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魔素との戦い

なかなかラブコメにならず…

マジーの町の外は真っ暗です。因みにまだ夜ではありません。魔素の瘴気がグローデンデの森から流れ込んできていて、町の中が瘴気まみれになっているのです。とてもじゃありませんが、魔力量の少ない方は外に出れませんし、基礎魔力量がある方でもここまで濃い魔素を浴びてしまうと意識が奪われてしまうかもしれません。


「この黒いの…時々、森から流れて来るんだよ?」


先程、私達が助けて来た兄弟の一番上のロイット君がそう言って、私の横に立ちました。彼らのお母様は状態があまり宜しくなくて、まだ治療ドームの中です。今はアル兄様が診てくれています。


「母さんも…あの黒いの吸っちゃったんだよ」


そうですか…お母さんも孤立してしまった子供達をなんとか救おうと助けを求められて逆に、魔素にあてられてしまったのですね。お労しい…


「でも、これほど濃い魔素ならお家の中に居ても危険ですね」


ロイット君は頷いて、少し後ろを見ました。そこには一緒に逃げてきた三軒隣の女の子…メルリンちゃんがいます。


「メルリンの家…俺が見に行った時は家の中が荒らされてた。一階は、血だらけだった。メルリンは二階の衣装棚に隠れてた。メルリンのおばさん達、扉を開けてしまったんだ。襲われたんだ」


私はロイット君の小さい体を抱き締めました。背中を摩ってあげます。こんな小さいのになんて恐ろしいものを見てしまったのでしょう。


「ヴェルヘイム閣下はご存知ですか?いつからこんな魔素が流れてきているのでしょうか?」


ナッシュルアン皇子殿下はヴェル君にそう聞いておられます。そうですよね…私も気になります。ヴェル君は顎を摩っています。


「俺が…ここに巡回に来ていた時は…よほど森の側に行かない限りは無かったと思う」


ヴェル君がそう答えると、Sクラスの元気になった冒険者のお兄様が「ああ…それは」と答えてくれました。


「ここ1月前くらいからなのですよ。最初に魔素の瘴気が流れてきた時に住民は皆、気が付かなくて大量に浴びてしまった…ということを聞いています。そして、その…精神を乱してしまって、かなりの数の住人が行方知れずだとか」


もしかして、魔素って大量に浴びると魔人になる…と言われていますし、そうなのかもですよね。


「じゃあ、つい先日の魔人もここの住民だった方なのかな…」


ナッシュルアン皇子殿下がポツン…と呟かれました。ああそうでした、魔人が4人?4体?現れていましたね。皇子殿下はご自分の手をジッ…と見詰めています。するとメルリンちゃんがナッシュルアン皇子殿下のお傍に駆けて行きました。


「あのね…私のおかーさんとおとーさんね…お家に入ってきた人を『マジン』て呼んでたよ?おとーさんが服を入れてる棚から出たらダメっていうから、私、隠れてたよ?『マジン』て怖い人のことなんでしょう?おかーさん泣いてたもん…おにいちゃんも『マジン』に会ったの?怖かった?大丈夫?」


ナッシュルアン皇子殿下は目を見開いてから、ゆっくりと微笑まれました。うわ~~っ綺麗…と言っては不敬かもしれませんが、周りのお姉様方から感嘆の溜め息と小さく(歓喜の)悲鳴?が聞こえます。


「ああ、大丈夫だよ。怖い魔人は…もういないから…」


ああ、また少し涙ぐまれていますね。もしかすると、私達が遭遇した魔人はメルリンちゃんのご両親を襲った魔人かもしれませんよね。元住人の方だとしても…なんて理不尽な事でしょう。ナッシュルアン皇子殿下は優しくメルリンちゃんの頭を撫でています。この殿下、モテるだろうなぁ…だってイケメンだし優しいものね。


「しかし、こうも魔素の瘴気が頻繁に流れて来ると、ここの町は外出も困難ですよね。国は…ガンドレアの援助や視察などは本当に来ていないのですか?」


アル兄様が町長夫人に聞かれましたが、周りのご婦人も町長夫人も深く溜め息をつかれて、首を横に振っています。


「何もマジーの町ばかりだけの話ではないのですよ。王城と、カステカートの国境の砦に兵士が集められて兵力がそちらに割かれてしまっていて、魔獣の討伐は事実上野放しなのです。それでガンドレア民は森からより離れようと、国境の近くの町に避難してきている…というのが現状です」


「野放し…」


支部長さんのお言葉に、ナッシュルアン皇子殿下はしばらく俯いた後、アル兄様とダヴルッティ様を呼んで3人で何かを話しています。私はSクラスの重症だった方の治療経過を診ました。


「もう腕は動かせそうですよ、ただ無理は禁物です」


「はい、カデ先生」


ここではヴェル君が私の事を「カデちゃん」呼びで連呼したために、私の呼び名は「カデ先生」に固定です。姫様呼びよりマシです、はい。


「カデちゃん、リア姉」


ヴェル君が呼びましたので、リア姉様と二人、住民の方と離れた所にいる皇子様方の所へ参ります。ナッシュルアン皇子殿下が口を開きました。


「術士としての意見も聞きたい。このままこの町に住人の方々を留め置いていたら、また魔素に飲まれて、被害が出ると思うのだ。今、重篤な方々を移送することは可能でしょうか?」


移送…つまり患者様を動かすという事ですね。一番重篤な方はロイット君のお母様です。Sクラスの方は普段から鍛えていますし、元々の魔力量が多い方々ですから治りも早いです。他の住人の方もすべて快方に向かっています。


「はい、体に外傷のある方はもういらっしゃいませんし…移動は可能です」


ナッシュルアン皇子殿下は一つ頷くと、周りの皆様の顔を順番にご覧になりました。


「正直…ここまでガンドレア内部が瓦解しているとは想像していませんでした。こうなるとこの国より脱出する国民がカステカート、シュテイントハラル…そして我が国、ナジャガルに避難民として逃げ込んでくる件数も増えてくるのではないでしょうか?」


「実は我が国でも少しずつ国境を渡り、入って来る避難民が増えているのです。この魔素の瘴気がここ一月で猛威を振るい出すとなると、今後益々避難民が増えるのは必然。早急に手を打たなければいけませんね」


ダヴルッティ様のお言葉に皆様頷かれます。そしてアル兄様が「そのことで…」と話し始められました。


「実はうちの…治療術院、副医院長のクリシアネが、とある提案をしてきていまして、ガンドレアはここ最近、医院や術院の閉鎖が多い…と。それでギルドの近所か伯爵家の近所に臨時の治療術院を開業出来ないか?とのことでして…それに伴い、その…あくまでクリシアネの言葉を借りるならですが、ギルド主体という形で術院とユタカンテ商会などを出店して…そのさりげなく、三ヶ国合同の秘密の拠点にしてしまえばよいのでは…とのことなのですが、如何でしょうか?」


ク…クリシアネーー!あなた腹黒じゃないと思ってたのにっ!いやこれは腹黒とかじゃなくて、非常に策士の匂いを感じる提案ですよね?やりますねっ!


あれ?そう言えばクリシアネが行く前に言っていた相談ってこれでしょうか?


ナッシュルアン皇子殿下はものすごい笑顔になりました。おお?このクリシアネの作戦に乗りますか?


「そうか、冒険者ギルドは独立した民間運営の商会だ。国は不干渉が原則、ギルドが術院や商会の橋渡しをしても…あくまでギルド運営の元と言い切ってしまえば問題は無い。ガンドレアの内部から三ヶ国合同で目を光らせることが出来ますね」


「シュテイントハラルの…私の父に聞いてみますわ。おそらく賛成してくれるはずです」


と、リア姉様が言いました。そうですよねっ叔父様にお願いしてみて下さいね。するとダヴルッティ様とヴェル君2人が怪訝な顔をしています。あっそうですね、お二人は知らないかも。


「リア姉様のお父様は冒険者ギルド本部の本部長…えっとギルド長なのですよ」


「ええっ!ギルド長の娘さんだったの?」


ダヴルッティ様が驚いてどうするのですか?仮ですがもうじき夫になる人でしょう?


「それで…冒険者をしている…のか…?」


ヴェル君の問いかけにリア姉様は嬉しそうに笑っています。


「ん~それもあるけど、子供の時から父様と一緒に冒険者の方々と接していて、私も冒険者になりたい!と単純に思っただけよ」


「それでも思っただけではSSクラスにはなれないよ?リアは才覚があったのだね~」


と、ダヴルッティ様がソソッとリア姉様に寄り添ってやけに褒め称えています。なんでしょあれ…


「才覚か…確かに、今後伸びるであろう才能の芽を伸ばしてやるのもSSSの役目かな…よしっ」


ナッシュルアン皇子殿下がそう呟かれた後に「私も少し提案が…」と手を挙げられました。


「このガンドレアに来て思ったのですが、武の才ある見込みのある子が沢山おりまして…本人の意向を聞いた上で、出来れば私がナジャガルに連れて帰って武人として育ててみたいと思うのですが…」


ト、トリプルスター直々の御指名を受けての指導!?


そして何かを思いついたのか、ヴェル君もゆっくりと手を挙げられました。


「あ、あの…それでしたら…私も、ガンドレアに居る部下達を上手く盛り立てることは出来ませんでしょうか?」


ダヴルッティ様がう~んと顎を摩ります。ギリデ様が「だったらさ…」と切り出されました。


「ヴェルちゃんの部下君達はさ、ギルド直轄の遊撃部隊としてこのままガンドレアで頑張るってのはどう?もちろんギルドの依頼で動いている体にしておけば、ガンドレア軍部から睨まれることもないし。今度から治療術士が常駐してくれれば、怪我で困ることも無いし、ぶっちゃけヤバめの大怪我でも姫ちゃんに来て貰えば問題ないしね」


おおーーいっ!安請け合いされますけれど、そんな簡単に決めていいことでしょうか?


「一度、今出た案件をすべて持ち帰って三ヶ国協議で決めてしまうのは如何でしょうか?一応、私達は各々の国王陛下にお伺いを立てなければいけない立場ですしね」


ニヤリと笑ったナッシュルアン皇子殿下に私を含め皆でニヤリと笑い返しました。


さて、お互いに協議の日程を決めなければ…ということで取り敢えずその場を離れた私は、ヴェル君とナッシュルアン皇子殿下の後をついて行きました。まずは転移に問題の無い住人から了承を得て…ヴェル君とナッシュルアン皇子殿下お二人で一気にヴェル君の伯父様邸に転移する、という事になりました。このお二人がいれば魔術や戦闘に関しては敵なしですね。


まずは、了承を得られた住民15人を一気に運びます。本当はもっと大人数でも転移出来るそうですが、念の為…だそうです。流石、魔神の息子とトリプルスター。


「お姉ちゃん、あの…お兄ちゃん達すごいね」


ロイット君が私の後ろに来ました。振り向いて彼の魔力波形を視ます。ふむ…そして、メルリンちゃんの魔力波形も視ます。うむむ…これは、もしかすると…ヴェル君に聞いてみましょうかね。


私はロイット君を促してロイット君達のお母さんの治療ドームの横に行きました。治療ドームに手をかざし、魔力を注ぎ込みます。


早く目覚めて下さいな~お聞きしたいことあるんです~子供達の為に頑張って~


すると…身じろぎをされて、ロイット君のお母さんが目を開けられました!


「お、おかあさんっ!?」


「目覚めましたよっ!」


私とロイット君の叫びに、皆さん一斉に治療ドームの側に集まって来られました。お母さんはゆっくりと目を開け、周囲を見回しています。


「おがあざーんっ!」


「うわぁあぁ…」


子供たちは大号泣です。やがてパチンと治療ドームが弾け消え…三兄弟はお母さんに取り縋りました。


「ロイット…クラエット…ビューイット…ここは…?」


「初めまして、ロイット君達のお母様。ここはマジーの町の礼拝所です。私はカステカート冒険者ギルドから参りました、治療術士のカデリーナと申します。お体の障りはありますか?」


ロイット君達のお母さんはゆっくりと泣きじゃくる子供達の頭を撫でています。手の動きにも問題はなさそうですね。ただ、まだ魔力の廻りが悪いですね。


「ああ、ああ…お助け下さったのですね…ありがとうございます。少し、体は怠い所はありますが、痛みなどはありません」


私はゆっくりと体を起こそうとされる、お母さんのお体を支えながら魔力を流し込みます。リア姉様も横で少し涙ぐみながら、魔力を注いでくれています。


そしてヴェル君とナッシュルアン皇子殿下が転移を終えて戻って来ました。さて…少しお話しさせて頂きましょうか。私は自分の話したい事を頭の中で整理します…ふむ。


「あのヴェル君、少し宜しいでしょうか?それと、ロイット君ご一家も」


ヴェル君が側に走って来たロイット君の頭を優しく撫でながら、私の所に来ました。


「実は…先程ロイット君達を助けた時に疑問が浮かんだのです。何故、子供達だけで何日も魔素に晒されたあの家で無事にいられたのか」


ヴェル君がコクコクと頷いてます。周りに集まっているSクラスの冒険者の方々やアルク兄様も首を捻っています。


「現にロイット君達の家の周りには魔獣が沢山いました、しかし家屋に浸入してはいません。それは何故か?えっと、リア姉様かアル兄様か…ロイット君兄弟の魔力波形を奥までしっかりとご覧下さい」


私にそう言われてリア姉様とアル兄様はロイット君達の魔力波形の奥まで視てくれているようです。


「あら!これは!」


「すごいなっ!」


と、アル兄様とリア姉様のお声が重なります。では続けて…


「それとメルリンちゃんの魔力波形も視て頂けますか?」


アル兄様は自分の真横に座っていたメルリンちゃんのお顔をジッと見ながら魔力波形を視てくれています。


「成程…これもまた…」


でしょう?でしょう?アル兄様も思わず唸ってしまいますよね。


「カデちゃんどういうこと?」


ヴェル君が待ちきれないのか、答えを急かすように聞いて来ました。では言っちゃいましょうかねー!


「ロイット君ご兄弟の潜在魔力量は、ここにいる方々には若干及びませんが、中々の魔力量なのです!そしてメルリンちゃんもかなりの高魔力保持者なのです!」


「ええ!」


「本当なのですか?カデリーナ姫?アルクリーダ様も間違いないのですか?」


ナッシュルアン皇子殿下の問いかけに、アル兄様もリア姉様も笑顔で頷かれています。


「はい、これは私の推測なのですが…私達が蹴破ってロイット君のお家に入るまでは家全体に魔物理障壁がかけてあったのではないでしょうか…違いますか?お母さん」


ロイット君のお母さんは俯いておられます。もしかして…子供達にも内緒にしていたのでしょうか。やがて小さく息を吐き出すと…


「はい、私がかけました…」


と震える声でおっしゃいました。やはり…そうでしたか。うっかりしていました。


「ヴェル君が更に高い魔圧で蹴破って、障壁を壊してお家に侵入してしまったのですね」


「そう…なのか?」


「ヴェル君…ご自分がこの中で一番魔力量の多い人だと自覚がありますか?無意識に高魔力圧を低い方に向けたりはしてませんよね?魔力酔いの元ですよ?」


私がそう言うとナッシュルアン皇子殿下が何故か、何度も咳払いをしています。空気が悪いのでしょうか?浄化魔法をしましょうか?


「とにかく…お母様が子供達だけを、あれほど魔物が徘徊する所へ置いて出かけるのが不自然だと思っていたのですが、これで納得です。おまけにロイット君は、無意識に魔術障壁を展開しているようですしね。だって三軒隣のメルリンちゃんのお家に行って帰っての間、魔獣に見つからないなんて…そんな都合のいい事あるはずないではないですか。お母さんはご自分がお家を離れても、子供達が確実に無事だと確信できる何かがあったはずです、違いますか?」


お母さんは何度も何度も頷かれています。


「はい、はい、おっしゃる通りです。ロイットは無意識で魔物理防御障壁を張れるほどの高魔力保持者です。不用意に外へ出て魔獣と戦闘…などにならない限りは安全だという自信がありました。下の子達もロイットと一緒でしか動きませんし、その時はロイットが守ろうとして無意識に術を使うと思っておりました」


やはりそうでしたか。私はヴェル君を見ました。ヴェル君も何度もコクコクと頷いてます。さて、ヴェル君は賛成してくれますかね…と私は心の中で思案しました。


たくさんのお気に入り登録ありがとうございます

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