表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/22

『縮小』のショコレーチ(肆)

 -前回のあらすじ-

 悠谷&ジェリー・ミサ&トルクはショコレーチを探す。フーゴンはショコレーチを倒すと覚悟する。ショコレーチは悠谷たちの前でフーゴンが気がかりでいる。この3つの行動はどうなるのか?フーゴンは助かるのか?ショコレーチを倒せるのか?その疑問は今回で解消されるッ!


 もう一度通行人の肩に乗れば、今度は楽々と進んでくれた。フーゴンは何とか無事に店の並ぶ道から出ることができたのだ。

「小さいから遠くは観れないが···近くにヤツはいるだろう···」

 フーゴンは通行人の肩から飛び降り、駐車場の柵の上に乗る。柵の高さなら、誰かに潰される心配はない。

「······クソッ。(こんなところ)じゃあダメだ···だが、この大きさのわたしは···どこにいけばいいんだ?」

 フーゴンは深く考えたまま、その場に座り込む。待つわけではないが、何かをすることもできない。


 ショコレーチが誰か、悠谷たちは懸命に探す。手がかりがあるのか分からないのに、いきなりジェリー・ミサにパンツを確認させるのはいけないことだ。

「···トルクさん、『もしも』です。···『もうこの中にいないとすれば···どうしますか?』」

 悠谷が言う。この質問は、悠谷が諦めたから出したものではない。可能性を見出だす為だ。

「そんなッ···『ヤツは必ずいる!』」

「もしもなんですよ!?···考えてください」

 トルクは悠谷の表情を伺うと、考え込むようにしながら話始める。

「···レガリアにはいくつか『種類』があるんだ。わたしの『治癒(ゲリール)THE()(マン)』は『与える能力』。フーゴンさんの『疾風(クー・ド・ヴァン)』は『操る能力』。ジェリー・ミサの『(ルージュ)』は『生み出す能力』···――」

 その説明から推測すると、道中に出会ったミラの『(ロッシュ)』は『操る能力』というわけか。他にもいくつかのしっくりとくる点がある。

「そしてヤツの『レガリア』···あれは『大きさを操る能力』だ。···そして、レガリアには必ず『弱点』や『欠点』がある」

 弱点···欠点···たしかに考えてみればあるかもしれない。

 『(ルージュ)』には音の鳴る方向へだけ向かい、接触しているものを巻き込むおそれがある。

 『疾風(クー・ド・ヴァン)』には半径51メートル以降の風は操れず、一方向にしか吹かせられない。

 『治癒ゲリールTHE()(マン)』には左手だけでしか治癒できず、生命を持ったものにしか効果がない。

「その『弱点』や『欠点』はレガリア使いの『生命力』と『精神力』に左右される。これはレガリアを扱う者として、知っておくべきことだ」

 トルクはそう言うが、悠谷にはレガリアがない。『在るのかも』しれないが、それを操ることができないのだ。これは···生命力や精神力が弱いせいか?

「···それを知った上で話を進める。『操る能力』には、フーゴンさんでもヤツのでも、必ず『一定距離内でしか効果がない』という欠点がある。つまりは、レガリアを使っているいじょう『標的から離れることはできない』のだ」

 これがどういった意味を指しているのか、悠谷とジェリー・ミサ、使用人は言われる前に察することができた。

「――ヤツが離れられるのは、『フーゴンさんを倒した後』···ということだ。単に『レガリアを解除した』という理由も少なからずある。だが······」

 まるで『レガリアを解除した可能性を否定している』ようで、それはなぜだか『確信』なのだ。

「···『近くにいるわ』」

「え?···ジェリー···どういうことだ?なぜそう分かる?」

「···分からないの?···フーゴンはそう簡単に、敵にやられるような人かしら?そんなに···あの『能力』は···弱いものかしら?」

 そう答えたジェリー・ミサは、ある『人物』を見つめていた。それは誰か――ジェリー・ミサは口を開く。「あの『眼鏡をかけた女性』よ」

 一同は女性に目をやる。なんの変哲もない女性が···?

「分からない?あの女性···『膨らんだ紙袋』と『眼鏡』が印象的よね」

 ···『分からん』のだが?紙袋と眼鏡でどうしてそう確信できるんだ?

「···まずは『紙袋』から説明するわ。敵は始めに、私たちに『果物』を投げてきたわよね?あの果物全てを、敵は『素手で』持てたと思う?」

「···あっ。そうか···敵は『あの紙袋に果物を入れていた』のかッ!スカートを履いていないのは、『あの紙袋の中に』入れたということ!」

 それだと紙袋が膨らんでいるのにも納得がいく。

「そして『眼鏡』、これは少し強引な気もするけれど···敵は『遠くから果物を投げていた』···でも、その時私たちは『小さかった』。なら、どうして私たちの位置が分かったのか···」

 ジェリー・ミサが解説する度に、悠谷は戦いの決着が近付いていると実感できる。肩幅に開いていた足が、いつの間にか閉じきっている。

「『眼鏡をかけているから』よ。あのレンズ···尋常でないくらい度数が強いんじゃない?」

「う···ん···?確かに···あの女性、目が小さく見えるな···」

 顔の大きさと目の大きさが『釣り合わない』と思っていたのは、眼鏡のせいだったのか。

「でもどうするんだ?『間違っているかもしれない』んだぞ!?」

「大丈夫。まかせて······スゥー······ハァー············天ぷら蕎麦(そば)ッ!」

 ブゥワァァッ。ジェリー・ミサが大声を上げると、周りの通行人がこちらを見る。

「ちょっ、何やって――」

 スゥィーーン。一瞬にして辺りは静まり返ったのだ。

「意味不明になると、誰だって黙り込むわよね。だからいいのよ、『弱点』や『欠点』は···『頭で補えばいいの』ッ!」

 プクゥン。プゥゥプゥ。

 ジェリー・ミサは口から3つの『シャボン玉』を吹き出す。ジェリー・ミサの『シャボン玉』は、『音がない場合真っ直ぐに飛んでいく』――つまり、音がないいま、ジェリー・ミサが向けた『眼鏡をかけた女性』へと向かっていく。

「『このシャボン玉が見えるのはレガリア使いだけ』···これにヤツが反応したとき、ヤツはレガリア使いだと『断定』できる」

 プウゥワ。プウヮププ。プゥ。

 ゆっくりと動くシャボン玉に、眼鏡をかけた女性は反応しない。

「···?やっぱり違うんじゃないか?反応しないぞ?」

「フーゴン、あなたはバカ?まだ物事は終わっていないじゃない···ちゃんと『起承転結』の『結』に辿り着いてから『違う』と言って」

 ジェリー・ミサのことだ、別に当たって爆発してもフーゴンのレガリアで治せるから大丈夫。そうとでも思っているのだろう。

「まったく···動じないのだが···ヤツは違うん――」

 突然、眼鏡をかけた女性が走った。女性が見ているのは、間違いなく『シャボン玉だ』。

「ッ、やはり!あいつを捕まえるのよ!『あいつがレガリア使いだ』ッ!」

 一斉に追いかけるが、ヤツの方が一手先に動いたため、すぐには捕まえられない。女性は駐車場へと走っていく。

「ダメだッ!逃げられちまう!」

「――いいえ!『ダメ』ではありません!僕ならッ!100メートル11秒05の『僕ならいけます』ッ!」

 悠谷たちを追い抜いたのは、あの使用人だ。人間離れ寸前のスピードを出す使用人を見て、悠谷は唖然と立ち尽くす。

「ふんぅんあにゃぁーっっ!」

 使用人は変な唸り声を上げると、眼鏡をかけた女性に飛び付いた。

「ッ!よくやった!いまだ、そいつを縛れ!」

 トルクは飛び跳ねるほど歓喜だが、なぜか、使用人は不満そうな顔をした。「――まだまだね···私の能力を甘くみたんじゃない?」ショコレーチは、『使用人に捕らえられていなかった』。

「···?···?······なんで?」

「うふ、うふふ、うふっ、···うふぅ···自分自身を小さくすればいいだけなのよ···お・バ・カ・さ・ん――ハァッーハッハァーッ!――ウギャ」

 ドジャ。ショコレーチの上から、フーゴンが『落ちて』きたのだ。

「フーゴンさん!?なぜ···?」

「···え?なぜって···あれ···なぜだ?」

 フーゴン自身、なぜ自分が小さくなったのか分からないのだ。それもそうだろう、フーゴンは『ショコレーチが自分を小さくする行動を取る』とは予想できなかったのだ。

「そんな···『私が』間違ったんだわ···レガリアのこと···『一定距離』のことを···忘れていたわ···」

 やはり意味が分からない?なら解説しよう!

 『操る能力』には『一定距離内でしか効果がない』という弱点がある。そして、その一定距離は『体感』なのだ。ショコレーチが小さくなるということは、イコール、『フーゴンとの距離』が生じる。そしてレガリアの一定距離を越えてしまい、効果がなくなったのだ。丁度ショコレーチは駐車場にいたため、駐車場の柵にいたフーゴンに踏み潰されたわけだ。

「···もう逃れることはできないぞ!さっそく拘束させ――」

「――だぁーかぁー···らぁー···私の『縮小(プテイト)』が有る限り、私を捕まえることはできないんだよぉー?」

「ッなに!?」

 シュウン。ショコレーチの体がみるみる小さくなっていき、肉眼では捉えられないほどにまでなった。

「ち、小さく···み、見えない···っ···逃がしてしまう···」

「いんや。わたしが戻ってよかった···『ヤツが小さくなったよかった』···『疾風(クー・ド・ヴァン)』ッ!」

 悠谷たちの足下から強風が吹く。ジェリー・ミサの長い髪が盛大に上がる。

「ヤツから地面、およそ『体感』···600メートルはある。その高さから地面に叩きつけられちゃ、骨折だけじゃあ済まんだろうな」


「ッ、なに!急に体が上に···た、高いわ!」

 体感高く浮上したショコレーチは、遠ざかる地面に手を伸ばす。だが意味はない。

「それに···『真っ暗』ッ!レガリアを解除して確かめなくちゃ!!」

 ショコレーチは自分を操るレガリアを解除する。だが――意味はない。それどころかその行動は『負け』を指していた。


 グジュッ。

 突然、悠谷たちの前にある店の『看板』から血液が垂れる。

「ッ!?これ、この臭い、そんな···『ヤツは看板に挟まれているのか』ッ!」

 ショコレーチは、壁と看板の間にはまっていた。そのまま何もしなければ生き延びることができたというのに、ショコレーチはレガリアを解除してしまったのだ。元に戻ったが、戻ると、壁と看板に潰されてしまう。


 名前-ショコレーチ・ウンデミナ・ポーカー

 レガリア-縮小(プテイト)

 壁と看板に潰されて死亡。最後の唸り声は「ウギャ」。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ