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『疾風』のスウェル・フーゴン(弐)/『冒険』の始まり

 『上から下に流れる風』――これはただ、悠谷を動けなくするためではない。フーゴンはある時を待っていたのだ。

「まさか···『低気圧』ッ!空気を上から下に流すことによって、地面で跳ね上がる空気···それを使ってここら一帯を『低気圧』にしたんだ!」

 確かにこれは『低気圧』だ。風を下におくると、返って『空気は上に動く』。体が尋常じゃないほどに引っ張られる訳だ。空に雲を作る『ついでに』悠谷を動けないようにしていたのか。

 フーゴンから半径50メートル以内の空間には『低気圧』と『高気圧』が存在している。

「まぁ···『だからどうした』って、感じだけどな」

 雨によって、前が見えにくい。だが、フーゴンは動いていない。

「フーゴンさん!雨を降らせたからって、降らせただけで終わるんじゃないよなぁ!」

「勿論だとも。だが1つ···ジェリー・ミサはまだくたばっていないね?どこにいるかは分からないが、この『雨』が有る限り『シャボン玉』を飛ばしても無意味···」

 コォォ。ビュゥゥ。

 風が吹いた。また風を操りだしたのか。次は何をする気だッ!

「くるなら···こいッ!要は『勇気』が大事なんだろ?魅せてやるぜ、俺の『勇気』を!――イッ!い、痛い!?」

 突然、悠谷の頬が切れた。傷は浅いが、血が出ている。

「また『かまいたち現象』···じゃ、ないッ!この『雨の動き』は···そんな!俺はフーゴンさんの作戦にハマっていたのか!」

 ――悠谷の頬を切ったのは、その場に大量にあるもの。百や千なんてちっぽけな数じゃない。億や兆、京!垓ッ!人間では数えられない量だッ!

「『雨』だ···フーゴンさんから『半径50メートル以内にある雨』なんだッ!『雨』くらいの軽くて小さい物なら···フーゴンさんの『レガリア』の前ではただの『道具』!殺人道具だ!まるで『ガトリングガン』だァーッ!」

 プス。プス。プスプス。プス。

 この音は、悠谷の背中に小さな穴が開いた音。フーゴンは本格的に、悠谷に攻撃を仕掛け始めたのだ!

「君は『上を見ること』を疎かにした···だからいま君は苦しんでいる。『上』を見ない者に明日はない。常に『上』を見て生きる生き様が至高だ!」

 悠谷に開いた穴は小さいが、これを何発も食らうとさすがに死んでしまう。

 ビュゥゥ。コォォ。

「んグッ。痛い···この痛み···ドアを引いたときドアの下に小指を挟んだときより痛いぞぉ···」

 前に進もうとも、顔をあげると目に雨が当たる危険がある。目を瞑ったところで、前が見れない。フーゴンの元へ辿り着くのは『不可能』なのか···。

「ここで諦めるくらいなら、ケルベリタんトコでジェリーに爆発させられてた方がマシだァッ···」

 悠谷は目を瞑りながら歩く。

 これを『人生』としよう。『人生』には必ず終わりがあるのだ。くたばってまけるか、このまま歩き続けて遠くの建物まで行くか、フーゴンを捕まえられるか。『人生』の終わりはこれだ。

「···昔から思ってたんだよォ···『自分は偉人になりたい』って、夢を抱いてたんだ···だが俺の考えは纏まらねぇ、お笑い芸人だったり漫画家だったり···ニートだろうと···俺はいいかなって、思っちまうんだよなぁ。でもそんな複雑な『人生』をおくってきたからこそ分かるぜ。『自分のゴール』がッ···見、え、るッ···」

 悠谷は走り出した。『雨』の『ガトリングガン』だと?そんなもの、俺の『人生』にはない。俺の『人生』の困難は――『覚悟』や『勇気』だったんだッ!

「俺の『ゴール』はぁ···フーゴンさんに勝つことだぁッ···」

「無駄だね!雲から落ちてくる雨は『全て』ゆうや君に飛ばしてるんだ!ゆうや君はわたしの元へ辿り着く前に倒れるッ!」

 更に『風』が強くなる。服が靡かれて邪魔をしている。悠谷は惜しみ無く服を脱いだ。パンツ一丁になり、寒く、痛い思いをした。

「『雨』の中で服を脱ぐとは···トイレットペーパーの残りを確認せず大便をするくらい危険なことというのに!」

 ――悠谷はただ前に進んだ。無茶だとか無謀だなんて言葉を知った上で、悠谷は敢えて針山を歩く。それは自分とジェリー・ミサの勝利の為、自分という形あるものを乗り越える為ッ!悠谷は雨のガトリングガンの中

を進む。

「···ゆうや君···なんて『勇気』の持ち主なんだ···ッ」

「···フーゴンさん···ちょっと前に『予告』、しましたよね。···俺もしますよ。あと『1分』でフーゴンさんは大怪我を負います···」

「何ッ!?」

 悠谷はそう言うと、脱いだ服を、思い切り地面に叩き付けた。

 バァーンッ。もう一度、バァーンッ。

「雨に濡れた服で地面を叩いて大きな『音』を出して···何をする気だ!」

 ――あと、『50秒』ッ!

「フーゴンさんは言ったよな。『上』を見ないから苦しんでいるんだ、と···それは『違う』んじゃないか?フーゴンさんは『上』だけを見た。その代償に『後ろ』を見なかった」

「まさか!後ろッ、ジェリー・ミサか!」

 その時、一瞬にして雨が止んだ。『警戒』したのだろうか?

 ――あと、『40秒』ッ!

 フーゴンが振り向いた時、既にフーゴンの目の前に『シャボン玉』が浮かんでいた。

「フーゴンさんは『後ろ』を見なかったッ!『過去』を見ない者に、明日はないッ!」

 『シャボン玉』はゆっくりとだが、フーゴンへと向かっていた。正確には悠谷へ向かっているのだが、『シャボン玉』に目はない。悠谷の前にいるフーゴンが当たる。

「だァが、君の『予告』ははずれた···」

 フーゴンは『シャボン玉』が当たる少し前に、『シャボン玉』の軌道から数センチ離れた。

「人間の『思い込み』···って、あるよなァッ!わたしが動かないだけで、君は『シャボン玉』を当てられると錯覚した!相手の『思い込み』を利用する戦い、わたしは好きだッ!」

 『シャボン玉』はそのまま、悠谷に向かって進んだ。

「···そうだな。相手の『思い込み』って有利になるよな···フーゴンさんが『思い込んだ』から、俺とジェリーは『勝つことができた』ッ!」

 『シャボン玉』は確かに悠谷へと向かった。だが、悠谷へ向かった『シャボン玉』は――『1つだけ』だった。『シャボン玉』の後ろに、もう1つ『シャボン玉』があったのだ!

「なッ、わたしは『シャボン玉は1つだけだ』と『思い込んだ』···まさか、まさ、かぁ···」

 ――あと、『0秒』ッ!フーゴンの体に、シャボン玉が当たった!

 バーンッ。

 フーゴンは、『シャボン玉』の『爆発』を食らった。

「ッしゃあッ!一発食らわしたぜ!俺たちの『勝ち』だッ!」

 ――この勝負、悠谷&ジェリー・ミサの勝利ッ!


「『治癒(ゲリール)THE()(マン)』ッ!」

 悠谷とフーゴンの傷が、段々と治っていく。

「ハッハッハッ。君たちには参ったよ!ジェリー・ミサのことは警戒していたのだがな。わたしの欠点はやはり『2つの風は操れない』ということかな」

 雨を悠谷に向けて飛ばしていたせいで、『シャボン玉』を吹き飛ばすことができなかった。

「『シャボン玉』のこと、確りとメモしておきましたよ」

 トルクが、ずぶ濡れのメモ用紙をフーゴンに渡した。それをフーゴンはまじまじと読んだ。

「やはり『音』に反応していたのか···しかも『音の大きさで進むスピードも変わる』···ねぇ」

 まるで子供の成長アルバムを読む親のように、ニヤニヤと読んでいる。そんなフーゴンを見ながら、ジェリー・ミサは汚物を見るような目を向けた。

「ゆうや君の『レガリア』は分からなかったが、ゆうや君の『勇気』···あの状況でも機転の効いた『頭脳』···2人のコンビネーションは戦いにおいて実に優れていたなぁ」

 フーゴンはなにも言わずメモ用紙を悠谷に渡した。

「······あっ。トルクさん、『シャボン玉のスピード』に関してだが···『音がほぼない場合10秒間に5メートル動く』と書いてください。あと『シャボン玉は半径50メートル以内の音のみを感知する』ってのもです」

「ほ、ほぉ···それは本当なのか?」

「ジェリーの『シャボン玉』はケルベリタんトコである程度知ってますからね」

 そう言われたトルクは、直ぐ様ポケットからペンを取り出した。下に何もないのに、トルクはすらすらとメモ用紙に字を書いていく。

「なんてヤツだ···」

 フーゴンはただ、地面に座ったまま感嘆している。

「···フーゴンさん、ゆうやたちに話してみればどうでしょう?」

「そう···だな」

 フーゴンは立ち上がり、服に付いた砂をパッパッと払った。

「この話は、いまわたしたちが追っている者に関することだ。君たちには心して聞いてもらいたい」

 フーゴンはげふんと咳払いをした。

「わたしたちの持つ『レガリア』は、人の為、世の中の為に使うのが理想とされる。だが、それはただの『理想』に過ぎん。『悪用』する輩もいるんだ」

 確かに、ジェリーとフーゴンの『レガリア』を使えば、いとも容易く人を殺すことができてしまう。トルクは別とする。

「――ある日、わたしの元へ一通の研究書が届いたんだ。『レガリアの研究をしている』と、書かれた紙と、研究途中であろう研究書···」

 ゴキュ。この音は、悠谷が唾を呑み込んだ音。

「恐ろしかったんだ。『レガリア』の謎を解こうだなんて。そりゃあわたしだって『どうしてこんな能力が』と思ったことはある···だが、わたしは知っているんだッ!科学では証明できない、『レガリアの秘密』を少しだけ!」

 ビュゥゥ。

 風が吹いた。フーゴンが興奮したあまり、無意識で『レガリア』を発動させてしまったのだろう。

「···それともう1つ···『わたしの元へ来てみろ』という文もあった気がする」

 明らかに、それは挑戦だ。差出人からの謎の挑戦。そいつはいったい『レガリア』の何を知るのだ。そして、何に使うのだ。

「これは奇跡なのか『神』が仕向けたのか···差出人の名前が書いてあったよ。『グランベル・ミサ』···この苗字に聞き覚えはないかね?」

 ――それは明らかだった。考えることもなく、その名前は――

「···『グランベル・ミサ』、それは私の『弟』の名前だわ。えぇ、私も少し驚いた···まさかあの子がそんなことをするだなんてね」

 ジェリー・ミサの弟だ。

「そこで君たちにお願いがある。君たちも一緒に、『グランベル・ミサ』の元へ着いてきてくれ。『レガリア』は決して研究してはいけない物なんだ!」

 フーゴンが頭を下げた。それでも、悠谷は事の重大さには気付かない。やはり意味不明だからだ。

「···相手が私の弟なのよ。行かないわけ、ないでしょ?ユーヤはどう?」

「え、俺は···俺にも『レガリア』があるんでしょ?だったら、行った方がいいんじゃないか?って、思うから···行くよ、俺も」

「おぉ!ありがたい!なんて穢れなき信念を貫く勇者なんだ···!」

 フーゴンはまた頭を下げた。


 ――悠谷とジェリー・ミサの旅はいま始まったのだ。

 悠谷はただ、自分の力を知るために。ジェリー・ミサは自分の弟の企みを止めるために。

 この旅は、『愛』や『勇気』、数々の『感情』が生み出した讃歌だ。

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