高嶺の花と奈落の男
これは、事実を基にしたフィクションです
昔むかし、あるところに男がいました。その男は怠け者で、何事にも本気を出すことができませんでした。
ある日、男はとある噂を耳にしました。曰く、町の外れに山がある。曰く、その山の頂上には美しい花をつける木がある。曰く、それは遠くから見ることはできるがその花のもとにたどり着いた者は居ない。
その話を聞いた男は、珍しく自ら行動を起こし、張り切って町の展望台まで行ってその花を見に行きました。その花のなんたる美しさ!男は一目でその花を気に入り、また、その花を手にいれたいと願うようになりました。
男は早速、山のふもとまで行きました。そして、"誰も花のもとにたどり着いたことのない"という意味を理解し、愕然としました。道は愚か、勾配すらない、まさに絶壁…!これを登ることは常人には不可能でした。その日、男はあきらめて家に帰りました。
男は考えました。どうすれば頂上にたどり着けるのだろうか、と。登山家や植物に詳しい友人に話を聞くも、答えを出すことができませんでした。
数日後、男は閃きました。
「山が高いなら、その山を切り崩し、穴を掘り、地下に道を作ればいいじゃないか」
男はすぐに行動に移しました。友人の何人かは、「やめておけ」「お前にはあの花は似合わない」といっていましたが、一方で、多くの友人はアスリートを見るような目で「頑張って」「手に入れられるといいね」と言っていました。
男は最低限の道具と知識を揃え、山を掘り始めました。しかし、作業は思ったよりスムーズに進みませんでした。大きな岩が多かったのです。しかし、男はめげませんでした。岩があれば回り込み、木の根を切り裂き、どんどん山を上へ、上へと掘り進んでいきました。
掘り初めてからどれ程経ったでしょうか。急に手応えがなくなり、光が差してきました。山の表上へ出たのです。あとは山の表面を歩いていくだけだ。そう思った男は、喜びの表情を浮かべて山の表面に手をかけて、地上へ出ようとしました。その瞬間━━
ボコッ!
急に地面が崩れ、男は掘った穴の中頃まで落ちていきました。ドジをしてしまったと笑い、男はまた登り始めようとしました。しかしその時、大きな地響きと共に平衡感覚が歪みました。男は自分が崩れゆく地盤の中にいることを悟りました。
地面はどんどんと崩れていき、男は土や岩に揉まれてもはや虫の息でした。男は薄れゆく意識の中で、自分の行いを悔い、反省しました。男の切り裂いた木の根は、この山全体を支えていた頂上の木の根だったのです。
━━俺は、自分の命を考えていなかっただけでなく、貴女のことも考えることができなかった━━
男は、せめてと傷つけてしまった木の根を抱えようと土の中で手を伸ばしましたが、その願い叶わず絶命しました。
これは、高嶺の花を追い求めた、悲しい男のお話です。
おしまい
はじめまして、しりこんと申します
今回、自分への戒めとしてこの作品を思い付きました。昔話って教訓めいたものがありますからね。処女作としては(精神的に)重いものですが、この作品を読んでくださった皆様が、どうか、間違った道を歩まぬよう…