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リア姉様は最強です

しばらく連載続きます…長々としておりますが

もうしばらくお付き合い下さいませ。

私達がギルド前の路地裏でひぇぇ…と思っていると、リア姉様のよく通るお声が聞こえてきました。


「冒険者ギルドが機能しているのが、そんなにおかしいことなのかしら?あなた達が魔獣の討伐に出てくれないから、討伐依頼がギルドを通して通達されているので、冒険者が集まってきているのよっ!私達は仕事な訳、分かる?皆様、討伐のお仕事でここに来ているのだから、大人数がギルドに居て当たり前でしょう?だったらあなた方が討伐に出て下さる?出来ないのに、私達の仕事を奪う権利はないはずですね!」


怖い…相手に反論すら許してはくれない。怒涛の口撃にガンドレア軍の人達は、あの…その…ばかりを繰り返している。姉様に敵認定されたら、立ち上がれなくなるまでライフを削られるんだからね。


「と、言う訳で…我々としては仕事なの~悪いけど討伐はさせてもらうよ?」


「し、しかし複数人の住民を民家から連れ出しているとの、目撃情報もあり…」


のんびり切り返すダヴルッティ様に、ガンドレア軍人が更に言い募ります。


どうやら私達の脱獄がバレた訳ではなく、先日からの住民大移動が軍部にとうとう知られたようです。これはこれで面倒くさい状況ですね。


「まあぁぁ!怪我をされている方を放置して見て見ぬふりをしろとおっしゃるのぉ!?イヤだわっ~!この国の軍人の方ってそんなことを平気でおっしゃるの!?」


ほら見たことか…リア姉様に敵認定されたらもう無駄よ。ギルド前には複数人の冒険者に擬態したカステカートの軍人さん達…あれ?良く見たら、パッテジェンガ将軍閣下がいるじゃない!それとは別にガンドレアの住人の方の姿も見えます。


昨日からユタカンテ商会が商売を始めます~と張り紙で告知しているので、噂を聞きつけた方が、すでにお越し頂いているようです。


「こちらでは治療術士不足と聞いて、ギルドから依頼して術士の方に来て頂いているのです。怪我をされた方を診て頂くのも私達、冒険者ギルドが善意で行っていることです。何もやましい所などありません」


支部長がリア姉様の言葉に乗っかってきました。そうだそうだ!やましいことなんてあるものか!


私は路地裏から飛び出すと何食わぬ顔でギルド前に歩いて行きました。


「お待たせしました~ユタカンテ商会の者です。今から販売を始めます~!」


と、にこやかな笑顔を浮かべつつ、ギルド前に屯うガンドレア軍を蹴散らすように割って入った後、レデスヨジゲンポッケから白い販売用のカートを出しました。偽装工作に抜かりは無い!


「今日は特別に軽食と回復薬の販売を致します!別途でご入り用のものがおありの方は、特別窓口を開設しますから、暫くお待ちくださいませ!」


私がカートを路上に置いて、籐籠を複数個出し終わる頃には、ギルド前は大行列になりました。ふふん、これでガンドレア軍も引っ込むでしょう?


案の定、住民が押し寄せて来たので軍のおじさん達は引かざるをえず、スゴスゴと立ち去って行きます。


私はユタカンテ商会からお手伝いに来てくれた、売り子のポーラウさんと本来は受付のジュリアンヌさんと三人で押し寄せるお客様を捌いて行きます。お手伝い助かります。特別手当出しますからね!


今日販売するのは、ローストロイエルホーンを挟んだ特製サンドウィッチとミネストローネスープ(お持ち帰り用にポット入り)とシュテイントハラル特製回復薬を特別価格で販売しています。回復薬は本来の価格の半額にしております。ロイエルホーンはヴェル君達、近衛の有志で狩りに赴いて頂き、大量に確保しました。今回の販売個数はお一人様、それぞれ3個までにしていましたが、1刻もしない間に売切れてしまいました。


因みに今回は私一人では準備も間に合いませんので、材料を持ち込んでカステカートのバッドリラ市場のパン屋さん数軒のご協力の元のサンドウィッチ販売ということなりました。それでもお手伝いはしましたので、結構な量のサンドウィッチとスープを作りましたよ。


「またすぐに準備してまいりますので!買えなかった方は優先券をお渡しします!早ければ本日の夜か明日の朝の販売にて、優先的にご購入頂ける券でございます!ご入り用の方は今から配りますからお並び下さい!」


私の声に優先券の配布にも長蛇の列です。いや~なかなか大変ですね。優先券もあっと言う間に無くなりました。


ちょっと、疲れてまいりましたね。このどさくさに紛れてヴェル君達はジーケンス様とダーンさんをつれてギルド内に入れたようです。よしよし…ガンドレアの市民の皆様は買ったその場で食べている方がいらっしゃいますね。お味は如何でしょうか?


「ユタカンテさん、こんなマトモな食事久しぶりだよっ…美味しいね…うぅ…」


白髪交じりのおじさんが泣き出してしまいました。自然とおばさんやおじいさん…数十人の方に囲まれました。


おお、どうしよう…と思いリア姉様を見ると、姉様は並んだ住人の方からご入り用商品やら人員などのご要望の聞き取りをされています。流石姉様…ってダヴルッティ様っ見てるだけで何もしてないじゃあないですかぁ!?姉様と違って役に立ちませんねっ!


散々住民の方々に泣かれてしまいましたが…皆様のご要望とかお困り事の聞き取りを私もお手伝いしてから、やっとギルド内に入りました。


「要望をお聞きするだけでも大変ね…はい、これ」


「姉様ありがとうございます、助かりました」


姉様が聞き取りしたアンケート用紙もどきの束を私に預けてくれました。すごい量…ポーラルさんとジュリアンヌさんと三人で籐籠の中に取り敢えず入れておきました。後で見なくちゃね。さて…


「ヴェル君、開けますよー?」


「…ああ」


ギルドの建物の奥、スタッフ用の休憩室にヴェル君達はいらっしゃいます。皆様で取り置きしていたローストロイエルホーンとロールパンを食べられています。おや?ナッシュルアン皇子殿下はスープとロールパンしか召し上がられておりませんね?もしやお肉お嫌いでしたか?


「あ、いえいえ…そう言う訳では…私は余剰魔力が多くてこれ以上魔力の上がりそうなもの頂いてしまうと、周りにご迷惑をかけてしまうので控えています。本当は空腹なのですがね」


ナッシュルアン皇子殿下のしょんぼりしたお姿に…ああ、そうかと納得しました。確かにナッシュルアン皇子殿下の魔力量は凄まじい。


本来、魔力は術が使えるようになると、自然とコントロール出来るようになるものですが…稀に高魔力保持者の中で自身の魔力をコントロール出来ずに所謂、垂れ流し状態にしてしまう術者がいるのです。


「では、殿下は普段から魔力値が上がりそうな食品を召し上がることが出来ない…ということですね?」


ナッシュルアン皇子殿下はすごく悲しそうなお顔をされています。


「はい…魔獣ロイエルホーンもすごく美味だと聞きますし…食べてみたいのですが、食べると魔力が廻り過ぎて体も怠く眩暈もするので…避けています」


つ、辛いっ!ダイエットしなくてもいいのに病気の為に泣く泣く食事制限…みたいな感じですね。私でも好きなものが食べれないなんて…考えただけでもげんなりしますよ。


「そうだっ!殿下でしたら魔力の籠っていないものなら召し上がれるのですよね?これどうぞ!」


私は、後でヴェル君に食べてもらおうかな~と思って作ってきた、ジュウジとモロンの合挽ハンバーガーを差し出しました。ヴェル君は優しい表情でナッシュルアン皇子殿下を見て、頷いています。お菓子以外の食品には寛大な心でいられるのよね…ヴェル君って謎だわ…


ナッシュルアン皇子殿下はお口いっぱいに頬張っておられます。リスみたい。やっぱりこの殿下かわいいわ。


「心配せんでも…後、数年の辛抱じゃて…」


びっくりした…いつの間にやら起きていたらしい、ポルンスタお爺様がミネストローネをグビグビ飲みながらここを出る時に呟いていた言葉を、また言われました。


「爺…それやっぱり、先読みですか?」


そう尋ねたナッシュルアン皇子殿下に頷いてから、ポルンスタお爺様はつぶらな小さな瞳で私の方を見ました。え?私?


「そこな姫にも関係のあることじゃ。姫もこの皇子と同時期に良い出会いがあるじゃろう…」


まあ!私も?それでそれで?


「苦しい胸の内の痞えも取れるじゃろうな…おお、そうじゃ…話があると言うておったな」


胸の内…色々思い当りますが…


「はい、お話とはなんでしょうか?」


ポルンスタお爺様は、うむ…と言いながら目を閉じました。そしてゆっくりと話し始めました。


「数年前…とある国の偉いさんがの、ワシを強引に連れ出して吸収魔法で稀有な術を使う術者の術式を盗め…と脅してきたのだ」


ナッシュルアン皇子殿下が真っ青になってガタンと立ち上がりました。ポルンスタお爺様はまぁまぁ…と座るように言いました。


「わしはその偉いやつに聞いたんじゃ。盗んでどうするんだと…そうしたらこう言いおった。『その術で不死身の軍隊が作れる』と…」


不死身…ですって?そんな術あったでしょうか?ゾンビの術?まさかの不老不死?


「その稀有な術を使う術者とは、まだ小さい女の子でな…その子の術は見ればすぐ分かる。ワシと同じ加護の力じゃった」


ちょっと待って…私はポルンスタお爺様を見詰めてしまいます。それって…


「ん…そうじゃ、まだ幼子の姫じゃった…本当に馬鹿らしい、ワシも有名人じゃとそれなりに自負しておったが、まだワシの力を知らん馬鹿がおる…と呆れたのだ。ワシは言うてやった『盗むのはええが盗んだ術はワシしか使えんがの?吸収とは術者本人しか使えんのだ』と…」


そう…なのですね。吸収魔法は唯一無二であり、術者本人しか使えない魔法…なのですね。


「あの…お話の途中ですが、少し疑問が…宜しいですか?」


ダーンさんが小さく手を挙げて話しかけていらっしゃいました。はい、何でございましょう?


「先程から老師がおっしゃっている『吸収魔法』は術者の特性には影響を受けないものなのでしょうか?つまり、私やカデリーナ姫もそうでしょうが、治療術士はほぼ攻撃系の魔法は扱えません。逆に見える目を持っていらっしゃる方でも、攻撃系の術しか使えず…治療術は軽い擦り傷程度しか扱えない、術者がほとんどです。その得手不得手は、吸収魔法で会得した術は超越して行使可能…ということでしょうか?」


ダーンさんのお言葉に、ポルンスタお爺様は静かに頷かれます。


「そうじゃ、ワシは厳密に言うと苦手な系統が無い術者…ということになるな」


「すごいっ!そんな術者がいるんなんてっ…」


ダーンさんもジーケンス様も驚きの声を上げています。いえ、私は少なくとも全属性扱える方を二人存じておりますよ?一人はポカリ様、もう一人は…


チラリ…とヴェル君の横顔を見上げます。澄ました顔で内ポケットから出してきた(またやってる!)ビューリタルトをナッシュルアン皇子殿下と二人で分けて食べて、キャッキャッ騒いでいます。おいっ!こっちは真面目に話をしているのですよっ!


「だがの…姫の場合はホレ、ワシと同じ加護じゃからな~吸収は使えんわ。それに、はなから取るつもりも無かったしな。なぁにが不死身じゃ~要は負傷した兵士を再生魔術で治療して、また戦場に立たせる腹積もりなんじゃろ。人の体を何だと思っとる。あまりの言いように腹が立ってな~転移であやつらから逃げる前に、しばらく笑いが止まらん呪術を使ってやったわっええ気味じゃ!」


そんな嫌がらせ的な呪術があるんですか?笑いが止まらない…それは地味~に嫌な呪術ですね。笑い過ぎて顎が外れてなきゃいいですが…


「まあ、無事逃げ遂せたのですね?それは良かったですが…」


ちょっと、引っかかりますが…聞こうか、迷っていますとジーケンス様が先に聞いてくれました。


「しかし、碌でもない考え方の施政者がおりますね。まさかうちの国王陛下では?十分有り得ますが…」


ぉおーい!不敬ですよっ…と今の状況で言いませんが、仮にも自国の王様…まあ、苛められてこのようになるまで独房に入れられていたら、不敬な言い方をしたくもなりますよね…本当にお気の毒です。


ポルンスタお爺様は深く頷いてから


「いや…コスデスタ公国の公主じゃった。姫も気を付けられよ」


と、別の国の名前を上げられました。はいっ気を付けます…て?コスデスタ…コスデスタって…確か、え~と…


「ラブランカ王女殿下とご婚姻の…」


と、ナッシュルアン皇子殿下の言葉で思い出しました。ああ、第二公子様でしたかね?その婚姻が今年の春…ついダヴルッティ様を見てしまいます。


「あ~やれやれ思い出しちゃったよ、ヴェルも気が悪いね…」


ダヴルッティ様はヴェル君の頭をグリグリと撫でています。ダーンさんもジーケンス様もヴェル君とラブランカ…あの厚塗りとヴェル君のいざこざをご存じなのでしょう…労しい表情でヴェル君を見ています。


「デッケルハイン閣下は…その、懸想されて…さぞや恐ろしい思いをされたことと…」


義理のお父様に続きダーンさんまでもが、王女殿下を恐ろしいモノ扱いしております。もう何も言うまい…


「では、ポルンスタ爺を送って来ましょうか?爺、今日はありがとうございました」


あれ?そういえば、ポルンスタお爺様ってどこにお住まいなのでしょう?イメージとしては大きい切り株の洞の中とか?ト○○なわけないか…そうですよね。


「普段はどこにお住まいですか?ご高齢ですし、お一人住まい…ではないのですよね?」


ダヴルッティ様が無邪気に…わざとか?ポルンスタお爺様にお聞きになりました。すごく気になりますっ!


「弟子達と生活しておるので、心配はいらんよ。それに曾孫も近くに住んでいるからな…何かあったら皇子かギリデに言うておくれ。姫も重々気をつけなさい…では生きている間にまた会えるとええの~」


と、またもご老人に言われて反応に困る言葉、第四位を叫ばれてSSSのポルンスタ老師はナッシュルアン皇子殿下と消えられました。縁起でもないお言葉は、どうかお慎まれ下さいませ。


「さて…ではカステカートへ行こうか…」


ヴェル君の言葉に私達はカステカートへ帰りました。フリジリカさんは戻られたお父様と旦那様に縋って泣かれ、お子様達も泣きじゃくっておられました。


本当に良かった。もらい泣きです…とか言って、私はのんびりしている暇はありません!


持ち帰ったアンケートもどきを持って私なりに走って(鈍足)ユタカンテ商会に行き、バルミング主任とカークテリア君、事務のマダムの四人でご要望の種類別に分けていきます。


「カデちゃん…魔獣鳥の狩りからレンブロ達が戻ってきた…仕留めた鳥は市場に届けていいのか?」


ヴェル君がラヴァ様と連れ立って事務所にやって来ました。私は主任達に断りを入れて市場に一緒に赴き、魔獣鳥のから揚げコッペパンサンドの作り方をお伝えして、その足でコーンシチューを作り…夜の配布に備えました。


ふぅ…忙しい…流石に忙しい!シチューを炊きながら思わず額の汗をぬぐいます。


「カデリーナさん、この軽食の配達…今後商売にするのかい?」


と、市場のお肉屋のお兄さんが鳥を捌きながら聞いてこられました。


「はい、出来れば定期的な販売を目指しています。まずは公所に正式に食品扱い店の許可認定を受けなければなりませんが…」


そう、ユタカンテ商会はまだ食品は扱っていません。ゆくゆくは美容関連や健康食品なども、商品として出してみたいので…今から許可を取っておかなくてはなりませんよね。


「うちも正式に協賛店で参加してもいいかい?」


お肉屋さんの横に居たパン屋のおばさんが、おずおずと話しかけていらっしゃいました。


「ええ!勿論ですわ!是非ご参加を~それにおばさまの作られたサンドウィッチ、ガンドレアの皆様泣きながら食されてましたよ。私、この幸せをガンドレアの皆様にも感じて頂きたいのです!」


そう言うとパン屋のおばさんは私にギュムッと抱き付いてきて


「夜の販売はあたしも付いて行くよ!」


と目を潤ませて嬉しそうに言って下さいました。よーーし!頑張るぞー!


まだまだ問題はありますが


少し前進したかな…と感じる一の季の始まりでした。

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