『縮小』のショコレーチ(肆)
-前回のあらすじ-
悠谷&ジェリー・ミサ&トルクはショコレーチを探す。フーゴンはショコレーチを倒すと覚悟する。ショコレーチは悠谷たちの前でフーゴンが気がかりでいる。この3つの行動はどうなるのか?フーゴンは助かるのか?ショコレーチを倒せるのか?その疑問は今回で解消されるッ!
もう一度通行人の肩に乗れば、今度は楽々と進んでくれた。フーゴンは何とか無事に店の並ぶ道から出ることができたのだ。
「小さいから遠くは観れないが···近くにヤツはいるだろう···」
フーゴンは通行人の肩から飛び降り、駐車場の柵の上に乗る。柵の高さなら、誰かに潰される心配はない。
「······クソッ。柵じゃあダメだ···だが、この大きさのわたしは···どこにいけばいいんだ?」
フーゴンは深く考えたまま、その場に座り込む。待つわけではないが、何かをすることもできない。
ショコレーチが誰か、悠谷たちは懸命に探す。手がかりがあるのか分からないのに、いきなりジェリー・ミサにパンツを確認させるのはいけないことだ。
「···トルクさん、『もしも』です。···『もうこの中にいないとすれば···どうしますか?』」
悠谷が言う。この質問は、悠谷が諦めたから出したものではない。可能性を見出だす為だ。
「そんなッ···『ヤツは必ずいる!』」
「もしもなんですよ!?···考えてください」
トルクは悠谷の表情を伺うと、考え込むようにしながら話始める。
「···レガリアにはいくつか『種類』があるんだ。わたしの『治癒・THE・手』は『与える能力』。フーゴンさんの『疾風』は『操る能力』。ジェリー・ミサの『紅』は『生み出す能力』···――」
その説明から推測すると、道中に出会ったミラの『岩』は『操る能力』というわけか。他にもいくつかのしっくりとくる点がある。
「そしてヤツの『レガリア』···あれは『大きさを操る能力』だ。···そして、レガリアには必ず『弱点』や『欠点』がある」
弱点···欠点···たしかに考えてみればあるかもしれない。
『紅』には音の鳴る方向へだけ向かい、接触しているものを巻き込むおそれがある。
『疾風』には半径51メートル以降の風は操れず、一方向にしか吹かせられない。
『治癒・THE・手』には左手だけでしか治癒できず、生命を持ったものにしか効果がない。
「その『弱点』や『欠点』はレガリア使いの『生命力』と『精神力』に左右される。これはレガリアを扱う者として、知っておくべきことだ」
トルクはそう言うが、悠谷にはレガリアがない。『在るのかも』しれないが、それを操ることができないのだ。これは···生命力や精神力が弱いせいか?
「···それを知った上で話を進める。『操る能力』には、フーゴンさんでもヤツのでも、必ず『一定距離内でしか効果がない』という欠点がある。つまりは、レガリアを使っているいじょう『標的から離れることはできない』のだ」
これがどういった意味を指しているのか、悠谷とジェリー・ミサ、使用人は言われる前に察することができた。
「――ヤツが離れられるのは、『フーゴンさんを倒した後』···ということだ。単に『レガリアを解除した』という理由も少なからずある。だが······」
まるで『レガリアを解除した可能性を否定している』ようで、それはなぜだか『確信』なのだ。
「···『近くにいるわ』」
「え?···ジェリー···どういうことだ?なぜそう分かる?」
「···分からないの?···フーゴンはそう簡単に、敵にやられるような人かしら?そんなに···あの『能力』は···弱いものかしら?」
そう答えたジェリー・ミサは、ある『人物』を見つめていた。それは誰か――ジェリー・ミサは口を開く。「あの『眼鏡をかけた女性』よ」
一同は女性に目をやる。なんの変哲もない女性が···?
「分からない?あの女性···『膨らんだ紙袋』と『眼鏡』が印象的よね」
···『分からん』のだが?紙袋と眼鏡でどうしてそう確信できるんだ?
「···まずは『紙袋』から説明するわ。敵は始めに、私たちに『果物』を投げてきたわよね?あの果物全てを、敵は『素手で』持てたと思う?」
「···あっ。そうか···敵は『あの紙袋に果物を入れていた』のかッ!スカートを履いていないのは、『あの紙袋の中に』入れたということ!」
それだと紙袋が膨らんでいるのにも納得がいく。
「そして『眼鏡』、これは少し強引な気もするけれど···敵は『遠くから果物を投げていた』···でも、その時私たちは『小さかった』。なら、どうして私たちの位置が分かったのか···」
ジェリー・ミサが解説する度に、悠谷は戦いの決着が近付いていると実感できる。肩幅に開いていた足が、いつの間にか閉じきっている。
「『眼鏡をかけているから』よ。あのレンズ···尋常でないくらい度数が強いんじゃない?」
「う···ん···?確かに···あの女性、目が小さく見えるな···」
顔の大きさと目の大きさが『釣り合わない』と思っていたのは、眼鏡のせいだったのか。
「でもどうするんだ?『間違っているかもしれない』んだぞ!?」
「大丈夫。まかせて······スゥー······ハァー············天ぷら蕎麦ッ!」
ブゥワァァッ。ジェリー・ミサが大声を上げると、周りの通行人がこちらを見る。
「ちょっ、何やって――」
スゥィーーン。一瞬にして辺りは静まり返ったのだ。
「意味不明になると、誰だって黙り込むわよね。だからいいのよ、『弱点』や『欠点』は···『頭で補えばいいの』ッ!」
プクゥン。プゥゥプゥ。
ジェリー・ミサは口から3つの『シャボン玉』を吹き出す。ジェリー・ミサの『シャボン玉』は、『音がない場合真っ直ぐに飛んでいく』――つまり、音がないいま、ジェリー・ミサが向けた『眼鏡をかけた女性』へと向かっていく。
「『このシャボン玉が見えるのはレガリア使いだけ』···これにヤツが反応したとき、ヤツはレガリア使いだと『断定』できる」
プウゥワ。プウヮププ。プゥ。
ゆっくりと動くシャボン玉に、眼鏡をかけた女性は反応しない。
「···?やっぱり違うんじゃないか?反応しないぞ?」
「フーゴン、あなたはバカ?まだ物事は終わっていないじゃない···ちゃんと『起承転結』の『結』に辿り着いてから『違う』と言って」
ジェリー・ミサのことだ、別に当たって爆発してもフーゴンのレガリアで治せるから大丈夫。そうとでも思っているのだろう。
「まったく···動じないのだが···ヤツは違うん――」
突然、眼鏡をかけた女性が走った。女性が見ているのは、間違いなく『シャボン玉だ』。
「ッ、やはり!あいつを捕まえるのよ!『あいつがレガリア使いだ』ッ!」
一斉に追いかけるが、ヤツの方が一手先に動いたため、すぐには捕まえられない。女性は駐車場へと走っていく。
「ダメだッ!逃げられちまう!」
「――いいえ!『ダメ』ではありません!僕ならッ!100メートル11秒05の『僕ならいけます』ッ!」
悠谷たちを追い抜いたのは、あの使用人だ。人間離れ寸前のスピードを出す使用人を見て、悠谷は唖然と立ち尽くす。
「ふんぅんあにゃぁーっっ!」
使用人は変な唸り声を上げると、眼鏡をかけた女性に飛び付いた。
「ッ!よくやった!いまだ、そいつを縛れ!」
トルクは飛び跳ねるほど歓喜だが、なぜか、使用人は不満そうな顔をした。「――まだまだね···私の能力を甘くみたんじゃない?」ショコレーチは、『使用人に捕らえられていなかった』。
「···?···?······なんで?」
「うふ、うふふ、うふっ、···うふぅ···自分自身を小さくすればいいだけなのよ···お・バ・カ・さ・ん――ハァッーハッハァーッ!――ウギャ」
ドジャ。ショコレーチの上から、フーゴンが『落ちて』きたのだ。
「フーゴンさん!?なぜ···?」
「···え?なぜって···あれ···なぜだ?」
フーゴン自身、なぜ自分が小さくなったのか分からないのだ。それもそうだろう、フーゴンは『ショコレーチが自分を小さくする行動を取る』とは予想できなかったのだ。
「そんな···『私が』間違ったんだわ···レガリアのこと···『一定距離』のことを···忘れていたわ···」
やはり意味が分からない?なら解説しよう!
『操る能力』には『一定距離内でしか効果がない』という弱点がある。そして、その一定距離は『体感』なのだ。ショコレーチが小さくなるということは、イコール、『フーゴンとの距離』が生じる。そしてレガリアの一定距離を越えてしまい、効果がなくなったのだ。丁度ショコレーチは駐車場にいたため、駐車場の柵にいたフーゴンに踏み潰されたわけだ。
「···もう逃れることはできないぞ!さっそく拘束させ――」
「――だぁーかぁー···らぁー···私の『縮小』が有る限り、私を捕まえることはできないんだよぉー?」
「ッなに!?」
シュウン。ショコレーチの体がみるみる小さくなっていき、肉眼では捉えられないほどにまでなった。
「ち、小さく···み、見えない···っ···逃がしてしまう···」
「いんや。わたしが戻ってよかった···『ヤツが小さくなったよかった』···『疾風』ッ!」
悠谷たちの足下から強風が吹く。ジェリー・ミサの長い髪が盛大に上がる。
「ヤツから地面、およそ『体感』···600メートルはある。その高さから地面に叩きつけられちゃ、骨折だけじゃあ済まんだろうな」
「ッ、なに!急に体が上に···た、高いわ!」
体感高く浮上したショコレーチは、遠ざかる地面に手を伸ばす。だが意味はない。
「それに···『真っ暗』ッ!レガリアを解除して確かめなくちゃ!!」
ショコレーチは自分を操るレガリアを解除する。だが――意味はない。それどころかその行動は『負け』を指していた。
グジュッ。
突然、悠谷たちの前にある店の『看板』から血液が垂れる。
「ッ!?これ、この臭い、そんな···『ヤツは看板に挟まれているのか』ッ!」
ショコレーチは、壁と看板の間にはまっていた。そのまま何もしなければ生き延びることができたというのに、ショコレーチはレガリアを解除してしまったのだ。元に戻ったが、戻ると、壁と看板に潰されてしまう。
名前-ショコレーチ・ウンデミナ・ポーカー
レガリア-縮小
壁と看板に潰されて死亡。最後の唸り声は「ウギャ」。