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秋祭り美男決定戦

「美男が集まらない?」


「はい…そうなんですよ…」


秋祭りの四日目、私は秋祭りの主催責任者兼冒険者ギルドの支部長、近衛騎士団にお勤めのロージ様のお父様と膝を突き合わせていました。


今日はお茶の成分を入れた『メンズ石鹸』の試作品を作ってユタカンテ商会の経理部のマダムに渡そうと商会にやって来たのですが…そこに、ソファに座ってう~んう~んと唸っている、支部長さんとうちのバルミング主任のお二人が居たと言う訳です。


「その…美男美女の秋祭り1位を決める催し…かなり前から参加者を募集していませんでしたか?何故こんな間際で美男だけが集まらないという事に?」


支部長さんは困りきったお顔を私に向けました。


「2週間前までは三十人くらいの方が参加申し込みをされていたのですが…その…実はその美男の部門に、ヴェルヘイム様が出場されると噂が流れまして…」


うえぇぇ!?いつの間にそんな積極的にぃヴェル君ッ!…ていうのではなくて…


「初耳ですよっ!?私知りませんよっ?」


「はぁ…やはりデマでしたか…」


私が仰天して答えると、バルミング主任は憮然とした表情でそう返されました。どうしたのでしょう?


「兎に角…ヴェルヘイム様が出るとなると、優勝は決まったものでしょう?それで…他の参加者達が次々不参加を表明されてしまって…結局残り一人になって状態です」


支部長の言葉とバルミング主任の憮然とした顔を見て、何となく全貌が見えてまいりました。


「その残った方が自動的に1位、栄えある初代秋祭り王子…という訳ですね?」


そう、このミスターコンは今年が初開催になります。今年1位に選ばれますと初代王子という称号が与えられ、アンカレド一の男前と世間に認められる訳です。


「もしかして…その暫定一位の方が、何かを?」


「確証はありませんよ?しかし…不自然に一人だけ残っているのもね。兎に角ヴェルヘイム様が不参加なら、今からでもそういうお知らせを出して参加を呼びかけて見ましょうか」


と、腰を浮かしかけた支部長を私は制すると、ニヤリと笑いました。


「それだと人数が集まっても、その暫定一位の彼にまだ優勝の可能性があるじゃないですか?そんなズルした方をそのままなんて…こうなれば嘘から出たまこと、にしてしまいましょうか?」


ああ、私も腹黒兄弟のような笑いをしてしまいましたね。


さてさて


私は支部長とバルミング主任の3人は、秋祭りの会場の端にある一杯飲み屋さんの店内を、窓の外から腰を屈めて伺っています。


「ああ、彼です」


支部長の指差す、人を凝視します。成程…まあちょっと優男っぽいですが男前ですね。まあ、うちのヴェル君の足元にも及びませんけど…


すると数人のグループで飲んでゲラゲラ笑っているその優男と、連れの男達が大きな声で言いました。


「どうせヴェルヘイムとか言う男も、噂だけで大したことないって~」


「だよなぁ~ギルドとユタカンテの女の子達が、な~んか騒いでたけどさ~ミッテーの方がいい男だって!」


……な・ん・だ・と?


更に男達はゲラゲラ笑いながら話しを続けます。


「出て来れるなら、かかって来いってんだ!どうせ不細工すぎてでれねーんだよっギャハハ!」


支部長さんとバルミング主任がガバッと立ち上がりました。


「誰が不細工だというのですかっ!」


「出ればヴェルヘイム閣下の圧勝だと言うのにっ!」


おじさん達2人がメラメラと闘志を燃やしております…いや、二人が張り切っても仕方ないじゃない?


「「ヴェルヘイム閣下になんとしても出て下さいとお願いして来て下さい!」」


と、おじさん二人に押し出されるように城へと追いやられ、足取り重く私は騎士団の詰所前まで、歩いて来ています。


よく考えたら…ヴェル君には無理ですよね。あの、のほほんとしたヴェル君ですよ?愛想笑いも出来ないし、踊りも出来ないし…歌も歌えないのですよ?


あれ?ミスターコンてどんなことするのでしょう?まさかの水着審査あり?そんな訳ないか…


「あっれ?姫さんどうしたんっすか?」


「ああ、ラヴァ様、ごきげんよう…」


「なんだかお元気が無いですね?」


「サバテューニ様…相変わらず見目麗しく…」


私はお二人に促されて詰所に入りました。中にはキラキラした男前達が沢山居ます。ああ、中央にダヴルッティ様がおられますね…これはお珍しい…


「おおっ!カデリーナ姫、実はヴェルから少し聞いたのだが…例のガンドレア行きに協力してくれそうなご令嬢をご存じだとか」


ああ、そのことですか…え~と。


「あ、はい。私の従姉妹で…母方が父上…現国王陛下の妹御に当たられます…年は21才。王族一の美貌で機転も効き、とても頭の回転の早い方です。恐らく事情をご説明すれば快く了承してくれるとは思いますが、私は居場所がよく分からないのです」


「居場所が分からんとな?」


問われたダヴルッティ様に頷き返します。そう…フォリアリーナ姉様は一か所に留まってはおられない。


「フォリアリーナ…リア姉様は、冒険者なのです」


「なんと!」


「それで所在が不明なのかっ!」


周りに居た近衛のお兄様達のざわめきが、感嘆に変わりました。


「あれ?カデちゃん?」


そんなざわめきの中…ヴェル君が詰所に入って来られました。ああ、とうとう帰って来てしまいましたね…私はゆっくりとヴェル君に近づきました。


「ど…どうし…たの?」


「ヴェル君…お願いがあります。どうか…秋祭り美男王子の催しに参加して下さいましぃぃぃ!」


私の絶叫が詰所内で響き渡りました。


私はヴェル君と、そこにおられた近衛のお兄様達に事情を説明しました。すると真っ先に怒ってくれたのが、意外にもサバテューニ様でした。


「そんな姑息な手で男前と認められようなんてさ、大した顔じゃないのはそっちのほうじゃないか!ヴェル!俺も出るから一緒に出てさっ、そいつに恥かかせてやろうぜ!」


おおっ!?ええっ!サバテューニ様出てくれるの?ハッキリ言って無愛想ヴェル君よりキラキラしたサバテューニ様の方が断然舞台映えするってものよ?是非お願いしますわっ!


「そうだ、ジーニアスも出れば?数が足りないってことだし…」


おおっ!それは妙案ですよっ!サバテューニ様の言葉に私は嬉しくなって、ラヴァ様を顧みました。ラヴァ様は、え~っと言いながら私を見ました。私が懇願の目で見ていると


「仕方ねぇな~俺は参加だけだからなぁ~」


と、同意してくれました。やった!これで男前三人確保ですよっ!すると…


「え~皆出るのぉ~面白そうだなっ!俺も参加しちゃおっ!」


ちょっ…!ダヴルッティ様も出るのぉ!?いやいやいや~ダヴルッティ様が出ちゃうと…うちのヴェル君の勝率がググッと下がってしまうのですがぁ…


「隊長も出られるのですか?それでは隊長とヴェルの一騎打ちじゃないですか?」


と、ロアモンド様が一同の総意を口にしました。うむうむ、その通り〜そこへロージ様が口を挟みました。


「あの…実は昨日、うちの父親から私も出るようにって言われてまして…この際非番の隊員は全員出る、ていうのは如何でしょう?」


ロージ様のお父様っ…いえ、支部長も昨日までは頭を悩ませていたのでしょうから、イケメン息子に頼んでても仕方ないですが全員ですか?ええ?


「よーし、じゃあ非番で特に用事の無いものは、参加ってことでっ!当日は何時に開催だ?」


私はパンフレットを開いて日時を確認しました。


「はい、催しは13刻に開催で参加者は朝10刻に冒険者ギルド前に集合…だそうです!」


ダヴルッティ様は頷かれると近衛の皆様の前に立たれました。神々しくてカッコいい。


「ヴェルとレンブロの両名は当日誰か出勤を替わってやってくれ!これは近衛騎士団の面子を掛けた戦いだからなっ!全員一丸で、初代王子をうちの隊から出すのが最終目標だ!良いかっ心してかかれっ!」


「「御意っ!」」


なんだか…ミスターコン如きと言ってはいけませんが、秋祭りの催しがえらい大事になってきてやしませんでしょうか。


私は熱い男達の一団から抜け出すと、冒険者ギルドに戻り…支部長さんに説明をし、大喜びされ…ついでにフォリアリーナ姉様にギルドを通してご連絡をお願いし、夕飯のお買い物をしてから帰宅しました。


帰宅して、オリアナ様に今日の出来事をお話すると


「やだ~~!私も見に行くわ!」


「そうですよね!坊ちゃまの勇姿は是非この目に焼き付けておかねば!」


女性陣は大盛り上がりだった。いやいや…サバテューニ様とダヴルッティ様の近衛の美形ツートップが出場されるから、ヴェル君は霞んでしまうと思いますよ。ある意味舞台映えしませんし、オドオドして終わりそうですし。


その日帰って来たヴェル君に、フォリオリーナ姉様にご連絡を取っています、とお伝えしました。ヴェル君は頷かれた後に…


「しかし…美男を競う催しか…初代王子はもう隊長でいいんじゃないか…?」


と言われました。た、確かに一番揉めない順位ですがね、でもですね…


「まあ…一応勝敗の行方はある程度分かるとはいえ、本来の目的はあの…え~と、メッテだかミッツだか言う人を懲らしめることですからね!勝敗は別にどうでもいいのですよっヴェル君を馬鹿にしたのが許せないのですよ」


ヴェル君は嬉しそうに私の頭を撫でています。嬉しそうにしないで下さい、私は腹を立てていますよ?


「俺は街の皆に認めてもらうより…カデちゃん1人の王子様に選ばれる方が何倍も嬉しいけどな…」


ちょっっっとぉぉぉ!もうっっ!私を萌え転がせる気ですかぁ!?もう~~やだなぁ!


「ヴェル君!夜に色気出すのは禁止ですっ!」


「はいはい…」


さあ、さてミスターコンまであと三日!出来ることはすべてやっておきましょう!


「ヴェル君ヴェル君、早速お顔のパックをしておきましょうか!」


「パック…って何?」


ヴェル君は怪訝な顔をしました。ふふふ…プラリューニの秘密兵器を出しますか!


「秋祭り王子の称号を得る為、勝利への道を引き寄せるための秘策ですよ!」


「さっき…勝敗はどうでもいい…とか言ってた…」


「ソレはソレ、コレはコレですよ!負けを認めるのは軍人の恥ですよっ!」


「別に…秋祭り王子になりたいわけじゃ…」


「はいはい、つべこべ言わないっ!はいっ!」


「つ!つめたっ…ぃ…」


私は絞り袋から出して来た美容液ヒタヒタの布マスクをヴェル君の顔に貼り付けました。


ふふふ…待ってろよーー優男ーー!優勝はうちのヴェル君が頂いたぁぁ!

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