソースについて調べてよ」


ヴェル君ににじり寄ってガンを飛ばします。ヴェル君は目をウロウロさせてオリアナ様に助けを求めました。するとオリアナ様はう~んと眉間に皺を寄せてます。


「私は知らないわね…帝都があったのは内陸だし、見かけたことは無いわね。でもね、世界にはいろんなお料理があるというし…きっと色んな香辛料あると思うわよ。いつか見つかるわよ!」


うん、ガックリくるけど…そうですよね。私は海なし国出身だから海に対してすごい憧れがありますよ…


「でも、ナジャガル皇国は海とグローデンデの森が隣接しているから海洋生物が魔の物になったりしないのかな?」


ヴェル君の言葉にそうだよね…と思いました。


「あ、本当ですね…でも魚は陸に上がれませんから、魔素は海にまで流れていかない…ということでしょうか?」


謎ですね…でも魔の森の研究をされている方もいますし、色々と何かは解明されているかもですね。


「グローデンデの森か…あの辺りに出るロイエルホーンの魔獣化したあの肉…美味しかったな…」


するとオリアナ様がフォークでドーナツを切りながら


「あのお肉最高に美味しいわよね~」


とおっしゃった。なんだって!?そんなお肉知りませんよ!?そう詰め寄ると…ヴェル君はこう言った。


「あ…おそらくだが、シュテイントハラル王族の方々は、禁じているのではないかな?魔の眷属の生き物の血肉だしな」


美味しい食べ物に敏感な私としては、食さないなんてありえませんよ!それに時はクリスマス前っ!ローストロイエルホーン?が作れるじゃないですかぁ!これを逃す手は無いっ!


翌日、私は市場の行きつけのお肉屋さんに直行しました。ところが…


「ロイエルホーンの魔獣肉だってぇ?あー無理無理、そんな高級肉市場には出回らないよ~」


「ええっ…お高いお肉なのですか?」


「もちろん高いのもあるが、ほとんどが王宮か貴族に買い取られて手に入らないね。あ、でも食べたいなら『スェンペリント』で食べれるんじゃねえか?」


『スェンペリント』一皿銅貨7枚(5000円ほど)はする超高級料理店じゃないですか…思わず王宮のある方を睨みつけてしまいます。


今頃、あの腹黒がロイエルホーンのお肉で舌鼓打っていると思ったら無性に腹が立ちますねっ!


かくなる上は魔獣退治に行かねばなりませんか……


現実的に無理ですね…私のような虫のような体力の女には無理です。例え討伐地に行けても防御一辺倒で何も出来ませんし、攻撃魔法は全然使えませんし、これはどなたかに御供をお願いせねば…でも誰に?カークテリア君は確実に私より弱いし…


そうだ!お城に行けば強い人がゴロゴロいるはずだ!!早速お城に向かって駆け出しました。速度は低速ですが…


「何やっている…カデちゃん…」


「……」


「茂みに隠れてリヴァイス殿下とかくれんぼか?」


早速、茂みに潜んで誰か強い人をスカウトしようと思いましたが、ヴェル君に見つかってしまいました。本末転倒ですがこの際、未来の旦那様に頼むしかありません。


「ヴェル君、お忙しい所にすみません。頼みごとがあるのですが…」


「どうした?」


ヴェル君はしゃがんで目線を合わせてくれます。


「年末の前に…え~と特別お食事会を開催したくて、食材を探しているのですが市場にロイエルホーンの魔獣肉が売っていなくて、その…一緒に魔獣狩りに行って頂けたらと…」


「おおっロイエルホーン狩りに行くのぉ~俺も付いて行っちゃおうかなっ」


ヴェル君の後ろからダヴルッティ近衛騎士隊長が眩しいご尊顔を覗かせていらっしゃいます。


「ご無沙汰しております、ダヴルッティ様、ラヴァ様、サバテューニ様、ヴェル君がいつもお世話になっております」


隊長様の後ろには、ヴェル君のお友達の近衛のお二人のお姿があります。


「今ちらっと特別食事会…とか聞こえたっすけど、なんかするんすっか?やっべ楽しみぃ!」


いやおいっちょっと待て!ラヴァ様を誘うとは一言も…


「いや~姫様のお作りになったお料理、美味しいですよね、楽しみです。」


サバテューニ様ぁ…そんな美しい王子フェイスなお顔で微笑まれたら断りづらく…


「そうだな、差し入れてくれる菓子も美味だしな。安心しろ!ロイエルホーンは必ず姫の手に渡すぞ」


ピカーンと後光の射す笑顔でダヴルッティ様が…ああ、もう断れないパターンね、これは…


「隊長、皆で行くのですか?」


ヴェル君全然動じないね、流石だ。ダヴルッティ様は、うんそうだね~と軽く軽~く答えてくれた。


え~と…皆様と転移門の前ですが…え~と軽装です。というか、はっきり言って手ぶらですっ。討伐用の荷物とか準備するものは無いのですかぁ!?


ダヴルッティ様の、うんそうだね~の後、四人と私で移動して騎士団の団長様にお断りを入れて…内務省?だかなんだかの窓口で用紙に何か書いて…そのまま転移門に来てしまいました。


「カデちゃん…見送りありがとう…」


「何をおっしゃいますやら、もちろんついて行きますよ?」


ヴェル君と無言の睨み合いをします。


「そんなに…鈍っ…動けないのに…?」


「ヴェル君っ!いくらヴェル君とはいえ言ってはいけない言葉がありますよっ!」


「まぁまぁ…こんなに頭数いて、万が一にも危険なんてないからさ~いいじゃないか?」


ダヴルッティ様の一言でヴェル君は黙りました。ふ~んだ!


やがて職員の方が来て転移門が起動し始めました。おおっ…え?もう?ヒヤッとした北風に思わずヒートの魔法を使いました。


「銀世界ですよぉ~」


私の歓声も雪に吸収されたのかあまり響かないですね。ラヴァ様がヨジゲンポッケの中からマフラーを取り出して着用されていました。用意いいね…


「さみぃ…この時期はエーマントはやばいなぁ~」


はいっ!もうエーマントに着いてしまいましたね!ガンドレアに近い所の方が魔獣が出やすいとのことで国境ギリギリまで行きます。とりあえず、国境警備の詰所に顔を出そうとしましたら、何やら騒がしいですが?


「おーい、討伐申請しておいた近衛のダヴルッティだけど~」


すると詰所奥からお二人、走って出て来られました。非常に慌てていますね…


「ダヴルッティ様ようこそっ!すみません今立て込んでまして…あ、あの討伐で国境近くは行かない方が宜しいかと…」


「どしたの~?」


「魔人が三体出まして…」


ひぃええぇぇ!あの魔人ですか!?それは怖い…今の私では秒殺されてしまいますね…三重防御張っておこう…


「討伐に行って来ましょうか?」


ヴェル君がダヴルッティ様に問うと、国境警備のお兄様達は


「あ、討伐に関しては大丈夫なのです、実はたまたまカステカート支部にSSSのお一人がいらしてて…無償討伐を申し出て下さいまして」


とおっしゃいました。


「トリプルスター!」


思わず、私以外にも感嘆の声と歓声が上がります。あの冒険者ギルド数十億人の頂点に立たれる、私と真逆の身体能力を持つ高みの存在ッ!SSSクラスの方が今近くにいるのよね?


「どこ?どこですか?」


思わずキョロキョロしてしまいます。すると詰所の入り口が開いて、ものすごい魔力圧を放っている人が入って来ました。もしかして…!皆様振り向きました。


年の頃は私より少しお兄様でしょうか…ものすごいイケメンです。ブルーブラックの髪に菫色の瞳が神秘的な美丈夫様です。この空間のイケメン率がまた上がりましたね。


アラ…イケメン様にすごく見られていますよ?その菫色の瞳に見られたら鼻血が出そうです。するとヴェル君が私の前に立ちはだかりました。コラッ!ヴェル君イケメン様が見えないでしょう!?


「あ~どこかで見たことがあると思ったら…お嬢さん、シュテイントハラルのアルクリーダ殿下に似ているんだね、言われない?」


言われないっどころか兄なんですけど…今度はダヴルッティ様をイケメン様は見つめています。そしてコテンと小首を傾げました。イケメンだけどなんか可愛い人だな…


「え~とう~んとフィリペ殿下のご親戚?」


あ、当たっています。私がお声をかけようとする前にダヴルッティ様が口を開きました。


「フィリペを知っているのかい?」


「あ、はい。同い年だし何度かはお会いしたことがあります」


え、何度も?多分、この方は魔力圧の凄まじいSSS様(仮)よね?何者なの?ただのイケメンSSS様じゃないの?


すると、ダヴルッティ様が突然、


「あー!?久しぶり過ぎて気が付かなかった!大きくなったねっナッシュルアン殿下ですかっ!」


と、びっくりな発言をされた。えええ!?殿下?って王子様?


「俺も君が小さい時には何度かお会いしているのだよ、覚えてないかな?ルーブルリヒト=ダヴルッティだ。今は近衛騎士団に在籍している」


イケメン様はしばらくポカンとした後、「ルーブルリヒト王子殿下…」と呟かれました。


「ナッシュルアン=ゾーデ=ナジャガルと申します。SSS、トリプルスターのランクを持っています」


ニッコリ微笑まれたナジャガルの皇子殿下の正体に私は驚愕とそして気まずさに戸惑いました。皇子殿下って私に婚姻を持ちかけてきた第二皇子の甥?なのでしょうか…まさか子供じゃないですよね?


「あ~え~とどうしようかな~困ったね」


ダヴルッティ様が事態に気が付いて困り顔になりました。するとナッシュルアン皇子殿下は少し頷かれてから「何か任務の途中でしたか…では私は魔人の討伐に参りますので…」とイケメンスマイルを残したまま詰所を出て行かれました。ああ!追い出すつもりはっ!


「あれ?行っちゃった…敏い子だね、ナッシュルアン皇子殿下は…」


「行っちゃった…じゃないっすよ!俺、討伐の様子見に行ってきてもいいっすか?」


「ああっ俺も見たい!」


「行く…」


皆が行くと言うので、私も今回は特別に泣く泣く仕方なく急ぐために、ヴェル君におぶわれて詰所を出ました。


「あっちです!」


私が指し示す方向に皆様、風のように走って行かれます。自力で走っている訳ではありませんが速く走れる人になった気分です。ええ、気分だけは…


「もう始まってるか?」


「まだですっ高速でっものすごい速さで移動されてます!」


ヴェル君も人間離れな速さだけど、あの皇子殿下もすごい速さよ?近いすぐです。あれ?


「あ、私達に気が付いて止まっていらっしゃる…ようです」


と、言うわけでどうやら待って下さっていたナッシュルアン皇子殿下に近づいて行きました。


「どうされましたか?」


息乱れてないですね…ラヴァ様とサバテューニ様は息切れしていますよ。流石SSS…


「いや、すまんね、うちの若いのがトリプルスターの討伐が見たいって言うからさ!」


軽いっ!元王子様ですよね。現役皇子様は苦笑いされていますね。


「構いませんが…見て面白いものかなぁ~」


と小首を傾げています。見た目と中身の強さのギャップが凄まじいかたですね。


ナッシュルアン皇子殿下は迷うことなく、魔人の方向へ走って行かれます。私達も付いて行きます。ヴェル君とダヴルッティ様は余裕ですが、ラヴァ様とサバテューニ様は若干、息が上がり気味です。自分は走ってないのに上から目線で偉そうにすみません。


「あれ~四体いるじゃないか…」


ぎゃああ!四体!?増えてるじゃないっ!ナッシュルアン…今回はSSS様でいいか、は小さく呟かれました。


「どうされますか?」


ヴェル君が高速で走りながら、いつもと同じテンポでSSS様に聞きました。


「まあ、凄腕の剣士が魔人にでもなってない限りは、問題ないでしょう」


会話だけ聞いてると、椅子にでも座ってお話しているようですね。でも、もう少しスピードを落としてあげて下さい。とうとうサバテューニ様が脱落しましたよ。気づいてあげて…


私達は大きな木の根元に身を潜めました。びっくり…SSS様すでに体中に3重魔物理防御と透過魔法と気配遮断、消音消臭と…一度で無詠唱でかけています。ヴェル君が「すごい…」と呟いています。すでに一切の気配は消されています…目に見えない霞んで薄い存在の何かになっておられます!


私は急いで最上級の防御障壁を張りました。恐怖のあまりにです、はい。


「す、すごい障壁だね?なんだっけ、暗黒魔法の最大級のものでも弾き飛ばしそうだね…」


ダヴルッティ様…それは褒め言葉ですよね?ラヴァ様と息切れで失神寸前のサバテューニ様は脱力されていました。


「ここで見てるわ…うっかり外出たら今の体力じゃやられちまう…」


うん、そうしなさいな…大人しくSSS様の勇姿を見守りましょう。


すでに気配も魔力も一切感じず、視覚的にも見えないので居所の分からないSSS様ですが…ヴェル君は正確に位置を掴んでいるのか、少し遠くの岩の上を見つめています。木の根元からソーッと顔を覗かせて見ます。


魔人は…居た!


魔力が真っ黒で体中から滲み出ています…が、見た目は顔色の悪い普通の方ですね。


もっと魔人って、魔人だぞ!みたいな顔色とか変わった格好をしているのかと思っていました。これ…魔力の視えない人や感じられない人には、隣に魔人がいても気が付かないのでは?と考えていると


シャアパァンンッ……


何か水音みたいなものが聞こえたと思ったら、四体居た魔人(二人男、一人女、一人子供)のうち男二人の首が綺麗に飛びました!ひっっ!と思ったら女の魔人がガッと空中に飛び上がり何かに飛びかかりました。


一瞬です。ヒラリ…と何かが光ったら女の体は真っ二つで、何か影が動いたな…と思ったら子供の頭に剣が刺さっていました。


SSS様は剣を抜くとゆっくりと倒れた子供の魔人を抱きかかえて、しばらく佇んでおられました。防御魔法が解除されてSSS様の魔力波形が視えて来ました。お優しい方ですね…なんて慈愛に満ちた波形でしょう。


SSS様は黙って近くの木の根元に穴を掘り始めました。男性陣がすぐにSSS様のお手伝いをいたしております。そうか…魔獣は私達が食事の糧として持ち帰りますが、元人間の方はこうして屠ったすぐそばに埋めて差し上げているのですね。すべての作業を終えてSSS様は戻って来られました。


「お嬢さんには怖い物を見せてしまいましたね」


「い、いえ…人が魔に毒されているのを初めて見て、驚きましたが大丈夫です…」


SSS様は秀麗なお顔を曇らせて、ガンドレアの方を見られました。


「あの魔人は恐らくガンドレア市民の方だと思います。グローデンデの森に入られたか、最近報告されている自身で魔素を生成して魔人化してしまったのか…どちらにしても劣悪な環境のせいだと思われます。ガンドレアの現状をなんとかしたいものですが…」


同じく戻って来たヴェル君がそういえば…と切り出した。


「以前、カステカート支部でガーベジーデ商会からの虚偽の討伐依頼が大量にありましたが…ギルドのほうではどう対処されたのですか?」


SSS様はまたイケメンフェイスを曇らせました。


「私もトリプルスター兼皇族の権限を最大限使って、ガンドレアに視察に入らせろと脅したんだが…了承しないんだ。だから思い切って、残りのSSSの一人はじーさんで動かなかったから、もう一人のギリデのおっさんと私、それとSSの手練れ数人で近々勝手にガンドレアに乗り込んでやることにしたんだ、因みに隠密行動だ」


すると、ヴェル君と目配せしたダヴルッティ様が、SSS様の肩に手を置いた。


「殿下、我々もその隠密行動に参加させてもらえませんか?ちなみにコイツ、ヴェルヘイム=デッケルハインなので使えますよ?」


SSS様は驚愕の表情を浮かべてヴェル君を見つめている。そりゃびっくりするよね~


「ああ、カステカート支部で本物の魔将軍がギルドカードを作りに来た!とか騒いでいたから…まさかな?と思っていましたが、本物ですか…なるほど、うん…確かにお強そうだ…というよりお強いですね!」


SSS様はヴェル君に手を差し出すと、熱い握手を交わして「宜しくね!頼りにしているよ!」とおっしゃった。皇子殿下はこうでなくちゃな~かっこいいし、強いし…惚れ惚れしちゃいますね。どっかの腹黒プリンスとは大違いですよ…


その後、SSS皇子殿下はロイエルホーンの魔獣五体と魔獣鳥十羽を爽やかに瞬殺して私にくれると「急ぎますから…」と帰られようとされました。急がれる理由を聞くと…


「シュテイントハラルの表敬訪問中なんですよね~魔人が出たって知らせがギルドから来たから、父上を待たせて来たのです。早く帰らないと怒られちゃうから~ごめんなさい!ダヴルッティ様っ隠密の日時は決まり次第連絡入れますから~」


ドッと冷や汗が出た。あなたがプーラくれた皇子様でしたか~~お魚すごく美味しかったですぅ!…とは今更言えず笑顔でご帰還をお見送りしました。


「あれ?カデちゃん…魚のお礼言ったか?」


今更かぃ!と、ヴェル君の胸につっこみを入れておいて、私達は家路を急ぎました。


結果


ロイエルホーンのお肉は最高級の黒毛和牛でございました、美味。お母様にタクハイハコで送りましたら、すぐに返事が返ってきて「お父様には内緒で実はコッソリ食べているのよ、もっと送れ!」と書いてありました…厚かましい大人だなぁ。


クリスマス会はたくさんの方が(勝手に)集まって来てくれました。ルーイドリヒト一家とフィリペ王子殿下。護衛の皆様とダヴルッティ様。正直、御給仕に私とルラッテさんだけでは手が足りないと思いましたら、アネロゼとシエラそれと他に二人のメイドがお手伝いに来てくれまして何とか間に合いました。


ヴェル君もクリスマスデコのクッキーを食べてシュトーレンを食べてアイスクリムを食べて(甘いのばかりだ)ご満悦でしたね。


皆様が家路につき…片づけを終えたキッチンで2人、チュッチュしながら来年の話をしました。そしてクリスマスと言えばあれ、プレゼントですよ~ヴェル君に手編みの手袋とマフラーを渡しました。顔を真っ赤にして喜んでくれていますね、うふふ…


「出来るだけ早い時期にシュテイントハラルに行こう…」


「はい、ヴェル君!」


異世界で初めて好きな方とのクリスマス…幸せな温かい気持ちと目の前の優しいヴェル君の瞳と温もり…

静かに静かに私達のクリスマスは過ぎて行きました。                         

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ