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『鏡』の中のクルペッキン(壱)

 ここはゲネ。イーズランドの中でもっとも技術が施された市街。ここには『クラクセルの塔』と呼ばれる大きな塔がある。

 クラクセルの塔。1962年、クラクセル・デン・クリッツという若者であり市長の死を惜しむ者たちが、クラクセルのために建てた塔である。クラクセルの塔は全5階で構成されており、1階は『書物の間』、2階は『鏡の間』、3階は『宝石の間』、4階は『刀の間』、5階は『クラクセルの間』。どれも、生前のクラクセルが『愛したもの』である。


 ゲネに着くと、直ぐ様昼食を食べた。時計を見ると1時前だ。

「今日はゲネで宿泊することにした。ホテルも手配している。まぁけっこう時間が空くのだが···それまでは『自由行動』だ。ゲネの中でならどこに行ったって構わない。問題を起こさない限りね」

「···自由行動って何か修学旅行みたいだなぁ」

 なんせ『自由行動』という言葉は久し振りに聞いた。学生の頃の記憶もあまりないのだが。

「でだ、わたしとトルクはこれから用事があってね、ゆうや君にゲネの地形図と、わたし自作のゲネの観光名所を書いた紙を渡しておくよ」

 そう言い、フーゴンは悠谷に2枚の紙を渡した。

「では解散だ!5時半にはホテルに帰っているようにな!」

 フーゴンの言葉から数十秒後、フーゴンとトルクは悠谷とジェリー・ミサを気にかけず、どこかへ歩いていった。

 現在地は一同が泊まるホテル、『ワルテホテル』前。

「···どうするか···ジェリーはどこに行きたい?」

 さっきからジェリー・ミサはずっと悠谷の隣に立っている。ジェリー・ミサの性格からいって、この行為は当たり前なのだが、悠谷からしてみれば少し怖い。

「どこでもいい···いや、凄いとこ行きたい」

「え、そんな曖昧なの?えぇー···じゃあ···さ、『クラクセルの塔』はどうだ?ってかゲネにあるものは『クラクセルの塔』しか知らん」

 ゲネには塔の他に『グツデンマ神社』や『ヒュルタンテクス図書館』がある。多分。

「···じゃあそこ。道は分かるの?」

「んぅー。地図はあるけど···よく分からないんだが···この地形図いつのだろ?」

 ジェリー・ミサが悠谷の持つ地形図を覗き見た。

「···あっ。ユーヤ、それは『地形図がおかしい』のではないわ。あのね、ただ···『地形図が逆』なのよ。北が上になるくらい、小学生でも分かるわよ?」

「え?あっ!い、いや、これはこういうボケだ!」

 悠谷の手に握られた地形図は、北が下になっていた。そりゃあわけが分からなくなるわけだ。

「···ふふっ。ユーヤって、格好いいだけじゃなくて面白いのね」

 ジェリー・ミサは悠谷の耳元でそう呟くと、地図を持たずに走っていった。

「···『何て言ったのか聞き取れなかった』のだが···まぁいいか」

 現在地から数百メートル進んだ場所に『クラクセルの塔』があった。

「···案外近い場所にあったな」

「これが『クラクセルの塔』なの?もう少し高いと思っていたわ」

 塔の入り口には受付なんていない。自由に出入りしてもいいのだ。だが、塔の中には警備員が必ずいる。と思った。

「1階は『書物』がたくさんあるらしい。生前のクラクセルが読んでいた本を全て展示しているんだとか···その数約13000冊!いやいや絶対ガセだろこれ!クラクセルは26歳で亡くなったのにそんな読めるわけないだろ!」

 フーゴンの書いた観光名所の紙は宛になるのか?そもそも宛にしてもいいのか?

「···数えて見れば分かることよ」

「え、数える気なのか?」

「数えないわよ。私、書物に興味ないもの」

 ――なんか、ジェリーのテンションがおかしい気がする。気のせいなのか?

「···ま、入ってみるか」

 悠谷が塔の中に入ると、悠谷に釣られるようにジェリー・ミサも塔に入る。

 1階は話通りに書物が大量にあった。ちょっと雰囲気の悪い、でもどこか惹かれる図書館のようだ。電気はなく、蝋燭が壁にあるくらいだろう。

「昼まだから明るいけど、夜だと不気味そうね」

「あぁー窓もないもんなぁ。蝋燭だって火が消えたらどうするんだろ」

 たしかに観光に向いている『不気味さ』がある。

「···飽きた。ユーヤ、上に行きましょ」

 悠谷の着ている服を引っ張りながら、ジェリー・ミサは言った。

「え、もう飽きたのか?ここけっこう面白いと思うんだけど···てか行きたかったら『1人で』行ってくれていいんだぞ?」

「···そう。――ユーヤのバカ」

 ジェリーの吐き捨てた言葉を、悠谷は敏感に捉えてしまった。どうしてか分からなかったのだ。なぜ自分が『バカ』と言われたのか、理解できない。

「···ジェリー?あ、あの···もうここは見たから···『一緒に』行こうか?」

「――うん!うん!行く!『一緒に』行く!」

 なんだこの変わり様は!こいつは数時間前、変な男に体を触られて泣いてたんだ、と言っても信じてくれなさそうだ。

 ジェリー・ミサに腕を引っ張られ、悠谷は2階に着た。

 2階は『鏡の間』。『書物の間』と同様に『鏡がたくさんある』···というか多すぎる。

「ユーヤ!見て見て!鏡がいっぱいあってずっと向こうの人の顔が見える!」

 そこまで人は多くないが、鏡がありすぎ人の顔が多く見える。

「クラクセルの趣味が分からん···鏡を見てると何かと卑弥呼を連想してしまう」

「ヒミ···コ?ヒミコォ?ヒィミコ?――それって、ユーヤの『彼女』か何かなの?」

「卑···ヒィミコ?いやいやっ、彼女じゃねぇよ」

 なぜそっち方向へ話を持っていく。悠谷は溜め息をつくしかなかった。

「···あっ。そういやジェリーはさ、こういう『鏡』は好きなのか?」

「うーん···こんなに鏡はいらないけど、鏡に映る自分って、けっこうイケてるなぁと思ってポーズ取ったりはするよ」

 ――ナルシストというやつか。

「訊くのもなんだが、俺が知りたいから訊くぞ。どんなポーズをとるんだ?」

 ジェリー・ミサが鏡の前でポーズを決める姿···想像できない。

「ポーズは日によって違うかなぁ。白鳥だったりライオンだったりだし」

 ――あ、これ『ナルシスト』というかアレだ、うん、なんというか『ただポーズをしたいだけ』のやつだわ。

「···試しにこの鏡の前で白鳥のポーズをやって見せてくれないか?」

 すぐ近くに置かれた鏡を指差して言う。

「いやよ、なんで人前で白鳥にならないといけないのよ。恥ずかしい」

「···ほぉーつまりアレか、1人で部屋にいるときはどんな格好でもできるけど、人前だと恥ずかしがってやらないのか···なんか『弱み』を握った気分だなぁ」

 一昨日のように、ジェリー・ミサが周りの人たちを巻き込もうとしたときには使えそうだ。なんて考えてしまう。

「え、ちょっ、言いふらさない変わりに命令をきけとかそんな外道なこと止めてよね!」

「そぉれはどうかなぁ」

 もちろん言いふらす気はない。ただ顔を赤くして怒っているジェリー・ミサが『可愛いと』感じるからだ。

「じゃあ『私だけが』知ってる『ユーヤの秘密』を言いふらしていいの?」

「えっ、えっ、知ってるって!『どれ』を!?昨日ベッドで···いやトイレでのこと?いや、朝食の沢庵が···あぁーッ!何か分からんが言わないでくれぇッ!」

「ふふっ、そぉれはどうかなぁ。やり返し!」

 ――なんということでしょう。一昨日の言動と比較してみれば一目瞭然、彼女のこの···気持ち悪いほどの『変わり様』···これは偶然か、それとも彼女の本性か。悠谷には分かりません。

 悠谷とジェリー・ミサが話していると、『どこか』から1人の男が歩いてきた。

「あのぉ···君たちって『カップル』ですか?」

 挨拶もなく、いきなり訊いたのだ。

「か、カップルなわけないじゃないか。ただの···えっと···『旅行仲間』だよ」

 会話して良いものかと戸惑いながらも、話題に沿った回答を言えた。

 見た感じ男は服装といい、顔つきといい、ごく一般の人間のようだ。だが1つ、悠谷が疑問に思ったのは、男の腰にある『刀を入れる鞘』が気になるくらいだ。

「そぉですか。いやはや僕ね、36歳なんだけど···交際経験がなくてね、なんというか···『男と女がイチャイチャしてたら』無性に腹が立ってくるんですよ」

 ――なんだこの男?面倒くさいし···なんだか『気』がおかしい。

「『そういうの』見てると···『殺したくなる』ンです」

「殺しッ!なっ!その『刀』はいったいッ!」

 『殺したくなる』という言葉で、悠谷とジェリー・ミサは後ろに下がった。悠谷は無意識の内にジェリー・ミサの前に自分の腕を出していた。

「そう、『それ』なんです!その女の子を腕で『庇う行為』!エクセレントです!えぇ!メルヴェイユ!――だけどね、『君たちがカップルじゃない』ということは分かりました。でも『君たちが敵という事実』は変わりないのですよぉ」

「ッ!『敵』?」

 その男は確かに『敵』と言った。いや、もしかしたら「へき」や「チェキ」と言ったのかもしれない、少なくとも悠谷には『敵』と聞こえた。

「僕は君たちを『殺す』ッ!なぜか?それは『グランベル様のご使命だから』ァァアーッ!」

「なにッ!?こいつッ···こいつやっぱり『敵』だァ!その『刀』は武器なんだ!」

 悠谷はジェリー・ミサの手を引いて、男から離れる。

 一定の距離を離れたと思い、悠谷が振り向くと――『男はいなかった』。

「···『消えた』のか?でも『どこに』···?ここらには『鏡があるだけ』で他のものは何もないのに···」

 男に背を向けたのがいけなかったのか。男がここから40メートル離れた階段へ5秒未満で走ったとは考えられない。『鏡の間のどこかにいる』。

「『どこにいるか?』それを君たちが知ってどうなるのです?私の『レガリア』は無敵なんです。絶対に負けないのです」

 男の『声』はする。だけど『姿は見えない』。

「···名前が分からないのだが、一言言ってやる。俺たちはお前が『どこにいるか』は簡単に分かるんだぞ?」

「なに?――ハッ!?」

 バッシャアァーン。

 ジェリー・ミサの近くにある『鏡』が『爆発』した。

「ジェリーの『シャボン玉』は『音』に反応する!『シャボン玉が鏡に接触した』ということは!お前が『鏡の中』にいるということだッ!」

 ――『鏡』は破壊したが、男がどうなったのかが分からない。

「···ふふふ、ははっ。甘く見ていたよ···せっかくだから名乗らせてもらいたい。私の名は『クルペッキン』···『レガリア』は···君たちが思っている『以上』の能力だ···」

 また『声だけ』がする。破壊した『鏡』とは『別の鏡の中』にいるのか?では、『どの鏡だ?』――『多すぎる』。

「なんかこの戦い···一筋縄ではいかなさそうだな···」

 この場で有利なのはクルペッキンで、悠谷たちは『不利』だろう。

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