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秋祭り2日目

その日の夜遅くお勤めから帰って来たヴェル君に、国の兄達が突然訪ねて来たことをお伝えしました。


「カデちゃんのお兄様達が?」


「はい…一応、王太子殿下と第二王子殿下なので、ここに来たのは父や国の者達には内緒らしくて、魔の森の巡回の途中だ…とかですぐに帰られてしまいましたが…」


「成程、シュテイントハラルの定期巡回か、王太子殿下達自ら指揮に当たられているのだな…素晴らしい」


ヴェル君の褒め所が軍人目線ですね…それは兎も角


「その…お兄様達にオリアナ様が、え~と私とヴェル君がすでに夫婦だと話してしまわれたみたいでして…」


ヴェル君は、あ…と小さく呟きながら天井を見上げました。


「母上は昔から、こう…前へ前へと行動する性格でな…本人も悪気は無いのだ…気を悪くしないで欲しい…」


「はい、それはそのヴェル君と夫婦だと言われるのはもう時間の問題で全然構わないのです。只、勝手に婚姻を上げたと誤解されてしまうのが、困ると言うか…」


ヴェル君は優しい笑顔で私の頭を撫でると、


「手紙を書いて、誤解を解いておいたほうがいいよ?」


と言ってくれた。そうですよね…いつまでもグズグズしていた私がいけないのだし、明日にでもお手紙書いておきましょうかね…


「しかし、シュテイントハラルの王太子殿下か、こんなことならもう少し早く帰ってご相談したかったな」


ご相談って何?何かあったのでしょうか?ヴェル君が困った表情で話し出しました。


「今日の夕方、急ぎの書簡がガンドレアから届けられた。ダヴルッティ隊長に家族共々ラブランカ王女殿下の婚姻式にご参列頂きたいと…」


「ええ!?まだ諦めてなかった」


驚愕です。婚姻をしている殿方に尚も言い寄る、あのメンタルの強さ。


「と、言うよりダヴルッティ隊長の素性が知れたのと、嘘もばれたのだろう…」


「嘘?」


「隊長は婚姻は…していない」


ええ!あの、妻が~子供が~の件は嘘だったのですかぁ!騙されたぁ~迫真の演技でしたよっ!


「隊長は普段から言い寄られることが多いから…断る時に頭の中で理想の妻を思い描き…その妻との…も…も…妄想…をしながら作り話をするらしい」


なるほど…普段からあの手の嘘話は慣れていらっしゃるのですね。道理でペラペラと淀みないはずですよ。


「だから…嘘に…付き合ってくれるご令嬢の助けが欲しいのだが…この国のご令嬢だと…変に誤解されては困る…と隊長がごねて…で…カデちゃん…知り合いに居ない?協力してくれそうな…王族の婚姻式に出ても動じない器量と立ち振る舞いの出来る…家柄のしっかりしたお嬢さん…」


難しいぃ~ハードル高ぇぇぇ!家柄(王族にも負けない)の良くて…マナーのしっかりしたお嬢様か、私の兄弟は…妹のマディアリーナがいますがまだ小さいし、あの子は性格的にも不向きだし…え~と従姉妹は…


「あ、ああ!従姉妹にいますよっ絶対協力してくれて、うちの王族一の美人で…機転が利いて年齢的にも21才だし、釣り合いは取れますよ!ただ…」


「ただ…なんだ?問題があるのか?」


「ええっと…普段は、その…前線に出ているというか…」


「前線?も…もしや軍人なのか?」


「いえ…そうではな…」


と、私が言い掛けた時に急にポカリ様が現れた。話が中断してしまいましたが、まあいいでしょう。


ポカリ様がオリアナ様の所でいちゃいちゃしている隙に、ヴェル君の夜食…本日はモロングラタンです、をお出しして明日の秋祭りのナジャガル特産店のお話をしました。


「へぇ、珍しいな…マンマ…か~あれ少し焼いて食べるとヴェルナと合うんだよな。明日は売ってくれるのか?」


「はい、お昼くらいには入荷するそうなので、4匹分は確保して頂くようにお願いしてきました」


「今日、少し見て来たんだろう?どうだった?…ん?この海鮮チップス美味いな」


ヴェル君はニコニコしながらお話を聞いてくれます。あ~明日楽しみですね、うふふ。


翌日


ヴェル君とお昼少し前にバットリラ市場に着きました。まずはお手紙をシュテイントハラルに出して…ユタカンテ商会に顔を出してから会場に行きました。


「え~と今日の目玉出店は…シュテイントハラルの…あれ?『タマゴプリン』私の考案したお菓子のお店だわ…」


「お菓子っ!?」


ヴェル君が魔人でも見つけたかのような鋭い目をします。こらこらっ周りの方々がびっくりしているじゃないですか!


「場所はどこ!?」


おいおい?事件現場に出動する刑事さんみたいな緊張感を、今出す必要がある?たかだかプリンで?


「え~と…」


と、私が地図を開きかけると瞬時にヴェル君が小脇に私の体を抱えて、市場内を爆走し始めました。


「ごめんなさ~~い!通りま~~す!そこを右で~~~す!ごめんなさ~~~い!」


通りを歩いている方々、ヴェル君に弾き飛ばされそうになった人達に必死に謝りながら、姫抱っこじゃないだけマシだったかも…と思いつつ、シュテイントハラルのお菓子店の前に着いた。恐ろしかった…


「はーい、いらっしゃ…あれ?もしかして…カデリーナ姫様ですかぁ?」


と、声をかけられてお店の売り子のおば様を見たけど見覚えがありません。おば様はニコニコしながら


「いや~アルクリーダ様と同じ顔だもんね、おまけに魔力波形が王子様達にそっくりじゃないさ!」


と、おっしゃいました。


あら、そんなことでばれましたか…若干恥ずかしくなってきました。


「いつも兄達がお世話になっています…」


と、おかしな挨拶をしておば様に笑われてしまいました。


「カデリーナ姫様が王籍を離れて、カステカートに移住したって話はさ…色々噂を呼んでね~どうやら駆け落ちしたって話が有力だったんだけど、この人かい?相手?」


えええ~~駆け落ちぃ!?違う違うっ!


「いえいえっ違うのですよっ!お商売の方に本腰を入れたくてなんです!王族だと自由に動けませんしぃ~この方は確かに主人ですけどっ!」


と、勢いに任せてヴェル君をご主人様と紹介してしまいました。チラッとヴェル君を見るとそれはうっとりするような優しい目で私を見てくれています。


「あ~幸せだね~いや~良かったよぉ。国の皆心配してたのさ〜まだお小さいのに急にいなくなられたから…幸せなら何よりだよ!さあ、姫様っこのプリン持って行っておくれよ!」


と、おば様は商品棚に置いてあった『タマゴプリン』と書かれた大きなトロ箱みたいな、箱ごと私に渡そうとしました。


「い、いくらなんでもっこれは頂きすぎです!それにまだ後でこのプリンが欲しい方に買って頂きたいしぃ~」


と私が言うとおば様は、エプロンで目頭を押さえながら10コ入りの箱を持たせてくれました。


「お優しいね…うん。王族の皆様は私らみたいな庶民にも優しいけどさ…こんな他国で生きてらっしゃる姫様でも、その優しさは忘れていらっしゃらないねぇ…」


私は、お代金は頂かない…というおば様と、しばらく押し問答をしましたが『プラリューニお試し5品セット』を代わりに差し上げまることで手を打ちました。中に『リップグロ』の新作口紅が入っている、限定品です。


「まあぁ!これ口紅の新作じゃない?目録で来年発売って見たけど?」


「うふふ、特別にお使い下さいな!他にも5色お色を出しますの」


おば様の隣に居た別の特産品売り場のお姉様が、嬉しそうにお声を挙げられました。おや、ナジャガルのお店の売り子さんですね?おお!乳製品のお店ですか!後でお邪魔しますよ~


プリンのおば様のお隣のお店でチーズ(カマンベールチーズみたいだ)を数種類買い、そしてナジャガルの海鮮のお店に行き、また海鮮チップスを大量に買い(これはヴェル君です)ナジャガルの売り子のおば様にもお化粧品の詰め合わせを渡し、マンマとなんとオマケに烏賊の干物も頂きましたよ。


「わーい、炙って食べますよ~お酒は温めのぉ燗がいい~」


と、ご機嫌に演○を熱唱しながらビューリという蜜柑?とよく似た果物を発見したので箱買いして、うきうきしながらヴェル君と帰りました。


「ビューリでゼリーも作りましょうね~タルトも作れますよ~」


ヴェル君と手を繋いで夕日の中を歩いて帰ります。幸せだな~


「ヴェル君ヴェル君、これがお祭りなんですよ!楽しいの分かりますよね?」


ヴェル君は夕日の中とても美しくそして少し悲しそうに微笑まれています。


「ガンドレアではこんなに楽しいお祭りなかった…皆…知らないで…一生を終える…寂しいな…」


そうですよね…こんな楽しいお祭りを知らないでいるなんて、寂しくて辛いですね。ヴェル君には見えないガンドレアの故郷の風景が見えているのかもしれません…繋いだヴェル君の手をきつく握り締めました。ハッとしたヴェル君が握り返してくれました。


私達は夕日の中…それぞれの故郷を思い浮かべながら帰って行きました。


その日の夕食のマンマの塩焼きと炙り烏賊…こちらではケーイというらしい、を食べながら私はすっかり吞んだくれていました。


「しみじみ~のめば…と!炙った烏賊がぁ美味いっ!」


完全なる酔っ払いです。取り敢えずお片付けは明日にしましょうか…それくらいしか頭が回りません。ヴェル君の膝の上でうつらうつら…しています。


「ヴェル君はぁ…今…幸せですかぁ?」


ヴェル君がクスクス笑っているのが、耳に心地いいです。チュッと私の頭にヴェル君の口づけが落されます。


「うん、幸せ…」


段々眠くなってきます。そういえばヴェル君と何かのお話の途中だったような気がします。ヴェル君との口づけが深くなってきて…考えが纏まらなくなってきました。


あれれ?なんだったでしょうか…え~と…ああ、ダヴルッティ様のお話だっ…た…


私の意識はそこで途絶えました。

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