2 奪われた日常
あまりの衝撃に、言葉を失う。
そんな経験は人生で何回あるのだろう。
わからない、でも、少なくとも私達は
経験することになったのだから。
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「結衣!!!」
「ゆいちょん!!!」
私達の声が病院に響き渡る。
過ぎ去っていく結衣の姿はまるで、愛李の電車を見送る時のように、向こうへ、向こうへと遠くなっていった。
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「結衣ー、ここどうしたらいいのー?」
私は結衣に問う。勉強は苦手だし、結衣に聞いた方が早いからだ。
「あー、ここはねー…。」
結衣の喋りは静かで心地よい。勉強などどうでもよくて、私は結衣の声が聞きたいのかもしれない。
「んじゃ、まったねー。」
「うん、また明日。」
私は結衣と別れるとゆっくりと空を見上げて歩く。今私は青春してるな。そう、実感していた。
「ゆいちょーん!」
「ちょっとなになにー!」
私はゆいちょんが大好きで、だから、いつも突進するし、くっつく。もちろん、クラスに仲のいい友達もいるけど、ゆいちょんと明音は特別だ。
「今日あそこ行こう!」
「うん、いいよ。」
ゆいちょんは私のお願いを何でも聞いてくれる。
そういう所も、大好きだった。
「それじゃまた明日。」
「うん!またねー!」
私は電車に乗り、遠くなっていくゆいちょんをずっと追っていた。
私はダンス部だから、あの二人とは放課後などにしか会えない。でも、だからこそその時間をより一層大切だと思う。
チームマダラと、私と愛李は勝手に呼んでいるが、この三人でいる事に喜びを感じるのだ。
「ねえねえ、なんでこのグループの名前チームマダラなの?」
結衣は私に聞いた。
「あー、それね、澤山のま、下田のだ、設楽のらを取ってまだら。」
「えー、なんでそんなとこ取ったの?」
「だって澤山下田設楽だったらさししになるじゃん!」
「SSSとかで良くない!?」
「あ、確かに…。」
盲点だった…と思った。
「いやでもマダラの方がなんかカッコつけてなくていいじゃん!」
「えー、SSSもカッコつけてるわけじゃないんだけど…。」
「それに、マダラには漢字もあるんだもん!”斑”って!」
「うーん…。」
納得しなさそうに眉をひそめる結衣も、また愛らしかった。
しかし、こんな日常が突然崩れるだなんて、誰が想像しただろう。
神は突然、私達から日常を奪った。
「あれー?ゆいちょんは?」
「さあ?何も連絡ないよ。」
帰りの待ち合わせの時間。いつもなら来るはずの結衣は来なかった。
「うーん、先帰っちゃったのかな?」
「結衣に限ってそれはないでしょ。」
「うーん、だよねぇ…。」
「もう少し、待ってみよう。」
それから十分、二十分、三十分と時が流れた。
「だめだ、帰ろう。」
「じゃあ、ゆいちょんにメッセージしとく!」
「うん、よろしく。」
「あ!そうだ!今度の土曜日お出かけしようよ!」
「うーん、空いてるかわからないけど、いいね。」
「じゃあ今度グループで聞くね!」
私達は会話しながら駅へ向かい、別れ、家へ帰った。
「おはよーう!」
「おはよう。」
「おはよう。」
朝、結衣の姿はあった。
「結衣昨日何してたの?先帰っちゃった?」
「ゆいちょん待ったんだけど時間合わなくて帰っちゃった!ごめんね!」
結衣は口を開いた。
「ああ、こちらこそごめん、連絡もなしに。ちょっと、忙しくてさ!」
「それならいいけど…!」
私は、何か突っかかる思いを感じた。
この時、詳しく聞いておくべきだった。
結衣に何があったのか、この時の私達には、知る由もなかった。